ロンドンを拠点に活動する5人組ロック・バンド スクイッドSQUID)が、2月7日に最新アルバム『Cowards』を〈Warp Records〉よりリリース。今作は、前作『O Monolith』がリリースされるより以前の2022年11月から2023年4月まで、およそ6か月をかけて制作されたという。

ミックスは前作に続きトータスのジョン・マッケンタイアが担当し、アディショナル・プロダクションはこれまでもコラボレーションを続けてきたダン・キャリーが担当。レコーディングにはメンバー5人のほか、前作にも引き続きパーカッショニストのザンズ・ダガンらが参加した。Qeticでは、今作の制作面や幅広いインスパイア源から生まれたアルバムの収録曲、スクイッドの今後の展望などについて、メンバーのルイス・ボアレス(Gr./Vo.)とアーサー・レッドベター(Key./Strings/Perc.)の2人にたっぷりと話を訊いた。

INTERVIEW
SQUID

【INTERVIEW】SQUID『Cowards』 SQUID-by-Harrison-Fishman-2024-8-1920x2896

初めてのアルバム作りのような良いバイブス

*L:ルイス・ボアレス(Gr./Vo.)、A:アーサー・レッドベター(Key./Strings/Perc.)

──制作時期についての質問です。『Cowards』は前作『O Monolith』がリリースされた(2023年6月9日)以前の2022年の11月から2023年4月までの6か月間で制作されたそうですね。このようなスケジュール感になったのは、どういう理由がありますか?

A:そういうスケジュール感になったのはシンプルに時間があったから。ツアーにも出ないであまり忙しくないなんて滅多にないことだから、この時間をどう使おうかと話し合って、もっとたくさん曲を書くことにしたんだ。『O Monolith』がリリースされる前に、そしてそのツアーが始まる前に曲を完成させれば、作曲だけに集中できるしね。

──また、2024年内に『Cowards』を発表せず、2025年にしたのは何か理由がありますか?

L:アルバムって、曲は出来上がってもそれをリリースするまでには時間がかかるんだよ。追加のプロダクションとか、レコード会社の意向とかね。それに、まずは『O Monolith』をしっかりと世に送り出すことが重要だったから。『O Monolith』と『Cowards』は全く異なる2つのプロジェクトだったから、それはクロスオーバーさせずにちゃんと分けたかったんだ。

A:その質問には一つじゃなくて色んな答えがあると思う。(笑)

──じゃあ、今日のルイスの答えはそのうちの一つってことで。(笑) 制作期間となった2022年から2023年の時期は、ようやく世界がコロナ禍から明け、正常に戻っていく時期でした。このことが作品に影響を与えた部分はありますか?

L:『Bright Green Field』も『O Monolith』もコロナやロックダウンが影響していたから、普通の環境でアルバムを作ったことが逆になかったんだよね。田舎に行ってレコーディングしたりさ。でも今回は、普通にスタジオに通う形でレコーディングできた。スタジオに通勤して、スタジオを中心に世界が回っているような感じ。だから、まるで初めてのアルバム作りのように感じたよ。スタジオに行って仕事をして、そのあと友達に会って家に帰って、次の日またスタジオに戻る。だから逆に作業に集中できたし、すごくいいバイブスで作れたと思う。みんな良いムードで作業できたからね。

A:確かにプレッシャーが少なかった。自分たちに課したプレッシャーは緊急性だけ。しかも良い意味でね。『O Monolith』のリリースよりも先に作れるかやってみようと思って。そうすれば、周りから何も期待されないうちに自分たちのアイディアを自由にまとめることができるから。

【INTERVIEW】SQUID『Cowards』 SQUID-by-Harrison-Fishman-2024-3-original-1920x1440

──アルバムをリリースするごとにSquidは認知されていき、会場のキャパや音楽フェスのステージも大きくなっています。ライブするステージが大きくなっていくことが、楽曲制作に影響を与える部分はありますか?

A:影響というか、唯一変わったと言えるのは、ステージにもっとたくさんの楽器を並べることができるようになったこと。この数年で、より大きな会場でプレイできるようになったり予算が増えたことで、自分たちのライブへの想像力やステージで出来ることの範囲が広がったと思う。ステージが大きくなった分、サウンドを作るときに、どうすればもっと音を拡大できるか、どうすれば限界を越えることができるか、というのを考えながら曲を書くようになったからね。今回のアルバムでも、今の自分たちの限界に良い意味で達することができたと思う。自分たちが演奏する空間にうまく音を詰め込むことができたんじゃないかな。

──つまり、ステージのサイズに比例してサウンドも大きくなっていっていると?

L:それが、面白いことにそうでもないんだ。ステージで使う楽器の数はもちろんファースト・アルバムの時に比べて増えているんだけど、今回のアルバムに関しては、サウンド的にこれまでで一番空間の広さを感じることができるアレンジになっていると思う。“空っぽ”というと変だけど、サウンドがある意味まばらなんだよ。音が詰まりすぎていない。何かが可能だからといって、その全てを毎回持ち込む必要はないんだ。あえて制限を設けるというのも、ミュージシャンとして面白い部分なんだよね。

「小説や映画から得たインスピレーションのスクラップブック」

──2024年11月に公開された「Crispy Skin」のインスパイア源は書籍『Tender Is The Flesh』だそうですね。そこにフォーカスした理由を教えてください。

L:その作品にインスピレーションを得たのはオリーで、彼は意思決定と無関心というアイディアに興味を持ったんだと思う。その小説では人類の終末的な結末を想像しているんだけど、ストーリーの中では、ある種の人々が創造され、人々に販売される、人々が商品化されてしまうというすごく強烈で不気味なアイディアが描かれている。オリーはその影響を受けて、無関心という考え方をブラックコメディ調に表現しているんだ。ある困難な決断を迫られた時、自分がどのような決断を下すのか。そして、間違った決断を下しているとしたら、それは自分が悪い人間だと感じさせるのか? 自分が臆病者だと感じさせるのか?

「Crispy Skin」は、アルバムを書いている時に歌詞を即座に思いついた最初の曲の一つなんだけど、フィクションや散文を使って叙情的なアンソロジーのような物語を引き出すというアイディア、つまり、アルバムの叙情的な世界に対する考え方やアプローチは、「Crispy Skin」を書いたことで一気に加速したと思う。フィクションや小説を読む時、僕たちは自分自身を主人公のように想像する傾向がある。「Crispy Skin」の歌詞は、このアルバムの全ての曲を登場人物が沢山出てくる小さな物語としてとらえる、というアイディアに辿り着くのにすごく役立ったと思うね。

──また、ミュージックビデオには実験映画作家の伊藤高志の実験短編映画『ZONE』(1995) がフィーチャーされていますが、これにはどういう経緯や繋がりがあったのか教えてください。

L:あのビデオでは、短編映画の権利を使えるかどうかを試してみるというアイディアがあったんだ。そしてある意味、あの映像は歌詞で歌われていることと同じような感じがしたからあの作品を使うことにしたんだよ。すでに存在するものに新たな意味を与えるようで面白いと思ったんだよね。それはすでに誰かが作ったもので、そこに自分の音楽を入れて、埋め込むことでその作品をアレンジして発展させるのは、クールな方法だなと思った。僕たち自身もこのビデオが大好きなんだ。悪夢と素敵な夢の中間のようで、とても挑戦的で暗い。そして、物語性がなくて、意識の流れがうっすらと流れているような感じなところがこの曲とすごく合っていると思う。まるであの映像がこの曲のために作られたような感覚にさえなったね。

Squid – Crispy Skin (Official Video)

──伊藤高志さんの作品の中で『ZONE』をピックアップしたのは、何か特別な理由がありますか?

L:彼の他の作品は知らなかったんだよ。誰かの作品を偶然発見して嬉しい驚きを感じるっていうアイディアがまずあったから、作家よりも先に作品の方を発見したんだ。あの作品を観た時はすごくワクワクした。彼の他の作品を観たのはその後だったんだけど、どの作品も本当にクールだと思ったね。

──そうした「Crispy Skin」から始まる『Cowards』のテーマは“悪”だということですが、そういったテーマに至った経緯、また、それを現代に表現しようと考えた理由について教えてください。

A:僕らの場合、テーマについて議論したり、それを選択したりすることはないんだ。テーマは僕らにとって制作過程で浮かび上がってくるもので、少なくとも僕にとっては、リスナーやオーディエンスがタイトルや歌詞から自分なりのテーマや意味を導き出すことが一番重要だと思う。そして、歌詞についてはやっぱりオリーがその由来と内容を語るのに一番適していると思うから僕たちはあまり答えられない。それぞれの曲が異なるキャラクターやパーソナリティを持っているし、アルバム全体の内容に関してまとめて語るのは容易ではないんだよ。

L:確かにそうだね。幅が広すぎて。僕たちは、音楽については沢山語るけど歌詞に関してはあまり語らない。あまり踏み込みすぎないことで良い具合の神秘性が保たれ、その神秘性のおかげで音楽がより面白くなっている部分もあると思う。

──では、アルバムのテーマと作品タイトルの繋がりについて教えてください。

L:これもまた、レコードを聴いている人たちに自分なりの答えを見つけてほしい。悪と臆病者というのは2つの異なるスペクトラムとして互いに向き合っている。そして今回のアルバムには様々な登場人物にまつわる一連の物語があり、その中には似ているものもあれば違うものもあるんだ。自分たちのアルバムがキャラクターについて歌っているように感じたのは今回が初めて。これまでは、場所や空間を強調したアルバムを作ってきたと思う。だから、今回はとても人間的なレコードだと言えるんじゃないかな。だからこそ、内容をできるだけ曖昧にしておくことで聴き手はより作品を楽しめると思うんだ。

【INTERVIEW】SQUID『Cowards』 SQUID-by-Harrison-Fishman-2024-5-1x1-1920x1920

──内容ではなく、主にリリックに関して、インスパイア源となった文学などのアートについて教えてもらうことはできますか?

L:インスパイア源に関しては、今回は映画や本、物語に大きく影響されている。童話もあればおとぎ話もあるし、今僕たちの周りで起こっている現実の物語からも影響を受けているしね。小説や映画から得た様々なインスピレーションのスクラップブックみたいな感じ。歴史的な情報もたくさん盛り込まれているし、異なる世紀、異なる場所、世界で起こったことが書かれているんだ。今回のインスピレーションは本当に幅広いんだよ。

──もしできれば、例として具体的な作品名をいくつか挙げてもらえますか?

L:もちろん。最後のトラックの歌詞の内容は、カート・ヴォネガットの『スローターハウス5』という本から来てる。あと、「Building 650」は村上春樹の『イン・ザ・ミソスープ』から、「Cro-Magnon Man」は童話の『The Amd Who Wanted to Live Forever』から影響を受けている。そして「Showtime!」は、物語というよりは、アイディ・ウォーホルと彼の弟子たちに70年代にマンハッタンで起こった奇妙な話に影響を受けているんだ。

Squid – Building 650 (Official Video)

Squid – Cro-Magnon Man (Official Visualiser)

異なる影響源から生まれる自分たちらしいサウンド

──初めてSquidの音楽を体験する読者に向けた質問です。バンドが影響を受けている音楽、アーティストなどについて、教えてください。

A:僕たち全員影響を受けている音楽が違うんだよね。多分それが合わさることで、ユニークで面白い質感が作られるんじゃないかな。僕らのサウンドがかなり折衷的になるのは、曲を書くときに皆がそれぞれ異なる影響源を持ってくるからだと思う。個人的に、僕は最近ハービー・ハンコックをよく聴いているんだ。彼のピアノアルバム。彼の音楽は子供の頃からずっと聴いてきたけど、最近になってまた沢山聴くようになった。あと、ソウルやフォーク音楽も最近はよく聴いてる。昔からずっと大好きなのはウィズ・ジョーンズ。彼はサウス・ロンドンのクロイドン出身のブルース・フォーク・ギタリストなんだけど、イギリス国外ではあまり知られていないんだ。でもすごくイギリスっぽくて、僕にとってはすごくアットホームなサウンドに感じられて好きなんだよね。

──ルイスはどうですか?

L:ジェフ・パーカーはバンドの中にも数人ファンがいる。彼はトータスというバンドのギタリストで、『The Way Out of Easy』っていう作品は、表向きはジャズなんだろうけど、ジャズだけの枠に収まらないサウンドなんだ。すごくローファイに感じるし、トータスっぽさもあるんだけどすごくリラックスできる美しいサウンド。素晴らしい即興演奏のレコードだと思う。あと、このあとアーサーに会う予定でちょうどアーサーにこのレコードを紹介しようと思ってたところなんだけど、Dalmo MotaとBeth Dauの『Pra Voce Cantar』っていうブラジルのレコードがすごくクールなんだよ。ブラジルの音楽だからもちろんサンバやボサノバの要素もあるんだけど、すごくクラシックぽいんだよね。すこがすごく好きで。おすすめのレコードだからよかったら聴いてみて。

──そうしたバンドのルーツにある音楽が、今作『Cowards』に影響を与えた部分があったら教えてください。

A:ルイスや他のメンバーがこれに同意するかはわからないけど、僕は、様々な影響やスタイルを一つにまとめ、異なる多くのジャンルに触れつつ自分たちらしいサウンドが出来たという点で、今回のアルバムからはビョークっぽさを感じるんだよね。彼女の音楽は、すごく自由なんだけど必ず彼女らしく聴こえる。だから、今回のアルバムの数曲に関しては、個人的にビョークの曲を意識しながらアレンジしたんだ。

L:それすごくいいね。僕自身はビョークの作品を聴いたことはないけど、バンドメンバーの多くが彼女の大ファンなのも知っているし、彼らがビョークの音楽のどこが好きなのか話しているのを聞くのが好きなんだ。僕自身はビョークから影響を受けたことはないけれど、さっきアーサーが言ったことは確かにそうだと思う。あと、僕たちの中にはケイト・ブッシュのファンも多い。僕自身も彼女の音楽が大好きだし、彼女は本当に素晴らしいミュージシャン、作曲家だと思う。このレコードでは、僕は個人的に、対位法に対する独特のアプローチや様々なリズムのアイディアを織り交ぜる作曲家たちから大きく影響されているんだ。例えば、フィリップ・グラスの『Solo Piano』や『Glass Works』とかね。あと僕たちは、マーク・ホリスの素晴らしい共鳴音のアプローチについて話していたんだけど、多分その会話があったから今回はチャーチ・スタジオに行くことになったんだと思う。あそこは僕たちがこれまで作業した中でも一番音が響く場所だった。これまでも広い場所で作業してことはあるけど、やはり音がこもってしまって。ドラムを叩いてもその余韻が聴こえない、みたいな。でもチャーチ・スタジオでは、すごく良い反響音をレコーディングすることができた。そこはトーク・トークから得たインスピレーションだと思う。

──今作を経て、Squidはどのような活動を行なっていきたいと思いますか? 2025年の展望を教えてください。

A:とにかくツアーだね。自分たち自身も、このアルバムがステージ上でどのように表現されることになるのかすごくワクワクしているんだ。演奏することに対してここまでドキドキするアルバムを書いたのは初めてだと思う。もちろんどの曲を演奏しても興奮はするんだけど、今回は今のところ全曲上手くパフォーマスに持っていけそうですごく楽しみなんだよね。

──日本の数多くのファンが再び来日してくれることを期待しています! また日本でライブを観れる日を楽しみにしています!

L:早く日本に行きたいんだ。リハーサルを終わらせて、それからヨーロッパ・ツアーを終わらせて、日本に行けるのはそのあとかな。今年の後半か来年行けると良いんだけど。また皆に会えるのを楽しみにしているよ。

Interview&Text:RYO TAJIMA
Photo:Harrison Fishman
Translation:原口美穂

INFORMATION

【INTERVIEW】SQUID『Cowards』 unnamed-1

Cowards

2025.2.7
SQUID
 
CD Tracklist
01. Phenomenal World (Bonus Track)
02. Crispy Skin
03. Building 650
04. Blood On The Boulders
05. Fieldworks I
06. Fieldworks II
07. Cro-Magnon Man
08. Cowards
09. Showtime!
10. Well Met (Fingers Through Fences)
 
LP Tracklist
A1. Crispy Skin
A2. Building 650
A3. Blood on the Boulders
A4. Fieldworks I
A5. Fieldworks II
B1. Cro-Magnon Man
B2. Cowards
B3. Showtime!
B4. Well Met (Fingers Through The Fence)

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