──そして今回、何より「あたらしい季節がスカートに来た!」と声を大にして言えるのは、この新作が〈PONY CANYON〉というメジャー・レーベルからのリリースとなるからでもあります。

うれしいです。ようやく自分の音楽に社会性が身について来たと思いました(笑)。

──なによりスカートの音楽が認められてのリリースということが僕もうれしいですし、〈PONY CANYON〉といえば、80年代には鈴木慶一さんと高橋幸宏さんが設立した〈T.E.N.Tレーベル〉もありましたし、澤部くんが敬愛するムーンライダーズともここでつながることになりました。

工藤静香さんともレーベルメイトになります(笑)。

──〈T.E.N.T〉時代のムーンライダーズには、いみじくも『DON’T TRUST OVER THIRTY』(86年)という名盤がありますけど、まさに澤部くんも30歳になる年に所属することになったという。

そうなんですよ本当に(笑)

──このタイミングでのオファーというのは、自分なりの活動の充実感とリンクしていたという晴れがましさはあったんじゃないですか?

そう思います。あと、このタイミングを逃してなるかという部分はありました。お話自体はアルバムの曲が出揃った頃にいただいたので、特にメジャーを意識して曲作りをしたというわけじゃなかったんですが、「メジャーっぽさって何だ?」と自分のなかで悶々とした時期もありました(笑)

──僕は新作を聴いて、「メジャーぽさ」とは違うかもしれないけど、いろいろこれまで作品を出してきたうえでのスカートらしさを、うまい具合にソフトに表現して広い場所に着地できたと感じました。

今までのどのアルバムよりもひらけていると思います。

──ちょっとサウンド面での穏やかさがあるという意味ではセカンド・アルバム『ひみつ』(13年)にも近いし、『エス・オー・エス』よりも前に書かれた曲である“魔女“がアルバムのキーポイントになる場所に置かれていたりするし、過去を集約しながら先を見ている感じがある。そういうアルバムを、メジャーというあたらしい場所で世に問えるというのは、よい巡り合わせだと思います。

“魔女”は、ずっと「いつかは録らなきゃ」と思っていた曲なんですよ。気軽に手を出せる曲じゃなかった。でも、『CALL』というアルバムを作り終えてあらためて昔のデモを聴いてみたら、ようやく今の自分じゃ書けない曲になった気がした。今だったらそれが録る理由になると思ったんです。30歳になる前のアルバムでもあったし、ここらへんで一度、この曲に出てきてもらいたいという気持ちもありました。

──何歳で書いた曲なんですか?

19歳か20歳くらいでしたね。ようやくこういう曲が書けなくなった気がします。

──「書けなくなったからアルバムに入った」というのが興味深いですね。アルバムの流れのなかでも、ラストの“静かな夜がいい”の前に配置されている。この流れでアルバムが終わるというのは、“視界良好”とは別の意味で、過去の自分の思いや居場所に別れを告げて次の場所に向かう心の動きを表している気がして、すごく好きです。今回、曲順がいいですよね。

そうですか? よかった~(笑)

──“離れて暮らす二人のために”を一曲目に置くというのも驚きました。

わりと最初から「これ以外はない!」と思ってました。だいたい、一曲目はいつも「変だよ」って言われるんですよ。『CALL』のときの“ワルツがきこえる”もそう言われましたし。でも、自分の中ではヴィジョンがあるんですよ。

──どういうヴィジョンなんですか? たとえば好きな漫画とかに原風景があるとか?

あんまり意識はしてなかったんですけど、それはありそうな気もします。“ワルツがきこえる”もそうだったんですけど、静かに始まってだんだん厚みが出ていくというのが自分らしいんじゃないかと思ってるんですよね。

──ポップス・アルバムのセオリーというか、心機一転という意味では“視界良好”で始める手もあったと思うんですが。

実際、そうしたほうがわかりやすいだろうと思って、並べ直してみたこともあったんです。一曲目が“視界良好”で次が“さよなら!さよなら!”。

──攻めの曲順ですよね。でも、そうしてみたらちょっとしっくりいかないところがあった。

そうですね。“離れて暮らす二人のために”が正解だという確信は自分の中ではありました。でも、まだみんな首をかしげてたんで、「じゃあ、一曲目になる曲を作ろう!」となって、ドラムの佐久間(裕太)さんと二人でスタジオに入ってできたのが“私の好きな青”だったんです。そのとき佐久間さんから「じゃあ、ギターのコードをこねくり回さない曲を作ってみようよ」って言われて、シンプルなコード進行で作っていったんですよ。そしたら結局、ぜんぜん一曲目っぽくない仕上がりになりましたけど(笑)

──今回、アルバムを作るにあたって、自分にインスピレーションを与えたような存在はあるんですか?

『CALL』のときはポール・マッカートニーのアルバム『Chaos And Creation In The Backyard』(05年)をひとつの指針に置いてたんですけど、今回はそういうものはあえて作らなかったですね。今回は、そういうサウンドの質感の参照とかではなく、曲のポップさでちゃんと立つことができるアルバムにしたいと思ったし、そこを目指しました。

──それって、“対J-POP”という意識の持ちようだったりもするんですか?

いや、うーん。ポップスを作ろうとか、歌のレコードにしたいという気持ちはすごく強かったんですが、「地に足はつけよう」ということは、ずっと考えてました。

──歌詞面でも徐々にですけど変わってきていたものが、よりはっきりした気もするんです。ガジェット的なものよりも、身の回りにある、ありふれた言葉や感情を選んで特別な歌にしていく姿勢が強まったというか。

“離れて暮らす二人のために”とか、そういう感じがしますね。

──“静かな夜がいい”もそうだと思います。すごくいいポップスとして現代に着地した作品であると同時に、これからのスカートの変化が気になる作品でもあります。

そうですね。自分でも気になります。今はまだ次のことはぜんぜん考えれないですけど。

──ちなみに、スカートのアルバム(ミニ・アルバムも含め)といえば、これまでジャケットを飾ってきたのは、廣中慎吾(『エス・オー・エス』)、見富拓哉(『ストーリー』)、森雅之(『ひみつ』)、西村ツチカ(『サイダーの庭』)、町田洋(『シリウス』)、久野遥子(『CALL』)といった澤部くんが敬愛する漫画家の方々で、以前のインタビューでは「ジャケットってやっぱりひとつの窓じゃないですか。それをその時代によって変えるのは当然なのかなという感じなんです。だから、もともとだれかひとりの人とずっとやっていくとう気はなぜか最初からなかったんですよ」とも発言しています。でも、今回は、あえて前作『CALL』とおなじ久野遥子さんですね。

新作を『CALL』の続編みたいだっていう人もいるんです。だけど、自分の中では『CALL』と明確に違う部分がある。地続きなんだけど、地続きじゃないものがある。だったらもう一度久野さんに依頼するのは意味があると思ったんです。

──『20/20』というタイトルを冠したこと自体も、何かしら見えてきているという意識があってこそでしょうしね。これまでしてきことを継続しながら、新たな場所に飛ぶための覚悟を感じます。

そういう予感を歌っているアルバムだという感じがします。でも、「今は幸せだけど、いつかなくなってしまう」みたいな感覚は相変わらず自分の中では通底はしてるし、今回のアルバムでも、なくなってしまったもののことを歌ってはいます。“さよなら!さよなら!”って曲は、僕が昔ずっとバイトしていた本屋さんが閉店していたことを知ったことがきっかけでできた歌なんですよ。めちゃくちゃ落ち込んで、ぜんぜん書けなかった歌詞がすらすら書けました(笑)。もともとこの曲は「さよなら東京」という仮のタイトルだけぼんやりあったんですけど、歌詞ができてなかった。それが、閉店の報せを聞いて、やっぱり「自分にとってあるべきはずのものがない」という不在を歌わないといけないと思って、一気に書き上げました。

──「さよなら東京」ってタイトルのつもりだったとは。

すごく悩んだんですけど、それだと意味合いがありすぎると思って変えました(笑)。『20/20』で、2020年には東京オリンピックもあるし、「オリンピックで昔からの東京の街並みが消えることを歌ってるんですか?」みたいに受け取られるのは嫌だったんで。もっと個人的な話というか。

──いいソングライターは失恋体質だという笑い話のようなたとえがありますけど、澤部くんの場合は失恋というより、身近なものがなくなるということがひとつのキーになっているんですよね。それは同時に、スカートの楽曲が、ラブソングとラブソングじゃないところの境目で絶妙に響く魔法の鍵でもある。

そうですね(笑)。ラブソングはいまだに書けないです。難しいですね。いつになったら書けるんですかね(笑)。

──スカートみたいな曲を書きたいと思ってる人はすごく多いんですけどね(笑)。

スカート Major 1st Album”20/20″ダイジェスト・トレーラー

RELEASE INFORMATION

メジャー 1st アルバム『20/20』

2017.10.18(水)
スカート
PCCA.04583
¥2,600(+tax)
[amazonjs asin=”B074WM465Y” locale=”JP” title=”20/20(トゥエンティトゥエンティ)”]
収録曲
M1. 離れて暮らす二人のために(映画「PARKS パークス」挿入歌)
M2. 視界良好
M3. パラシュート
M4. 手の鳴る方へ急げ
M5. オータムリーヴス
M6. わたしのまち
M7. さよなら!さよなら!
M8. 私の好きな青
M9. ランプトン(テレビ東京ドラマ「山田孝之のカンヌ映画祭」エンディングテーマ)
M10. 魔女
M11. 静かな夜がいい
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EVENT INFORMATION

20/20 VISIONS TOUR

2017.10.21(土)
名古屋TOKUZO
w/バレーボウイズ

2017.10.29(日)
渋谷WWWX
w/台風クラブ

2017.11.26(日)
札幌SOUND CRUE
w/柴田聡子

2017.12.01(金)
福岡INSA

2017.12.03(日)
広島4.14
w/Homecomings

2017.12.6(水)
大阪Shangri-La

2017.12.20(水)
仙台enn 2nd

※各所:ゲストあり

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EVENT INFORMATION

スカート『20/20』リリースイベント

2017.10.18(水) 
20:00(集合19:30)
タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
バンドセットライブ、サイン会

2017.10.23(月)
19:30(集合19:00)
タワーレコード梅田NU茶屋町店
弾き語りライブ、サイン会

2017.10.25(水)
19:00~(優先観覧エリア入場時間:18:45)
タワーレコード福岡パルコ店
弾き語りライブ、サイン会

2017.10.26(木)
19:00(集合18:30)
タワーレコード 広島店
弾き語りライブ、サイン会

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Interview&Text by 松永良平