EVENT REPORT
2019.09.24(TUE)@新宿MARZ
look forward to science 1
ヒップホップの自由度を謳歌しながら自分の歩幅で新たな道を切り開く次世代アーティスト・Momが、自身が主催する企画シリーズ<look forward to science>を9月から12月にかけて開催。第1回目は9月24日(火)にbetcover!!とDENIMSをゲストに迎え、新宿MARZにて開催された。3連休明けの初日であるにもかかわらず、会場は開演前から多くの人で賑わっていた。
まず初めに登場したのはヤナセジロウのソロ・プロジェクトであるbetcover!!。
ベースとドラムとギター・ヴォーカルのヤナセジロウの3人による、レゲエ/ダブ、ブルースやジャズ、オルタナティヴ・ロックなど、豊富なバックグラウンドを感じさせる音が、ポップと聞いて思い浮かべる整頓された何かを壊すように展開していく。とことんストイックで攻撃的ではあるが、聴き手を置き去りにアヴァンギャルドが独走するようなものではなく、同時にユーモアとファンタジーに溢れ、聴く者の新たな感性の扉を開くような演奏。
序盤の息を飲むような緊張感から、じわじわと覚醒へと導かれていく観客たち。カオスこそが人間の心ともっとも同調できるポップ。終盤にヤナセジロウのなぜか裏声のMCが出た頃には、場内は完全にbetcover!!ワールドに染まっていた。
続いてはDENIMSの登場。SEは偶然にもbetcover!!の余韻を増幅さるかのようなスライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーン(Sly & The Family Stone)の“Sing A Simple Song”。そのサイケで濃厚なファンクからの流れを切らずに自らの演奏を繋ぎつつ、一気にDENIMSの開放的で明るい色を放出するスタートはお見事。
トラディショナルなファンクやロックンロール/R&Bを基調にした、“リズムマスター”とでも言いたくなるようなギターのコードカッティングと跳ねたベースとドラミングに、連休明けの重めのメンタルを、フワッと軽くしてくれるような歌。
この日が3日連続ライヴの締めだったというように、引く手あまたの鍛え抜かれたパフォーマンス力があるからこそのレイドバックした空気。どこをとっても唯一の輝きが、フロアのヴォルテージを高める。
バンドを代表して、ギターのおかゆが、実は主催のMomとは出会って間もないが、MomがDENIMSを好きだということが伝わったオファーへの喜びを語り、最後は大団円のうちにラストのアクト・Momへ。
DJとMomのマイク・パフォーマンスとギター。シンプルなセットの周りに光る、“Mom”の文字と酒瓶を並べた手作り感のある電飾。冒頭で「“自主企画”っていうと、気張ったというか、意気込んでやっている感じがしますけど、ぜんぜん楽な感じで、肩の力抜いて、それぞれ楽しいやり方で、やっていきたいというのが僕のポリシーなので、よろしくね、楽しんで」と優しいトーンで話していた。
声高らかに、エモーショナルに主張することはない、受け手に感じる幅のあるオリジナリティの強さやDIYなスタンスがセットからも伝わってくる。シンガロングやコール&レスポンスを求めるシーンもあるが「歌えたら歌ってね」、「ここは歌えるんじゃない?」と、ステージとフロアにある物理的な境界線をそっと拭うことで、観客それぞれが自由に楽しんで主役になれる、パーティとしてのポテンシャルを引き出すような演出が印象的だ。
それは曲においても同様。例えばトラップ・ビートに乗ると現在進行形のポップ・ミュージックになるフロウが、ギターの弾き語りになるとエヴァー・グリーンなロックやフォークのように聞こえる。なだらかな起伏のなかで、気がつけば数分前とは別の世界にいるような、不思議な感覚だ。
それは意図的な組みあわせの妙なのか、自然発生的なものなのかはわからないが、まずはフラットに音楽としてただ楽しく、堀り下げればさまざまなレイヤーが用意されている、Momならではのシームレスなスタイルによるパフォーマンスを堪能することができた。
今回の3組は音楽性もパフォーマンスのベクトルも、まったく異なる。しかし、バラバラなものを楽しんだ、という感覚はない。ジャンルを越境したのではなく、そもそも、ジャンルやコミュニティによる固有の美学はあれど、それぞれに明確な線が引かれているものではないと感じたことに、現代性と豊かな未来を見た時間だった。
この企画はすでに第2弾と第3弾も決定している。ここから生まれるであろう新たなムーヴメントに期待しながら、引き続き追いかけていきたい。
Text by TAISHI IWAMI
Photo by Aoi Haruna
Mom
シンガーソングライター/トラックメイカー。現役大学生の22歳。
様々なジャンルやカルチャーを混ぜこぜにした、手触り感のある独自のジャンル『クラフト・ヒップホップ』を提唱。アートワークやMusic Videoの企画も自身でこなし、隅々にまで感度の高さを覗かせる。
すべてのトラックをGarageBandで制作しているにもかかわらず、一度聴くと頭の中を支配する楽曲たちには、サウンド構築の緻密さや、あくまでポップスフィールドからはみ出ないメロディセンスが光る。
2018年初頭から本格的に活動を開始。手売りのDEMO CDは、タワーレコード渋谷店の未流通コーナーで取り扱われ、入荷の度に即時完売。デイリーチャート3位を記録した。
同年11月、初の全国流通盤となる『PLAYGROUND』をリリース。Apple Music『NEW ARTIST』にも選出され、渋谷O-nestで開催したリリースパーティは完売。
2019年5月、前作より半年のハイスピードで2nd album『Detox』をリリース、TOWER RECORDS『タワレコメン』に選出。翌月には渋谷WWWにて、ゲストにchelmicoを招いたリリースパーティは完売。
EVENT INFORMATION
look forward to science 2
2019.10.21(月)
OPEN 18:30/START 19:00
渋谷O-nest
ADV ¥2,500/DOOR ¥3,000(1ドリンク別)
LINE UP:Mom / TOKYO HEALTH CLUB / xiangyu
TICKET:
look forward to science 3
2019.12.13(金)
OPEN 18:45/START 19:30
Veats Shibuya
ADV ¥3,300(1ドリンク別)
LINE UP:Mom / + GUEST ACT
TICKET: