──具体的にはどういうことでしょう?

例えばここに、とてもきれいなトラッドの旋律があるとするよね。ティン・ホイッスルで吹いたシンプルなメロディーに、フィドルやフルートを絡ませると、その魅力を何倍にも広げられるだろ? 実際、ギリシャのミキス・テオドラキス(1925年〜)という偉大な作曲家は、自分の作品に民族的要素を大胆に採り入れていてね。

それによってギリシャの伝統音楽は、世界中でポピュラーになったんだ。そういう“フォーク・オーケストラ”的なことを自分でも突き詰めてみたかった。多くの人にアイリッシュ・トラッドを受け入れてもらうには、そのアプローチが絶対に必要と思ったんだ。バンド結成は1962年だけど、5年間くらいあれこれ試行錯誤してたんじゃないかな。

──パディさんも20歳すぎでショーン・オ・リアダ(1931〜1971)というクラシックの素養を持った作曲家と出会い、1960年には彼が結成した「キョールトリ・クーラン」というグループに参加されていますね。

うん。ショーンは素晴らしい才能を持った人でね。1959年、イースター蜂起(1916年の復活祭にアイルランドで起きた武装蜂起)についてのドキュメンタリーが大ヒットしたんだけど、その映画音楽を手がけていた。古い伝統曲にオーケストラ・アレンジを施したもので、とても心がこもってて感動したのを憶えているよ。その後、実際に知り合って、彼のグループにも参加した。

ショーン・ポッツ(ティン・ホイッスル)やマイケル・タブリディ(コンサティーナ=アコーディオンの一種)、マーティン・フェイ(フィドル)やショーン・ケーン(フィドル)など、初期のザ・チーフタンズのメンバーを紹介したのも僕なんだ。ただキョールトリ・クーランは、自分が模索していた方向性とは必ずしも一致してなかったな。ショーンから学んだものは少なくなかったと思うけれど、その影響下にチーフタンズを始めたわけではなくて。

むしろ自分のバンドを模索しながら、並行で彼のグループにも参加していたと言う方が実情に近いんじゃないかな。

──ザ・チーフタンズをスタートさせて、転機になったのはいつでしょう?

特に大きかったのは1975年だね。その年、英国の「ロイヤル・アルバート・ホール」で初の単独ライブを行ったんだ。今でこそ僕らは、歌手やダンサーと一緒にツアーを回っているけれど、当時はまだ楽器だけでね。ステージでは地味な背広を着たオジサンたちが、2時間ひたすらトラッドを演奏するだけ。そんなプログラムに観客が興味を示してくれるのか、見当も付かなかった。

でも結果的にはチケットは売り切れ、最後には盛り上がった観客が踊り出したんだ。それで思い切って仕事を辞め、ミュージシャンに専念することにしたんだよ。心配して渋るメンバーを、あの手この手で説得してね(笑)。

【インタビュー】ストーンズと共演、キューブリック映画にも参加!生ける伝説、ザ・チーフタンズの偉大な歴史を辿る Qe0828PM-87-700x467

──それが今では、日本を含めて世界中の人びとが熱心にアイリッシュ・ミュージックを聴いていますね。またロックやポップスにも、ケルト音楽のテイストを感じさせるものは少なくありません。これはまさに、ジャンルを超えて世界中のミュージシャンと共演してきたチーフタンズの功績なのでは?

たしかにこの半世紀で、状況はかなり変わったよね。1つには、僕らはラッキーだったと思う。人柄も才能も備えたメンバーと巡り会えたし、トラッド畑以外のミュージシャンも僕らのアンサンブルに興味を持ってくれた。60年代後半にはローリング・ストーンズのミック・ジャガーがアルバムを他のメンバーに薦めてくれたし。

ジョン・ピールというBBCの名物DJは、ザ・チーフタンズの曲をビートルズやストーンズと同じ扱いでかけてくれたんだ。あと、これもやっぱり1975年だけど、スタンリー・キューブリック監督の映画『バリー・リンドン』に参加したのも大きかったな。僕らの曲が劇中で大々的に使用され、作品はオスカーで4部門を受賞した。そうやって世界の多くの人が、アイルランド伝統音楽の素晴らしさや懐かしさを知ってくれたんだ。

──グラミー賞を受賞した『ロング・ブラック・ヴェイル』(1995年)は、その“交遊録”の集大成とも言える作品でしたね。

ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、スティング、ボノなど、ロック界の連中がこぞって出演してくれたからね。あのアルバムは当初『チーフタンズ・アンド・フレンズ』というシンプルなタイトルを予定していた。「次のアルバムに遊びにきてくれない?」と電話をしたら、みんな二つ返事で気軽に応じてくれたっけ(笑)。もちろん収録曲のいくつかは、次の来日公演でも演奏するつもりだよ。ちょっとアレンジを変えてね。

──ところで、ザ・チーフタンズのレパートリーは現在、何曲くらいあるんですか?

見当も付かないなぁ。何しろ50枚近くアルバムを発表してきたし。まだレコーディングしてない楽曲も多くあるからね。最近も南アフリカの故・ネルソン・マンデラ氏に捧げるドキュメンタリーに、「トラブルメーカーのジグ」という舞曲を提供したばかりなんだ。ちなみに“トラブルメーカー”というのは彼のアフリカン・ミドルネームの英語訳で、彼はふだんアイリッシュ・ミュージックに合わせて踊るのが大好きだったんだって(笑)。

この曲はもちろん次の日本ツアーでも披露するつもりだよ。いずれにしても、やりたいことはたくさんある。日々いろんなプロジェクトが動いているし。アイルランドという土地には僕らの想像力を刺激する素材が、まだまだいっぱいあるからね。

──前回の来日は2012年ですが、この5年間もチーフタンズはヨーロッパやアメリカで毎年ツアーを重ねておられますね。何か大きな変化はありましたか?

2014年からは、タラ・ブレーンという若い女性フィドラーがツアーに加わってくれた。最初は1回だけの予定だったんだけど、ずっと一緒に回ってくれてとても助かっている。というのも彼女のスタイルは、しばらく前からツアーに出なくなった(創設メンバーの)ショーン・キーンとほぼ同じなんだ。

さらにタラは、全アイルランド・サックス選手権の優勝者でもある。彼女は隠してたみたいだけど、それを知った僕はすかさず「サックスを持ってこなかったらツアーに連れていかないから」って脅かしたんだ(笑)。だから次の日本ツアーでは、アンコールで素晴らしいサックス演奏が聴けるはず。ギターのティム・エディも初お目見えだね。彼は2012年に「BBC Radio2 フォーク・アワード」で2部門を受賞したミュージシャンで、すごく可笑しい男だよ。

【インタビュー】ストーンズと共演、キューブリック映画にも参加!生ける伝説、ザ・チーフタンズの偉大な歴史を辿る Qe0828PM-102-700x467

──ハープのトリーナ・マーシャル、フィドル&ダンスのピラツキ兄弟など、2007年の来日ツアーから参加している若手メンバーも健在ですね。

もちろん! 僕とケヴィン・コネフ(バウロン)、マット・モロイ(フルート)という超ベテラン3人を、若者たちが溌剌とした演奏で支える。それがここ最近のチーフタンズのスタイルだからね(笑)。彼らはツアー以外では、自分たちのライブやレコーディングもしっかり重ねている。だから毎年、合流することでこっちがエネルギーをもらえるんだ。

──初代ツアー・ダンサーだったマイケル・フラットリー(リバーダンスの初代プリンシパル)、スペイン・ガリシアのパイプ奏者であるカルロス・ヌニェスなど、チーフタンズという“学校”で育ち、巣立っていったミュージシャンやパフォーマーは少なくありません。若い世代と一緒にツアーをするにあたっては、何を重視していますか?

もちろん才能やテクニックも大事だけれど、最終的には彼らのスタイルが僕たちのものとうまく調和するかどうかじゃないかな。彼らはみな、チーフタンズのスタイルを尊重して素晴らしい演奏を繰り広げてくれるけれど、実は僕の方から「絶対こういう風にして」と強制したことはないんだ。納得できないまま演奏しても、まず良い音楽は生まれないし。そんな無駄な時間を過ごすほど人生は長くないからね。

あとは何週間も続く世界ツアーを乗り切れるだけのタフさを備えていること。若いメンバーたちは、ライブの後には大抵、パーティーで盛り上がってるみたいだよ。僕たちオリジナル・メンバー3人は、もうとてもそういう真似はできないけどね(笑)。

──では最後に、待望の来日公演の抱負を教えていただけますか?

いつにも増して楽しいコンサートになるはずだよ。僕らにとって日本は特別な場所。もう30年以上通っているけれど、日本人ミュージシャンとも必ず共演しているんだ。アキコ(矢野顕子)とはもう何度も共演しているし、ニューヨークの「カーネギー・ホール」でライブを行った際にもゲストとして来てもらったんだ。

あと、1999年の『ティアーズ・オブ・ストーン』というアルバムでも、「ウィスキー・イン・ザ・ジャー」という有名なトラッドをもじった「サケ・イン・ザ・ジャー」という曲を歌ってくれているよ(笑)。

エイテツ(林英哲)も素晴らしい太鼓奏者。可能ならチーフタンズのワールド・ツアーに連れていきたいほど、彼の演奏が大好きなんだ。残念ながら和太鼓が大きすぎて飛行機に詰めないから、ガマンしてるんだけどね(笑)。

男女デュオのハンバート ハンバートとは今回初共演だけど、彼らは前々から「素早き戦士(Mo Ghile Mear)」という僕らのレパートリーを、日本語でカバーしてくれてるんだってね(邦題は「喪に服すとき」)。この曲はしばらくセットリストから外していたんだけど、久しぶりに一緒に演奏したいと思ってる。

とにかくどの会場でも新しいこと、楽しいことがいっぱい起きるはずだから、ぜひ楽しみにしておいてほしいな。

【インタビュー】ストーンズと共演、キューブリック映画にも参加!生ける伝説、ザ・チーフタンズの偉大な歴史を辿る Qe0828PM-13-700x467

【インタビュー】ストーンズと共演、キューブリック映画にも参加!生ける伝説、ザ・チーフタンズの偉大な歴史を辿る Qe0828PM-2-700x467

EVENT INFORMATION

2017.11.23(木・祝)
所沢市⺠文化センターミューズ
ゲスト:ハンバートハンバート

2017.11.25(土)
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール

2017.11.26(日)
兵庫県立芸術文化センター

2017.11.27(月)
ZEPP名古屋

2017.11.30(木)
Bunkamura オーチャードホール
ゲスト:林英哲(和太鼓)、古謝美佐子、上間綾乃

2017.12.02(土)
⻑野市芸術館メインホール
ゲスト:矢野顕子

2017.12.03(日)
よこすか芸術劇場
ゲスト:矢野顕子

2017.12.08(金)
⻑野市芸術館メインホール
ゲスト:ハンバートハンバート、ドリーマーズ・サーカス(from デンマーク)

2017.12.09(土)
すみだトリフォニーホール
ゲスト:ドリーマーズ・サーカス(from デンマーク)

後援:アイルランド大使館
企画制作:株式会社プランクトン
TEL:03-3498-3270 FAX:03-3498-3202

詳細はこちら

RELEASE INFORMATION

グレイテスト・ヒストリー

【インタビュー】ストーンズと共演、キューブリック映画にも参加!生ける伝説、ザ・チーフタンズの偉大な歴史を辿る 47112aaec03822eead49137844f9d44f-700x695
2017.10.25(水)
The Chieftains
¥2,000(tax in)
1. アイルランドの女 / モーニング・デュー
2. ボーの踊り
3. ウェックスフォード・キャロル(with ナンシー・グリフィス)
4. ベルズ・オブ・ダブリン / クリスマス・イヴ
5. コットン・アイド・ジョー(with リッキー・スキャッグス)
6. ビハインド・ブルー・アイズ(with ロジャー・ダルトリー)
7. キャロランズ・コンチェルト
8. ザ・ロッキー・ロード・トゥ・ダブリン(with ローリング・ストーンズ)
9. ハヴ・アイ・トールド・レイタリー(with ヴァン・モリソン)
10. グアダルーペ(with リンダ・ロンシュタット、ロス・ロボス)
11. サンティアーゴ・デ・クーバ(with ライ・クーダー)
12. マグダレーン・ランドリーズ(with ジョニ・ミッチェル)
13. サケ・イン・ザ・ジャー(with 矢野顕子)
14. アイ・ノウ・マイ・ラヴ(with ザ・コアーズ)
15. キルフェノーラ・セット
16. リデムプション・ソング(with ジギー・マーリー)
17. モリー・バン
18. シュール・ア・ルーン(with 元ちとせ)
19. ラ・イグアナ(with リラ・ダウンズ)
20. ザ・チーフタンズ・イン・オービット(with NASA宇宙飛行士 キャシー・コールマン)
[amazonjs asin=”B0746XQB8Z” locale=”JP” title=”グレイテスト・ヒストリー”]

text & interview by 大谷隆之