22歳のミュージシャンMomが、12月13日(金)にVeats Shibuyaにて開催した自主企画<look forward to science Vol.3>の模様をお送りする。
今年9月からMomが始めた自主企画も3度目。Vol.1はDENIMSとbetcover!!、10月に開催されたVol.2はxiangyuとTOKYO HEALTH CLUBを招集。それぞれジャンルやスタイルを超えた独自の魅力を持つアーティストたちと、ライブを繰り広げてきた。そしてVol.3では初めての対バン形式で敢行。6人組エレクトロポップバンドLucky Kilimanjaroを迎え、Mom自身もバンドセットでライブを行うことが発表され、注目が集まる一夜であった。
LIVE Report:Mom自主企画
<look forward to science Vol.3>
会場となったVeats Shibuyaは8月22日にオープンしたばかりのキャパシティ最大600人ほどのライブハウス。全面フローリング張りのフロアとオシャレなカフェのような明るく洗練された空間は、ライブハウスに行ったことがない人も馴染みやすいと評判になっている。そのような空間にふさわしく、会場内もどこかホームパーティのような雰囲気。来場者にはオリジナルステッカーとフリーのチュッパチャプスが振る舞われ、会場のいたるところにはポップアート風のポスターが貼られている。しかし、会場の中で流れていたのは高田渡のアルバム『汽車が田舎を通るそのとき』。オシャレな空間に高田渡のメランコリックな声と語りが響き渡るミスマッチさと奇妙さが、ジャンルや文脈を横断し続けるMomの粋なこだわりのように思えた。
19時半を少し過ぎた頃、ゲストアクトのLucky Kilimanjaroのライブがスタート。シンセサイザーのリフと情緒的な歌詞が印象的な“風になる”と、アーバンなサウンドの“新しい靴”に続いて、3曲目には“Burning Friday Night”を披露。金曜日の夜にふさわしく、熱の籠った演奏で会場を沸かせる。パーカッションの奥真人が「熱いね」とMCでつぶやくほどフロアの熱気を高めた彼らは、その後も10月にリリースされたEP『FRESH』の楽曲を中心に、次々とアッパーなビートの曲を演奏していく。
ドラム、シンセパッド、ベースによる厚みのあるグルーヴに乗り揺れるように踊るボーカルの熊木幸丸に呼応するように、フロアの観客たちも体を揺らす。中盤には来年1月にリリースされるアルバムより新曲“ Galaxyを披露。この楽曲は熊木が「酒を飲む歌です」と宣言していた通り、コンビニで酒を買い、家で晩酌する喜びを歌ったダンスナンバー。移り変わるリズムパターンとディスコ調のギターフレーズに、フロアの熱は増していく。そこから畳み掛けるように代表曲たちを披露しライブは終了。ほとんどMCもなくシームレスにダンスナンバーを演奏し続けたLucky Kilimanjaroのステージは、幸福な余韻と熱を残した。
20分の転換の間にステージ上には、普段のライブでもお馴染みとなっているMomロゴライト、観葉植物、砂嵐の映るブラウン管テレビ、ガイコツの模型が置かれると、Momのライブがスタート。
ダニエル・ジョンストンの記号“Life In Vein”のSEが流れる中、サポートメンバーのShin Sakiura(Gt/Ba) と堀正輝 (Dr)、Momが登場すると、リリースされたばかりの最新曲“ハッピーニュースペーパー”を一曲目にいきなり披露。堀正輝が鳴らす緻密なビートとShin Sakiuraのギターフレーズに乗せて、Momがエネルギッシュに動き回りながらラップを繰り出していく。続く二曲目は“Boys and Girls”。
ダ今年の初めにリリースされて以降すでにライブアンセムに成長したこの曲を、ドライブ感溢れるドラムビートと共に熱量たっぷりに歌うと、観客たちにもその熱が伝播し、歌い踊る。そして観客たちがスマートフォンでライトを照らす中披露された“タクシードライバー”に続いて、“気になるあの子(運動靴とディストピア)”、“いたいけな惑星”などライブの定番曲を次々に演奏していく。堀正輝が叩くビートとShin Sakiuraのブルージーなギターの中に響くMomの声に、観客は酔いしれる。
6曲目に演奏されたのは11月にリリースされた新曲“マスク”。世の中に対する違和感と静かな怒りを歌った内省的なこの曲の狂気と暴力性が、サビの強烈なドラムビートと猟奇的なギターフレーズによって強調される。マイクスタンドを持ちながら歌うMomのボーカルスタイルもナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)のトレント・レズナーを彷彿とさせるものであった。
個人的にこの曲がライブの前半の大きなハイライトの一つであった。“マスク”を演奏したのち、堀とShin Sakiuraが袖にはけ、Momがエレキギターを持ちMCタイムへ。好きなチュッパチャプスの味の話(Mom曰く『コーラとプリンを交互に舐めるのがクレバー』だとか)やゲームが下手になって老いを感じた話に、先ほどのシリアスな演奏とは打って変わりアットホームな空気感に会場が変わる。そして「歌えたら歌ってね」と言いながらおもむろに歌い始めたのは、まだタイトルが決まっていないという新曲。
“デビルマン”や藤子・F・不二雄作品を彷彿させるような寓話的でディストピア感に満ちた歌詞と諦念に満ちたメロディで、再び会場に緊張感が生まれる。それに続いて歌ったのは『Detox』のラストナンバー“冷たく輝く星の下で”。音源ではローファイなビートと、ボイスエフェクトのかかったボーカルで歌わるこの曲だが、エレキギターの弾き語りで歌われることで歌詞とメロディがより立体的に響く。
そして“マスク”や“ハッピーニュースペーパー”、そして先ほどの新曲とも通じる静かな怒りと諦念を《It’s Gonna Be Arlight》というフレーズで肯定するこの楽曲を聴き入りながら、今のMomが目指すコンシャスな表現に想いを馳せずにはいられなかった。それでも最後の「オーライ」の「オー」を観客全員で合唱しながら、ピースフルに弾き語りパートは幕を閉じた。
再び堀正輝とShin Sakiuraがステージに戻ると、Momもギターを手に取りスリーピースバンドスタイルで“ひみつのふたり”、“東京”、“卒業”を披露していく。ロックバンドのようなソリッドな音でエレキギターを弾きながら歌われるメロディは、会場内をエモーショナルな空気で包み込む。演奏が終わると3人は楽器を置き、そそくさと退場。あまりにもあっけない本編終了に自然とアンコールを望む拍手が巻き起こる。
その拍手に押されるかのようにステージに戻る 3人。すぐさまキャッチーなクラップビートが鳴り響き、代表曲“That Girl(better mix)”からアンコールが始まる。《君のプレイリストに僕を加えてよ》というフック部分ではシーケンスとドラムとギターが生み出すグルーヴに観客たちは体を揺らす。会場中が幸福感に満ちるなか、Momが「もう一曲やっていい?」と言うとライブ定番のアンセムソング“Boyfriend”が始まる。サビで「手を挙げて一緒に!」と煽るとフロアのグルーヴに一体感が増していき、この夜最大の熱気に包まれた。
ポップで人懐っこいこの楽曲を観客と共に歌いながら、「なんでもできるShin Sakiura!なんでも叩ける堀正輝!そして僕がMom!ありがとう」と改めてメンバー紹介をするMomの表情からは幸福感が溢れていた。演奏を終え、Lucky Kilimanjaroやスタッフ、観客に感謝を告げたのち、一本締めで<look forward to science Vol.3>は終了。Momは最後に「みんなで新しい時代を築いていきましょう」と言って、ステージを降りた。
9月・10月・12月と3本連続で開催してきたMom初の自主企画シリーズ<look forward to science>はこれにてひとまず終了。しかし、終演後にはライブで披露した新曲のデモがSEで流れ、入場時に配られた特典ステッカーにも新曲(弾き語りVer)のダウンロードコードが。次の作品への期待と、来年以降のMomの活動がますます楽しみになる一夜であった。
text by 吉田ボブ
photo by 石崎祥子(THINGS.)
Mom
シンガーソングライター/トラックメイカー。現役大学生の22 歳。
現行の海外ヒップホップシーンとの同時代性を強く感じさせるサウンドコラージュ・リズムアプローチを取り入れつつも日本人の琴線に触れるメロディラインを重ねたトラック、遊び心のあるワードセンスが散りばめられた内省的で時にオフェンシブなリリックに、Mom のオリジナリティが光る。また音源制作に限らず、アートワークやMusic Video の監修までも自身が担当。マルチな才能でファンを魅了し続ける。
2018 年初頭から本格的に活動を開始。同年11 月、初の全国流通盤となる『PLAYGROUND』をリリース。Apple Music『NEW ARTIST』にも選出され、渋谷O-nest で開催したリリースパーティは完売。2019 年5 月、前作よりわずか半年間のハイペースでリリースした2nd album 『Detox』は、TOWER RECORDS 『タワレコメン』に選出。渋谷WWW にてchelmico をゲストに招き開催したリリースパーティも完売させた。
INFORMATION
Mom フォークアルバム『赤羽ピンクムーン』
2019.12.25(水) RELEASE
01. tuning
02. くたくた
03. 赤羽ピンクムーン
04. あのよこのよ
05. 紙飛行機に乗せて
06. 燥き
07. 人生ベストテン
08. 回帰