11月22日(金)〜12月7日(土)に渡り、表参道SO-CAL LINK GALLERYにてポルシェによるブランドエキシビジョン<SCOPES Tokyo>が開催中。本イベントは「Changing Perspectives -時代を牽引するパイオニアとポルシェの価値観が出会う場所-」をコンセプトに、アート、ミュージック、ファッションを中心とした多数のコンテンツを展開するブランドエキシビジョンとなっています。

本エキシビジョンでは、ポルシェのフル電動スポーツカー「Taycan(タイカン)」を真っ赤なムービングレーザーで照射し、コンセプトである「Soul, electrified. それは、電動化された魂。」をアートフォームへと昇華させた藤元翔平氏によるインスタレーション「Soul, electrified. – intangible #form – 」が展示されています。そしてPatrick Topping、HVOBといった世界の音楽シーンで活躍するDJ・アーティストが日本の伝統芸能や新しい才能とコラボレートする渋谷WOMBでのパーティーなどカルチャーと音楽が融合したイベントが満載!

SCOPES Tokyoの詳細はこちら

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Soul, electrified. – intangible #form –
Created by Shohei Fujimoto
Sound: Ray Kunimoto
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中でも注目すべきは、先日渋谷PARCOに<SUPER DOMMUNE>をオープンさせたばかりの宇川直宏氏や先述の藤元氏、YonYonらミレニアル世代を代表するアーティストたちによるトークセッション。24日(日)には、水曜日のカンパネラ・コムアイと宇川氏による熱いトークが繰り広げられ、その模様はDOMMUNEでも配信されました。

今回は各所で反響を呼んでいるコムアイと宇川氏による本トークセッションの一部を独占公開! このトークセッションを生でご覧になれなかった方も、あの濃密な時間を再び体感したいという方もぜひチェックしてみてください! きっとあの場で起きた -Changing Perspectives- を感じることができるはず。

そして28日(木)には、タイムアウト東京の代表・伏谷博之氏、弁護士の齋藤貴弘氏、そしてDJ/トラックメーカーとして多岐にわたる活躍を見せるSeihoの3人によるトークセッションも開催! こちらもDOMMUNEでライブ配信される予定です。今回ここで公開されたコムアイ×宇川氏のトークセッションをチェックして、気になったという方はぜひ会場へ! 会場に行けない人もDOMMUNEでの配信をお見逃しなく!

TALK SESSION
宇川 直宏(DOMMUNE)
×
コムアイ(水曜日のカンパネラ、YAKUSHIMA TREASURE)

司会:塚田 有那(bound bow)

塚田 有那(以下、塚田) 今日のテーマは『地球から生まれる音楽と新しい表現の時代』というすごく壮大なタイトルがついていますが、早速お二人に話を聞いていきたいと思います。それでは、宇川さんよろしくお願いします!

宇川直宏(以下、宇川) 今宵で2日連続なんですけど、<SCOPES Tokyo>とDOMMUNEで画期的なコラボレーションをやっておりまして、現在、まさに僕の登壇しているこの対談自体がいま配信されてる状況なんですよね。
DOMMUNEは、こういった形で脈打つ生の現場を日々番組としてアップデートさせるプロジェクトだということもあって、この躍動感ある<SCOPES Tokyo>のコンセプトと、『Taycan』のコンセプトである”電動化された魂”とも、重なる部分が多分にありまして、5日間連続10番組のストリーミングをコラボしていますので、みなさん是非、お楽しみください。

コムアイ こんばんは、コムアイです。YAKUSHIMA TREASUREというプロジェクトをしています。水曜日のカンパネラというユニットでも歌を歌っています。なるべく歌ったり踊ったり、インスタレーションもやっていきたいし、形にとらわれないパフォーミングアートをやっていきたいと思っています。よろしくお願いします。

塚田 よろしくお願いいたします。今日のテーマが『地球から生まれる音楽』というすごく壮大なテーマとなっております。1時間ほど、この3人で話していきたいなと思うんですが、早速コムアイさんからも紹介がありましたけれども、このDOMMUNEをご覧の皆さまも会場にいる皆さまも、コムアイさんといえば、水曜日のカンパネラというアーティストとしてすごく知られているかと思います。このYAKUSHIMA TREASUREというプロジェクトをいつから始められたんでしたっけ?

コムアイ ライブは今年に入ってからで、音源を作り始めたのが2年前くらいですかね。

塚田 リスナーの皆さまが認識し始めたのが今年からだと思うんですけれども、今日はそのYAKUSHIMA TREASUREとはなんなのか、コムアイさんのどういった思いから生まれているのかという話を、宇川さんと一緒に紐解いていければと思います。YAKUSHIMA TREASUREと宇川さんのつながりで言うと今年の8月に<瀬戸内国際芸術祭>という国際的なアートフェスティバルの中で、宇川さんのビルを一棟使った現代アート作品であるサテライトスタジオのDOMMUNE SETOUCHIが開設され、そこにコムアイさんも出演されて、連続……何日間でしたっけ?

宇川 <瀬戸内国際芸術祭>の夏会期まるまる一ヶ月半やってました。皆さんご存知でしょうが、<瀬戸内国際芸術祭>は香川県中心に、瀬戸内の島々をめぐるアートフェスティバルで、高松港が重要なアクセスポイントになっているのですが、僕高松出身なのでそこにサテライトスタジオを開設して、今やナショナルジオグラフィックトラベラーの行くべき場所、世界1位となったSETOUCHIのこのスタジオに、本当に世界中からアーティストに来ていただきご出演いただいて約50番組を連日配信していたのです。そこでコムアイちゃん達YAKUSHIMA TREASUREにも出てもらったんですよ。瀬戸内で屋久島というエキゾチカ重ね(笑)。それで一ヶ月半くらい、ゲストが来るたびに毎日うどん食べて7キロ太りました。

コムアイ やっぱり瀬戸内に行ったら「うどん食べたいです、宇川さん」ってなりますね(笑)。

宇川 放送終わりの深夜2時、みんなうどん食べに行こうよ、って。一緒に行ったよね。

コムアイ 行きましたね(笑)。

塚田 商店街の中でもYAKUSHIMA TREASURE のライブもされたってことなんですけども。宇川さん早速なんですが、YAKUSHIMA TREASUREのいろんなライブ映像も用意されているんですが、YouTubeにティザームービーが上がっているとのことなので、見せていただけますか。

Official Trailer | Re:SET feat. Wednesday Campanella’s KOM_I

塚田 ありがとうございます。こちらYouTubeプレミアムでも、本編映像でもっと長いフルバージョンが観れるとのことです。

コムアイ 『Re:SET』というシリーズで、ドキュメンタリーのシリーズなんです。屋久島に実際行ってみて、その環境と取っ組み合ってみるという。どこかに行ってインスピレーションを受けるというのは皆さん体験したことがあると思うんですけど。何を見て何を感じてどういう視点でそれを作品にしたいと思うのか、みたいなところをロードムービーのように結構丁寧に撮ってもらいました。で、完成形がMVと曲というアウトプットとして仕上がっています。

塚田 なるほど、すごく壮大な映像とそこにいるコムアイさんの存在を見て、多分皆さんも聞いてみたいだろうなと思うところを、今日は私から質問しますね。「なぜ屋久島に向かったのか」というところから、お聞きしたいんですが。

コムアイ それは結構適当で。なんかどこに行こうか、って思った時に、いつか行ってみたいリストで、みんな共通したのが屋久島だったので。一度は行ってみたいしここに行って何もないことはないだろうって感じで(笑)。特に、自分とのつながりを意識していたっていうわけではなかったですね。その時は、ポンと。

塚田 今みんなとおっしゃいましたが、YAKUSHIMA TREASUREは音楽家のオオルタイチさんとのプロジェクトだと思います。その「YAKUSHIMA」という名前がつく前から、何かをオオルタイチさん、ないしはチームとして製作しようというアイデアは最初から構想としてあったんですか?

コムアイ そうですね。タイチさんとプロジェクトをやりたいなというのは4、5年くらい前から思っていたことなんです。屋久島に行けるかもしれない、屋久島と取っ組み合って何か紡ぐ、ってなった時に、「あ、タイチさんしかいないな」という気持ちがさらに強くなったのでお願いしました。

塚田 宇川さんもこの前の打ち合わせでも実は話していたことだと思うんですけど、水カンのコムアイがYAKUSHIMA TREASUREのコムアイになるって、やっぱりポップアイコンとして様々な活動をされてきた中で、1つすごく大きな転換になったのだなということをこちら側はすごくひしひしと感じています。宇川さんはどう見られてますか?

宇川 僕も塚田さんと同じく、コムアイちゃんにとっての大きなパラダイムシフトになるという印象を抱いていましたね。今回<瀬戸内国際芸術祭>にお呼びした理由もそこにあるのですが、やはりまずは、コムアイちゃんがこれまで手探りで獲得してきたステージというものが、僕ら側のサブカルチャーの文脈と繋がっていることに大変な可能性を感じていました。そんなオルタナティブの側からの意思をコムアイちゃんがきちんと受け継いでくれていて、地上波に乗せてくれたり、僕らの文化を世に拡散できるような、そういった輝かしいアイコンとして存在してるなと思っていたわけですよ。

その時代その時代にサブカルチャーの側からメインストリームに躍り出たオルタナティヴアイコンは存在しています。60年代ならば緑魔子さんだったり、70年代ならば秋吉久美子さんだったり、80年代だったら戸川純さんとか、90年代なら篠原ともえちゃんだったり……それぞれの時代に、マスに埋没しない周縁を媒介するイコンが存在していたわけですが、コムアイちゃんは絶対的にその系譜に位置していると思ってたんですよね。本人自身は、たまたま誘われた水曜日のカンパネラっていうプロジェクトで手探りで表現を初めて。そのプロジェクトの歌い手という役割をこれまで担っていたのだと思いますが、そこから今回のYAKUSHIMA TREASUREは、音楽マーケットにのせるためのプロジェクト表現ではなく、もっと極私的な感覚や思考を打ち出した、まさに今回の英文タイトルでもある「FINE MUSIC」に取り組んでいるなという印象を受けました。言い換えればマスに向けたデザインと、普遍的な価値をもつファインアートの違いですね。実は僕はどちらも好きなのですよ。

といいつつも、ご本人の内面には、自らに内在している創造の力を吐き出すような表現の方が、よりバランス的に欲求として強くなってきたんだなという印象があって……。YAKUSHIMA TREASUREを聞いた時にすぐ、僕たちのメディアこそ、この新たなコムアイちゃんの表現を世に伝え広めるべきだと思ったんですよ。
だからなおさらコムアイちゃんを、<瀬戸内国際芸術祭>という国際展のプロジェクトの一環としてお誘いしたいなと思いました。なぜなら純粋に現代アート的な表現だったから。ゆえに「FINE MUSIC」なのです。

コムアイ ありがとうございます。DOMMUNEにずっと遊びに行ってて、楽しんでる自分と、次の日、『Mステ』に出て歌ってる自分との乖離みたいなものがあった(笑)。楽しんでいたし、根はなるべく深く張って、そこから吸い上げたものを来週出すみたいなことに楽しみを感じてたんですけど。だんだんそれに周りのチームを引っ張って、次はこれやりたい、次はこれやりたいってやってきた時に、水曜日のカンパネラに無理をさせないでいいんじゃないかと思ったというか。

宇川 「無理をさせないでいい」って面白いね。乙女心か老婆心か(笑)。

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コムアイ そこまで無理をさせるのはちょっともったいないんじゃないかなっていう気もしてたぐらい、自分のやりたいことの振れ幅がどんどん大きくなりすぎてきて。だから、よく個人的にみてくださってるお母さんみたいな人には、「そういうことやりたくなるよね」って言われます。これは自然な流れだと思われます。ブルース・ビッグフォードっていうアニメーターのおじいさんがいて。その時も宇川さんに誘ってもらいました。

宇川 そう、ブルース・ビッグフォードね。フランク・ザッパのクレイメイション(粘土アニメ)をシアトルの自宅に40年間ずっと篭って撮ってた奇人なのですよ。その人の初来日を僕はオーガナイズしていたので、その時も誘いましたね。

コムアイ クレイアニメのあの感じって、さっき見ていただいた映像に近いかもしれないですけど。こことここがはっきり切り離されてるっていう概念がない世界の作品なので。自分と他者との境界とか、人間と自然っていうものの境界。ブルース・ビッグフォードのアニメって凄くて。顔だと思ったら、今度は鼻が別の人間になったりとか。

宇川 そうそう、メタモルフォーゼしていく。

コムアイ 髪の毛一本一本がメタモルフォーゼして木になったりとか。ぐしゃぐしゃですごく楽しいんですけど。こういう目に見えて人と物の境界がはっきり見えてるっていう世界に飽きるのはみんな知ってると思うし、これがすべてではないだろうなという感覚は全員が持ってるような気がしてるので。それをスピリチュアルだって呼ぶのもいいし、面白いアートにする人もいるし、人によって表現は様々ですけどね。

宇川 そうだよね。僕が一番印象深かったのは、<瀬戸内国際芸術祭>の一環としてWeBaseというホテルとコラボして、丸亀町商店街でYAKUSHIMAにパフォーマンスしてもらったんですよ。人口減少やショッピングモールの隆盛とか、Amazon他、巨大なインターネットショップの台頭などによってリアル店舗の多くは、商店街の衰退を肌で感じながらも対策を打てず、シャッター通りと化していく風景に身を沈めている現象はどの地方にも当てはまる出来事ですよね。つまり都市機能は低下しているわけですが、なんと丸亀町商店はむしろ栄えているんですよ。

塚田 なるほど。

宇川 その商店街でコムアイちゃんにやってほしかったんですよ。なんで栄えてるかって言ったら、消費者ではなくて生活者を呼び戻そうという目から鱗の発想だったのです。つまり、人々が商店街に住みはじめたのです。どういうことかというと、商店街の一階はもちろん様々なショップなのですが、その上層階が全部マンションになってる。しかも商店街はバリアフリー。リアル店舗と共存しながら医療モールも完備され、子育てできるように幼稚園、ピアノ教室なんかも商店街の中にあるのですよ。つまり家族で商店街の上層マンションで生活し、朝、子供を商店街に預け、昼、商店街で働いて、夕方、商店街のマンションに戻ってくるみたいな。揺り籠から墓場までの全て、商店街の中でエコシステムとして完結してるんですよ。すごいでしょ。
これってもう単なる商店街ではなく、極めて今世紀的な生活施設であって、SNSの時代に、新しいリアルなソーシャルのあり方だなと思っていて。つまりリアソー(笑)。例えば80年代だったら、ドラマ『男女7人夏物語』とかに見られるように、お洒落な住居は埋め立て地で、港が見えるタワーマンションとか、そういうトレンディな世界ってあったでしょ。しかし、今、最もトレンディな住居空間は、ここ丸亀町商店街に住むということだと捉えているのですよ。ここに1000人住んでいるようです。

コムアイ ね。すごくいいマンションばっかり入ってて。

宇川 そしてミラノのガレリアのような巨大なドーム広場が商店街の交差点にある。そこでYAKUSHIMA TREASUREをやって欲しかったの。住んでる人からすれば、「おらが庭にコムアイが来た!」ってことになるでしょ。本当にみんな住居空間から降りて集まってきて。実際水曜日のカンパネラのチケットが取れなかった人とか、まさに自分が住んでる商店街の庭にコムアイが来たから、部屋着とサンダルで降りてきている感覚だった(笑)。

塚田 へえ! その時の映像も今日は見れますよね。

宇川 あるんですあるんです。早速見ます? ちょっと話しててください。

コムアイ あれはすごかった。とにかく本当に商店街が元気で。商店街は横にも縦にも伸びてて、夜遅くまで結構やってるんですよ。だからみんなで2軒目3軒目みたいなことも。商店街の中で行きたいところがいっぱいあって。

宇川 今映してますけどね。

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丸亀町商店街で行われたYAKUSHIMA TREASUREのライブ映像を振り返りながら

塚田 今年の夏ですよね。

宇川 そう、今年の夏。いい夏の思い出だったよね、本当に。

コムアイ めちゃくちゃ暑かったです。

塚田 この時は「自然x商店街」というテーマでしたけど、屋久島の中にいる感覚と高松の商店街の中にいる感覚がすごく近いものがあったってお話しされたって伺ったんですけど。

コムアイ あそこって風がすごく抜けるんですよ。商店街が十字になってるから。景色は人里なんだけど、風が吹いてきた時に、そこにくる風が遠いとこから運ばれてきた感じがして。風通しがよかったんですよね。人がいっぱいいる、物騒とした感じじゃなくて。この時、2、3回目のライブくらいなんですよまだ。

塚田 YAKUSHIMA TREASUREとして?

コムアイ はい。まだ何にもわからないというか、どういう風にやろうかっていう感じで手探りでやってました。この時のライブは30分くらい枠をもらってたんですけど、28分くらいまで結構決まった曲をやっていて、28分から開いたんですよ。マイク外して歌い始めたんですけど、遠吠えみたいな。おーって言ったら、天井に響くのが聞こえたんですけど、そこから開き始めた気がして終わったんですけど。なんか次の日に、この場所から移動してDOMMUNEのサテライトスタジオで。

塚田 ハイハイ、拝見しました。

コムアイ ライブをやった時は、続きっていう感じで。

塚田 開いた状態が。

コムアイ うん。決まったところから外れるって感じかな。ここから出るっていう。テーブルの上から落っこちるっていうところが多分面白いんですけど。

塚田 なるほど。

塚田 今音が流れましたかね。じゃあこれは開きかけてる時っていうことですね。

コムアイ これは、うどん屋さんのおばちゃんの声を勝手に録音して、サンプリングして。

塚田 そうなんですか!

宇川 その前の日にうどん屋さんでフィールドレコーディングしたんでしょ。ドーム広場に鳴り響くうどん屋のおばさんの声(笑)。完全に屋久島の鳥の声か虫の声と同じ感覚で採集してるよね。で、ここなんですよ。これが巨大なドームになっていて、天井もあとで映ると思うんですけど。すごかったよね、この空間。

コムアイ あそこの甘栗やさんすごいおいしいんですけど。

塚田 ルイ・ヴィトンも見えるっていう(笑)。

宇川 ヴィトンとティファニーとコーチかな。それと甘栗屋はまの。で、このはまのの甘栗屋は僕が幼稚園の頃からあった店で、この周辺では、三越と一緒に唯一原風景として残ってるんです。幼稚園の時代からずっと食べてた甘栗屋。お遊戯と甘栗とスクールバスの思い出。

塚田 今の話を聞いて、すごく面白いなと思うのが、例えば屋久島と商店街とか、前半のお話ですと『Mステ』とDOMMUNEですとか、対立したものだと思いがちですけど、歌の感覚として例えば商店街の中がぱっと見では自然ではない人工物に囲まれていたとしても風が通ってくる感覚とか、人がむしろ木の精霊のように見えてくるとか。さっきのビッグフォードでも、個と個の境界線がなくなっていくような感覚のお話にすごくつながるなと思っていて。実はここから人工の商店街で、ここからは屋久島の自然だって分けてるのは、実は人間の頭の中だけであって、その環境自体は違うのかもしれないという。そこを感じられているのかなとも思ったんですけども。

コムアイ ありがとうございます、まさにそういうことを学んだのかもしれないですね。「自然」とは相入れないんじゃないかということを。『イントゥ・ザ・ワイルド』とか。人間の憧れですよね。全然最近やれてないんですけど、昔、私がシカを解体してたことも。拾った木のみを食べるだとか、そこで生きてた生き物、動物を食べることで、山の生態系の一部になれるんじゃないかっていう憧れですね。自分がなじめないはずの生態系にやっぱり入りたい。人間の無機物的な自覚みたいなものと、有機物でありたいっていう憧れが結構長いことあると思うんですけど。

宇川 今見ていただければ、商店街の全貌が見えてますね。これ3階から撮ってる映像ですよね。懐かしいですね。

コムアイ 懐かしい。

宇川 確かこの後コムアイちゃんどんどん女神のように覚醒していったと思うんだ。これもう最後の方。これが商店街のドームの真上。

塚田 すごい、鳥肌たちますね。

コムアイ この曲が一番表に出る曲だと思うんですけど、この作品の中で。はっきり形が決まっているポップソングとしても成り立ってる曲だと思うんですよね。だからこの曲を歌った後に解放されることが多くて。

塚田 すごい祝祭的な歌ですよね。喜びを感じるというか。

宇川 ここからがすごくいいんだよね。ここから商店街のドームにコムアイの声が駆け巡る。ほらほら本当にそう。すごいですよね、ここから。

コムアイ ここから、私がライブ見てたら、「あ、入ったな。ここから面白くなってくるな」って思うタイミングだと思うんですよね。それで終わっちゃったんですけど(笑)。

宇川 前戯が長かったからね(笑)。これ最後の一曲でしたね。初めてこの日にYAKUSHIMA TREASUREのライブを見させていただきました。

コムアイ タイチさんもここすごくいいですね。

宇川 コムアイちゃんこのライブを終えて屋久島でやったライブ体験と結構近かったという話をしてくれたのですが、のちに理由がすごくわかりました。大自然って全てが動き全部が呼吸してるわけじゃないですか。つまりすべてが有機的に動いてる空間なのですが、この商店街もさっき話したように消費者ではなくて生活者がうごめいている。

塚田 生活圏としての生態系があったっていうことですよね

宇川 そのとおりです。そのエコシステムの中にコムアイちゃんが投げ出されて、ここでライブをやる真の意味に全身の毛穴から目覚めてくる。その感受性の強さが、このライヴでは滲み出ていて感動しました。

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コムアイ 行ってないんですけど、<KYOTO EXPERIMENT>のステートメントに、「文化は発信するものではなくて、受容するものだ」って書いてあって。確かに文化を発信しようとして出してるものって届いてこないというか、聞く耳もてないじゃないですか。でも、この商店街が私たちを受け入れてくれたっていう感覚が強くて。

宇川 おー、嬉しいなあ。赤ちゃんのころからこのストリート、我が物顔で風切って闊歩していたから、俺。ベビーカーで(笑)。ベイビー宇川イン・ザ・フッド(笑)!

コムアイ だからめちゃくちゃ丸亀商店街は私、刺さってくるんですよ。文化的な場所だったってことに。で、ここにあったいろんな店舗とか、人とか、甘栗とか。入ってくるんですよね。私たちを受け入れてくれたなあって思います。

宇川 リアル・ネイバーフッド! 「はまのの甘栗食べている奴は大体友達!」(笑)

塚田 なるほど、それはコムアイさんの中で生活者のエネルギーだったり、ここに見えてるものだけではないものを本気で受け入れた瞬間に、受け入れあえるレスポンスができたのかなあと。

コムアイ 商店街はずっと受け入れてくれたと思うんですけど、私が28分まで気づかなかったっていう(笑)。前の環境に気づいちゃいけない、っていう風に切ってると、いい即興というか音楽自体、表現にならないんでしょうね。踊りでも歌でも。

塚田 商店街とインプロヴィゼーションしたみたいな感覚なんでしょうね。

コムアイ ついついこの音が聞きたくないとか、いろいろシャットアウトしそうになるんですけど、自分自身が受け入れてることが一番重要って話をその時もしましたよね。

宇川 したねー。ここでライブをやって、翌日、これをサテライトスタジオで見ながらトークするっていう『鶴瓶のスジナシ!』スタイルの番組をやったんですよ。

コムアイ 自分のライブの映像を丸々人と見るのが一番辱めなので(笑)。

宇川 しかも昨日やったライブ、けっこうヘヴィーな罰ゲームですね(笑)。

コムアイ 見てみて、めちゃくちゃ反省して。反省してもしょうがないんだけど。何がダメかわかってきた感じで。

宇川 もっとすごいのが、その後にまたライブするんだよね。スタジオで。

塚田 でも開いた状態でできたって仰ってましたよね。

コムアイ 合宿ですよね、もう。

宇川 それ、めちゃくちゃいいですよ。見てみますか。

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塚田 じゃあその間にもう1つ。今、お話を聞いていて色々な方が思い浮かぶんですけど。1つは田中泯さんという舞踏家さんがいて。泯さんってずっとその場その場の場踊りをされてると思うんですけど、泯さんの言葉で言うと「その土地の精霊と対話できるまで待って待って、ふっと降りてきた時に自分の踊りが始まる」ということをおっしゃってるのを聞いたことがあって。私も何回か拝見した時に、すごく長かったりするんですよ。ぱっと間の踊りと始まる時と、ずっと何かを探しているような時間があって。探した時に見つかる瞬間って見てる側もわかるし、「あ、開いたな」って思うんですけど。その話とリンクするなと思っていて。

コムアイ 本当そう。まず、待たないといけないんですよね。ついつい、みんな待ってるからって、歌い始めちゃうんですよね。よくないのはわかってるんだけど。

宇川 でも翌日は待った甲斐があり、しかも自分のライブを見てトークした後に、このツキヌケた前衛性。笑福亭鶴瓶も昇天(笑)。

コムアイ これめっちゃ待ちました。歌うまで20分くらいあるんで。藤田さんが水槽を演奏してるんですよ、あれから音が出てて。水のぽちゃんって音とか、カホンみたいに叩く音とかオルガンの音とかが入ってて。

宇川 水とパイプオルガンとホーメイ。

コムアイ これ藤田さんが自作のパイプオルガン弾いてるんですよ。私その後ろに座って、ずっと聞いてから歌い始めたんですけど。歌いたいって思った時には、船の上みたいな気分だったんですよ。船を漕いでる船頭さんみたいで。暗闇の中を小さな船に乗って、前に船頭さんがいて私がそこに座って歌ってるって感じ。もう、完全にそのイマジネーションの空間にトリップしてて。水がうっすら光ってて水面みたいで。

宇川 そうなの! この日のスタジオのライティングもそんな感じだったよね。早朝のイカ釣り漁船の漁火みたいな。水面がうっすら光ってて、その水を楽器として藤田くんがドラマテックに演奏してるし、そこに山川冬樹御大のホーミー使いが偶然遊びに来ていて参入、そしてオオルタイチくんも感化されて自分もホーミーをマスターし始め、男3人ホーミー VS 女アヴァンギャルドボーカリストみたいな感じで『男女4人夏物語』。

コムアイ 即興を全くやったことがなかったので、この時本当にタネから芽が出た感じというか、自分がこれからこういうことやっていきたいな、というのを皆さんに教えてもらったっていう感じです。

宇川 この日、ブッキングしたのももちろん僕なんですけど、偶然山川さんも遊びに来ていたこともあって、サウンドポエトリーの使い手が集結した感じですね。ポエトリーリーディングじゃなくて、音声をポエティカルに表現するアーティストが集合したっていう。例えばオノヨーコさんが行っているボーカリゼーションって分かりますかね。あれが音声詩です。抽象的で意味をなさない言葉を発し、そこはリズムもなくてよいし、別にグルーヴもなくても良い。ただ、内在しているエネルギーから発せられた言葉、それが音になって音楽になっているような、フラクタルなプログラムにしたかった。そこにコムアイちゃんが入ってきて、お茶の間にも響くポップアイコンの中に眠っていた即興性みたいなものが一夜にして開花した。逆にそういう体験をさせてもらいましたね、この日は、1日で。

コムアイ ありがとうございます。それもね夜中のうどん屋での会話がないと次の日ここまでいけてないですよね。

宇川 やっぱうどんは重要だよね、ソウルフードですからソウルを考えるに相応しい食べ物ですね。今日もトークが終わったあとにライヴという過酷な現場にオファーさせて頂きましたが、今日はSalyuちゃんと、内橋和久さんのウッタギッタというユニットとの共演で、かなり即興性が高いものになると思うんですけど。なので、この後皆さんぜひ、9時から。

塚田 ずっと拝見していて思ったのが、「待つ」とか「受け入れる」っていう音を出していますよね。文化を発信する側ではなく、いかに受容するかって、特にネットメディアが旺盛な時代にすごく重要なキーワードな気がしていて。例えば、宇川さんがDOMMUNEという現場を作られていることも、現場でしかできないグルーヴと散々言われていたと思うんですけど。本当に音楽って私たちはどう聞いているのかということを。私もYAKUSHIMA TREASUREをこの間<FRUE>という野外のフェスティバルで聞いた時に、音楽を聞こうとか自分から踊ろうではなくて、風が吹いてくるのと同じような感覚で音が馴染んでくる。
宇川さんもおっしゃったサウンドポエトリーって、コムアイさんが発した詩を読んで「いいな」と思うだけじゃなくて、自分の内側からポエトリーが浮かび上がってくるという瞬間だと思うんですよね。詩を発信しているけれども、それぞれの詩というのは聞いている側一人一人の中から立ち上がってくる。それがこのDOMMUNEの環境にも演者の中にも湧いてるし聞いている側にも湧いてくるし。多分同じ言葉ではなく、皆それぞれの言葉を持っているけれども、混ざっていくような。そういった連関のあり方みたいなものを見ながら感じましたね。

コムアイ ありがとうございます。

宇川 抽象的な表現であればあるほど、解釈を受け手に委ねてる部分が多いと思います。たとえばこの会場に併設されたTaycanのインスタレーション「Soul, electrified. – intangible #form – 」もまさにそうで。昨日、藤元くんとトークしましたけど。それもやっぱり、表現している抽象性を、あえてインタラクティブに展開せずに、受け手が勝手に読み取って、心の中で作品を育てていくという構図。そこにコムアイちゃんが水曜日のカンパネラってプロジェクトをやりながらも、このステージに上がってきてくれたってことがすごく嬉しいんですよ、僕らは。60年代から日本のアヴァンギャルドシーンを見てきてる我々からしてみればね。

コムアイ 「ようこそ」みたいな。お邪魔します。

宇川 「ようこそ」みたいな感じですよね。スリッパお出しします。

塚田 先ほどもおっしゃっていましたけれども、自分の中の野生をどう見つめるかってことをテーマとされてるのかなと思います。鹿を解体ってさらっと言ってましたけど、実際にその解体をされたりとか生態系の中に自分があるっておっしゃってました。例えば屋久島に行ったりとか山の中で感じる自分と、『Mステ』だったりメジャーな中でライブをしていく、パフォーマンスをしていく自分っていうのは、切り離されたものなのか自分の中にスイッチがあるのか、それとも連続しているものなのか、ご自身の中ではどういう分け方があるか。私の中では連続しているんじゃないかなと勝手に思っていて。

コムアイ 毎日違う現場ですごく不思議な気持ちになってますけど、一箇所にいることが逆にできないから、ちょうどいいなと思ってます。留まるというか、毎日同じところに出勤すると具合が悪くなるタイプなので(笑)。自分で想像がつかないくらい毎日違っても全然大丈夫なのかもしれないですね。連続しているかどうか……。自分にとっては、次々前に来るって感じで。実はあんまり作り出してるっていう感覚がなかったんですけど今まで。

塚田 その受け取り方が目の前に大木がある自然なのか、スタジオなのか、商店街なのかってことも、そこが違うカテゴリであるというのはこちら側が勝手に認識しているだけであって、その場合にどういう空気が流れているかとか、どうやって音が響くかみたいなことって実はデータのパラメータは同じな訳ですよね。その見えない部分を受け取ってるのかななんて思いますけど。後もう一つ、ライブの映像もあると聞きましたけど。LIQUIDROOMでの。

コムアイ よかったら見てください。

宇川 これ本邦初公開ということでかなり貴重な映像だと思うんです。

塚田 さっきチラッと見て衝撃でした。

宇川 あ、俺いけなかった日だ。高松でまだ連続配信していて、毎日うどん食べて日々体重が増えていたあの時期だ。

一同 笑

宇川 あ、これだ。華道家の方とやられた日ですね。

コムアイ 上野雄次さんっていう華道家の人で、ずっと知り合いだったんですけど。その人のパフォーマンスを最初見た時に、人を吊ってそこに花を生けてて。今は一緒にできないなって思って(笑)。ようやく一緒にできたのがこのタイミングです。

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LIQUIDROOMのライブ映像を観ながら

宇川 これってどういうステージ構成? とんでもないよね、これ。

コムアイ これ、LIQUIDROOMってステージあるんですけど、あそこにお客さんに入ってもらって。真ん中に丸いステージを組んでもらって、家から持ってきたカーペットを敷いてました(笑)。私は結構よかったと思ってます。デコレーションも上野さんがやってくれてます。

宇川 素晴らしいですね、これ。

塚田 すごいですね〜。

コムアイ これ、実は上が動くようになっていて、後半で揺らしてたりするんですけど。山の中に入っていると、植物の表面がちらちらして別の生き物に見えたりとか。影がどんどん形を変えたりして、こっちの脳をくらますというか、目をくらましますよね。そういうのをやってみたかったんですけど。後半で土が出てきて、上野さんは大量の土を生けていきます。

宇川 土を生ける。って感覚。新しいですね。

コムアイ 屋久島の歴史の話をしてて。屋久島の土って結構薄いんですよ。一回硫黄島の噴火を受けて絶滅しかけていたところに、雨がたくさん降って苔が生えて、土ができたというのが屋久島の生態系のもとになっていて。その話をしたら、上野さんが土と苔を生けるということになりました。

宇川 まじか。相当トライバルですね。トラックメイカーのオオルタイチくんの音楽って元々、どっちかというとエキゾ感満載というか土着的な志向があったんですけど、コムアイちゃんと組んだら全然違う化学反応が生まれてますよね。お互いが野生に目覚めて高め合っていく中でエネルギーが循環してるような。そんな印象をすごく受けます。それぞれソロでやってる時も見ていますが、2人が合体したら、その関係の中でパワーが増幅して充満していくシステムが自然に生まれている感じが。本当にみていてスリリングです。

コムアイ タイチさんめちゃくちゃ自由で。一緒に話をして、リハーサルしてる時も、それ面白いねって時に失敗みたいな感覚が全くないというか。どんなに練習とかリハーサルで音を出している時も、本番と変わらない。今練習だからこういうふうにやってみるって感じじゃなくて、生まれた瞬間に完成してるって感覚もあるし。だから刺激を受けますね。

宇川 これLIQUIDROOMでやってると思えないよ。ニューギニアか、アマゾンか、ミンダナオ島か。外界と接触していない部族のようにみえる。相当トライバルだよね、昔NTVでやってた『素晴らしき世界旅行』みたいだよ。世界の部族を訪ねる番組。うわあ、明るくなったらまたやばい。

コムアイ これが上野さんですね、真ん中にいたのが。

塚田 これ儀式ですよね本当に。

コムアイ 上野さんが土を盛り始めました(笑)。

宇川 本当だ、このライブすごいね。コムアイちゃんの家のカーペットにでしょ?

コムアイ はい(笑)。でもほとんど覚えてない、8月のことなんで。

宇川 うわ、これ全部8月に起こった出来事? さっきから見せてる映像。

コムアイ あれからのこれになったっていう。

塚田 お盆の時期に精霊送りをしてるって感じがすごいします。

コムアイ お盆っぽいかもしれない(笑)。機材が埋まっていくので、後半は使える楽器が限られていくっていう。

塚田 文字通り埋まって、土に還っていくわけですね(笑)

コムアイ めっちゃ気持ち良くて。みんな「匂いがする」って言ってた。土の。終わった後の感想で一番多いのが「匂い」でした(笑)。

塚田 ライブを体験するってこういうことなんじゃないかって見ていてすごく思います。

コムアイ これ他の国でやりたいんですよね、上野さんと一緒に。生けるものは毎回違ってたりしたら面白いかなと思って。

宇川 なんかアフリカの<Festival Gnaoua>というアフリカンダンスミュージックの起源となるようなフェスに浅沼優子さんが今年行ったらしいですが、それにBORE-DOMSのEYEちゃんが反応してて、来年行きたいって言ってたよ。

コムアイ 浅沼さんに聞いてみる。

塚田 だんだん屋久島の土から南アフリカの土とかいろいろ混ざってく(笑)。素晴らしいな。

コムアイ この前ポーランドの<Unsound>ってフェスに行ったんですけど、最高でした。実験音楽、電子音楽ばっかりだったんですけど。

宇川 行ったんだ。<Unsound>素晴らしいですね。

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塚田 ちなみに国内でライブの予定としては? まあ今日の夜がありますけど。

コムアイ そうですね、まずは今晩観ていただいて(笑)。

宇川 そう、まずは今晩渋谷PARCO9F SUPERDOMMUNEの<SCOPES Tokyo>です。

塚田 ほんとに、地球の声を吸い上げてるというか、コムアイさんないしオオルタイチさんの内側の野生も開花したりしてるんですけど。同時にここにいる観客の野性も引き出されただろうし、スピリチュアルに聞こえるかもしれないですけど、なぜこれを今コムアイさんが始めてるのかって、もっと大いなる何か意志に動かされてる気さえする。

コムアイ 動かされたい。自動運転。

宇川 生態系の有機的な相互関係とそれをとりまく無機的環境に対して、自分なりにきちんと向かい合うということを、コムアイちゃんは、シカの解体の時代から行っていましたよね。つまり水曜日のカンパネラ以前ですよね。だからむしろ彼女は本流に立ち返ったと感じています。そういった意味でもあらゆるシステムには、生産者がいて消費者がいて分解者がいる。例えば今日のこの壇上の僕とコムアイちゃんと、有那さんと、客席とストリーミングの視聴者といった生態系の中にも、表現者と受け手と紹介者が存在していますよね。そんな中、僕と有那さんは今日は分解者=紹介者になっているっていうことですね。

塚田 そうですね。でもやっぱ生態系の中で誰が重要かっていうと、その媒介する存在が必要なんですよね、メディエーターと呼ばれるような。コムアイさんは本当に生態系の中のメディエーターになってる。自然の中にもそれを感じ取ってるし、この都市の中、このLIQUIDROOMの恵比寿の中でもその媒介になっていくと、見ている側が消費者なのか生産者なのか分解者なのか分からなくなっていく。混ざって行く感じがする。

宇川 さっきの商店街の話もまったく同じで、消費者、生産者、分解者全てがあの商店街の”生活者”なんだよね。すごくない? 全て繋がっていますね。コムアイちゃんの場合は変幻自在にそれぞれのフィルターに形を変えられるっていうか。まさにブルース・ビッグフォードの作品のようにメタモルフォーゼできるというか、なかなか希少な記号を体現していますね。

コムアイ 嬉しいなあ。

宇川 なんか褒め殺しになっちゃってるね今日、食物連鎖の中で分解者が褒め殺してる(笑)。

塚田 ライブ会場でも、観客のエネルギーも絶対必要じゃないですか。観客側も聞いているお客さんではなくてあの生態系の一部に取り込まれたと思うんですよね。それは媒介者がいて、そこに循環していくみたいなエネルギー構造があったんじゃないかなって。

コムアイ 日々どうしてこういうことが起こるんだろうとか、どうしてこういうことが起きなかったんだろうって。本当にそればかりなんだけど。まだ全くわからないって感じです。それから数ヶ月ライブたくさんやったけどわからないです。

宇川 わからないってのは?

コムアイ どういう仕組みで何が起こっているのかとか、なんで自分がゾーンに入ったとか、どうして人がこういう気持ちになったんだろうとか。

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宇川 水曜日のカンパネラのコムアイちゃんのファンってたくさんいるじゃないですか。その人たちがYAKUSHIMA TRASUREをどう見ているかって問題は置いといて、僕が見てるコムアイちゃんは、鹿を解体している頃のイメージを今もずっと持っていたので、むしろBack to rootsというか、まだ未分化だったセントラルコムアイとの接触を感じたわけです(笑)。だから本来のコムアイこれだったよね? ってスッと入ってきたというか。

コムアイ ありがとうございます。

宇川 それと並行で水曜日のカンパネラというプロジェクトの中の役割として機能してるコムアイちゃんという存在も、並行していてほしいというファン目線も持っていますよ。

コムアイ 宇川さんは、アートとデザインのふたつあるとすれば、デザインにお前は絶対戻ってくるだろうって。両立するんじゃないかって言ってくれましたよね。私はまだピンときてないんですけど(笑)。

宇川 きてないというのは、やっぱりパフォーミングアーツ側に突入しようとしているからでしょ? 

コムアイ 今突入中だからかもしれない(笑)。

宇川 そうだよね。僕、元々グラフィックデザイナー出身でDTP第一世代なんですよ。大先輩の横尾忠則さんと同じく、流れで現代アート側に突入しましたが、ただ転校はしてなくて、つまり両刀使いになったわけですけど。それもやっぱりデザイナーとして消費と向かい合ってる自分とその機能もディシプリン的に心地良くて。
もう一つはやはり長くやっていると現代アーティストとしての自分という存在も世に認められるようになった。いつも言いますが、その理由が、デザイナーは医師であってアーティストは患者である。そしてデザインは薬であってアートは毒である。もう一つはデザインは答えであってアートは問いであるっていう。この振れ幅を持つことは大切で、自分が答えになったり問いになったりできるわけです。
しかし、問いばっかり投げかけていたら、見失ったりもするわけですよ。でも「問い続ける自分」という確固たる質問者、問題提起者になれば、それはそれで一つの作風として永遠とやっていけるわけなのですが、そうじゃなくて、ふとしたきっかけで答えを出したくなる時がある。その答えがデザインなんですよね。毒ばっかり盛っていたら、その毒を精製して薬を作りたくなったりするわけですよ。

コムアイ 面白いなあ(笑)。

宇川 その両軸を持っていれば、大変楽になれると思いますよ。毒を作っているコムアイから、また薬を作ってるコムアイに戻ったときの、そこで生まれた特効薬たるや。癌も治るかもしれない(笑)それぐらいの効能を秘めてる可能性もあるだろうと。

コムアイ 長い道のり……見守ってください(笑)。

宇川 いやでもコムアイちゃんならできるのでは。

塚田 私もいつも簡単にブリッジが見つかるんじゃないか、って期待を込めて思っているんですけど。あとは水カンのファンがいたとしても、突然コムアイさんがアート側にいってしまったっていうよりも、水カンファンの中にあった野生を引き出してくれる存在なんじゃないかなとも思うんですよね。

コムアイ ライブの映像をみると、やっていることが結構つながっているような感じもすごくしますね。ライブ同士でみてみると、去年やってたことと今年やってたことはすごい近いのかもしれないですね。

宇川 YAKUSHIMA TREASURE発祥の映像さっき見てもらいましたけど、あそこで言っていたように、武道館という一つの高みに登った水曜日のカンパネラがいたでしょ。ある種の到達点ですよね。マーケットに作用する音楽をやってる人で武道館目指してる人は多いのでは? そのあとは東京ドームで、次は5大ドームツアーだ! みたいな。音楽マーケットの中での表現というのはやはり、動員の上でのマスとしての評価がある意味重要じゃないですか。その達成感、充足感というものも片やあるわけですよね。『Mステ』に出てるコムアイっていうのは確かにそこに存在していたのだと思います。しかし、数ではなく質を共有できる人たちも、コムアイちゃんは同時にずっと求めていたと思うんですね。もちろん、水曜日のカンパネラは質の高いプロジェクトですが、クオリティーという意味の質ではなく、アーティストに内在している本質の問題のことです。それを彼女は音楽ではなくて、当時から発言でもやっていたような気がしています。コムアイちゃんの発言は様々なところで刺さっているのですが、総じてすごくイノセントだと思いますよ。でもほら、地上波でイノセントっていってもね、きちんと台本があってその中で守られるべくコンプライアンスもあり、ポリコレも存在していて、そのステージの上で、言葉を選びながら、本質的な部分を語っているなと思っていたわけです。だからむしろそれが、今回音楽のベクトルに入ってきただけで、彼女は実は水カン時代からYAKUSHIMA TREASUREをやっていたともとれますよね。何が言いたいかというとDOMMUNEと『Mステ』の間に『ワイドナショー』があったっていうことです(笑)。

コムアイ 戦場に花を置くような気持ちで行ってました。

宇川 すごい初耳、そのたとえ、面白いね(笑)。

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塚田 あと、自然回帰というか野性という言葉も今日キーワードだと思うんですけど。消費者の中にも潜在的に眠ってるんじゃないかという話から続けていうと、私の個人的なテーマとしても、いわゆる自然対人工の二項対決って考え方自体が古いなと。そこを乗り越えてテクノロジーの時代に自然と人間も機械も混ぜこぜになっていくような肌感覚って既に芽生え始めてるし、コムアイさんはそれをいち早く受け取っているなと思っていて。そうした時代のインテリジェントの野生というか。野生というと本能的に身を任せるだけで何かやっているようにみられがちだしそういう言葉に捉えられがちなんですけど、実はそこに対してものすごく現代的な感性ないしは知性を持った上での野性感というものが吹き出しているというか、花開いているんじゃないかなと思っていて。

コムアイ 嬉しい、ありがとうございます。いつでも野生に回帰してる人っているんでしょうけど、岡本太郎とかもすごくそうだし。縄文とか、室町にいろんなものが固まっていく、とか、もっとそれより前にあったものというか。でもそういう日本の元文化みたいなのに戻りたいというのは、今更に強い感情がありますね。これから先何もないって、臨界点だなと思います。登っていく先にないってことはみんなわかっていて、じゃあどうしようというのは一つじゃなくてみんなそれぞれで研究してるんじゃないかと思うんですけど。

宇川 なるほどね、この先登っていくべきものがない。

コムアイ この数字が増えていく世界はもう終わるというか、先がない、面白くないなとは皆感じてるから。じゃあその後どうしようというのは全世界的に、特に北半球で考えてる人はいっぱいいますね。

塚田 結局幸せとか未来が良くなって行くみたいなことがXY軸の右肩上がりになっていくという考え方自体が、限界点に来ているというのは世界中で起こっているという風にすごく感じますね。

コムアイ 好きなことやっていくだけですよね。本当に。

塚田 確かに、これからは。そんなところでぜひ会場からも何か、この機会に質問や感想でもいいんですけども。何かあればと思いますが、いかがでしょうか。あとはDOMMUNEご覧の方からも何かあればと思ってツイッターも同時に見たいなと思います。
今ぱっと開いたらTwitterからDOMMUNEで、「野性と化学はそもそも対立する項じゃないっていうのはビョークの問題意識としても共通していますね」という話があって、私も今日のライブ映像見ながら、最近のビョークの向かっている方向もそうですよね。彼女は元々そうですけど。その表現方法はコムアイさんと違うんですけど、共通するところもあるなとすごく思いましたけど。

コムアイ AIについてかVFXについてだったか忘れてしまったんですけど、科学技術を使うことに関して、バイオリンを弾くことに置き換えてて。発明されたときは不思議なものだと思われていたけど、これだけ時間が経ったらバイオリンもオーガニックな楽器として受け入れられている。その発明された瞬間に立ち会ってるみたいなことを彼女が言っていて。

塚田 言いそうですよね。私たちが生きていく限りで、すでにテクノロジーって完全に切り離して、屋久島でスマホも持たずに生活できるかって考えたら、不可能ではないけれども自然な形ではなくなっているということは確かなはずで。今日も何度かキーワードとして挙がっていますが、私たちにとっての自然な形って何かという話において、対立項ではないってところは一つありますよね。

コムアイ 街の作りって苔の作りとかに似てたりしますもんね。屋久島に行って帰ってきたら、木が全部大きな苔に見えて、ずっとルーペの中を覗いてたんですよ。そこ覗いてたときは小さな椰子の木とか杉の木とかにそれぞれ見えてたんですけど、帰ってきたら都会の植物が一本一本、こんな小さい苔が大きくなった、みたいに。最近興味があるのは、自分が小さくなる方かも。<虫展>見に行った時もそうですし、小さいものの暮らしとか世界観に入っていると落ち着く感じがして。

宇川 はい、タイムラインからの質問を拾っていきますね。「コムアイさんボーカリゼーションには元々興味があったのでしょうか、全く憑きの感じが全然ないのが良い」

コムアイ 憑きの感じがない……よくあるって言われるんだけど(笑)。

宇川 本当に? 何かに取り憑かれてるって感じがしないので、環境を浮遊している感じなのでは? と思っていました。

コムアイ なるべく空っぽを目指してて。元々まずボーカリゼーションには興味がなくて、カンパネラで誘われてから歌を始めたんですけど。ライブでよくわからないで声を出しているうちに、空気を吸い込んで吐くっていうのをたくさんやっていると、それ自体が脳に酸素がいかなくなるというか。結構気持ちいい瞬間が来るんですよね。それもあるのかな。不思議な、自動で体が動いてるみたいな時間が訪れたりするので。それから歌が面白くなってきたんですけど。自我が消えるのが良い時ですけど。

宇川 でもあれでしょ、ここで書いてる憑きというのは。例えば、恐山で潮来が死者の霊を降ろして、体内に一度入れてその人がさも発言しているかのようにメディアとして体を受け渡すという。媒体・媒介者としての身体みたいな発想ですよね。まるっきり違うと思うんですよ。環境といかに融合するか、そんな連帯意識の方に多分、コムアイちゃんの表現は向かってると思うので。そこが自然に感じるんですよね。

コムアイ そうですね、それを研究していきます、もっと。

宇川 それがやっぱり、コムアイの魔法だと思いますね。

コムアイ 個に対してどっかの個にアクセスするのではなく、受容するってことですよね、周り全てをね。

塚田 東京に帰ってきて、東京すらも苔山の一部に見えることも、ポルシェの企画自体も、『Changing Perspectives』というテーマですけど、まさにパースペクティブを変えていくことで、生態系もどのエリアを見ていくかによって見方が変わって行くじゃないですか。イタコ的な憑きではなく、自由自在に自分のパースペクティブを変えられるというか。例えば恵比寿・表参道を歩いている時の今の自分等身大の視点で見るのか、鳥瞰図的に見るのか、またはおっしゃったように自分がもし小さくなったらと想像した時に見えるパースペクティブってまったく違うはずで、そこで変えられる視点がね。身体的センスが凄くあるんじゃないかなって。

コムアイ 嬉しいなあ。そうしないと飽きちゃうしね(笑)。

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宇川 この番組を見ながらさっきビョークの話に重ねてタイムラインにUPしている人がいます。WIREDのビョークのインタンビューで、「ユートピアは幻想じゃない、必需品」という発言が結構話題になったんですよ。どういうことかいうと、ユートピアは現代社会とか集団の中で理想郷の探究としていつの時代にも存在している。にもかかわらず必需品と言ってるのは、テクノロジーによってユートピアを0から生み出すクリエイションが私の理念である、と。だから「時代の側が私に追いついてこい」という覚悟なわけ。ユートピアは自己のアイデンティティの中にあるという発想。集団の中での理想郷づくりというのは60年代からやられてきたわけですよね。

それはヒッピーイズムやサイケデリックカルチャーが源流になってると思いますが。当時はベトナム戦争が背景にあって、そこに対してアンチを掲げて、銃を捨てて花を掲げて、コミュニティを作って集団生活をしていき、自給自足をしていこうと。だから完全に自分たちのユートピアを作り、社会から逸脱していこう、ドロップアウトしていこう、という発想だったわけなんですけど、それがどんどん破綻して行くわけですよ。なぜかというと、新たに作ったユートピアの中に政治が生まれてくるから。だからそれ以降「指導者なきコミュニティ」が有効化しましたよね。いまコレクティヴと言われている存在の本質はここにあると僕は思います。トランプ時代の悪夢の中で、ビョークが唱えているのは集団じゃなくて個なんですよね。個の中にユートピアがあるという発想、面白いですよね。

塚田 今の話を聞いていて思い出したのが、ユートピアないしはどれだけ自ら個のアーティストの中からファンタジーを描けるかだと思っていて。ル=グウィンという『ゲド戦記』を描いた小説家がすごく良いことを言っているんですけど、「ファンタジーは現実からの正当な逃避である」ということを言っているんですね。今宇川さんもおっしゃったように、なんらかの時代背景・社会背景があるなかで、次何を目指すのか、簡単にディストピアを思い描くことは簡単だと。ディストピアってある意味ですごくポルノ的にもなる。悲惨な未来を描いてそれに警鐘を鳴らしていくこともすごく重要ですけど、恐怖心だけをポルノ的に消費するのではなく、本気でファンタジーを描くということが、作り手に託されている使命なんだということを言っていて。今のビョークの話だったり、コムアイさんの引き出そうとしているもの、LIQUIDROOMでのライブがまさにですけど、次をもう示してるんじゃないかななんて思いますね。

コムアイ 本当にそうで、最近やりたいのって結構アンビエントなんですよね。

宇川 いいねえ。

コムアイ あとインタラクティブじゃないものっていうのにも興味があって。

宇川 昨日藤元くんとの対談でも全く同じ話してたの。あの『Taycan』のインスタレーションもインタラクティブじゃなく、作家性をそのまま打ち出すその抽象性を受け止めて自分の中で発育させて欲しいという発想なんです。ビョークが言ってたのも、テクノロジーが私に追いついてこいという格言は、テクノロジーの目新しさだけに囚われるのはよくないと。そこにいかに人間らしさを機能させることができるか。そしてテクノロジーの中に情感を刷り込むことができるのかということ。その一点を考えれば、テクノロジーも味方になる。そういう発想だと思うんですよね。だからトレンドではなくて普遍性の方だよね。

塚田 かつ、バイオリンを使うようにいかにテクニックを磨いていくかということもなるのかな、なんて思いますけど。そろそろ時間ということで、まだまだお聞きしたいところなんですが、このあとコムアイさんライブの準備もあるかと思うので。今回このポルシェのイベント自体が『Changing Perspectives』というテーマなんですけれど、『Changing Perspectives』について何か一言いただけますか?

コムアイ 今話していた中でも結構変わってきたし。それしかないだろうなという気もするんですよ。理解できない相手とか、嫌いな人を好きになることはできないとして、何ができるかというと、『Changing Perspectives』しかなんじゃないかと思っています。ヘイト強まる時代のなかで、分断がどう埋まるのかというとみんなの意見が一致することではなくて。<Unsound>のテーマは『Solidarity』で、共鳴だったんですけど、理解し合えない相手同士で、視点を変えるという。理解までいかないかもしれないけど、それしかないんじゃないかと思いますね。やっていけることは。

宇川 昨日もまったく同じ話してた。すごいよこの共鳴(笑)。だからミレニアル世代が考えている着想はここにあるのだなと強く感じました。タイムラインも結構賑わってますよ、コムアイちゃんの今回のプロジェクトに深く感銘を受けてるビューワーが沢山湧いてきました。

コムアイ ありがとうございます。

宇川 RJTBUさんから「呼吸とか歌唱とかのメカニズムに基づいてる快楽に関する話って、感激する」というコメントが。

塚田 おー、結構深いコメントが。

コムアイ 歌ってる人なのかなあ。

宇川 呼吸とか歌唱のメカニズムからくる快楽。水曜日のカンパネラってね、ポッププロジェクトでもあるけど、コムアイちゃんの特殊技能を発揮できてた、奇特な表現レイヤーでもあったと思うんですよ。それは何かと言うとあの複雑なリリックを覚えられるってことがまず一つ。

コムアイ (笑)。できますよ、誰でも。

宇川 饒舌に、噛まずに、それを歌唱として形にできる、あのリリックを空気中に放り投げ続けられるっていう。そういう技巧をあのプロジェクトでは発揮できる仕組みになっていたなと思って。

コムアイ 結果マントラ的だったのかもしれない(笑)。

宇川 そう結果”マントラ的早口ことば”なんだよ(笑)。ああいうポップミュージックのあり方ってよく考えるとなかなかなくて。水曜日のカンパネラか、「ドリフの早口ことば」か、MONO NO AWARE「かむかもしかもにどもかも!」か(笑)。この文脈をオルタナティブなアートとしていかに批評できるかも結構重要ですね。例えば佐々木敦さんなら、JPOPとかノイズミュージックも電子音楽も同じテーブルに乗せて批評できるじゃないですか。そういう批評家が水曜日のカンパネラを深く掘り下げて論じれば、まだ見えてない地平が見えると思いますね。水カンは、そんな特殊なプロジェクトだと思うわけですよ。

コムアイ ありがとうございます。

宇川 さっきRJTBUさんが書いていた、呼吸と歌唱のメカニズムについては、独自のメカニズムの中で、水曜日のカンパネラの”マントラ的早口ことば”の呼吸法を生み出していた。と、言っていいですよね。

コムアイ 無意識に。

宇川 しかし「シャクシャイン」なんてカラオケ入ってても過呼吸になって誰も歌えないでしょ(笑)。

コムアイ いやー、結構歌えると思うんだけどな(笑)。もう私も途中で忘れたらまったく覚えてなくて、要は文章としてはどれも覚えてないんですよ。

宇川 あ、そっかカラオケはリリックが出るから歌えるんだ。

コムアイ じゃなくて、文章としてどういうことを言っているかということは多分私は記憶をしていなくて、トラックが来た時に自動で出るようになっているって感じで、じゅげむですね。

宇川 じゅげむじゅげむ五劫の擦り切れ……

コムアイ じゅげむって途中で止まったら最初っからしかないじゃないですか。それとまったく一緒だと思います。

宇川 海砂利水魚の水行末……あの感じだよね。あ、ほんとだ。水曜日のカンパネラ、じゅげむだった、今考えたら。

コムアイ どの順番とかわかってないんですよ、歌詞の順番とか。ただ、流れたら出てくるっていう。歌って面白いですね。

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宇川 やばいね。話は逸れますが、『おはようこどもショー』(NTV)っていう番組が60年代〜70年代にあったんですよ。つまり僕が幼稚園の頃見てたんですけど。『ひらけ!ポンキッキ』(フジテレビ)に先駆けた朝の子供番組だったのです。そこで「みんなの歌」みたいなコーナーがあるわけですよ。そのあと『カリキュラマシーン』って番組が始まるんですけど。そこで「グヤグヤの歌」というサイケジャズのような曲が週間でヘビロテされて……。いまも45年くらい頭からはなれない(笑)。そのフレーズが「キジケンケンココニャンニャン ワンケンコンニャン キジケコニャンニャンワーンワン」っていうフレーズがあって。これがずっと俺の脳内に刷り込まれていて、幼稚園の頃から。今年51歳なのにいまだにふらっと出てくるの。これってじゅげむマントラでしょ(笑)。「キジケンケンココニャンニャン ワンケンコンニャン キジケコニャンニャンワーンワン」秘密の真言です。

コムアイ これ言葉だったら覚えれてないですよね。メロディというか形? 音の形で覚えてる。

宇川 これ、今の水曜日のカンパネラのメカニズムですよね。すごく面白いですよ。それが、快楽に基づいてるっていう話が感激するって視聴者は言ってるのですね。歌っていて、覚醒していったり、気分が高揚していったりする体験は何度もされてるんじゃないですか?

コムアイ はい、快楽主義者なので。どんなに考えてもこっちの方が気持ち良いという社会があったらそっちの方があってると思ってます。声に当てはまる以外にも全部に対して。だからなるべくどっちが気持ちがいいかなっていうので決められる状態にした方がいいと思うんですけど。頭で考えてもやっぱりそれには絶対勝ててない、その正しさに勝てないような感じがして。

塚田 そこはすごい重要ですね。

宇川 重要ですね。禁欲からくる快楽みたいなものもあって。ディシプリンといいますね。日本語だと、鍛錬とか克己(こっき)ですかね。例えば、グラフィックデザインは締め切りを守ってそこまでにクライアントのオーダーを聞きながら完成させないといけないという、そのプロセスに身を投じることは禁欲的なんですよどちらかというと。内に秘めた表現を大解放しない、爆発させない、にもかかわらず擦り込ませるっていう。だからすごい表現を禁じてるんですよ。内から沸き起こっている高揚とかをカモフラージュする。なのにそこにその高揚を擦り込ませる偏執狂的快楽というのもあって。締め切りを守らないといけない、表現を自己規制しないといけない、予算も限られているというルールの上でゲーミフィケーション的な快楽もあるわけですよ。それとは別に、現代アートみたいに大解放してもいい。土を投げても許される、みたいな。そういう二律背反的なステージに身を置くとめちゃくちゃ楽になるよ。

コムアイ 何来ても大丈夫、どっち来ても大丈夫。

宇川 土を舞台に生けるならば、あの先生みたいに撒き続ければそれがオリジナリティになるのですが、土を撒いた後に何か別のものを撒かないといけない場合、また新しいエクストリームなハードルというか。過激さという意味合いにおいても、斬新さという意味合いでも新たなハードルが押し寄せてくるから、それがまた違う苦悩に変わってくるわけ。だからむしろ、解放しないで禁欲の中から見出した快楽というものにも注目できたら更にやばいことになるんじゃないかな。

コムアイ DOMMUNEはそれでやって来れてるんですか?

宇川 そうね、さっきコムアイちゃんが言っていたような、「毎日同じところに通うなんて苦痛、耐えられない」とは当時の自分も言ってた(笑)。

一同 (笑)

宇川 つまり俺もそうだったのよ。なのに10年前から毎日同じ時間に通って、毎日配信するって決めてもう10年間近くやっている。

コムアイ スイッチングずっとやって。

宇川 そういうサドゥーみたいな表現を自分のものにすると、その後発芽してきます。

塚田 へー。

コムアイ おー、そうね。大解放にも飽きてくるんですよね。

宇川 そう、大解放に飽きてくる。

塚田 ある種、それで禁欲の時間ないしは何か制限を課すことによって、快楽の質だったり、解像度が上がってくる。快楽という言葉一つとってもね、いくつもレイヤーがあるじゃないですか。その次のレイヤーが上がっていく状況って、しかもそれを見ている側も引き上げてしまう。

宇川 本当に塚田さんのいう通りで。解像度が高い表現を打ち出したら、見る側の解像度も上がってるから、そこからビットレートが低いものは、コンセプトがないと見てくれなくなっちゃう。それが常態になるからね。

塚田 それが『Changing Perspectives』とも言えるのかななんていうふうに思いますが。そろそろ時間ということで残念なんですが、まだまだ話したいですね。

コムアイ ねー、続きしましょう。

塚田 続きもしましょう。というところで一旦こちらのトークショーはこちらで示させて頂きたいと、思います、この後21時からですね、是非ライブの方は楽しみにしていただければと。

宇川 宴もたけなわですが、渋谷PARCOの9階のSUPERDOMMUNEの現場にも今からまだ来れますよ。チャンネルそのままで21時にまたお会いしょう!

コムアイ お願いします。

塚田 では改めて、コムアイさん、宇川さんでしたありがとうございます。皆さま、大きな拍手でお送りください。ありがとうございました。

引き続き、<Scopes TOKYO>では、Seihoや☆Taku Takahashi(m-flo)、DJ松永(Creepy Nuts)といった注目のアーティストが登場し、様々なテーマでトークセッションを開催&DOMMUNEでの配信を予定!

トークセッションの後にはオープンしたばかりの渋谷パルコ9Fに開設されたSUPER DOMMUNEで繰り広げられるライブ、DJの模様も配信される予定です。
こちらも合わせてチェックしてみてください!

コムアイ

アーティスト。1992年生まれ、神奈川育ち。ホームパーティで勧誘を受け歌い始める。「水曜日のカンパネラ」のボーカルとして、国内だけでなく世界中のフェスに出演、ツアーを廻る。その土地や人々と呼応して創り上げるライブパフォーマンスは必見。
好きな音楽は民族音楽とテクノ。好きな食べ物は南インド料理と果物味のガム。
音楽活動の他にも、モデルや役者など様々なジャンルで活躍。2019年4月3日、屋久島とのコラボレーションをもとにプロデューサーにオオルタイチを迎えて制作した新EP「YAKUSHIMA TREASURE」をリリース。同名のプロジェクト「YAKUSHIMA TREASURE」として各地でライブやフェスに出演中。
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PROGRAM INFORMATION

SCOPES Tokyo × SUPER DOMMUNE

2019.11.28(木)
「Rules can be changed」ナイトエコノミーはカルチャー再生の救世主となるか

18:00-20:00 SCOPES Tokyo @SO-CAL LINK GALLERY
出演:Hiroyuki Fushitani、Takahiro Saito、Seiho

詳細はこちら

「Berlin x Tokyo 2019:Creating Togetherness in Club Culture」
21:00-24:00 SCOPES Tokyo x DOMMUNE @SUPER DOMMUNE|渋谷パルコ9F
MC:Yuko Asanuma
TALK:Naz Chris|Chicks on a mission(from Tokyo)、Sapphire Slows(from Tokyo)
DJ DASCO(from Berlin)、DJ Sarah Farina (from Berlin)
DJ:Sapphire Slows(from Tokyo)、DJ DASCO(from Berlin)、DJ Sarah Farina(from Berlin)

詳細はこちら

2019.12.01(日)
「Rise of Millenials artsts」Next Wave Talk
18:00-20:00 SCOPES Tokyo @SO-CAL LINK GALLERY
出演:☆Taku Takahashi、Yon Yon、Naz Chris

詳細はこちら

「EXPERIMENTAL TECHNO INVENTION」PRE – GAN-BAN NIGHT
21:00-24:00 SCOPES Tokyo x DOMMUNE @SUPER DOMMUNE|渋谷パルコ9F
DJ:石野卓球(電気グルーヴ)LIVE:THE ALEXX VJ:DEVICEGIRLS

詳細はこちら

2019.12.02(月)
「Back to basics」不便が切り拓く、世界への道
18:00-20:00 SCOPES Tokyo @SO-CAL LINK GALLERY
出演:DJ Matsunaga、DJ KOCO a.k.a shimokita、ANONYMOUS、Naohiro Ukawa、NONKEY

詳細はこちら

「SCOPES with DMC JAPAN ‘Turntable FETISHISM’」
21:00-24:00 SCOPES Tokyo x DOMMUNE @SUPER DOMMUNE|渋谷パルコ9F
DJ:DJ 松永(Creepy Nuts|2019 DMC WORLD CHAMPION)、DJ KOCO aka Shimokita、
ロベルト吉野、DJ 諭吉(2017 DMC WORLD SUPREMACY CHAMPION)、
ANONYMOUS (2019 DMC JAPAN CHAMPION)、DJ SHOTA(2015 DMC JAPAN CHAMPION)、
DJ BUNTA(2008 & 2010 DMC JAPAN SUPREMACY CHAMPION)
supported by DMC JAPAN

詳細はこちら

SCOPES Tokyo night Closing

2019.12.06(金)
出演:machìna x Shohei Fujimoto
HVOB
LICAXXXほか

SCOPES TokyoDOMMUNE