大なラジカセが描かれたバックドロップを背中に、最終日のホワイトステージで圧巻のスペクタクル・ショーを披露した<フジロック・フェスティバル>のライヴから早5年、ロイクソップが我々のもとに帰ってきた。北欧を代表するダンス/エレクトロ・デュオとして日本でも強固なファン・ベースを持つ彼らだが、この度4年ぶりにリリースされる新作『ジ・インエヴィタブル・エンド』の声明文にて「最後のアルバムになる」とアナウンス。様々な憶測を呼んだが、決して解散や活動休止という意味ではなく、むしろ逆。盟友ロビンとのコラボレーションやジョイント・ライヴを経て、ますます表舞台で暴れまくってやろう––––という気概さえ感じるのだから驚きだ。その輝かしい歴史を、いま一度振り返ってみよう。

Röyksopp -“Running To The Sea”(『ジ・インエヴィタブル・エンド』収録曲)

■ ノルウェーのローカル・シーンから、世界へと羽ばたいた2人

ロイクソップは、ノルウェー北部の都市トロムソ出身のスヴェイン・ベルゲと、トルビョルン・ブラントンからなる2人組。12歳から13歳の頃、共通の友人を介して知り合った彼らはSF映画や電子音楽にのめり込むようになり、やがてドラムマシンを購入してトラック制作をスタート。トロムソは80年代初期よりバイオスフィア、ベル・カントなど数多くのエレクトロ・アーティストを輩出した街としても知られるが、スヴェインとトルビョンもまた、「Tromsø techno scene(トロムソ・テクノ・シーン)」と呼ばれる地元のシーンに参加した。

一度は袂を分かつことになるスヴェインとトルビョルンだったが、数年後にノルウェー第2の都市ベルゲンで再会。90年代後期から00年代前半にかけて、ベルゲンからはポップスやロック、電子音楽、ブラック・メタルといった多種多様なジャンルよりアーティスト/バンドが登場しては世界的な成功を収めているが、これら一連の現象は「Bergen Wave(ベルゲン・ウェーヴ)」と名付けられており、そこにはスヴェインとトルビョルンの姿もあった。彼らは友人と組んだエレクトロ・バンドのAedena Cycle(アエデナ・サイクル)を経て、98年にロイクソップを結成する。なお、ベルゲン・ウェーヴを機に〈Tellé Records〉のようなインディペンデント・レーベルも飛躍を遂げ、後にロイクソップとコラボレーションを実現するキングス・オブ・コンビニエンスやアニーらも続々とデビュー。いかに当時のノルウェー・ミュージック・シーンが才能の宝庫だったのかが窺えるというものだ。

Aedena Cycle -“Ciguri”

数々の音楽的実験を試みた末に、ロイクソップはデビュー・アルバム『メロディーA.M.』(01年)を英ロンドンの〈Wall of Sound〉より発表する。エレクトロニカからトリップホップ、アンビエントまで飲み込んだ本作は「氷点下のダンス・ミュージック」というキャッチコピーで紹介され、キングス・オブ・コンビニエンスのアーランド・オイエをヴォーカルに招いた“Poor Leno”や、ドラム・ビートと電子音のループが心地よい“Eple”といったクラブ・ヒット曲を多数生み出し、全世界で100万枚超えのセールスを記録。アルバムはUKとノルウェーでプラチナ認定され、“Poor Leno”のビデオに登場するぬいぐるみキャラ「レノ君」の人気も相まって、03年の<フジロック>では初来日にも関わらず多くのオーディエンスが詰めかけた。ちなみに、「ロイクソップ」とはノルウェー語で、同地に自生する「煙キノコ」を意味するのだとか。

Röyksopp – “Poor Leno”

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