90年代の英国のロック・ミュージックの栄華、つまりブリップ・ポップの黄金期をオアシスやブラーたちと共に駆け抜けた偉大なるバンドでありアイコン、スウェード。臭い立つようなエロティシズム、頭の固いおっさんおばさん連中は眉をひそめてしまう退廃的な美意識、そして強烈なまでのロック・スタートとしてのカリスマ性を兼ね備え、彼らは3枚の全英No.1アルバム、20枚を超えるトップ10シングルをチャートに叩き込み、ブリップ・ポップを代表するバンドのひとつとして一時代を築き上げた。2003年にスウェードはその歴史にいったん終止符を打つのだが、2010年3月、世界中のファンを狂喜乱舞させたロイヤル・アルバート・ホールでのライヴを契機に奇跡の完全復活。そして11年ぶり、6枚目のアルバム『ブラッドスポーツ』がついに完成した。今回はこのリリースを祝し、この偉大なるバンドの軌跡を振り返りながら、待望のニュー・アルバム『ブラッドスポーツ』を紹介させていただこう。
UKロック・シーンに輝きを取り戻したセンセーショナルなデビュー!
そして一気にスターダムへと!
Suede – “The Drowners”
スウェードのデビューはまさしくセンセーショナルだった。1992年、デビュー・シングル“ザ・ドラウナーズ”のリリースを控えた彼ら、言うなれば、無名の新人を(当時はUKを代表するロック・メディアとして絶大な影響力を持っていた)音楽誌「メロディー・メイカー」は「イギリス最高のニュー・バンド」として表紙に抜擢したのだ。その後、“メタル・ミッキー”が全英トップ20入り、“アニマル・ナイトレイト”が全英トップテン入りというインディー・バンドとしては異例のセールスを記録し、彼らは一気にスターダムを駆け上っていく。93年3月にリリースとなったファースト・アルバム『スウェード』は、発売1週目で10万枚を売り上げ、全英1位を獲得。これは当時のイギリスでのデビュー作最速売り上げを更新するものとなった。マッドチェスターの狂騒が終息し、USのグランジやオルタナが猛威を振るう中、低迷が叫ばれ続けてきたUKのロックシーンにとって、スウェードはまさしく救世主のような存在であったに違いない。これをブラー、オアシスといったバンドたちが追いかけるような形で、UKから数多くのインディー・バンドたちがデビュー、次第にそれはブリット・ポップという巨大なうねりとなって、世界に発信されていくことになる。スウェードの“ザ・ドラウナーズ”こそ、ブリット・ポップの出発点だったと主張するファンも多い。そのサウンドは「ザ・スミスとデヴィッド・ボウイの出会い」とも形容され、また裸の少年がキスをして抱擁を交わしている『スウェード』のセンセーショナルジャケットが象徴的するように、ブレットは同性愛、近親姦、獣姦などを扱った刺激的なリリックを書き、メンバーがバイセクシャルやゲイであることも公言し、サウンドのみならず、騒ぎ立てるメディアたちのセンセーショナリズムさえも味方につけ、ブリットポップ・ハイプで沸き立つ激戦必至のUKチャートに、3枚の全英No.1アルバム、20枚を超えるトップ10シングルを叩き込んでいく。
メンバー脱退、麻薬中毒、会社の倒産……、決して順風満帆ではなかったバンドの軌跡
Suede – “Stay Together”
バンドはまさにUKロックシーンの頂点を極め、セールス的にも大きな成功を収めたが、決してすべてが順風満帆というわけではなかった。ザ・スミスにおけるモリッシーとジョニー・マーとの関係にも例えられたヴォーカルのブレット・アンダーソン、ギターのバーナード・バトラーという2大アイコンが初期のスウェードの強烈な個性を作り上げていたが、バーナードは音楽性以外の部分でもメディアに取り沙汰にされるブレットに嫌気がさし、セカンド・アルバム『ドッグ・マン・スター』(94年)の完成直前にバンドを脱退してしまう。『ドッグ・マン・スター』に収録された8分にも及ぶ美しいバラード“ステイ・トゥゲザー”は、全英3位と彼らの最大のヒット・シングルになったが、皮肉にも曲名とは裏腹にこの曲の後、ふたりの姿を一緒に拝むことはできなくなってしまった。かしバーナードが離れた後もバンドは継続をしていくことを宣言。「名の知られたバンドがギタリストを探しています。コクトー・ツインズ、スウェード、ビートルズの影響を受けています」というメンバー募集広告を打ち、600通の応募の中から当時17歳のリチャード・オークスが加入。またキーボードにドラムのサイモン・ギルバートの従兄弟であるニール・コドリングも加え、サード・アルバム『カミング・アップ』(96年)をヒットさせる。99年にリリースされた『ヘッド・ミュージック』は、セールス的にはこれまでの作品に及ばなかったものの、ダンス・ミュージックの要素を取り入れた新境地を聴かせる傑作である。このあたりの時期から、かねてからのブレットの薬物中毒が悪化、キーボードのニールが慢性疲労症候群という難病によりバンドを脱退、彼らがデビュー当時から所属していた〈ヌード・レコーズ〉が倒産するなど、ネガティヴな話題も増えていく。アコースティック主体の5thアルバム『ニュー・モーニング』(02年)は傑作ながら、セールス的には振るわなかった。
ブレットとバーナードが再び邂逅、そしてそれぞれのソロ活動へ
The Tears – “Refugees”
2003年、バンドはベスト・アルバム『シングルズ』を発表。これに合わせて、同年9月にこれまで発表した5枚のアルバムをまるごと1枚演奏していくというユニークな企画での5夜連続のコンサートをおこなったものの、同年の11月に活動停止を発表した。しかし、解散と同時に嬉しい話題もあった。ほぼ絶縁状態が続いていた、ブレットとバーナードがまさかの和解。2004年にふたりはザ・ティアーズを結成する。ザ・ティアーズとしてはアルバム『ヒア・カム・ザ・ティアーズ』(05年)の1枚をリリースするだけに留まったが、ブレットとバーナードが生み出す新たなハーモニーを聴くことができたのは、ファンにとっては嬉しいことだった。その後、ブレットはソロ活動を精力的におこない、『ブレット・アンダーソン』(07年)、『ウィルダネス』(08年)、『スロー・アタック』(09年)、『ブラック・レインボウズ』(11年)と大変なハイペースで作品を発表。またバーナードはプロデューサーとしての手腕を発揮し、ザ・リバティーンズ、ザ・クリブス、ケイジャン・ダンス・パーティ、ブラック・キッズといった有力な新世代たちの作品に関わっていく。
奇跡の再結成! ついに完成した11年ぶりのニュー・アルバム『ブラッドスポーツ』!
Suede – “It Starts And Ends With You”
まさかこんな日がやってくるとは夢にも思っていなかったが、2010年3月、バンドはチャリティー・コンサートの一環としておこなわれたロイヤル・アルバート・ホールでのライヴにてまさかの復活を果たす。ひさびさにステージに立った彼らは、衰えるどころか、よりセクシュアルでビザールなムードを纏い、かつてないほどにパワフルで、洗練されていた。まさに完全復活というやつだ。その後、彼らはEUツアーなど精力的にライヴをおこない、それらのパフォーマンスは各地で大きな賞賛を浴びた。また、一昨年の<サマーソニック2011>、そして昨年の<NANO-MUGEN FES>と2年連続で来日も果たし、強烈なパフォーマンスを見せてくれたのも記憶に新しい。そして、ついに11年ぶりのニュー・アルバム『ブラッドスポーツ』が我われのもとに届けられた。世にスウェードを知らせしめた初期3作『スウェード』、『ドッグ・マン・スター』、『カミング・アップ』を手掛けたエド・ビューラーをプロデューサーに迎えた本作は、スウェードの最良の部分を継承しつつも、まるでデビューしたてのバンドのような瑞々しい躍動感があり、年齢を重ね表現力も説得力も格段に深みを増した胸に迫る耽美で美しいメロディがある。ブリット・ポップの黎明期から、さまざまな道を歩きながら辿り着いた、スウェードの新たな境地、かつてのファンも、まだ聴いたことがないあなたも、ぜひ耳にしていただきたい。
(text by Naohiro Kato)
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Release Information
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