そこにあったのは、まったく新しい形で鳴らされた“陶酔”の感覚だった。

11月22日にデビューアルバム『VANTABLACK』をリリースした3人組、THE ALEXX。公式音源を1曲も発表しないまま<FUJI ROCK FESTIVAL ’19>でデビューライブを敢行し、その後に出演を予定していた<朝霧JAM 2019>は台風で中止。この日、渋谷クラブクアトロで行われた<GAN-BAN NIGHT>への出演が2度目の、そしてデビュー後初のパフォーマンスだ。

開演時刻をすぎると、SEと共に杉浦英治(Syn)筒井朋哉(Gt)Tonton(Vo)の3人がステージに姿を表す。インストゥルメンタルナンバーの“Ring Of Saturn”からライブはスタート。筒井がバイオリンの弓でギターを弾いて残響音を響かせ、Tontonがクリスタルボウルを鳴らし、あたりは神秘的な倍音に包まれる。「地球上で最も黒い物質」の名前からとられたアルバムタイトルを彷彿とさせる、漆黒のサウンドスケープが表出する。

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「リスナーにバイアスをかけたくない」という理由で当初は素性を明かしてはいなかったが、THE ALEXXは、SUGIURUMNとして20年にわたるDJ活動を続けてきた杉浦が結成した新バンドだ。ボーカリストのTontonはSUGIURUMNの数々の作品で歌ってきたシンガーであり、メンバーの筒井はElectric Glass Balloon時代からの杉浦の盟友でもある。全員がかなりのキャリアの持ち主だ。

ただ、実のところ、筆者自身はライブ直前までTHE ALEXXの正体は知らなかった。「浮遊感はあるけど、流されない感じ。屹立してる」ーーとニューアルバムに対してコメントを寄せたのだが、それは、事前情報なしのまっさらな状態でTHE ALEXXの楽曲を聴いての率直な感想。メンバーの名前やこれまでの活動どうこうよりも、音の持つダークな芯の強さが何よりの魅力だと感じていた。そしてこの日のライブを見て、その印象はさらに強まった。

ダウンテンポの四つ打ちの“Beatwave”から「今日はよろしくお願いします」と杉浦が告げ、“Jeanie”、“Daisy”とステージは進んでいく。杉浦は曲によってシンセやギターを忙しく操り、Tontonが妖艶な歌声を響かせる。

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アシッド・ハウス、マッドチェスター、トリップホップ、サイケデリック・ロック、ドリーム・ポップ……THE ALEXXの鳴らす音楽にはさまざまなルーツにつながる系譜を見出すことができる。プライマル・スクリーム(Primal Scream)マッシヴ・アタック(Massive Attack)カサビアン(Kasabian)THE XXなどUKの様々なアーティストとのリンクも感じることができる。同時代の日本で言えば、この日も共演したD.A.N.yahyelあたりとの共通項も感じる。ただ、ステージから放出されるのは、いわゆるジャンルやスタイルでは括ることのできない類の感覚だ。共通しているのは「正気じゃなくなる」ことへの強いアディクション。初めて観る人がほとんどだっただろうオーディエンスも、徐々に心地よく身体を揺らし、その音世界に耽溺していく。

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終盤は、杉浦と筒井のツインギターにTontonのテルミンが加わった“Sounds Of Radio Frequency”から、歪んだギターをかき鳴らすパンキッシュな“Tablaman”へ。オーディエンスにフィジカルな興奮をもたらすこのあたりの楽曲はステージパフォーマンスにおける大きな武器となるだろう。

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およそ40分ほどのライブは“Alan Smithee’s Monolog”で終了。2度目のライブということもあり、正直、まだまだ荒削りなところも多かった。たとえば映像やヴィジュアルの演出が加わることで、サウンドだけじゃなくその裏側にあるTHE ALEXXの思想や言葉が伝わっていくんじゃないか、と思うところもあった。

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ただ、それ以上に、大きな可能性を感じるステージだった。

それはTHE ALEXXだけでなく、彼らが所属するレーベル〈REXY SONG〉がキューバのINTERACTIVOやイタリアのBANDA BASSOTTIのリリース元となっていることも含めた意味合いだ。つまり、さらなるグローバル化の進展と共にポップ・ミュージックのトレンドの一極集中がより進む一方で、世界各国のアーティストが手を結び「ニュー・インディペンデント」を掲げるであろう2020年代に向けての、日本からの一つの旗印になるかもしれない、という意味。

貴重な一夜を目撃したと思う。

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THE ALEXX

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2019年の晩秋、実は2020年にオリンピックが開催される事など誰一人本気で考えていないユースカルチャー・ガラパゴスのこの国で、フジロックを主催するSMASH代表が立ち上げたインディーレーベル「REXY SONG」が突如専属契約した初の日本人アーティスト“THE ALEXX”。

公式音源を1曲も発表しないまま<フジロック‘19>の激しい雨の中でデビュー・ライブを行い、デビュー・シングルを発表した直後に<朝霧ジャム’19>に出演が決まっていたが台風の影響でキャンセルに。 彼らはTHE XX以降のダークさとポップさ、ダンスミュージッックのマナーとロックのダイナミズムを個々の体内に沁み込ませ、ニューウェイヴ、ハウス、電子音楽、インディーダンス、ニューディスコ等々、過去から現在までに溜め込んだ豊潤なユースカルチャー・ミュージックの影響を混乱したままダイレクトに表現している3ピースバンドだ。

THE ALEXXのデビューアルバム『VANTABLACK』は、まるでセックス・ピストルズ/クラッシュ/ニュー・オーダー/スミス/プライマル・スクリーム/マッシヴ・アタックに熱狂した日本人プログラマーが設計したAIが作ったJ-POPアルバムのようだ。 エンジニアにはzAk氏を起用し、ダークでダビーなサウンドを究極なまでにソリッドに仕上げることに成功している。 令和、0話、ゼロセット。日本のミュージックシーンにブラックホールを生み出す“THE ALEXX / VANTABLACK”。新たなダークヒーローの誕生です!

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VANTABLACK

2019.11.22(金)
¥2,300(+tax)
THE ALEXX
品番:REXY-6

Tracklist
1. Jeanie
2. Beatwave
3. SOUNDS OF RADIO FREQUENCY
4. VANTABLACK
5. Daisy
6. Ladybug is on there
7. Tablaman
8. Freak out of blue
9. The Scorpion Revives In This Way
10. ONADAY
11. Alan Smithee’s Monolog
12. Go to the bar

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