<第58回グラミー賞>で4部門を制覇したアラバマ・シェイクスや、名門〈ブルーノート〉が太鼓判を押すヴィンテージ・トラブルのように、黒人ヴォーカリストを擁するイキの良いヴィンテージ・ロックン・ソウルが音楽シーンを席巻中だが、英国の4人組ロック・バンド=ザ・ヘヴィーにとって通算4枚目となるニュー・アルバム『ハート&ザ・マーシレス』は、そんなムーヴメントの決定打となりそうだ。
▶ The Heavy – Turn Up
ご存知のとおり、前作『ザ・グローリアス・デッド』(2012年)収録の“Same Ol’”が「ペプシネックス ゼロ」のCMに起用され、2014年に<フジロックフェスティバル(以下、フジロック)>およびジャパン・ツアーのため来日した際は、日本テレビ『スッキリ!!』やNHK『MUSIC JAPAN』にも登場して熱いパフォーマンスを披露、お茶の間レベルでブレイクを果たしたことは記憶に新しいところ。すでに本国UKとUSでは『ザ・グローリアス・デッド』が飛ぶように売れていたものの、CMとの相乗効果でこれほど洋楽バンドが注目されたのは、2000年代に入ってからは本当に久しぶりの事件だった(あまりにも日本で売れ過ぎたため、ヘヴィーは急遽ツアーを延長したというエピソードも)。
音良し、曲良し、キャラクター性もバッチリ……と、もはや無敵艦隊のごとき快進撃を続けるヘヴィーだが、あらためてその輝かしい実績を振り返りながら、新作『ハート&ザ・マーシレス』が生まれた背景、そして彼らの真骨頂である「ライヴ」の凄まじさについても触れておきたいと思う。なぜなら、ヘヴィーは今夏再び<フジロック>のステージに帰ってくるからだ。それも、さらにぶっとく、研ぎ澄まされたファンクネス&グルーヴを引っさげて――。宴を120%楽しむなら、予習・復習はマストですぜ!!
タイアップ実績で知る、ザ・ヘヴィーのキラーチューン職人っぷり
ヘヴィーにとって最大の武器は、ロックンロールからネオ・ソウル、ファンク、R&B、あるいはヒップホップといった様々な要素を飲み込んだ音楽性。黒人のフロントマン=ケルヴィン・スワビーが率いるドッシリと肉厚なバンド・アンサンブルはもちろん、高らかに鳴り響くホーン・セクションとハンドクラップ、女性コーラスを従えたエネルギッシュなヴォーカルはフック満載でJBも真っ青、問答無用でリスナーの腰をシェイクさせてくれる。デビュー当時は「まるでカーティス・メイフィールドとレッド・ツェッペリンがセッションしたかのようだ」と評されたが、要するにブラック・ミュージックの“オイシイとこどり”で、一度聴いたら耳から離れないほど「キャッチー」なのが彼らの生み出すサウンドだ。
その証拠に、ヘヴィーの楽曲はあらゆるCM、TVドラマ、映画、ビデオゲームとタイアップしており、世界一の視聴率を誇るスーパーボウルのスポンサーCM曲や、2012年にオバマ大統領が再選を果たした際のBGMとしても抜擢されるなど、現在進行形で世界中の音楽ファンを虜にし続けている。何と言ってもまずは、小栗旬が桃太郎に扮する「ペプシネックス ゼロ」の映像を見てもらわねば始まらないだろう。
▶ ペプシネックス ゼロ『桃太郎「Episode.2」』篇 90秒 小栗旬 サントリー CM
ハリウッド映画も顔負けの圧倒的なスケール感だが、重厚感たっぷりの“Same Ol’”のサウンドが見事にハマっている。ハリウッド映画といえば、2月末より公開がスタートしたクエンティン・タランティーノ監督の最新作『ヘイトフル・エイト』の日本版予告編にも同曲のインスト・バージョンが使われていたため、劇場でハッとしたファンも多いかもしれない。ヘヴィーのデビュー作『グレート・ヴェンジャンス・アンド・ザ・フューリアス・ファイア』(2007年)のタイトルがサミュエル・L・ジャクソンのスピーチから拝借されていたことを鑑みれば、「わかってらっしゃる!」と叫びたくなる選曲である。
▶ Same Ol’ – The Heavy – The Glorious Dead
▶ 『ヘイトフル・エイト』 本予告
また、“Same Ol’”と同等かそれ以上に愛されているのが、2ndアルバム『ザ・ハウス・ザット・ダート・ビルト』(2009年)収録のヒット・ソング“How You Like Me Now?”だろう。ダイク&ザ・ブレイザーズの“Let a Woman Be a Woman”を大胆にサンプリングした同曲は、デヴィッド・O・ラッセル監督の映画『ザ・ファイター』のオープニングを印象的に彩っており、同じくマーク・ウォールバーグ主演の『テッド』の日本版トレーラーにも起用。アメリカだけで50万以上のダウンロード数を記録し、ゴールド・レコードも獲得したドス黒くファンキーなキラーチューンだ。
▶ The Heavy – How You Like Me Now? (Official Video)
▶ 映画『テッド』予告編
ヘヴィーにとって出世作となった『ザ・グローリアス・デッド』の中でも、欧米で特に人気の高い1曲が“What Makes a Good Man?”。スパイ映画のようにゴージャスなサウンドと、ゴスペル・ライクなコーラスの応酬に震える骨太なナンバーで(『恋のから騒ぎ』のエンディングで流れていたサム&デイヴを連想させる)、デヴィッド・ベッカムが出演した『ハスラー』風なH&MのCMでも大々的にフィーチャーされた。
▶ H&M Modern Essentials selected by David Beckham
ヘヴィーの代表的なタイアップ実績を駆け足で紹介してきたが、上記はあくまで氷山の一角。これからも意外なシチュエーションで、映像作品の中で、彼らの楽曲は主役級の輝きを放ってくれるはずだ。
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