際立つトラック・メイキングにおけるクラフトマンシップと美声
ソンは昨年4月にここ数年猛烈に勢いに乗っている感のある名門レーベル〈4AD〉との契約をサインした。そして遂に今月末、EP『ザ・ホイール』と数々のリミックス・ワークでじっくりと温めてきた期待感を背負い、待望のソロ・デビュー・アルバム『トレマーズ』をリリースした。アルバムの中で当面彼の名刺代わりとなる代表曲はやはりEPとしてもリリースした“ザ・ホイール”に決まりだろう。スコット・ヘレンのクラフトマンシップとジェイムス・ブレイクの圧倒的なボーカリゼーションが同居したようなその完成度にまず舌を巻いてほしい。
SOHN – “The Wheel” (Live at the Hype Hotel 2013)
アルバム全体としてはバンクスらのリミックス・ワークでも見せてきた通り、基本的にはダーク&ダウナーな雰囲気で統一されている。また効果的かつ惜しみなく使われるヴォーカル・チョップ、丁寧な織物のように設計されたシンセ、当たり前にダブステップを通過しているヘヴィなワブル・ベースとトラック・メイキングには本当に多彩な音楽的要素とテクニックをこれでもかと盛り込んでいる。それにも関わらず決して必要以上に難しい印象を残さない点は実にお見事。それはおそらく「トラック・メイカー」としてではなく、「シンガーソングライター」として楽曲に取り組んでいることのバランス感覚によるものかもしれない。
『トレマーズ』
事実、冒頭曲“テンペスト”から全編を通して楽曲の中心にあるのはその歌声だ。実に伸びやかでありながら優美な倦怠感を感じさせるボーカルは、決して派手ではなく、強烈な印象を残すタイプではないが、音楽とのコンビネーションを含めたクオリティは正に成熟の一言。