誠実で緊張感あふれるポスト・ロック・スコア
もともと映像喚起力に優れた連中ではあったが、またしても新境地を切り開いてしまった。グラスゴーの重鎮ポスト・ロック・バンド=モグワイの最新作は、フランスのテレビ局Canal+で放映された同名のドラマ・シリーズ『レ・ルヴナン(Les Revenants)』のために書き下ろしたスコア全14曲を、1枚のアルバムにコンパイルしたものである。
このドラマは、2004年にロバン・カンピヨ監督がメガホンをとった映画『奇跡の朝』のリメイク作品。フランス山間の静かな街を舞台に、バスの衝突事故で死んだはずの人々がアンデッドと化し、生前そのままの姿で家族のもとに帰ってくる――というストーリーからも窺えるように、平穏な日常に潜む恐怖や違和感、生と死、そして愛する者を失った家族の苦悩や喪失感までも丁寧に描かれており、欧米ではデヴィッド・リンチの名作『ツイン・ピークス』(90~92年)と並び称されているほど。脚本はソニック・ユースがサントラを手がけたことでも話題になった『消えたシモン・ヴェルネール』(10年)で知られる、フランス人映像作家のファブリス・ゴベール。もともとモグワイのスチュアート・ブレイスウェイトが彼の大ファンだったこともあり、今回のコラボレーションが実現したというわけだ。
モグワイの代名詞である轟音ディストーション・ギターは鳴りを潜めており、きわめてシンプルなフレーズが執拗に繰り返されるため、ファンは肩透かしを食らうかもしれない。ほぼ全編ピアノとキーボード、あるいはギター、ドラムス、チェロ、グロッケンシュピールなどで紡ぎ上げた緊張感あふれるサウンドは、『ソーシャル・ネットワーク』(10年)のスコアでアカデミー賞を獲得したトレント・レズナー(ナイン・インチ・ネイルズ)の仕事に通じる部分もある。あくまでスコア=劇伴なので、役者やストーリーよりもその存在を主張してしまうことはNG。だが、しっかりと「バンド」の音作りになっているところにはモグワイの誠実さが感じられるだろう。
12曲目の“What Are They Doing In Heaven Today?”は唯一の歌もので、テキサスのゴスペル・シンガーことワシントン・フィリップス(1880~1954年)のカヴァー。2009年に心臓発作で亡くなったジャック・ローズ(元ペルト)のトリビュート・アルバムのために録音されたそうだが、老成したカントリー・シンガーのようなスチュアートのラフな歌声と、《あいつらは今日、天国で何をしているだろう?》というリリックは、決して絶望だけに陥っていない『レ・ルヴナン』の世界に見事なほどハマってる。ライヴで味わえるあの静と動のカタルシス/ダイナミズムこそ封印されているが、ドラマ未体験のリスナーにとっても充分に刺激的なアルバムと呼べることは間違いない。
モグワイは、7年前にもジネディーヌ・ジダンのドキュメンタリー映画『ジダン 神が愛した男』の音楽を担当し、ダーレン・アロノフスキー監督の『ファウンテン 永遠につづく愛』(06年)にもサントラで参加していた。事実、アロノフスキー作品には欠かせない音楽家クリント・マンセルは英『ガーディアン』のインタビューでモグワイからの影響を公言していたし、ポスト・ロックとフィルム・スコアの親和性を語っていたりもする。そしてマンセルは、先述のトレント・レズナーとも親交が深い人物。いつの日かモグワイのメンバーも、スーツで<アカデミー賞>に出席する日が来たりして…?
(text by Kohei Ueno)
Release Information
2013.03.13 on sale! Artist:Mogwai(モグワイ) Title:Les Revenants(レ・ルヴナン) Rock Action Records / Hostess HSE-30301 ¥2,490(tax incl.) ■ライナーノーツ付 予定 Track List |