3年ぶりに開催、さまざまな世代や国境を越え、音楽と共に開放的な空気を思う存分堪能したい人々が集結し、熱くそしてピースフルな盛り上がりをみせた<朝霧JAM 2022 – It’s a beautiful day>。ステージにおいても、日本のベテラン・シンガーから、注目のバンド勢やDJまでさまざまな個性を放つミュージシャンが登場し、この開放的な空気だからこそ表現できるスペシャルなセッションを披露していた。
【ジ・インスペクター・クルーゾ】朝霧JAMの熱狂
そのなかでも、初日の夕暮れの時間帯に登場した、フランス・ガスコーニュ発のブルース・ロック・デュオであるジ・インスペクター・クルーゾ(THE INSPECTOR CLUZO)のパフォーマンスは、徐々に肌寒くなっていく富士山麓の環境を吹き飛ばすようなホットなパフォーマンスを展開。会場に唯一無二の一体感を生み出したのだ。
すでにご存知の方も多いと思うが、2009年と14年にはフジロックに出演(14年出演時には日本のバラエティ番組で密着取材をされて話題に)や、単独公演など、これまで何度も日本のオーディエンスを盛り上げている、百戦錬磨のパーティ・バンドである彼ら。今回の朝霧のステージにおいても、たったふたりのメンバーだとは信じられないくらいの分厚く、ダイナミックなサウンドを展開。また、会場の空気を即座に読み取り、そこにいる誰もを飽きさせない巧みさも加わって、彼らのことなど何も知らないはずの小さな子どもまで自然にダンスさせてしまうほど、本能を刺激させるパフォーマンスになっていたのだ。
しかし、彼らは「お祭り」だけの要素を持っているだけではない。音楽活動と並行して、地元でオーガニックにこだわった農業もしている「ファーマーズ」であることでも知られる彼ら。そのパフォーマンスのところどころには、自然を敬い、共生していくことの大切さを訴えかけるメッセージ、歌詞を発信している。朝霧でのショーにおいても、より良い環境を世界にもたらしたいと言う真摯なメッセージを聞き取った人も多いはずだ。つまり、ジ・インスペクター・クルーゾの音楽は、ファニーで破天荒な一面を持ちながらも、根底にはまっすぐに自然や音楽を愛する思いがあることを肌で感じることのできた、充実のステージだったように思う。
新作アルバムより、収録のシングル「SWALLOWS」が先行公開
そんな興奮と圧巻の瞬間を、今度はアルバムというカタチで楽しめる日がもうすぐやってくる! 2023年1月27日には通算9作目となる最新アルバム『HORIZON』をリリースすることが決定したのだ。プロデューサーには、<フジロックフェスティバル‘22>のヘッドライナーを飾ったジャック・ホワイトなどを手がけ、グラミーも獲得しているジャック・パウエルを迎え、米ナッシュビルにて制作されたという作品は、これまで以上にじっくり時間をかけて、現在の彼らそして我々を取り巻く環境を表現したディープな仕上がりになっているという。
「前作までは、時間がなかったので、同時進行でいくつもの楽曲を制作している感覚が強かった。でも、今回の作品はとてもディープな楽曲が揃っていたので、しっかりそれらに向きあおうという話になり、1曲が完成するまでは別に着手しなかったのです。結果、3週間という自分たちにとってはかなり長い時間がかかって完成に至りました」(マシュー)
朝霧JAMではエキサイティングでスリリングなブルース・ロックが中心であったが、家でじっくり聴きたくなるような楽曲もラインナップ。
「今回は家でじっくり楽しめるような、グッド・リスニングなアルバムにしたかったのです。私たちは、これまでたくさんの国や地域をまわり、そこでさまざまな景色に出会った。また、ここ数年はオーケストラとも共演していたので、サウンド自体も深化したのです。それら経験をちゃんと音楽にして残しておきたかった。音楽を通じて、自分たちの誠実な思いを、正しく伝えたいと思ったのです」(ローレント)
彼らの異なる一面がうかがえそうな作品。そのなかに収録されている楽曲“SWALLOWS”がこのたび公開された。殺虫剤の使用によって消えてしまったツバメが、自分たちの運営する農場に戻ってきた瞬間の感動を描いたという、ドリーミーな雰囲気の楽曲は、彼らの柔らかな表情が伝わる内容に。また、楽曲の公開にあわせ、アニメーションやドローイングを駆使したミュージック・ヴィデオも完成。彼らが暮らすガスコーニュの素晴らしい風景に思いを巡らせられると同時に、自然に寄り添った暮らしの大切さが伝わる仕上がりになっている。
THE INSPECTOR CLUZO – SWALLOWS –
「でも、私たちは自分たちの暮らしを他の人に強要するつもりはありません。自分たちがやりたいこと、信じていることをただ表現しているだけなのです。もし、それに興味を持ったのならば、いつでも歓迎しますよというスタンス。だから、ここにある言葉や景色が絶対的に美しい訳ではないのかもしれません。ただ、私たちの信じる美しさがここにあります」(ローレント)
アルバム全体も、彼らの感じる美しさを表現していると語る。
「人間にはさまざまな考えがあり、その人なりの正解があるのです。また、自分の信じたものを守るために、世界にはいろんな答え(ソリューション)が用意されている。それをアルバムで示したかったのです」(マシュー)
また、このアルバムで日本のリスナーと深く繋がることができたらとも続けた。
「私たちの音楽キャリアは日本からスタートしたものなのです。ここで初めてアルバム(作品)をリリースできたのが2008年、母国フランスでは2016年ですからね。当時からスタッフの方々やファンのみなさんの熱狂的なサポートを受けて、ここまで来ることができた。本当に特別な国なのです。今回のアルバムを通じて、さらに関係を深めたい」(ローレント)
「私も同様。日本では数えきれないほどの素晴らしい思い出を作ることができました。本当に感謝しています。アルバム『HORIZON』で、また新たな忘れられない思い出を築くことができたら」(マシュー)
Text:Takahisa Matsunaga
Photos:ⓒ Sotaro Shimizu(朝霧JAM)
INFORMATION
HORIZON
2023年1月27日
The Inspector Cluzo(ジ・インスペクター・クルーゾ)
〈Virgin Music Label and Artist Services〉
輸入盤/配信のみ