「傷ついた現代人の心を深く癒し、魂の糧となる本物の演劇」を生み出すことを目標に、ロシアの演劇理論、スタニスラフスキー・システムによる俳優訓練と、日本では希少なレパートリーシステムによる長期連続公演を実践することで、極めて繊細で質の高い作品を発表し続けている「東京ノーヴイ・レパートリーシアター」。この劇団による長期連続公演が現在実施中です。

10月14日(月・祝)よりスタートした今回の長期連続公演は、サン=テグジュペリの不朽の名作『星の王子様』をはじめ、ギリシャ悲劇の『アンティゴネー』、さらにはゴーリキーの『どん底、』、『メデイア』、そしてブレヒト『コーカサスの白墨の輪』と、来年5月までの間に、5公演が敢行されます。

この劇団を牽引する芸術監督であり、ロシアを代表する演出家であるレオニード・アニシモフ監督へのインタビューをご紹介します!

レオニード・アニシモフ監督は現在世界中で利用されている演技手法、スタニスラフスキー・システムの研究者、演出家として、ヨーロッパ諸国、アメリカ、日本で活発な活動を続けてきました。彼は100年後の世界を見据え、日本の和の精神 ー 神仏習合に見られるように受容し統合してきた歴史文脈から引き継がれた精神 ー が世界を救うと信じ、2003年より下北沢に劇場を構え、日本人に向けて演技指導を行っています。この度、彼に今回の長期連続公演を迎えての心境や、この公演を通して劇団が伝えたいことについて語っていただきました。

東西の文化融合に挑戦する劇団“東京ノーヴイ・レパートリーシアター”監督レオニード・アニシモフへのインタビューが到着!長期連続公演第2弾『アンティゴネー』のレビューも art191216_tokyonovyi_1
レオニード・アニシモフ

東京ノーヴイ・レパートリーシアター芸術監督レオニード・アニシモフインタビュー

ー日本には神仏習合に見られるような受容性が美学としてあり、それが世界を救うとまでおっしゃっていますが、日本で生活している中でそれを実感した瞬間があればお伺いしたいです。

もちろん、日本の高い受容性を感じたことがあります。私は日本の受容性の高さを「メタ文化」と呼んでいます。私の友人も過去に日本について「日本は世界の図書館のような国だ」と話していたこともあります。つまり、あらゆる情報が蓄積、貯蓄されている。多くの情報が集められ、残すことによって、大切なものを保っていくことができているし、また他のものと融合することもできる。そういった点から、世阿弥の理論とスタニスラフスキーシステムを融合させたいという目的が自分の中で湧き上がるようになりました。「神仏習合」という美学が日本にあるからこそ、世阿弥とスタニスラフスキーシステムを融合させることができる、それは日本だからこそできるのではないか、と考えています。

ー世阿弥とスタニスラフスキーシステムは、それぞれがどういうもので、それを掛け合わせることで何を生もうとしているのですか?

まず、世阿弥とスタニスラフスキーが言っていることはほぼ同じです。世阿弥は「花 ー 花がある」という言い方をする一方で、スタニスラフスキーシステムは「光 ー 光を放つ」という表現を使う。つまり、どちらも芸術はエネルギーを発することが重要だということが分かっているということです。はっきりした違いは、世阿弥では「物真似」といって外面の模倣から入る一方で、スタニスラフスキーでは、内面から入る。それは単に文化の違いから生じた違いなのです。それがあるからこそ、さらに融合が可能になるのです。スタニスラフスキーシステムと世阿弥の理論は9割が同じであり、お互いを補いあうものだと考えています。目的はひとつで、それは超意識的なレベル(領域)と繋がること。つまり、いろんな次元の世界をつなげていく、それが彼らに共通した芸術論なのです。物質世界だけにとどまらず、精神や魂の世界とつながるということですね。

ー日本で20年活動し続けてきて、今の心境は?
希望がさらに高まっています。日本の現代演劇界の未来は明るい。日本から世界に向けて、”本当の演劇芸術”が発展していくと思っています。西欧では、ポストモダニズム以降、何をしていいか分からず行き詰っている。日本の場合、伝統芸能の世界をベースにして新たな演劇が発達していくはずです。その一番わかりやすい例が、ギリシャの演劇界が、能を手本にしていることです。

ー今回フランス、ギリシャ、ロシアと様々な地域の作品を演出されますが、それぞれを選んだ経緯と共通項とは?

作品の国は関係なく、これらを「古典作品」と捉えて共通項で選んでいます。古典作品の共通原理は、それに触れた人、観客たちの意識を健康にすることだと考えています。古典作品として歴史上残っているということは、それが必要だし、人類に選ばれたものだから。後世に生きるすべての方に有益だからこそ残っているのです。先の質問でもありましたが、日本でいう「神仏習合」の概念にも共通しますが、「古典作品」というのは人類不変の共通の問題を扱っているため、国は関係なく、そうした作品を扱っていくことで、人類がひとつになると信じています。つまり、人類は皆共通、人類の文化の起源は同じだということです。そのなかでも、日本には神仏習合という事例があるので、文化の交わりあいが多い国だと考えています。世界中で同じような出来事が起きればより良いですね。

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東西の文化融合に挑戦する劇団“東京ノーヴイ・レパートリーシアター”監督レオニード・アニシモフへのインタビューが到着!長期連続公演第2弾『アンティゴネー』のレビューも art191216_tokyonovyi_2

ー今回のように哲学的な演劇を演出されることが多いと思いますが、演劇を通して観客の方々に伝えたいご自身の思想があれば教えていただきたいです。

観客のみなさんに伝えたいことは、どの作品を通じても共通していてただひとつ。「みなさんの意識を健康にする」、「意識の中の余分なものを排除する」ということです。どんな作品を手がけていても同じ。「みなさんのイメージを喚起させ、覚醒させること」、「みなさんの意識に火を付ける」ことです。

話が少し逸れるかもしれませんが、私が作品を選んでるのではなく、作品が私を選んでいるのです。いつ誰が私にそれをさせるか、いつもわかりません。どの作品が提示されるかも分からない。一種のインスピレーションのようなものです。もちろん、人生の意味は何か? とずっと考えているプロセスの中で作品との出会いがあります。ずっとそれを考え続けているとそれに合った作品が現れる。私の周りの友人たちも他の芸術家がたくさんいて、その人たちからの影響もあるはずです。

ー最後に、次回開催の12月22日(日)『どん底、』の見どころは?
『どん底、』という演劇によって伝えたいのは、生きるということは希望の持てることだということ。この劇中に「人間というのは、誰しも生きる意味を探している。人間が生きる意味を失っているときこそ、それを示す天才が必要だ」というような意味の詩があります。今まさにそういう天才が必要な時代です。私たちはそういう天才を待っているのです。なぜなら人間は生きる意味を見失っているから。みなさんには、「そういう意味を指し示す人が必ず来る」ということを伝えたい。道を示してくれる人を求めたら、進むべき道を照らしてくれる人が必ず現れます。ブッダやキリストのような人が現れるのです。

先月30日(土)には2回目の公演となるギリシャ悲劇『アンティゴネー』が上演されました。今回はその際の演劇レビューも合わせてご紹介!

東京ノーヴイ・レパートリーシアター|ギリシャ悲劇『アンティゴネー』レビュー

11月30日に能楽堂で上演されたギリシャ悲劇「アンティゴネー」は、演劇的要素の全てが限りなくシンプルに削ぎ落されたものだった。まず、舞台は能楽堂の「素舞台」であるため、舞台美術や道具類は一切なく、演出としての音響も照明もほぼなく、俳優の演技も大げさな表現やアクションのない、極めて簡易化されたものであった。

にも関わらず、そこには能における「幽玄」の世界観に通じる、極限まで抑制された表現の中で醸し出される、不思議な凄味と迫力があった。

王から死刑を言い渡された主人公のアンティゴネーが、「私は憎しみよりも愛を選びます。」という台詞を発したとき、私は意識の奥深くが浄化されたような不思議な感覚に陥った。演出家のアニシモフ氏曰く、その体験こそが演劇の本来の目的である「カタルシス(魂の浄化)」というものらしい。

本公演の主催である東京ノーヴイ・レパートリーシアターは、ショーやエンターテイメントとしての娯楽的演劇ではなく、観客の意識や魂に届く、「古来から伝わる芸術」の一つの形としての演劇を志し、活動を続けているが、その触れ込みは正しかったと認めざるを得ない。

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次回公演『どん底、』は今週末12月22日! 劇団の魅力を存分に味わえる公演となっていますので、ぜひお見逃しなく!

EVENT INFORMATION

東京ノーヴイ・レパートリーシアター長期連続公演

2019年12月22日(日)ゴーリキー作「どん底」
2020年3月22日(日)エウリピデス作「メデイア」
2020年5月24日(日)ブレヒト作「コーカサスの白墨の輪」
OPEN 15:00
上演時間:約2時間(予定)
ADV ¥4,500/DOOR ¥5,000
・その他チケット
学生:¥3,500、小中学生 ¥2,000

回数券(5枚):¥20,000

梅若能楽学院会館
住所:〒164-0003  東京都中野区東中野2-6-14

出演
麻田枝里 / 安部健 / 池野上眞理 / 大坂陽子 / 岡崎朋代 / 岡崎弘司 / 小倉崇昭 / 貝川美恵子 / 上世博及 / 川北裕子 / 桐平奈泱 / 後藤博文 / 菅沢晃 / 瀧山真太郎/ 天満谷龍生 / 中澤由佳 / 中村恵子 / 名児耶玲子 /朱花伽寧 / 平野由紀子 / 藤井宏次 / 藤巻裕人 / 前田有紀 / 増田一菜 / 三浦一夏 / 南千寿 / 南林孝幸 / 村上賢悟 / 八木昭子 / 八巻圭一朗 / 山下智寿子 / 山田高康

スタッフ
演出: レオニード・アニシモフ / ムーブメント指導: 山本光洋、高原伸子 / 発音指導: 橘貴美子 / 衣装: 時広慎吾(リリック)

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