StarFes.2013
2013.03.23(sat)@東扇島東公園
シャトル・バスを降りると、目の前には圧巻の光景が広がっていた。おそらくそこに集まったほとんどの人にとって2013年初の野外フェスとなった<StarFes.2013>、その会場東扇島東公園は川崎駅からバスで25分程度の場所にある。我われは川崎駅の前から無料のシャトル・バスに乗り込み、京浜工業地帯のバカでかい工場や倉庫、だだっぴろい道路を眺めながらその場所に向かった。会場が見えてくると、バスの中がザワザワと騒がしくなる。日本屈指の工業地帯のど真ん中に、こんな場所があったのかという驚きと興奮のざわめきだ。人工海浜を有した広大な敷地に、ステージがそびえたち、その背後には行機や大型船舶も見える。マニアたちに人気の工場夜景クルーズなどもこの周辺でおこなわれており、そのダイナミックなロケーションにまずはほとんどの来場者が圧倒されたに違いない。
ステージは3つ。僕はまず最も大きなステージとなるStar Stageに向かった。アグレッシヴなダンス・トラックで来場者たちを迎えたRYO TSUTSUIを経て、午前11時、いま最も注目するべき4人組のロック・バンド、[Champagne]がステージに登場。スタイリッシュでありながらも、脳を揺さぶるような刺激的なリフやリズムでオーディエンスを躍らせるアクトは、和製フランツ・フェルディナンドとでも形容したくなるほど。その瑞々しい魅力で開演して間もない会場の熱を一気にヒートアップさせた。その後、このステージにはバックドロップ・ボム、SUGIZO、ジャザノヴァも出演、これらがすべてお昼前後に繰り広げられるという豪華さだ。ジャザノヴァはこの上なくセクシーなヴォーカリスト、ポール・ランドルフを従えてのセット。ベーシック・チャンネル系の渋めのテクノからお家芸のクロスオーヴァ―なハウス、テクノなどにポールのソウルフルなヴォーカルをミックスさせ、昼下がりの東扇島東公園に最高に心地よいグルーヴを響かせた。
バックドロップ・ボム
[Champagne]
SUGIZO
ジャザノヴァ feat. ポール・ランドルフ
続いて、ダンス系からロック・バンドまで様々なタイプのアーティストが出演するStar JAM へ。こちらは唯一の室内会場となっており、僕が着いた時には、すでにトップバターのregaが溢れかえらんばかりのオーディエンスを前に熱いライヴを披露。彼らはこのイヴェントへの出演権をかけた前哨戦イヴェント<StarExhibition.2012>を勝ち上がり(Daichiとの同点優勝)、このステージの出演権を獲得したという背景もあり、トーキング・ヘッズと!!!の合体? 南国生まれのバトルズ? なんとも形容しがたいその独創的なインスト・サウンドがいつにも増して活き活きと響かせていた。このステージにはDEXPISTOLS、80KIDZ、Daichi、AFRA、mouse on the keys、HIFANA、DJ KENTAROといったアクトが出演。<StarExhibition.2012 >を勝ち上がったもう1人のネクストスター 、Daichiと先輩格のAFRAによる鳥肌もののセッション、涙している人もいた(!)mouse on the keysによる圧巻のパフォーマンス、華々しくこのステージのフィナーレを飾ったDJ KENTAROなど様々なハイライトがあり、(まったく狭いスペースではないのだが)どのアクトも入場規制がかかる盛り上がりっぷりだった。
80KIDZ
mouse on the keys
DEXPISTOLS
HIFANA
もうひとつのステージStar Floor はクラブ・ミュージック系中心。流麗で抑制の効いたテック・ハウスでオーディエンスを魅了したKaito aka Hiroshi Watanabe、エモーショナルで強烈なサウンドを叩きつけたDE DE MOUSE、彼らのサウンドの秘密を解き明かすようなフレンドリー・ファイアーズDJセット、デトロイト・テクノの真骨頂を聴かせてくれたオクタヴ・ワン、中毒性の高い熟練のグルーヴでセクシーでファンキーなヴァイヴスを生み出したマーク・ファリナ、クロスオヴァーな選曲でブラック・ミュージックの深淵を聴かせたセオ・パリッシュと、豪華過ぎる役者たちがそれぞれに最高のパフォーマンスを披露していた。
DE DE MOUSE
マーク・ファリナ
フレンドリー・ファイアーズ
セオ・パリッシュ
少し前後するが、Star Stageに話を戻そう。その後、このステージにはスチャダラパー、電気グルーヴ、ジ・オーブが登場。スチャダラパーはキーボード、パーカッション、ベースからなる「コスト・パフォーマンス」なるバンドを従えてのアクト。お馴染みの“GET UP DANCE”で登場し、“アーバン文法”、“ライツカメラアクション”といった懐かしいヒット曲も交えつつ、最高に楽しい空間を作っていく。ラストの“ブギーバック”までオーディエンスを裏切らない、貫録のエンターテイナーっぷりを見せつけた。
ピースフルな電気グルーヴ。ニュー・アルバム『人間と動物』をひっさげての全国ツアー直後だったこともあり、彼らの好調っぷりがビシビシと伝わってくる。石野卓球、ピエール瀧が入院患者よろしくカラカラと点滴を引っ張りながら“The Big Shirts”を一緒に歌い登場したオープニングは爆笑だったが、“Missing Beatz”、“SHAME”、“SHAMEFUL”といった新しい曲を盛り込んだ前半、“FLASHBACK DISCO”、“Shangri-La”、“N.O.”、“あすなろサンシャイン”といったヒット曲メドレーとなった後半と新旧楽曲をバランスよく散りばめ、夕暮れ時の工場地帯を巨大なレイヴ会場へと変貌させた。
スチャダラパー
日が完全に落ち、キラキラと輝く工場の夜景を背景に、ジ・オーブが登場した。アレックス・パターソンとトーマス・フェルマンの横並びは、なにかそれだけで神々しい。セカンド・サマー・オブ・ラヴの時代から活躍する言わずと知れた大ヴェテランだが、そのサウンドは錆びつくどころか、ますます研ぎ澄まされ、新たな響きをもって聴く者たちを音の奥底へと誘っていく。後半に披露したテクノ史上に残る名曲“Little Fluffy Clouds”はあまりに美しく、そこに集まったすべての人間を魅了した。
ジ・オーブ
僕はレポート班だったこともあり、あくせくいろいろなステージを巡っていたのだけど、すべてのステージが5分から10分程度で移動できるのはかなり素晴らしかった。しかもステージごとの音が全然かぶっていない。欲張ればさまざまなジャンルのアーティストをすべて堪能することも可能だし、(ほぼストレスなく購入可能な)さまざまなフェス飯やお酒を堪能しながら雰囲気を楽しむもよし、どこかのステージに密着して観るのもよし、それぞれにさまざまな楽しみ方が実践できるフェスだと思った。あの素晴らしい会場、そしてこれだけの豪華ラインナップ。もちろん来年も開催して欲しいし、“日本一早い夏フェス”としてこれから長く定着していってもらいたい。
text by Naohiro Kato