ある意味で原点回帰? “Happy Ending”はまだ早すぎる

んだかんだ言っても、みんなストロークスが大好きなんです。先日、ピッチフォークにてフル・ストリーミング試聴がスタートするや否や、SNSで凄まじいバズを巻き起こした最新5thアルバム『カムダウン・マシン』がいよいよリリースとなる。先行してフリーDLで配信された新曲“One Way Trigger”の時点で賛否両論だったものの、これはやはり、バンドのキャリアにとっても最大の問題作となりそうだ。

思いっきりレコード時代を意識したヴィンテージなアートワークそのまま、サウンド的にはかなりラフでジャンルレス。というか、良い意味で投げやりな印象さえ受ける。特にジュリアン・カサブランカスのヴォーカルが振り切れまくってて凄まじいのだが、レコードの針飛びノイズを再現したかのようなオープナーの“Tap Out”から、リヴァーブの効いたファルセットとお馴染みの酒焼け声を行き交い、一瞬だけU2のボノを彷彿させる“All the Time”、「絶対にライヴで歌えないだろ!」と誰もが突っ込むハイトーン・ヴォイスの応酬“One Way Trigger”、拡声器を通したかのようにけたたましい“50/50”、カレン・Oそっくりな歌い出しにのけぞる“Chances”、デヴェンドラ・バンハートばりにトロピカルな“Call it Fate, Call it Karma”、とにかく全編で遊びまくり、実験しまくり。わざと歌詞を聞こえにくくしてるのかと思うほどである。

じゃあ駄作なのかと言えば、これがすこぶる良いんです。1st&2ndは別格としても、バンドの破綻スレスレで完成させた前作『アングルズ』(11年)のように散漫ではないし、情報量過多にもほどがあった3rd『ファースト・インプレッションズ・オブ・アース』(06年)のように2本のギターがケンカしていない。過去最高にキーボードがフィーチャーされたレトロ・フューチャリスティックな音楽性はフェニックスとの比較で語られることも多いが、紛れもなくジュリアンのソロ・ワークスからの延長線上にあるのだろう。事前に「メディアへの出演やツアーなどのプロモーション活動は一切ナシ」とアナウンスされていたものの、そのタブーを破ってBBCラジオのゼイン・ロウの番組に出演したニコライ・フレイチュアは、前作と同じNYの「エレクトリック・レディ・スタジオ」を採用したこと、そして今回はジュリアンも他の4人と一緒に自分のパートをレコーディングしたことを明かした。そう、今作『カムダウン・マシン』は再びジュリアンがイニシアチブを握りつつも、しっかり「共同体」としてのバンド・サウンドに立ち戻っているのが特徴だ。ある意味で原点回帰? でも、やっぱ、大人になったなー。

我々日本のファンにとっての嬉しいサプライズは、なんといってもウィスパー・ヴォイスで《日本へようこそ!》と歌われる4曲目の“Welcome to Japan”。オープニング・セレモニーの上陸イベントでソロ・ライヴを世界初披露したり、ヘッドライナーを務めた2011年の<サマーソニック>終演翌日にホテルのベッドからセクシー・ショットをアップしたり、何かと日本贔屓のジュリアンだけに歌詞の内容も気になるところだ。また、生音がどうかは定かではないが、クロージングの“Call it Fate, Call it Karma”ではストリングスまで導入していたりする。クレジットが手元にないので不明だが、今作もゲスト・ミュージシャンなしで作られたのだろうか。単純にライヴでの再現が不可能だから、ツアーを見送ったのでは…? と勘繰りたくもなる(笑)。

これまでも、度々ジュリアンとニック・ヴァレンシの不仲が話題となっていたストロークス。だが、最近の5人の雰囲気は決して悪くないようで、ニックの奥さん=アマンダ・ディ・キャディネットが運営するWebサイト「The Conversation」でファンからの質問に答えたニックは、「少なくとも今回は大規模なツアーを行わないけれど、次のアルバムでは多分やるよ」と前向きな発言を残している。過去の映像を走馬灯のようにコラージュした“All the Time”のMVが公開され、ジュリアンが自身のレーベルを本格始動、今作をもって<RCAレコード>との契約満了ーーと、様々なトピックスが重なったことでバンドの解散や活動休止などネガティヴな噂も飛び交っているのは事実だけど、しょせん噂は噂。“Happy Ending”はまだ早すぎますよ、ジュリアン?

(text by Kohei Ueno)

The Strokes – “All the Time”

祝5枚目リリース記念! ザ・ストロークスにまつわる5つの豆知識

ストロークス、遂に5作目までリリースですね! そこで、今作のリリースを記念しストロークスにまつわるちょっとした豆知識を紹介しちゃいます! 

★メンバーは5人
まず豆知識の前に改めてメンバーをご紹介。独特のしゃがれヴォイス&ファッションセンスの持ち主であり、チュートリアルの徳井似? のジュリアン・カサブランカス(Vo)、メンバー内でも屈指のモデル体型で腰の位置でギターを構えるニック・ヴァレンシ(ギター)、高い位置でギターを弾き、数多くのモデルと浮名を流したアルバート・ハモンドJr.(ギター)、黙々とベースを弾く傍らBBCラジオで新作について語るお茶目なニコライ・フレイチュア(ベース)、そしてワイルドな魅力を放ち、実は1番ファッションにお金をかけている? ファブリツィオ・モレッティ(ドラム)の5人編成のバンド――さらにメンバーそれぞれがソロで活動したり、サイドプロジェクトをやったりと様々な音楽性を持ち合わせているのがストロークスである! 

★すでに本作で5枚目! 
1st『イズ・ディス・イット』は今では「ストロークス以降」と語られるほど全世界のロックシーンに衝撃を与え、2nd『ルーム・オン・ファイア』では単なるハイプではないことを証明して固定ファンを獲得した。また3rd『ファースト・インプレッションズ・オブ・アース』で新たなストロークスを見せながらも凄まじい進化を遂げ、さらに4th『アングルズ』では自らが創り上げた完成形を打ち破った――そんな彼らの待望の5作目、今作ではどう進化し、どう世間に衝撃を与えるのか?!

★今までリリースしている曲は全て5分以内?
1stの頃から全曲が短め3分代であったが、3rdなど近年は4分を超えることも。本作では5分を超える曲は登場するのか? 実際に聴いて計ってみると新たなストロークスを発見出来るかも?

★ストロークスは5がスキ? 今回は“50/50”という曲も収録!
日本でも2分の1の確率の事項について「フィフティ・フィフティ」という言葉を使いますが、ストロークス最新作にそのようなタイトルのトラックがイン! いったい何がフィフティ・フィフティなのかは歌詞も一緒に聴いてみる他ありません! 因みに2nd『ルーム・オン・ファイア』には“12:51”、3rd『ファースト・インプレッションズ・オブ・アース』には“15ミニッツ”という曲が収録されていることから、5は彼らのフェイバレットなナンバーかも!?

★来日回数は5回!
ストロークスが来日公演を行った回数は5回。今や伝説の初来日ツアー(02年)、ジュリアンのファッションも話題になった? <Summer Sonic 2003>、『ファースト・インプレッションズ・オブ・アース』リリース前の緊急来日ギグ(05年)、“Hard To Explain”でジュリアンが客席に降りて熱唱した<FUJI ROCK FESTIVAL’06>、もはや貫禄すら感じた<Summer Sonic 2011>などである――因みに新作には“Welcome to Japan”という曲があるので近い将来での来日公演も期待してしまいますね! とりあえず今はWelcome to Strokesと言える日が来るのを祈りましょう!!

(text by Mitsutaka Numata)

Release Information

2013.03.27 on sale!
Artist:The Strokes(ザ・ストロークス)
Title:Comedown Machine(カムダウン・マシン)
Sony Music Japan International
SICP-3789
¥2,310(tax incl.)

Track List
01. Tap Out
02. All The Time
03. One Way Trigger
04. Welcome To Japan
05. 80’s Comedown Machine
06. 50/50
07. Slow Animals
08. Partners In Crime
09. Chances
10. Happy Ending
11. Call It Fate, Call It Karma
12. Fast Animals