るで本作がデビューアルバムであるかのごとく無邪気で衝動的な曲達。シガー・ロスの理想的な進化のカタチ。 1997年に『von』でデビューして以降、リリースしてきたアルバムそれぞれが異なった強烈な魅力を放ち、時代を象徴する空気を放ってきた彼等の音楽。今回リリースされる『Kveikur(クウェイカー)』はスタジオアルバムとしては通算7枚目となるわけだが、長いキャリアのなかで名盤といわれる作品を幾つも生み出して来たアーティストがここにきて、ここまでためらいの無い音を鳴らしているというのは、それだけで感動モノである。しかしこの境地に至るプロセスを読み解くに、自分たちの音楽にひたすら誠実に向き合ってきたシガー・ロスというバンドの物語においてこの『クウェイカー』がいかに希望を孕んだ作品であるかが分かる。

『Ágætis byrjun(アゲイティス・ビリュン)』~『Takk…』で更に幅広いリスナーを取り込む音楽性を獲得し、続く『Með Suð Í Eyrum Við Spilum Endalaust(残響)』はこれまでになく開放的で躍動と希望に満ちた音を世界中に響かせた。活動を一時休止していた期間に発表されたヨンシーのソロ作品においては、そのまぶしいまでのポジティブなエネルギーは増す一方であった。

そして昨年、充電期間を経て発表された『ヴァルタリ~遠い鼓動(以下、ヴァルタリ)』は、あらゆる意味でそれまでのシガー・ロスとは違った作風となった。難航した製作作業は、音源素材のコラージュを用いたりスタッフやメンバー以外のミュージシャンの協力を得て完成に至った。ヨンシーの発言を見る限り、『ヴァルタリ』製作におけるキーワードは「混乱」だったようだ。しかしそうした不安定さすら、いや、むしろそうした感情こそが魅力的に鳴らされている様な美しいアルバムだった。

そこからメンバーの脱退を経て、一年足らずという短いスパンで発表されたこのニューアルバムは、初期を思わす重厚な曲から、幽玄さと躍動感が混ざり合う新境地までが一切の迷いも無く縦横無尽に鳴り響く作品となった。おそらく『ヴァルタリ』からの反動であろう、気負いを振り払ったまっさらな心境のメンバーたちの初期衝動的なワクワクが、全ての曲から伝わってくる。『クウェイカー』は、新たなシガー・ロスの姿でありまた、一つのバンドが過去を捨てただただ自分達らしくある為にすべき事に向き合った末の、最良の結果といえる。

Sigur Rós – Brennisteinn

シガー・ロス 豆知識まとめ

今回Qeticではシガー・ロスの新作『クウェイカー』のリリースを記念し、シガー・ロスの豆知識をまとめてみました! ファンならば全部知っているかも?! 以下、早速チェックしてみよう!

●映像作家の感性を刺激!

【特集】シガー・ロス、最新作は理想的な進化のカタチに。シガー・ロスの豆知識もまとめてお届け! feature130612_sigur-ros_sub1

今年3月に発売されたDVD『世にも奇妙な映像実験』。これは『ヴァルタリ』の実験的映像プロジェクト作品集であり、シガー・ロスの世界に触発された16人の映像作家がそれぞれ自由に制作した映像作品である。『ヴァルタリ』の発売後に、バンドが映画監督や映像ディレクターに均一の予算を提供。本作を聴き、独自が感じたままを自由に映像制作するよう依頼した。完成した作品は2週間ごとにバンドのホームページに順に公開され、一般のファンに向けてもコンペティションを実施し、応募作品はなんと800を超えたのこと! これらの作品が、1枚のDVDにまとめられたのがこのDVD。シガー・ロスの楽曲とそこから生まれた新たなる作品群、ファンならずとも是非とも観てみてほしい。

●あの超人気アニメにも出演を果たしている!

【特集】シガー・ロス、最新作は理想的な進化のカタチに。シガー・ロスの豆知識もまとめてお届け! feature130612_sigur-ros_simpsons-e1371120445135

シガー・ロスがアメリカの人気テレビ・アニメ・シリーズ『ザ・シンプソンズ』に登場! 主人公ホーマー・シンプソンの友人カールが宝くじの当選金と共にアイスランドに逃亡するというストーリーの第529話「The Saga of Carl Carlson」にメンバー3人が出演。さらに、エンディングではシガー・ロスVer.の『ザ・シンプソンズ』のテーマ曲が使われているのだ!  いつものパワフルなイメージの楽曲が、まるで天使が舞い降りてきそうな壮大な曲調になっているのが面白い。

●ハリウッドスターをも虜にする音楽♪

【特集】シガー・ロス、最新作は理想的な進化のカタチに。シガー・ロスの豆知識もまとめてお届け! feature130612_sigur-ros_sub3

昨年公開された映画『幸せへのキセキ』の楽曲を手掛けたのはシガー・ロスのフロントマン、ヨンシー。本作の起用は、なんとマット・デイモンのラブコールにより実現! 『幸せへのキセキ』の監督であるキャメロン・クロウが撮影中にヨンシーの楽曲をかけていたところ、マットが非常に気に入ったそう。作品には、シガー・ロスやヨンシーの往年の楽曲、そして映画のために書き下ろされた新曲もあり、本作の世界観を美しく彩どっており・・・この効果で作品の感動も2割増しになっている。

●bloodthirsty butchersと対バンするはずだった!?

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bloodthirsty butchersのフロントマン、吉村秀樹の先日の訃報は本当に多くの人々が悲しみ、追悼の意を表した。そのbloodthirsty butchers、実は2002年にNHKのライブ公開収録番組「LIVE BEAT」でシガー・ロスと共演するはずだったのだ。結局は来日自体が中止になってしまい実現はされなかったのだが、後年、bloodthirsty butchersが再度「LIVE BEAT」に出演した際、吉村氏がその時のシガー・ロスとの共演を興奮しながら心待ちにしていた、ということを語っていた。日本の音楽ファンにとっては夢の共演になっていただろう。

●世界のCMソングにパクられまくり!

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シガー・ロスの公式サイトには明らかにシガー・ロスの楽曲を下地にしているとしか思えない音楽が用いられているCM動画がアップされている。その数なんと21個!! まあ、気持ちはわかるけどね、、、原曲のまんますぎて笑っちゃう物も多数あり。中でも『Takk…』収録の名曲“Hoppipolla”は13種類のCMの元ネタに。どんだけ! でも、どれもパクリとはいえ壮大な雰囲気は出ていますね。

(text by Miki Kunihiro)

Release Information

Now on sale!
Artist: Sigur Ros (シガー・ロス)
Title: Kveikur (クウェイカー)
XL/Hostess
XLCD606J
¥2,580(tax incl.)
※日本先行発売、ボーナストラック2曲、Blu-spec(TM)仕様、ライナーノーツ付