白と黒のポップなロゴが目印の〈SUB POP(サブポップ)〉。適当に棚に突っ込んだだけの巨大リサイクルショップに行った際に、側面にプリントされたこのインパクトあるレーベルロゴのついたCDをピックアップ(救出)作業を行う。なぜならイイCDが多いから眠らせておくわけにはいかないから。
世界で最も有名なインディーレーベルとして君臨する〈SUB POP〉。今ではフリート・フォクシーズ、ノー・エイジ、ザ・シンズ、ウォッシュト・アウトなど人気バンドを継続して輩出し続けている。〈SUB POP〉は米シアトルで79年にファンジンからスタート、年会費を払うと毎月7インチが届くシステム“SUB POP シングルスクラブ”や数々の名コンピ盤などシングルを重視した手法で無名でも良質なバンド大量に輩出し、世界のコアなロックファンのハートを掴む。90年代に入りシアトル出身のニルヴァーナやマッドハニー、サウンドガーデンが人気となり“グランジ”ブームが到来! 「シアトル=SUB POP=グランジの宝庫」という状況でますますレーベルの人気に拍車がかかる。しかし94年のニルヴァーナのカートの死とともにグランジブームも終了し、〈SUB POP〉も一時の勢いが失速――。〈SUB POP〉は当初よりガレージパンク、ハードコア、オルタナティブ等かなりゴチャマゼ感のあるレーベルとして愛されていたが、メディア先行で流行してしまったグランジの影響をモロに被り、その頃勢いのあったラウド/ミクスチャー勢に押される形で〈SUB POP〉の90年代後半はちょっと残念な時期となってしまう。
だが2000年に入り本来持っていたレーベルの先見の明? を発揮するかのごとくザ・ポスタル・サーヴィスの『ギヴ・アップ』(03年)が大ヒット。この時期からレーベルとしてジャンルの幅が広くなって行き、エレクトロやノイズ、フォーク等さらにゴチャマゼ感がパワーアップ、インディー総合レーベルとして現在に至るわけです。レーベルのユニークさは相変わらずで、昨年レーベルの猛プッシュでデビューしたオルタナ/ジャンクバンドのMETZは90年代のバンドかっ? て感じの印象で、その時代錯誤なリリースに度肝を抜かれたし、今年の<RECORD STORE DAY>には〈SUB POP〉の名コンピシリーズの最新作『SUB POP 1000』が限定リリースされるとのこと(メンツもなんかヤバイぞ)。さて、今回紹介する2組は〈SUB POP〉の歴史においても重要な存在でありレーベルの”顔”と言っていいアーティスト。青春時代を〈SUB POP〉とともに過ごしたファンはもちろん、まだレーベルを知らない方への入門盤としてもオススメできる作品だ。きっとすぐに白と黒のロゴの虜になることになるでしょう。
Review:MUDHONEY『Vanishing Point』
90年代グランジ/オルタナシーンの中心的存在であったと言っても過言ではないバンドマッドハニー。多くのグランジバンドが陰気で暗い雰囲気を醸しだしていた中、彼らは60年代ガレージパンクと80年代ハードコアパンクの影響が混ぜ合わせような音楽に、捻くれたポップセンスをぶち込んだ独特の破壊力と衝動性を持ち、グランジ/オルタナの超名盤、EP『SUPERFUZZ BIGMUFF』(88年)でシーンに登場した。
一度は〈SUB POP〉を離れメジャーへ移籍するも2002年のアルバム『Since We’ve Become Translucent』で復帰。そういえば2001年に友人が某バンドのUSツアー同行の際、突然興奮ぎみに私へ連絡があった。「今、宿泊先で起きたらマッドハニーのメンバーが目の前にいたよ!」当時は情報も少なく、そんな大御所がなんで? って感じだったのだが、後から聞いたところインディーバンド中心のフェスに出演予定だったようだ。90年代に大ブレイクした流れにうまく乗っていれば、確実にスタジアム級のビッグなバンドになり得たのだが、本人達はいたってマイペースで商業主義には走らず、好きな音楽を地道に続けている印象が彼らにはあった。
〈SUB POP〉レーベルと共に今年で25周年となるマッドハニーが新作『バニシング・ポイント』を届けてくれた。前作から5年ぶり。1曲目からファズギターがブィーと鳴り響く。最近の言葉で言うとキレキレなファズである。近年の作品の路線とはほぼ変わっておらず目新しさはないが、彼らにはそういうものは必要がないわけで。特に本作は元々持っている彼らの60’sガレージパンク風味がより強調され、マーク・アームの歌がさらにソウルフルでブルージーな方向に向かっている感じがあり聴き入ってしまった。そう思っているとファズエフェクターのスイッチがカチっと入り、ギターがビリビリと泣き叫び、往年の爆裂パンクチューンが炸裂! 奇妙なマッドハニーの世界にドップリと引き込まれ、気が付くと私は全力でヘッドバンキングしている状況に。全く油断が出来ないのもマッドハニーの魅力。なのでボリュームは最大、周りに危険な物を置かないで集中して聴いていただくのがベスト。
Review:THE POSTAL SERVICE『THE POSTAL SERVICE / Give Up: Deluxe 10th Anniversary Edition』
シアトルのロック・バンド、デス・キャブ・フォー・キューティーのフロントマンBen Gibbard(ベン・ギバート)と、LAのエレクトロニカ・ユニット、Dntel(ディンテル)のJimmy Tamborello(ジミー・タンボレロ)による極上ポップシンセ・ユニットザ・ポスタル・サーヴィス。ディンテルでのアルバムの共演をきっかけに結成し2003年に『ギブ・アップ』を発表。この時期の〈SUB POP〉はなんとなく地味だなあと感じていたところにリリースされたこの作品はレーベルの起爆剤となり、なんとトータルで100万枚も売り上げ〈SUBPOP〉歴代2位を記録した重要な1枚となる(ちなみに1位はニルヴァーナ『ブリーチ』(89年))。〈SUB POP〉で一番好きなアルバムとしてコレを挙げる方も多いはず。ベンの甘酸っぱく切ないヴォーカルとジミーの作る80’sエレクトロポップをハイブリット化したような刺激的なトラック。2人はそれぞれシアトルとLAが拠点だったため、デモを作って郵便で送りと短期間でアルバムを制作。この作業がバンド名になったそう。
『ギヴ・アップ』のヒットがきっかけでデス・キャブ・フォー・キューティもファン層も広がり人気も上昇、ベンのルックスも若干オシャレな方向に進化したような気がしますね。リリースから10周年記念として発表される『Give Up: Deluxe 10th Anniversary Edition』は歴史的傑作のリマスターオリジナルアルバム(DISC 1)に加え、未発表2曲、EP収録曲により構成されたボーナスディスク(DISC 2)の2枚組。素晴らしすぎる“Suddenly Everything Has Changed(フレーミング・リップスのカバー)”、“Against All Odds(フィル・コリンズのカバー)”、またザ・シンズ、アイアン・アンド・ワインによってカバーされた曲が収録。そしてバンドは今年ライブ活動を再始動! ツアー日程も発表されておりソールドアウト連発。ぜひ来日してほしいですな。
ちなみに先日UPされた動画がオモロイ。ザ・ポスタル・サーヴィス結成の際のオーディションだそうで(笑)。アル・ヤンコビック、モービー、エイミー・マン、ダフ・マッケイガン等が出演!
★筆者紹介:TOHEZO/OSOMALO
レアなバンドTシャツの通販ショップOSOMALOを運営。
マッドハニーもポスタル・サーヴィスもアルヨ!
Release Information
Now on sale! Artist:Mudhoney(マッドハニー) Title:Vanishing Point(ヴァニシング・ポイント) Traffic TRCP-107 ¥2,310(tax incl.) 解説/歌詞対訳付/ボーナス・トラック追加収録(予定) Track List |
Now on sale! Artist:THE POSTAL SERVICE(ザ・ポスタル・サーヴィス) Title:GIVE UP ~ 10th Anniversary Edition~(ギヴ・アップ ~10th アニヴァーサリー・デラックス・エディション~) Traffic TRCP-108 ~ 109 2枚組スペシャル・プライス ¥2,520(tax incl.) 解説/歌詞対訳付 Track List:Disc 1(Original Album) Track List:Disc2(New Tracks, Rarities, B-Sides, Remixes, Cover versions, etc.) |