<Red Bull Jukebox 2023>
2023.03.05(SUN)
千葉・幕張メッセ国際展示場 9-11番ホール

優里、「ライブの筋書き」をファンが選ぶ<Red Bull Jukebox 2023>で届けた“選択”することへの賛歌 interview230324-redbulljukebox2023-6

シンガーソングライター・優里をメインアクトに迎え、3月5日に千葉・幕張メッセ国際展示場 9-11番ホールにて開催された<Red Bull Jukebox 2023>。これまで、オーストリアやヨルダンでの開催歴があるイベントが、いよいよ日本にも初上陸した。

<Red Bull Jukebox>最大の特徴といえるのが、当日の披露曲やアレンジ、さらにはステージ演出などの大まかな方向性を、なんとファン投票によって決めるというもの。ライブタイトルにある“Jukebox(ジュークボックス)”とは、アメリカのカフェなどに設置されていた、コインを入れると好きな楽曲を選んで再生できるというレコードプレーヤーなのだが、本イベントでは、1曲や2曲ではなく、ライブ全体を通してファンの理想のセットリストが演奏される。優里自身も「みんなの想いが形となるスペシャルライブイベント」だと称していた。

とはいえ、序盤のMCでは「正直、僕もまだ今日がどんなライブになるのか全然想像がついていません」とも。たしかにマーケティング業界でも、例えば特定の商品に対して改良してほしいポイントをアンケート集計し、消費者の願いを反映したとしても、購入に結びつかないケースなんてさらさらある。もちろんある程度の準備はしているのだろうが、ライブでの客席からの反応なんて、なおさら予定調和にはならないものだ。

そんな期待と不安も、レッドブルにかかれば極上のエンタメになってしまう。これまでも、YouTubeの動画企画『Red Bull RASEN』『Red Bull 64 Bars』や、2022年6月に開催されたイベント<Red Bull Tokyo Unlocked>など、主にヒップホップシーンの発展に大きく貢献しているレッドブル。やるからには徹底的に。強靭なバックアップ力により、“面白いかも”というアイデアを、“そこまでやるの?”という規模感と具現性の高さで目に見える形にしてしまうのである。

そうした規模感の大きさは、当日の会場エントランスで早くから実感できた。優里が本企画のPV撮影に使用したジュークボックスと本人パネルを設置したフォトスポットをはじめ、ボンネットに乗って“映える”写真が撮影できるジープ、毎年夏に開催される“大型フェス”さながらの雰囲気である。

さらには、ライブ参加者が飛び込みで歌や演奏、パフォーマンスを披露できる小規模なステージも。優里自身もまたストリートシンガーだったわけだが、備え付けのアコースティックギターとともに、彼のファン同士が音楽で繋がる様子を見て、ここからまた次なるポップスターが生まれる予感さえ感じた。

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また、上手に「このライブの筋書きは、君次第。」、下手には「#RedBullJukebox」と、本企画のスローガンといえるメッセージが、ライブを通してネオンで灯されていたことも印象深い。そのほか、ジュークボックスを模したステージセットから、この後に鳴り響く会場全体からのクラップの躍動感まで、いい意味で“日本っぽさ”を忘れさせてくれるスケール感だった。ここから振り返るライブ内容にも通ずるところだが、単純に一回きりのライブではなく、それ以上にインパクトを残し、“面白いこと”をムーブメントになるくらいに届けようとする気概を受け取った。

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ライブが始まると、4曲目の「COLLABORATION PICK」では早くもゲストアーティストが。登場したのは、ヒップホップ界のクイーンと名高いAwich。ここでの披露曲“花鳥風月”は、オンラインでの事前投票により、ヒップホップとレゲエのどちらのアレンジを聴きたいかを決められていたのだが、その結果としていま、飛ぶ鳥落とす勢いのAwichが登場するとは。

しかも彼女は、数多くのラッパーのなかでも非凡な “メロディを歌いこなせる”才能の持ち主。シンガーソングライターの優里に歌でも対応できるし、ヒップホップ的にアドリブを当てはめて盛り上げることも。そんな彼女に感謝を示すように、歌い終わりにシャウトを響かせた優里。なんとも豪華すぎるAwichの登場だったが、この時点で客席が“ヤバいものを見せられた”とざわざわしていたあたり、早くもこの試みの成功を確信させられた。

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そこから、こちらも事前のオンライン投票「GENRE PICK」により、パンクロックバージョンでのアレンジがなされた代表曲“ドライフラワー”に。サビで聴かせるハイトーンは健在ながらも、Bメロで原曲よりも歌をもたれさせたり、こぶしを効かせたり。また、Bメロからサビへのブリッジで鳴らされるドラムの気持ちよさなど、パンクロックならではのサウンドは、この一夜しか味わえないことが惜しすぎるくらいの完成度だった。優里の持ち味である表現力あふれた歌声が、原曲よりもストレートにぶつかってくることで、ありきたりな言い方だがとてつもなく“刺さる”。

前述のオンライン投票に対して、ライブ当日やその場で披露曲が決まるケースも。「LIVE PICK」のコーナーでは、客席からの拍手の大きさによって、“レオ”、“シャッター”のどちらを歌うかを決めたのだが、もちろんどちらも優里の人気曲。ここでの演目はサプライズとなっていただけに、ファンも大いに沸いたのだが、その結果……。

なんと、どちらも同じ拍手の大きさに。当人こそ「ちょうど同じ大きさになったり」と予言していたことに「余計な一言言ったかな」と軽く反省していたが、最終的には両楽曲とも歌唱。後から聞くに、これは本当に予定をしていなかったらしい。とはいえ、優里の音楽を象徴する“シャッター”の後悔と、“レオ”の泣きのニュアンスのコントラストが示されつつも、その両方が入り混じり、溶け合って心にすっと届いてくるような不思議な感覚を覚えた。2曲続けて披露されたからこそ味わえた感慨深さである。

そのほか、渋谷龍太(SUPER BEAVER)とのタッグを見せつけた「ARTIST PICK」のほか、「このライブの筋書きは、君次第。」というテーマ性への徹底的なこだわりを見せつけられたのが「FAN PICK」。この日の開場時間まで話は遡るのだが、実はファンは入場時、ライブ中に“インフィニティ”、“飛行船”のどちらが演奏されてほしいかを選び、その楽曲の方のゲートを通過してきたのである。同通過者数が多い方の楽曲が演奏されるということで、選ばれたのは優里が人生初トロッコで、ファンの近くを巡った“インフィニティ”。もう一度だけ記すのだが、このイベントの“選択”という趣旨にとことん一貫している。

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ライブ終盤には、こんなMCも。「今日まで僕の前にはいろんな選択肢がありました。ロックバンドやってみたり、介護士やってみたり。諦めきれずにまた音楽やったり」「今日みんなに伝えたいのは、ひとりひとり、自分の人生を選択することを怖がらないでほしい」。

また、今回のライブは優里史上、最大規模のものだった。夢にまで見た地元・幕張メッセでのステージだったからこそ「海浜幕張の駅に、いつも学校に通っていたあの駅に、僕のポスターが貼られるとは思っていなかった!」「きっと間違った選択も僕はいっぱいしたし、でもね、歌だけ真剣に頑張っていたらここに辿り着けた。みなさんのおかげです」と、並々ならぬ想いを抱いていたのだ。自分の人生を選択する。その繰り返しをしていれば、いつかいいことが起こるかもしれない。例えばアンコールで、「FAN PICK」にて選ばれなかったもうひとつの選択肢である“飛行船”が、“せっかくならば”と披露されたことのように。

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改めて、今回のライブはテクノロジー……もっといえば、オンラインでの双方向的なコミュニケーションが上手く機能したものだったと思う。その試金石として、TikTokやYouTubeなど、SNSによって見つけられ、そのパワーを上手く活かしてきた優里がメインアクトに迎えられたのは、少し断定めいた言い方になるが当然の流れだったのかもしれない。

とはいえ当日はきっと、ステージングに臨機応変さを求められるあたり、大変な部分もあったことだろう。それでも、アーティストとファン双方の思考や楽しみ方の可能性を拡げる新たなライブの形として、またいつか見たいと思える充実ぶりだった。次回<Jukebox>への期待も高まるばかりだ。なぜなら、優里がここまでの完成度を誇るライブを成し遂げてしまったわけなのだから。

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Text:Kota Ichijo
Photo:©︎Keisuke Kato / Red Bull Content Pool
©︎So Hasegawa / Red Bull Content Pool
©︎Suguru Saito / Red Bull Content Pool

INFORMATION

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Red Bull Jukebox 2023

2023.03.05(日)
幕張メッセ国際展示場9-11番ホール
OPEN 15:00/START 17:00

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