俳優の新田真剣佑を迎えカヴァーされた名曲“クローサー (トーキョー・リミックス)”がここ日本で異例の大ヒットを飛ばしている中リリースされた、ザ・チェインスモーカーズ(The Chainsmokers)の3作目となる最新アルバムの日本盤『ワールド・ウォー・ジョイ』。この作品で新たなフェーズに突入し、トップに君臨してもなお今世紀最強のダンス・ポップ・ユニットとして進化し続け、なぜ世界から支持されつづけるのか。そんな彼らと楽曲の魅力を、東京を中心とした日本各地のクラブ・レジデントパーティーから世界中の多様な大型フェス、さらに2018年のザ・チェインスモーカーズの来日公演ではオープニング・アクトも務めたラジオ・パーソナリティーとしてダンスミュージック専門のインターネット・ラジオ「block.fm」などのメディアでも活躍する日本のトップ・キュレーター/DJのTJOがプレイヤー目線で5つのポイントに分けて紹介していく。
The Chainsmokers feat.新田真剣佑 「Closer (Tokyo Remix)」 (Short Video)
1.時代を変えた名曲“クローサー(Closer)”が与えた影響
まず彼らをこの地位にまで押し上げた一番のきっかけとして今回の日本盤でのカヴァーも話題になっている“クローサー”を忘れてはいけない。2016年にリリースされたこの曲は彼ら史上初の全米シングル・チャート12週連続1位を記録し、billboardが発表した2010年代最も売れた楽曲のチャートでも第4位という驚くべき結果を残している。EDMのムーブメントはアメリカを中心にその名の通りエレクトリックなダンスミュージックとポップミュージックが結びつくことで生まれたカルチャーだが、それまではエレクトロ・ハウスやダブステップなど踊れることを目的とした激しめのビート・フォーマットを基本としていた楽曲は、“クローサー”の大ヒットでよりスロウに、チルに、レイドバックした雰囲気の楽曲を一気に増やした。別れたカップルの押さえきれない気持ちを男女両者の視点から、メンバーのアンドリュー・タガートと今やトップスターの地位を欲しいままにしているシンガーソングライターのホールジーによるデュエット形式で歌い上げたスタイルも当時としては珍しく、その世界観を見事に表現したリリックビデオの助力もあり、2010年代にEDMがいかに台頭したとはいえここまで長く熱狂的に愛される楽曲は他にはない。DJ発信のシンプルながらもエモーショナルに溢れたサウンドとメロディで描くラブ・ソングはとても革新的でダンスミュージックという垣根を超えて幅広い層からの支持を獲得し、「“クローサー”以降」と呼ばれるほどの衝撃をシーンに与え、後のEDMプロデューサー達のポップス化を加速させる現象を巻き起こしたほどである。
The Chainsmokers – Closer (Lyric) ft. Halsey
2.DJだから生み出せるシンプルで踊れるサウンドとエモーション
彼らの楽曲を聴いていて思うのは「シンプル」だと言うこと。それがエモーショナルでポップな楽曲であれ、ハードでダンサブルな楽曲であれ、音数は決して多くない。だがDJ出身の彼らだからこそ、その一音一音の音選びも秀逸で、シンプルであってもインパクトのある音色でしっかりとダンスフロアを意識し「踊れる」サウンドへと昇華している。またその音数の少なさが彼らの歌詞から生まれる世界観をよりエモーショナルに際立たせている。“クローサー”での男女それぞれの想いの描写が、ラストで一気に混じり合い大きなエネルギーになる瞬間。今作のハイライトの1曲でもある“コール・ユー・マイン”でビービー・レクサの歌う《Call You Mine?(あなたを私のものと呼んでいい?)》がより感情的に響くラストなど、シンプルだからこそよりドラマティックな情景描写を演出していると言える。
The Chainsmokers – Call You Mine (Official Video) ft. Bebe Rexha
3.進むべき道に迷いがなくなった最新作
“クローサー”のメガヒットの後に、コールドプレイ(Coldplay)との代表作“サムシング・ジャスト・ライク・ディス”を集大成とし自分達のサウンドスタイルを確立したとも言える2017年のアルバム第1作『メモリーズ…ドゥー・ノット・オープン』では、その大成功とは裏腹に彼らは世間から嫉妬も入り混じったバッシングを食らうことになった。続くアルバム第2作『シック・ボーイ…スペシャル・エディション』ではその批判と孤独をゆっくり時間をかけ自らのアイデンティティと向き合わせて、彼らにとってのルーツとなるロックを大きな要素として取り込んだ“シック・ボーイ”、“エヴリバディ・ヘイツ・ミー”で新たな章の始まりともとれるスタートを切っていたが、”サイド・エフェクツ”のようなポップな作品に加え、ナイトメアやアザールといった気鋭のベース・ミュージックのプロデューサーと共に作り上げたDJ的側面の強いフェスティバル・トラップも個々に収録するなど、そこには自分達の認識する立ち位置と向かいたいとする道との迷いや閉塞感がどこか感じられていたように思える。しかし今作では自らが確立してきたEDMとポップのバランスや共感を呼ぶ歌詞の世界観に立ち返り、エモーショナルさもロックもダンスも全ての要素を見事にミックスした仕上がりになっている。それはアンドリュー・タガートがマイクを握るべきところではしっかりと握り、そうでない所では参加アーティストに華を持たせるなどのメリハリが明確化されていることにも表れているのではないだろうか。
The Chainsmokers & Coldplay – Something Just Like This (Lyric)
The Chainsmokers – Sick Boy (Official Music Video)
The Chainsmokers – Everybody Hates Me (Official Music Video)
4.マジックを生み出すプロデューサーとしての采配
その迷いのなさを象徴する一例が今作からの第1弾シングルとなった“フー・ドゥー・ユー・ラヴ”。トラップビートにオーストラリアの人気ロック・バンドであるファイブ・セカンズ・オブ・サマー(5 Seconds of Summer以下、5SOS)が歌い上げるこの曲は、前作までなら もしかしたらアンドリューが歌い切っていたかもしれない。しかし5SOSが歌ってくれたことでよりパワフルに、フェスでの大合唱がイメージ出来る1曲に仕上がったと思える。ロックとのコラボレーションという意味では5SOSが新世代だとすると、先輩バンドであるブリンク182(blink-182)との共演は嬉しいサプライズだ。“クローサー”歌詞においてもその名が登場し、ザ・チェインスモーカーズにとっての憧れの存在との“P.S.アイ・ホープ・ユアー・ハッピー”は彼らがやりたかったロックとの融合の理想形の一つではないか。正直今作も前作を引き継いでロック色が強くなると思っていたのだが、そういった楽曲はこの2曲ぐらい。
Who Do You Love (with 5 Seconds of Summer) (Official Video)
The Chainsmokers – P.S. I Hope You’re Happy (Lyric Video) ft. blink-182
先にも紹介した“コール・ユー・マイン”ではお得意のシンプルでエモーショナルなトラックにビービー・レクサに女心を歌ってもらい、“テイクアウェイ”ではレノン・ステラとのデュエットに、フューチャーベース・シーンの人気プロデューサーであるイレニウムを招き、情景的で激しいシンセ・アレンジを加えることでより「エモい」サウンドに昇華。中でも最も印象的なのが北欧ノルウェーからトロピカル・ハウスを飛び越え世界的プロデューサーへと成長したカイゴ(Kygo)との“ファミリー”だろう。叙情的なメロディを得意とするカイゴと共に強い友情で繋がった「家族」をテーマにしたこの曲は、アヴィーチ(Avicii)、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)、そして“クローサー”のリリックビデオも手掛けた親友の人気映像監督/ビデオグラファー、ローリー・クラマーが自動車事故に伴うメンタルクラッシュで深く落ち込んでいた時期を励ましていく中で、彼への想いをドキュメンタリー風に描いたミュージックビデオを制作し、楽曲の素晴らしさをさらに押し上げマスターピースとなった。こういった迷いを抜けた彼らのプロデューサー的采配が今作では多くのマジックを生み出している。
The Chainsmokers with Kygo – Family (Official Video)
5.体感すべき迫力のライブ
そして彼らの醍醐味はやはりライブ・パフォーマンスだ。既存のDJスタイルから、オーストラリア出身の若手ドラマーでEDMのドラムカバーで世界中から注目を集めたマット・マクガイアをサポート・メンバーに迎え、DJ+ライブの融合を初めて体感したのが僕がオープニング・アクトを努めた2018年6月の単独公演。激しいEDMのセットの合間にアンドリュー・タガートがマイクを握り、相方アレックス・ポールがキーボードを演奏、ドラムをはじめとした生演奏がEDMと混じり合う舞台は、ステージの後ろに配置されたLEDスクリーンに映し出されるVJの刺激的な演出も相まって、スリリングで新しい彼らのスタイルを見せつけるのに充分なものであった。しかし2019年の<SUMMER SONIC 2019>の東京公演はそれ以上。巨大な屋外スタジアムのステージでのヘッドライナーを飾った彼ら。全編に渡ってバンド演奏を下地にし、EDMパートとの区別がつかない完全シームレスな流れで会場を熱狂の渦に巻き込んでいた。EDMフェスティバルの鉄板である大合唱も定番ロック、大ヒットの現行ヒップホップから惜しげもなく引用し、ハード・トラップに今や正式メンバーとして加入したマットの生ドラムが絡み合う臨場感はカオスそのもの。その時々で音を止め彼らの名曲を落とし込んだ時の会場全体のシンガロングに鳥肌が止まらなかった。EDMフェスの音楽的バラエティの豊かさとライブ演奏のフィジカルなエネルギーが見事にまで昇華されたその年のベスト・アクト決定の一幕だった。
2017年の『パリ(Paris)』を元にした映画の制作をする噂もあるようで、プロデューサーとしても迷いを抜け出し、エモーショナルさもダイナミズムも含めて自らの鳴らすべき音を手に入れたザ・チェインスモーカーズ。彼らの新しい幕開けを飾るこのアルバムをぜひその耳で体感してもらいたい。そして再びこれら楽曲を我々の目の前でパフォーマンスしてくれるのが今から楽しみだ。
Text by TJO (SUGARBITZ)
RELEASE INFORMATION
World War Joy|ワールド・ウォー・ジョイ
【日本盤CD(全16曲/デジタル配信のみ全15曲)】
発売中
¥2,200(+tax)
新曲”クローサー(トーキョー・リミックス)”収録
日本オリジナル・ジャケット仕様
ボーナス・トラック6曲追加
【輸入盤/デジタル配信(全10曲)】
発売中
収録曲
01. The Reaper feat. Amy Shark|ザ・リーパー feat. エイミー・シャーク
02. Family with Kygo|ファミリー with カイゴ
03. See The Way feat. Sabrina Claudio|シー・ザ・ウェイ feat. サブリナ・クラウディオ
04. P.S. I Hope You’re Happy feat. blink-182|P.S.アイ・ホープ・ユアー・ハッピー feat. ブリンク・182
05. Push My Luck|プッシュ・マイ・ラック
06. Takeaway with Illenium feat. Lennon Stella|テイクアウェイ with イレニアム feat. レノン・ステラ
07. Call You Mine feat. Bebe Rexha|コール・ユー・マイン feat. ビービー・レクサ
08. Do You Mean feat. Ty Dolla $ign & Bulow|ドゥー・ユー・ミーン feat. タイ・ダラー・サイン&ビューロウ
09. Kills You Slowly|キルズ・ユー・スローリー
10. Who Do You Love feat. 5 Seconds of Summer|フー・ドゥー・ユー・ラヴ feat. ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー
[日本盤ボーナストラック]
11. Closer (Tokyo Remi) feat. Mackenyu Arata|クローサー (トーキョー・リミックス) feat. 新田真剣佑
12. Takeaway (Sondr Remix) with Illenium feat. Lennon Stella|テイクアウェイ (サンダー・リミックス) with イレニアム feat. レノン・ステラ
13. Push My Luck (Twinsick Remix)|プッシュ・マイ・ラック (ツインシック・リミックス)
14. Call You Mine (Keanu Silva Remix)|コール・ユー・マイン (キアヌ・シルバ・リミックス)
15. Who Do You Love (R3HAB Remix)|フー・ドゥー・ユー・ラヴ (リハブ・リミックス) feat. ファイヴ・セカンズ・オブ・サマー
16. Family with Kygo (Lune Remix)|ファミリー with カイゴ (ルーン・リミックス) *日本盤CDのみ収録