2014年にリリースした“Uptown Funk ft. Bruno Mars”が全米シングル・チャートで14週連続1位を記録するメガ・ヒット曲となり、2016年のグラミー賞では「年間最優秀レコード賞」を含む2冠を達成するなど、世界的プロデューサー/DJとして活躍するマーク・ロンソン。彼が2018年12月17日、星野源とのダブル・ヘッドライナー公演を開催しました。今回はジャンルも作風も多岐にわたるオリジナル曲/プロデュース&ゲスト参加曲の歴史と、ダブル・ヘッドライナー公演当日のレポートで、彼の魅力を改めて振り返ります。

1:ジャンルや時代を軽やかに横断するオリジナル曲の数々

1975年にロンドンで生まれ、NYで育ったマーク・ロンソンは、NY大学在学中にNYのヒップホップ系クラブでDJ活動をスタート。NYのヒップホップ/R&BシーンでDJとして人気を獲得します。その頃からの特徴は、ヒップホップやR&Bにこだわることなく、むしろロックやクラブ・ミュージックをはじめとする幅広い興味を反映したDJプレイ。その雰囲気は2003年の1stアルバム『Here Comes the Fuzz』にも顕著で、ここにはモス・デフやゴーストフェイス・キラー、ジャック・ホワイトやリヴァース・クオモといった幅広いゲストが集結しました。とはいえ、マーク・ロンソンが世界的なDJ/プロデューサーとして広く認知されたのは2007年の2作目『Version』。この作品ではコールドプレイやズートンズ、カイザー・チーフスといったUKの人気アーティストを中心にした楽曲を、エイミー・ワインハウスやリリー・アレンらとともにモータウン/スタックス風のソウル・アレンジで再解釈。自身初の全英チャートの2位を記録し、翌年にはブリット・アワードも受賞。

Oh My God ft. Lily Allen(2007年作『Version』収録)

続いて2010年には、マーク・ロンソン&ビジネス・インターナショナル名義で、当時アンダーグランドで盛り上がっていたディスコ・ブギーの再評価などにも通じるようなアナログ感満載の70~80年代風レトロ・ソウルを形にした『Record Collection』を発表。“Bang Bang Bang”のMVでの日本語や日本のドラマ作品へのオマージュも話題になりました。

Bang Bang Bang(2010年作『Record Collection』収録)

こうして生まれ故郷のイギリスを起点に世界へと人気を広げていったマーク・ロンソンは、いよいよ2014年にブルーノ・マーズを迎えた“Uptown Funk”を発表。この曲は前年にリリースされたダフト・パンクの“Get Lucky”などを起点にした世界的なディスコ/ファンク再評価ともリンクして、「ダウンタウン=下町/ストリート」ではなく「アップタウン=高級街」流儀の華やかで洗練されたファンク・ポップを鳴らし大ヒット。これまでの彼の楽曲の特徴だったレトロなドラム・ビート以上にファンキーなカッティング・ギターを前面に押し出して世界のポップ・シーンの方向性を決定づけると、この曲を収録した2015年の3rdアルバム『Uptown Special』は初のUKチャート1位を獲得。アメリカでも5位まで上昇し、2016年のグラミー賞では「年間最優秀レコード賞」を含む2冠を達成しました。

Uptown Funk ft. Bruno Mars(2015年作『Uptown Special』収録)

とはいえ、その後もマーク・ロンソンはひとつの音楽性にとどまることなく、音楽的な冒険を続けています。2018年にはメジャー・レイザーとしての活動や主宰を務めるレーベル〈Mad Decent〉からのリリース作品などでマーク・ロンソン同様に世界のポップ・シーンのトレンドセッターとして暗躍する名プロデューサー/DJ、ディプロとともに新ユニット、シルク・シティを始動。その代表曲“Electricity”では、ヴォーカルにデュア・リパを迎え、クラシックなソウル路線とは異なるEDMシーンの流行に即した音楽を追求しています。

Silk City & Dua Lipa – Electricity ft. Diplo & Mark Ronson(2018年)

また、自身のソロ名義での最新曲“Nothing Breaks Like a Heart ft. Miley Cyrus”では、マイリー・サイラスをゲストに招集し、LAのリック・ルービンのスタジオでレコーディング。2018年以降アメリカのポップ・シーンで増えているギターのアルペジオなどを効果的に使ったサウンドで、自身の新たな興味を形にしています。ちなみに、このコラボはマイリーの歌声に惚れ込んだマークが何度もラブコールを送って実現したもの。マイリーは11月に起きたカリフォルニアの山火事によって自宅を焼失しましたが、《This burning house/There’s nothing left》という歌詞の一節が現実になるという哀しい偶然も……。

Nothing Breaks Like a Heart ft. Miley Cyrus(2018年)

2:ポップ・ミュージックのトレンドを予見するプロデュースワークの数々

一方で、そうした自身のオリジナル曲に大きな影響を与えてきたのが、多岐にわたるプロデュース業や様々なアーティスト作品へのゲスト参加曲。マーク・ロンソンのキャリアを振り返ると、プロデュース曲での音楽的な冒険が後に自身の楽曲のヒットにも繋がるという、アーティスト/プロデューサーの2つの顔を持つ彼ならではのヒットの法則が見えてきます。中でも彼の名前を一躍有名にしたのは、サラーム・レミとともにアルバム・プロデュースを行なったUKの歌姫エイミー・ワインハウスの2006年作『Back to Black』の収録曲“Rehab”でした。

エイミー・ワインハウス“Rehab”(2006年作『Back to Black』収録)

この楽曲はスカスカのレトロなドラム・ビートと60~70年代風色濃いヴィンテージ感溢れるソウル・アレンジによって、エイミー・ワインハウスのドスの効いた歌声を最大限に引き出した彼女の代表曲。この楽曲のヒットによって、その後イギリスでは自国のノーザン・ソウルなども加えたソウル・ブームが花開き、それがマーク・ロンソン自身のアルバム『Version』のヒットにも繋がっていきます。また、同じくイギリスを代表するシンガー、アデルのデビュー作『19』では“Cold Shoulder”のプロデュースを担当。ドラムのループを生かしたヒップホップ・ビートで作品に幅を追加し、マーク・ロンソンは時代を象徴するプロデューサーとしてより人気を獲得していきました。

アデル「Cold Shoulder」(2008年作『19』に収録)

こうした楽曲のヒットに続く形で、その後アメリカのポップ・シーンでもプロデューサーとしての人気を広げていった彼が、2012年に担当したのがブルーノ・マーズの『Unorthodox Jukebox』収録曲“Locked Out Of Heaven”。ここではよりクロさを持ったファンクに焦点を当て、2014年の“Uptown Funk”に繋がるサウンドの変化を徐々に進めています。

ブルーノ・マーズ「Locked Out Of Heaven」 (2012年作『Unorthodox Jukebox』収録)

以降はポール・マッカートニーを筆頭にしたレジェンドの楽曲もプロデュース。同時に映画『スーサイド・スクワッド』のサウンドトラック収録曲“Standing In The Rain”では、アクション・ブロンソンとザ・ブラック・キーズのダン・オーバックによる楽曲にゲスト参加し、ドラム・ビートを生かしたプロダクションを提供したことも記憶に新しいはずです。

ポール・マッカートニー「New」(2013年作『New』に収録)

Action Bronson & Dan Auerbach (of The Black Keys) ft. Mark Ronson「Standing In The Rain」(映画『スーサイド・スクワッド』サウンドトラックに収録)

2018年に制作に参加したことで話題となったのは、レディー・ガガの主演映画『アリー/スター誕生』のメイン曲“Shallow”。この曲ではレディー・ガガや共同プロデューサーのアンソニー・ロサモンド、アンドリュー・ワイアットとの共同作業で、アコースティック・ギターを主体にした、ガガとブラッドリー・クーパーによる熱いバラードに貢献。この曲ではマークもギターを手に作業を進めたそうで、近年の彼がプロデュース業においてもヒップホップ/ソウルにとどまらず、様々な音を追求していることを伝える楽曲になっています。

レディー・ガガ「Shallow」(映画『アリー/ スター誕生』サウンドトラックに収録)

3:星野源との一夜限りのダブル・ヘッドライナー公演が実現!

そして12月17日、マーク・ロンソンと星野源による一夜限りのダブル・ヘッドライナー公演<LIVE in JAPAN 2018 星野源 × MARK RONSON>が実現! 幕張メッセに集まった超満員の観客の前に登場したマーク・ロンソンは、マイリー・サイラスとの楽曲“Nothing Breaks Like a Heart”でDJをスタート。DJ卓の上には“Nothing Breaks Like a Heart”のジャケットと同じミラーボール製のひび割れたハートも登場し、会場は一気に華やかなダンスフロアへと姿を変えていきます。

ポップ・ミュージックの先駆者、マーク・ロンソンって?国内のミュージックシーンにも影響を与える魅力へ迫る music181228-markronson-1
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続いてディプロとのユニット=シルク・シティとデュア・リパのコラボ曲“Electricity”へと繋いで彼の最新モードを伝えると、以降は1stの収録曲“Ooh Wee”や、テーム・インパラのケヴィン・パーカーを迎えた“Daffodils”&ミスティカルを迎えた“Feel Right”といった2015年の『Uptown Special』の楽曲を披露。続いて、この日共にヘッドライナーを務める星野源との音楽的な共通点でもあるマイケル・ジャクソンの生誕60周年に公開したマイケルのマッシュアップ曲“Diamonds Are Invincible”をさらにミックスしたバージョンをプレイすると、観客からさらなる歓声が巻き起こりました。

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その後は観客に「レジェンドから、もうひとりのレジェンドへ!」と告げて、自身のアルバム『Version』の収録曲でエイミー・ワインハウスがヴォーカルを担当したザ・ズートンズのカヴァー曲“Valerie”を披露し、そのまま代表曲“Uptown Funk”に繋げて会場からもこの日一番の大歓声。最後はクリスマス・シーズンに合わせてマイリー・サイラスとコラボレーションした新曲で、古くからの友人・ショーン・レノンも参加したジョン・レノンとオノ・ヨーコの名曲“Happy Xmas (War Is Over)”のカヴァーを披露して約40分間のステージを終えました。

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その後登場した星野源が、MCでソウル・ミュージックを大々的に取り入れるきっかけとなった転機作『Yellow Dancer』の制作中、街のコンビニで流れた“Uptown Funk”に勇気づけられたと語っていたように、マーク・ロンソンの近年の活動は世界のポップ・シーンに様々な影響を与えています。そして、それを可能にしているのは、DJ/プロデューサー/アーティストとして古今東西の国やジャンルを繋いでいく、あらゆる音楽のハブのような存在感。その活動が多岐に亘っているからこそ、彼の活動を追えば、ポップ・ミュージックの次なるトレンドが見えてくる。そんな雰囲気こそが、マーク・ロンソンの最大の魅力かもしれません。

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ナッシング・ブレイクス・ライク・ア・ハート feat. マイリー・サイラス

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マーク・ロンソンの代表曲をまとめて聴く

星野 源
5th Album『POP VIRUS』

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2018年12月19日(水)リリース
初回限定盤A (CD+Blu-ray+特製ブックレット) VIZL-1490 ¥5,000(+税)
初回限定盤B (CD+DVD+特製ブックレット) VIZL-1491 ¥4,800(+税)
通常盤 初回限定仕様 (CD+特製ブックレット) VIZL-1492 ¥3,100(+税)
通常盤 (CD) VICL-65085 ¥3,000(+税)

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