今年6年目を迎えた<ガバナーズ・ボール>は、<パノラマ>の参戦や、悪天候による最終日のキャンセルと、少々ハプニングに見舞われたものの、フェスティバル全体には例年通りのアットホームでローカルなよさが染み出ていた。初年度の<ガバナーズ・アイランド>は、ガバナーズ・アイランドにて約18000人の来場者と共に、現在と比べるとかなり小規模で行われた。そうした小規模かつアットホームな第1回という系譜を踏まえていることからも、<ガバナーズ・ボール>はいい意味で敷居の低く、どんな人でも愉しめる野外音楽フェスなのだ。会場の屋台もニューヨークの飲食店で構成されていることからも、そのローカル感を愉しむことができる。新しい試みとしては、スパイク・ジョーンズをプロデューサーに迎え、VICEが立ち上げたテレビチャンネルVICELANDによる生放送を通じて、3日間の様子をインターネット越しに愉しむことが可能であったこと。また、最終日である3日目がキャンセルになってしまった事態に対応して、レイジ・アゲインスト・マシンやパブリック・エネミー、サイプレス・ヒルのメンバーで構成されるスーパーバンド=プロフェッツ・オブ・レイジがブルックリンのWarsawで演奏を行ったり、カニエ・ウェストがウェブスターホールで急遽夜中の2時にライブを行う宣言をしたり(実際には4000人以上の人が路上に集まり騒動となり中止となったが)、ツー・ドア・シネマ・クラブがブルックリンのライブハウス=Music Hall of Williamsburgで演奏したり、最終日のキャンセルの埋め合わせにもしっかり対応した。
対する<パノラマ>も、ヘッドライナーにアーケイド・ファイヤーやケンドリック・ラマー、LCDサウンドシステムを迎え、ラインナップにも隙がない。また、<パノラマ>は音楽・アート・テクノロジーが融合した世界の祭典である、と自らを称しており、その中枢を担うのがThe VergeとHP INC.が恊働でサポートしている、音楽とテクノロジーの遊び場=THE LABである。META.isによってデザイン及びキュレーションがなされたTHE LABでは、7つのインタラクティブ・インスタレーションと360°の仮想現実空間(ヴァーチャル・リアリティ・シアター)とともに、フェスティバルの中心に配置される。これらの展示作品は、ニューヨーク拠点で活動をしているアーティストたちによって<パノラマ>だけのために制作されたものであり、<パノラマ>の来場者は、一足先にアートとテクノロジーの未来を体験することができそうだ。
海外メディアでは、<ガバナーズ・ボール>対<パノラマ>のように、この2つの関係性は若干ネガティブに論じられることの多い傾向にあるが、悲観する必要は全くない、と筆者は思う。一見すると、似たような立ち位置にいるようにも思える2つのフェスであるが、意外と棲み分けははっきりしている。6年間に渡りアットホームさとローカルさでニューヨークの野外フェスティバルとして親しまれてきた<ガバナーズ・ボール>、<コーチェラ>での経験を踏まえたうえで、アートやテクノロジーと音楽を結びつけた未来型フェス<パノラマ>。この2つのフェスが、日本でいう<フジロック・フェスティバル>と<サマーソニック>のような関係となり、より多くの音楽ファンを魅了するニューヨークの2大フェスとなっていくことを、願ってやまない。
photo by Taisuke Yamada