レッドブルによるフリースタイル・ラップバトルの大会『Red Bull Roku Maru』が2025年8月22日、東京・渋谷のSpotify O-EASTで行われた。同イベントは、60秒を1バースとし、交互に2バースずつを戦う1対1のフリースタイル形式で行われており、即興性はもちろん、ラップスキル、会場を沸かせるステージング、そして音楽性までが求められる。なお、今大会の優勝者には、『KING OF KINGS 2025 GRAND CHAMPIONSHIP FINAL』への出場権も。
第1回王者・MOL53、第2回王者・輪入道に続き、新たな王者としてSitissy luvitが栄冠を手にした本大会。当日のイベントの様子と、白熱した決勝戦の模様をお届けする。
Red Bull Roku Maru 2025
2025.8.22(金)
at 渋谷 Spotify O-EAST

今大会には、Sitissy luvit、MOL53(2024年王者)、DOTAMA、Donatello、クボタカイ、梵頭、ミメイ、MAKA(2024年大会準優勝)、SATORU、KOPERU、歩歩、天涯孤独の民、ID、SIMON JAP、9forに加えて、予選を通過したMAIllIの計16人が出場。
審査員は漢 a.k.a GAMI、SEEDA、KEN THE 390の3人、ホストMCは怨念JAPとACE、バトルDJはDJ YANATAKE、DJ TIGUという、日本のラップバトルシーンを代表する面々が大会を盛り上げた。また、今大会ではヒップホップをルーツとする東京発のストリートウェアブランド「APPLEBUM」による、「KING OF KINGS」「Red Bull Roku Maru」のトリプルコラボTシャツも販売。
さらにバトルの前には、審査員を務めた漢 a.k.a GAMI、SEEDA、KEN THE 390のレジェンド3人に、バックDJとしてDJ YANATAKEが支える形でライブパフォーマンスも披露された。
大会は初戦から波乱の展開。魂がぶつかり合うバトルに
DOTAMAとMAIllIの一戦は、MAIllIが「HIPHOPを探求して金を稼ぐ俺と 金稼ぐためにHIPHOPを使うお前との違い/バビロンと手を組まないし魂も売らない」とストリートを前面に出すスタイルで会場を沸かせると、タイトなライミングとフローを織り交ぜたラップでDOTAMAを破る大番狂わせを見せた。

2024年の優勝者・MOL53は、YouTubeなどで活動を広げ注目を集める天涯孤独の民と対戦。「飛んで火に入るWACK MC」「目の前になんかおった気がするけど……」と余裕のライムを重ね、相手を寄せつけず勝利を収めた。
梵頭は2024年「KING OF KINGS」チャンピオンの9forと激突。審査員のKEN THE 390の肩を抱きながら煽るなど、ステージをフルに使った文字通り“大暴れ”のパフォーマンスで会場を沸騰させ、勝利を手にした。スキルに加え、踏んできた場数やステージでの佇まいが問われるこの大会の方向性を示す一戦となった。

ミメイは、梅田サイファーのKOPERUと対戦。60秒を最大限に使った十八番の「語呂合わせ」を炸裂させる。背後のカウントに合わせ、「59秒」で「ゴク(59)ゴク(59)レッドブルを飲み干し」、「56秒」で「語呂(56)合わせなら俺の専売特許」、「55秒」で「GO(50)サイン出ているし」、「50秒」で「REP五重(50)塔」と巧者ぶりを見せつけた。
試合は延長戦へともつれ込む。延長ではKOPERUが「俺の技量に合わせんでいいよ / お前らしくやるのがホンマのラップやと思うねんな」と懐の深さを見せ、勝利を奪取。00年代からバトルを戦い抜き、メジャーシーンでも活躍してきた引き出しの多さを証明した。
2回戦ではIDが観客を圧倒。1回戦でSATORUを下したIDは、KOPERUとの試合で独自のビートアプローチを披露。ゆったりしたビートに低音を差し込んだメロディアスなフローで空気を掌握すると、「つまんねぇことはなしでお前と遊びてぇと思っている」「躍らなきゃもったいない」とリリックを展開する。その瞬間、“即興の作品”を生み出し、勝利を手にし、大会屈指のハイライトを刻んだ。
準決勝第1試合は、ベテランのSIMON JAPと近年バトルで頭角を現すSitissy luvitの対戦。Sitissy luvitは1回戦でMAKA、2回戦でMOL53と、今大会でもっともタフな相手を立て続けに撃破して勝ち上がってきた。一方のSIMON JAPも、ベテランらしい佇まいとアグレッシブなライミングで、1回戦は歩歩、2回戦はMAIllIから勝利をもぎ取っている。
先攻を自ら選んだSIMON JAPは「相手はSitissy luvit / ぶっ殺してやるこのイキリガキンチョ」とらしさ全開のライムを放ち、「先輩に敬意を払って / 俺ら45歳のこの世代が全部巻き込んでナンボ」とキャリアの差を示し、自らが築いてきたスタイルを出し切った。
対するSitissy luvitは「ミスターSIMON JAP、ぶっちゃけ親の世代だ 胸借りるつもりでバトル臨むぞ」とリスペクトを示しつつ、「俺は欲しい 地位・富・名誉」と若手らしいハングリーさを叩きつける。60秒間、タイトにライムを畳みかけたSitissy luvitが押し切り、決勝進出を決めた。

準決勝第2試合は、シンガー・ソングライターとしても活動するクボタカイと、変幻自在なフローを持つIDの対戦。クボタカイはこの日まだ見せていなかった早口のフローでバトルを展開。「俺もあんたみたいになりたいし、でもなれないし、このMIC」「自分自身を誇ること それが重要だと思っているからこそ」と熱を込めたリリックで攻め立てた。
迎え撃つIDも自在なフローを駆使し、「クボタカイ全部ぶつけてくれるならそれもありがたい」と応戦。メロディアスに歌い上げる場面も織り交ぜ、ラッパーとしての幅広さを見せた。
2バース目に入ると、クボタカイがさらにギアを上げる。「先代のMCたちが残してくれたモノを俺が塗り替える」「ゆっくり乗っていこうかな 心拍数上がってる。この後決勝があるから」とシーンへのリスペクトと決勝への意気込みをストレートに表現。会場の空気を一気に掌握し、決勝進出を決めた。

決勝戦「Sitissy luvitの優勝が投げかけるー本物とはなにか」
決勝はSitissy luvitとクボタカイ。先攻のSitissy luvitは気合十分に声を張り上げ、「バトルに出ているラッパーの音源がだせぇなんて大人たちには言わせねぇぞ」とプライドを示した。さらに「新幹線で隣り合わせだった偶然」と、クボタカイとの思い出を語りかける場面もあった。
クボタカイは「たしかに一緒だったな 隣の新幹線」「地方の一回戦からここの決勝戦」「今のMCバトルのシーンに出てもメリットなんか正直無い」「でもさ、俺らが見てきたMCバトルこんなもんじゃない」「自分で変えなきゃ意味ないと思ったんだよ」「俺もお前も正直同じ」と、自らのキャリアを重ね合わせながらSitissy luvitに応答する。
2バース目でも互いにリスペクトを送り合い、プライドをかけた攻防は延長戦へ。連戦で息切れを見せたクボタカイに対し、Sitissy luvitは畳みかける。自身がリスクを背負ってレーベルを立ち上げ、家族や恋人の心配を押し切って決断したことを明かし、「涙なんて枯れた あとはやるだけだ」と完璧な着地を見せ、優勝を勝ち取った。
Sitissy luvitの最後のバースは「すべてを飲み込むくじらのようだったあなたが」「俺はHIPHOPに包み込まれた」。地元・宮城のクルー「GAGLE」の代表曲「屍を越えて」からの引用であり、その一節は彼のスタンスを鮮やかに示していた。

優勝後、彼は「昔から出たかった大会。なかなかチャンスに恵まれなかったが、呼んでもらって優勝できた」と振り返る。「積み重ねてきたステージングや発声の方法が、60秒のフォーマットで一番出しやすかった。久々のバトルで勝つのは難しいが、踏んできた場数で競り勝てた」とも語った。さらに「GAGLEのHUNGERさんやレーベルの支えがあり、楽曲やライブを重ねることで発声や表現の幅が広がった1年だった。やってきたことへの自負が行動と発言に結びつき、地元やシーンを語れるようになったことが勝因」と続けた。
大会を通して彼が示したのは「物語」だ。MOL53との2回戦では、飾らないむき出しの野望を60秒間放ち続けた。リスナーが耳を離さなかったのは、彼が長い時間をかけて積み重ねた経験と努力の証だった。
すべてのラッパーが60秒にすべてを懸けた今大会。Sitissy luvitが口にした「場数」や「積み重ね」という言葉の通り、この舞台はバトルの勝敗を超えて「本物」を決める場となった。SNSが主戦場となった時代に、名声を得る手段はステージだけではない。だが彼の優勝は問いかける。本物はどこにあるのか。その答えは、すでに彼のMICから放たれている。

Text:Yasuyuki Kowa/古和康行
Edit:Qetic編集部
INFORMATION
Red Bull Roku Maru 2025
2025年8月22日(金)OPEN 17:00 / START 18:00 / CLOSE 21:00
Spotify O-EAST(渋谷)
バトル出場者:
Sitissy luvit/MOL53/DOTAMA/Donatello/クボタカイ/梵頭/ミメイ/MAKA
/SATORU/KOPERU/歩歩/天涯孤独の民/ID/SIMON JAP/9for/MAIllI(予選通過者)
審査員:
漢 a.k.a GAMI/SEEDA/KEN THE 390
ホストMC:
怨念JAP/ACE
バトルDJ:
DJ YANATAKE/DJ TIGU
詳細はこちら