クラブ・ミュージックの正に“イノベーター”。

分の中では恐らく一生リスペクトの意を込めて”やってくれるなー”と思えるテクノレーベルが3つある。それは〈Warp Records〉と〈Ninja Tune〉、そして〈R&S Records〉。この3つに共通しているのは秀逸なレーベル・ロゴマークと、「売れる」ものではなく「いい」ものしか扱わないというクールなスタンス。発足以来30年経った今でもそれは変わらないという事と、紆余曲折ありながら、今もシーンの最前線に居続けているという驚愕の事実。

純潔テクノの誇り高き種馬。

80年代末、来るべき未来のデジタル時代を予兆するかのようにこれらのレーベルは立ち上がった。それはあまりにもクールな佇まいで、ロゴを見るとあの時代の空気感が蘇るほど。95年、デリック・メイとケンイシイが表紙となったLPサイズの「エレキング」創刊号の裏面には大量のFAXによる祝コメントが写っているのだが、その中に当時の〈R&S〉社長レナートがサインしたものもあった。まだメールすらままならない超ロースペックな旧グローバリゼーション時代に、テクノというキーワードひとつで世界が繋がっているんだ!と、それを見て夜中に一人で興奮した覚えがある。ネットワークとテクノロジーの急加速な進化で世界が繋がり始めていた時代、これから事が起こるというエネルギーの熱いうねりの様なものを感じながらも、その空気はなぜかとても冷たかった。その時代のBGMとして”テクノ”という未知なる音がまるで映画サントラの様にハマっていたからだろうか。


CJ Bolland–Camargue (1992)

ジャンル細分化前夜の狂騒期。

1983年、ベルギーから発信された〈R&S〉はその後に始動する〈Warp〉と比べると、よりクラブという現場の狂騒とリンクしていたように思う。例えばその1つがCJボランド。代表作である『The 4th Sign』(再発熱望)の音は、まだテクノもトランスもハウスもごっちゃごちゃだったあの時代を象徴するかのようで、恐らく今でも1つのジャンルに定めるのは難しい。ジョーイ・ベルトラムデイブ・エンジェルも同系のエナジーを有し、無双のテンションをはらんでいる。


Joey Beltram – Energy Flash (1990)

その隆盛は海を越えて日本にも!

そしてもう1つ、〈R&S〉と言えばケンイシイであり、『ジェリー・トーンズ』である。先んじてジャパニーズ・テクノを世界に轟かせた『インナーエレメンツ』から“間の美学”は昇華され、森本晃司の映像美と合わさったシングル『EXTRA』はテクノという新しい世界観を衝撃的に知らしめた。限定盤のCD-ROMでしか見れなかったその映像は同年に行われた野外レイヴ<Rainbow2000>のステージ・スクリーンで流され、その瞬間、苗場のあの場所にいた人達は確実にテクノのある頂点を目撃していた。野外レイヴの先駆けと言われた<Rainbow2000>はDJ FORCEがオープニングDJとしてビルドアップし、CJボランドが本場レイブの洗礼を浴びせ、明け方にはゴアの空間性にど肝を抜かされ、サブステージでは細野さんがアンビエントスペースを演出して、気づけばダレン・エマーソンとカール・ハイドが普通に芝生を飲み歩いてる、そんな途方もなく素晴らしい空間だった。

Ken Ishii – Extra (1995)

熱したフロアから先のアフターアワーズ。

エイフェックス・ツインの『Selected Ambient Works 85-92』もリリースした〈R&S〉は、レイブのもう一方のファクターであるアンビエントを〈APOLLO〉というサブ・レーベルで集束させ、狂想と遁世、そんな時代と空間を形成した重要なレーべルの一つであったことは間違いない。

Aphex Twin – Xtal (1992)

隆盛と挫折を乗り越えたその先へ。

2000年代に入ると、その急進性が故か、他レーベル同様に〈R&S〉も倒産という憂き目に合う。目間ぐるしく変わるシーンの中で、一旦時代を離脱していた〈R&S〉は、2006年、グローバル化の果てで、時代の空気感を読み取る、その持ち前のローテクな感性を持ってひっそりと息を吹き返し、デルフィックレディオスレイヴが出る頃には新生〈R&S〉として再び脚光を浴びることになる。


Delphic – Counterpoint (2009)

恐るべき神童、ジェイムス・ブレイクの発掘。

そしてその再生が本物だったということが、ジェイムス・ブレイクという一人の若き青年によって結実された。30周年となる今年、ロックの文脈からはフォンデルパーク、テクノの文脈からはスペース・ディメンション・コントローラーが確実にやってくれそうである。どちらにも言えるのは「売れる」音じゃなくて「いい」音だということ。


James Blake – CMYK (2010)

あの時代に放った〈R&S〉のエナジーは受け継がれ、今でも絶やすことなく発し続けている。

(text by Hiroyuki Inoue[HMV])

★ジェイムス・ブレイクに次ぐ大型新人フォンデルパークが名盤『シーベッド』を完成

★スペース・ディメンション・コントローラー、<SonarSound Tokyo 2013>に出演!

Release Information

[fourcol_one]Artist:Vondelpark
Title:Seabed
R&S Records / Beat Records
BRC-371
¥1,980(tax incl.)
[/fourcol_one]

[fourcol_one]Artist:Space Dimension Controller
Title:Welcome To Mikrosector – 50
R&S Records / Beat Records
BRRS1303
¥1,950(tax incl.)
[/fourcol_one]

[fourcol_one_last]Artist:Aphex Twin
Title:Selected Ambient Works 85-92
R&S Records / Beat Records
BRC237
¥2,200(tax incl.)
[/fourcol_one_last]

Event Information

SonarSound Tokyo2013
2013.04.06(土)21:00~
※オールナイト・イベントのため20歳未満入場不可
※入場時にIDチェック有り。写真つき身分証必須

2013.04.07(日)14:00~
※デイ・イベント(年齢制限なし)
※バーカウンターでID提示してもらう場合があり