音楽対決というと今の日本ではラップのフリースタイルバトルがイメージされるだろう。というか、他に音楽バトルは想像できるだろうか。今回、レポートするのはレッドブルが仕掛けたジャマイカの“サウンドクラッシュ”カルチャーにひねりを加えた音楽対決イベント<Red Bull SoundClash>。

第一回は2006年、オランダ・アイントホーフェンで実施されたレゲエ&スカコレクティヴBeefとヒップホップ&ファンクバンドC-mon & Kypski(シーモン&ケイプスキー)の対戦で、これがテンプレートになったという。2008年には世界規模で開催され、2009年にはThe Roots(ザ・ルーツ)とAntibalas(アンティバラス)、Erykah Badu(エリカ・バドゥ)とShiny Toy Guns(シャイニー・トイ・ガンズ)のバトルが実現。その後、ヨーロッパや中東、東欧にも拡大、これまで世界中で計85イベントが開催されてきた。

今回はヤバイTシャツ屋さん岡崎体育が幕張メッセ9〜11ホールを使って、初のツーマンライブを決行。場外にはイベントのメインビジュアルの巨大なフォトスポット、会場内にはサイドコンテンツとして、eスポーツ、ブレイキンやBMX、フリースタイルバスケットボールなどのストリートスポーツ、F1マシンの実物大レプリカを使ったタイヤ交換のタイムアタックなど、「競争、狂奏、共創。」をテーマにライブとリンクする、レッドブルワールドを体感できる施策も展開されていた。

ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_01
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool
ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_016
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool
ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_03
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool

肝心の勝敗のルールはコロナ禍のためオーディエンスの拍手の大きさという、プリミティヴな判定方法だ。今回、対決のステージに上がったのはヤバイTシャツ屋さんと岡崎体育という、地元関西の後輩先輩関係にあり、ヤバTの楽曲を岡崎がリミックスしたり、TV番組で共演したりする仲の2組。ファンも関係性を熟知しているだけに何をもって勝負に出るのか想像していたオーディエンスも多かっただろう。果たしてその内容とは。ユニークなラウンド制での勝負をレポートしよう。

【ROUND1 The Clash】

ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_06
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool

フジテレビアナウンサーの生田竜聖が開幕を告げ、まず「ROUND1」は25分というタイムリミットの中で、互いのオリジナル曲だけのライブでバトルがスタート。幕張メッセぶち抜きの巨大会場の両端にレッドブルカラーの赤と青になぞらえたステージが設営されているのだが、まずレッドステージに岡崎体育が登場した。重低音が響き渡る“Open”に始まり、フェスでのクイックレポートを揶揄した、その名も“Quick Report”をウェブサイトの記事を模した背景の映像とともにパフォーマンス。

さらにステージ上での唯一の友達である「てっくん」(パペット)とのやり取りがシニカルな“FRIENDS”、ラウドヘヴィロックとミスマッチな歌詞でおなじみの“感情のピクセル”、さらに強烈なダンスチューン“XXL”と、ハイカロリーな5曲を投下してブルーステージのヤバTを威圧した。

ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_014
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool
ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_08
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool

負けじと3ピースバンドの持ち味を最大限に放出するヤバTは“ハッピーウェディング前ソング”から飛ばしに飛ばし、“無線LANばり便利”、“ヤバみ”など、日常的なあるあるソングを連投。“かわE”を演奏し終えると、こやま(Gt,Vo)が「25分しかないんで」と言いつつ、岡崎のチャームポイントを挙げ、岡崎ファンへのアピールもしくは後輩としての配慮(?)も忘れない。

さらに“NO MONEY DANCE”と初期からの人気曲“あつまれ!パーティーピーポー”で、レッドステージ側のオーディエンスも巻き込み、残り1分20秒を確認し“Universal Serial Bus”を突っ込むという、量的勝負に賭けてきた。打ち込み対バンドサウンドと、両者の個性を出し切る好勝負といった印象を受けた。

ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_017
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool
ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_07
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool

【ROUND2 The Cover】

第2ラウンドは同じ楽曲をどう料理するか?対決。演奏するまでわからないというスタイルもバトル感が増す。岡崎先攻で、歌い出したのはAdoの“うっせぇわ”。意表を突く牧歌的なアレンジから一転、突如重低音の効いたダンストラックに変化し、アレンジ力とトラックメイクのセンスが光る。一方のヤバTはバンド版高速バージョンと呼べるカバーを披露。こやまの低音、しばたありぼぼ(Ba,Vo)の高音のハモリは彼らならでは。この対決が最もアーティストのオリジナリティが顕在化した印象だ。

さらにマスコット同士のダンスバトルという、一見グダグダになりそうなコーナーも。プロダンサーの本気のダンスが助っ人になりつつ、ヤバTのマスコットキャラである「タンクトップくん」が意外な善戦を見せ、この勝負においてのみ明らかにヤバT(というよりタンクトップくん)に軍配が上がった。

ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_010
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool

【ROUND3 The Takeover】

第3ラウンドはお互いのオリジナルのカバー対決。格闘技やラグビー中継でおなじみの矢野武のMCでさらに盛り上がる中、岡崎はアメフト選手並の肩パッドを装着し、ヤバTの“肩have a good day”をカバー。間奏の口笛がスカスカ過ぎて笑いを誘い、どこかせつない楽曲に思わせたあたりは岡崎カラーに染まっていた。

一方、ヤバTは岡崎の“MUSIC VIDEO”をバンドサウンドでカバー。途中の映像にはドラムのもりもとが岡崎のMVを模した演技が映し出されていた。当然だが、両者ともコピーではなくカバーとして成立していたのはさすが。

ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_09
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool
ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_011
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool

【ROUND4 The Wildcard】

ファイナルラウンドはとっておきのスペシャルゲストで相手を倒すというバトル。岡崎が「地元の先輩かつ(ヤバTの)事務所の先輩!」と紹介されて登場したのはなんと10-FEET。京都から“なにをやってもあかんわ”1曲のためにやってきたという。この登場の衝撃はこの段階でこの日一番の盛り上がりを見せた。ビジョンに映し出されるヤバTメンバーの驚いた顔。しばたありぼぼは倒れている。岡崎が「この3分のためにやってきてくれました!」と叫び、また歌詞の中に頻発する〈じゃっ!〉がエンディングでは不測のタイミングで発されることにも10-FEETは対応。なんと懐の広い先輩なのであろう

ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_012
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool

完全に虚を突かれた様子のヤバTも負けてはいない。こやまは「ちょっと裏切られた感じ」と言いつつ、「RedBullと言えばこの人達でしょう!」という紹介とともに登場したのはテツandトモ! 途中まではほとんど2人に任せてメンバーも「なんでだろう」を楽しんでいたように見えたのだが、途中からバンドサウンドにのせた「なんでだろう」を炸裂させてくれた。岡崎が「赤といえばこっちのステージだろう!」とテツを呼び寄せ、それに応じて2ステージ間をダッシュしたテツが実は今回のバトルで最も身体を張っていたかも知れない。

ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_05
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool

4ラウンドすべてを終えた結果はなんと引き分け〜仲直りという結果に。確かに両者のファンは重なるところも多く、ステージが変わるごとにパペットを付け替えて応援しているオーディエンスもいたほどなので、この結果もやむなし(?)か。

ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_015
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool

大団円は同企画に際して初めて共同制作されたコラボ楽曲“Beats Per Minute 220”を初披露。バンドサウンドとドープなトラックやシーケンスが融合した怒涛のナンバーで終演したのだった。晴れて仲直りした両者。岡崎は「次は赤と青じゃなく、赤と白のステージで対決したいですね」と、紅白出場に意欲を見せるという、ただでは終わらないオチもつけていた。

ライブレポート:<Red Bull SoundClash 2022>ヤバイTシャツ屋さんvs岡崎体育|10-FEETやテツandトモも登場!?ユニークすぎる音楽バトルの行方 livereport_220413_redbullsoundclash_013
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool

ダンスやラップ以外ではなかなかお目にかかれないバトル形式のライブだが、楽曲そのものやパフォーマンスで音楽性やキャラクターが一層際立つことは間違いない。今回はお互いの手の内を読める対戦だった分、より作戦も必要だったはず。日本の音楽シーンらしくローカライズされた<Red Bull SoundClash>の醍醐味が存分に味わえた3時間となった。

なお、このバトルに先駆けて撮影された企画動画や“Beats Per Minute 220”の合宿レコーディング風景やミュージックビデオも楽しんでほしい。

ヤバイTシャツ屋さん VS 岡崎体育 「Beats Per Minute 220」 Red Bull SoundClash 2022テーマソング

Road to Red Bull SoundClash 2022