グワイの新境地とも呼べる話題作『レ・ルヴナン(Les Revenants)』。先日のレビューでも紹介したように、今作は同名の人気ドラマ・シリーズのサントラ(スコア)としての側面を持ちながら、純粋にバンドのニュー・アルバムとしても成り立つ、きわめて興味深い作品である。

とはいえ、劇伴=音楽が過剰に主張してしまっては、ドラマの世界観を崩壊させることになりかねない。メンバーも「ある種の制約が課せられた」と語っているように、モグワイにとっても今回のプロジェクトは、かなりチャレンジングな体験だったようだ。以下のインタビューは、バンドの中心人物スチュアート・ブレイスウェイトがメールで応じてくれたもの。音楽と映像が理想的なマリアージュを遂げた『レ・ルヴナン』の秘密が、ちょっとだけわかるかもしれない。つーか、日本でも放送してよ!

Interview:Stuart Braithwaite(Mogwai)

音楽だけが目立ち過ぎたり、トゥー・マッチな感じのするものには
したくなかったから、曲を作る時にもそれは心がけていた

――『レ・ルヴナン』のスコアはすごく久しぶりの映画仕事ですね。あえてモグワイ名義のニュー・アルバムとしてリリースすることになったのは、何か特別な理由があるのですか?

僕の考えでは、これはモグワイのアルバムであり、サウンドトラックでもあるんだ。アルバムをリリースする上で曲の多くはアレンジをし直したから、ただ単にTVドラマの伴奏としてじゃなく、単体でも楽しめるものになっていると思うよ。

――あなたはこのドラマの脚本を手がけたファブリス・ゴベールの作品の大ファンだったそうですが、どういった経緯で今回のコラボレーションが実現したのでしょう?

ファブリスの方から、「サウンドトラックをやってくれないか?」って話を持ってきてくれたんだ。僕らも『消えたシモン・ヴェルネール(原題:Simon Werner a disparu)』(※「フランス映画祭2011」で上映)っていう、ソニック・ユースがサントラを手がけた映画の監督として彼のことは知っていたから、快諾したよ。

――映画の制作陣からは、リファレンスとしてジム・ジャームッシュの『デッドマン』(95年)や(スタンリー・)キューブリックの『シャイニング』(80年)、そしてデヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』などが与えられたとガーディアンのインタビューで語っていましたね。実際、それらの映画が楽曲に反映された部分はありましたか?

それらが直接的な影響を及ぼしたかどうかはわからないけれど、受け取った映画のセレクションから、彼らがこのドラマをどんな雰囲気の作品にしたいのか? という想いは伝わった気がするね。

――また、「初めて第三者の指示を受けながら作曲した」「ある種の制約が課せられた」とも語っていますが、曲作り自体はどのようなプロセスで進行していったのでしょうか?

曲の多くは脚本を読んでから書いて、ドラマのスタッフは僕らが作った曲をセットで流しながら撮影したんだ。撮影が始まってからは、いくつか具体的なシーンやキャラクターに合わせた曲を書くように頼まれてさ、追加で数曲書きおろしたよ。

――打ち込みを多用するのではなく、あくまで「バンド」の音作りになっているところにモグワイの誠実さを感じました。何かしら新しいチャレンジや、機材の導入などはありましたか?

僕らはいつも色んな機材を集めているから、今回も間違いなく新しい機材を使ったはずだけど…。今は思い出せないなあ。

――轟音ギターをほぼ封印し、鍵盤楽器が大きくフィーチャーされているのが本作のポイントだと思います。脚本、もしくはドラマの映像を見て意識的にこのようなサウンドが出来あがっていったのですか?

音楽だけが目立ち過ぎたり、トゥー・マッチな感じのするものにはしたくなかったから、曲を作る時にもそれは心がけていたね。ピアノやシンセサイザーの方が、ラウドなギター・サウンドよりも映像にずっと合っていたと思うよ。

――全編インストかと思いきや、“What Are They Doing In Heaven Today?”では突如やさしい歌声が聴こえてくるのでビックリしました。もともとジャック・ローズのトリビュート・アルバムのために録音された曲だったそうですが、歌詞が見事に『レ・ルヴナン』の世界観にフィットしていますよね。この曲を採用したのは誰のアイディアだったのでしょうか?

プロジェクトが始まったばかりのころに、関係者に僕らがそれまで持っていた曲を大量に送ったんだ。“What Are They…”は何年も前にジャック・ローズのトリビュートのために書いたんだけど、そのアルバムには使われなかったから、今回のプロジェクトになら使えるんじゃないかと思ったのさ。制作サイドもそれに同意してくれて、実際に劇中でも使われることになった。

――老成したカントリー・シンガーのような歌声がとても素敵で、ファンにとってもすごく新鮮です。今後、シンガーとして歌ものオンリーのアルバムなんか出されてみては?

もっと歌詞の入った曲をたくさん書くようになれば、その可能性はあるかもしれないね(笑)。

――モグワイはダーレン・アロノフスキー監督の『ファウンテン 永遠につづく愛』(06年)のサントラにも参加していました。あの映画の音楽を手がけたクリント・マンセル(Clint Mansell)は、ガーディアンのインタビューで「ポスト・ロックとフィルム・スコアはそのまま置き換えできる」と発言しています。この意見に関してはどう思いましたか?

『ファウンテン~』でやった曲は僕らが書いたわけじゃなくて、クリントが書いた曲を演奏しただけだったんだ。クリントはスコアの中でインストゥルメンタル・ロックの要素をとても上手く使いながら、それらをすごく賢く活用しているから、他の多くのバンドやミュージシャンのように枠の中にはまってしまうことがない。

――近年はブライアン・イーノ、ダフト・パンク、ケミカル・ブラザーズ、J・マスシス、そしてトレント・レズナーといった現役のミュージシャンたちが映画のスコアを任せられる機会も増えたように思います。同じくスコアを手がけているミュージシャンとして、インスパイアされた人物はいますか?

そりゃ山ほどいるよ。ほんの一部を挙げるなら、ジョン・カーペンター、エンニオ・モリコーネ、ファビオ・フリッツィ、フィリップ・グラスとかだね。

――もし、いつかトレント・レズナーのようにアカデミー賞作曲賞にノミネート、あるいは受賞することになった場合、あなたはどうしますか?

たぶん、かなり嬉しいと思う。トレントだって受賞したときはけっこう喜んでいるように見えたよね?

――映像と音楽がパーフェクトにマッチしていると思う映画作品を教えてください。

『エクソシスト』(73年)、『ニューヨーク1997』(81年)、『ビヨンド』(81年)、『ブレード・ランナー』(82年)、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(08年)……あたりかな。

――最後に、モグワイはヴィンセント・ムーンが撮影したライヴ・フィルム『バーニング』(10年)もリリースしていますよね。いつかバンドのドキュメンタリーを撮ったり、オリジナルの映画を制作してみたいと思いますか?

2015年にはバンドが活動20周年を迎えるから、何かしらのドキュメンタリーを作ろうかとは考えているんだ。マッドハニーのドキュメンタリー・フィルム『I’m Now – the Story of Mudhoney』(11年)がすごく気に入ったしね。まあ、具体的にはまだ何もしていないから、実現しない可能性も高いけど(笑)。

(interview & text by Kohl Ueno)

Release Information

Now on sale!
Artist:Mogwai(モグワイ)
Title:Les Revenants(レ・ルヴナン)
Rock Action Records / Hostess
HSE-30301
¥2,490(tax incl.)

■ライナーノーツ付 予定

Track List
01. Hungry Face
02. Jaguar
03. The Huts
04. Kill Jester
05. This Messiah Needs Watching
06. Whisky Time
07. Special N
08. Relative Hysteria
09. Fridge Magic
10. Portugal
11. Eagle Tax
12. Modern
13. What Are They Doing In Heaven Today?
14. Wizard Motor