ライブチケットの公式リセールサービスが普及しつつある。

リセールサービスとは、イベントに行けなくなった人が購入したチケットを手放し、行きたい人がそのチケットを定価で購入できるサービスのこと。近年ではYOASOBIKing Gnuなど多くのアーティストのライブツアーで導入されている。また、先日行われたエド・シーラン(Ed Sheeran)の来日公演や、2月7日(水)から10日(土)にわたって開催されるテイラー・スウィフト(Taylor Swift)の来日公演など、海外アーティストの来日公演でもリセールサービスが実施されている。

徐々に浸透しつつあるリセールサービスは、どんな経緯で導入され、広がってきたものなのか。現状と先行きにはどんな見通しがあるのか。解説したい。

リセールサービス誕生のきっかけとなったチケット高額転売問題

そもそもリセールサービスが立ち上がるきっかけとなったのが、チケットの高額転売問題だ。ライブチケットを転売する“ダフ屋”行為は古くから存在していたが、この問題が社会的に大きな注目を集めるようになったのが2016年8月のこと。日本音楽制作者連盟、日本音楽事業者協会、コンサートプロモーターズ協会、コンピュータ・チケッティング協議会の4団体が多くのアーティストやフェス・イベントの賛同のもと「私たちは音楽の未来を奪うチケットの高額転売に反対します」と題した意見広告を新聞朝刊に掲出し、反響を呼んだ。

問題の背景には、転売目的でチケットを不正に大量購入する業者や個人、いわゆる「転売ヤー」の台頭があった。ボット等のプログラムを使って大量にチケットを買い占め、オークションやチケット転売サイトなどで定価を大幅に上回る価格で販売する手口が横行した。ファンがチケットを入手することが困難になるだけでなく、チケットの高額転売によって得られる利益がアーティスト側やイベント興行主に一切還元されないことも問題視された。

そうした中、2017年5月には前述の音楽関係4団体が主導して設立したチケットの公式リセールサービス「チケトレ」がスタートする。イベントに行けなくなったユーザーが定価でチケットをやり取りできるサービスだ。こうした場を音楽業界側が初めてオフィシャルで認めたという点でも画期的な取り組みであった。

法整備や規制の動きも急速に進んだ。2017年9月にはコンサートの電子チケットを転売目的で取得した男性が詐欺罪にあたるとして有罪判決が確定する。2018年12月には「チケット不正転売禁止法」が成立。2019年6月から同法が施行され、この法律により、チケットの不正転売やそれを目的としたチケットの譲り受けが禁止された。

The 1975、エド・シーラン、テイラー・スウィフト…
メインストリームのアーティストに受け入れられるチケットリセールサービス

この頃に一気に進んだ電子チケットの普及も、チケット転売を巡る状況に大きな変化をもたらした。スマートフォンを用いた電子チケットは、紙チケットに比べて偽造や不正転売を防止することが容易だ。「チケットぴあ」や「ローチケ」などの大手チケットエージェンシーをはじめ、「ticket board」や「チケプラ」などの電子チケットサービスも定着し、それぞれが立ち上げたリセールサービスも普及していった。

チケットリセールサービスが新たに創出するライブの体験価値 music240205_ticket_resale_2

2020年代初頭はコロナ禍でライブ・エンタテインメント自体が大きな打撃を受けていたが、近年はライブ市場の回復と共にリセールサービスのニーズも拡大している。

たとえば昨年に行われたThe 1975の来日ツアーでは「チケプラ」にて、現在行われているYOASOBIのZEPPツアー<POP OUT>やKing Gnuのドームツアー<THE GREATEST UNKNOWN>では「ローチケ」にて、リセールが実施されている。

また、エド・シーラン、テイラー・スウィフトの来日公演では電子チケット発券アプリ「AnyPASS」に紐づく公式リセールサービス「AnyPASS Store」にてリセールが実施されている。

【Ed Sheeran】✨来日公演決定✨ #エドシーラン が日本に!!🐈

「AnyPASS」はエイベックス・ライヴ・クリエイティヴ株式会社が提供するスマートフォンアプリで、購入済みのチケットの管理、分配、イベントへの入場をひとつのアプリで完結でき、また公式リセールサービス「AnyPASS Store」とも連動している。

「AnyPASS」最大の特徴は、1次流通のチケットの販売を行っていないことだ。ファンクラブやオフィシャルサイト、プレイガイドといった流通で販売されたチケット情報を本アプリに格納することで、すべてを「リセール可能な電子チケット」というフォーマットに統一できる仕組みとなっている。こうしたリセールに特化したアプリが新たに登場してきていることも、リセールサービスの普及の兆しと言えるだろう。

とはいえ、国内市場におけるリセールサービスの普及はまだまだ成長フェーズにある。現在世界市場ではチケットの総流通枚数のうち、2次流通が約20%を占めており、その市場規模は2031年までに約9,000億円(59億ドル)まで成長するとされている。一方、国内市場に目を向けると、2次流通は全体の約5%にとどまっており、まだ完全に普及したとは言えない状況だ。また今後のサービス普及に伴い懸念されるのは、アーティストやその他のIP・興行主催者への権利担保についてだろう。これについてはある一定整備されつつあるものの、業界関係者が「チケット転売」に対して抱く負のイメージを拭えていないのが現状だ。

先日、ぴあ総研は2023年のライブ・エンターテインメント市場の市場規模を6,408億円と推計したと発表した。コロナ禍前の2019年に記録した6,295億円を上回り、過去最高となる。全国各地で大規模会場が開業することもあり、この先も市場の拡大は続く見通しだ。

ライブビジネスのビジネスモデル自体も変化が続いている。リセールサービスのニーズも今後より高まっていくだろう。

Text by 柴 那典