2014.02.06(THU) @ Shibuya CLUB QUATTRO

ベッドルーム・サウンドが「みんな」の音楽に変わる瞬間

い先日、同じ場所で見たハイム三姉妹の熱狂も凄まじかったが、熱狂具合ではこの夜のトロ・イ・モワも負けてなかった。今回の来日公演は東京一夜限りということもあり、チケットが早々とソールドアウトしたことからも、トロちゃん人気の凄まじさを物語っている。

オープニング・アクトのmabanuaが物販の自家製チャイ茶葉の宣伝を挟むほっこりMC&トータス級の変速グルーヴでオーディエンスの心をがっちり掴むと、20時頃にいよいよトロ・イ・モワことチャズ・バンディック(そういえば、彼とmabanuaさんはルックスが似てる)御一行が登場。昨年の<フジロック>でファンの度肝を抜いたアフロヘアーと眼鏡はそのままに、生まれ故郷である「サウス・キャロライナ」の文字がプリントされたTシャツの着こなしからしてもう最高でしょう。ダテに「HUgE」の表紙を飾っていません。オープニングは3rd『エニシング・イン・リターン』の1曲目を飾る“Harm in Change”。ハウシーな鍵盤のフレーズと、徐々に高揚感を煽っていくエフェクト・ヴォーカルが気持ちイイ。

「色んなフェスに出演してきたけど、東京では初めてのクラブ・ショーなんだよ!」と本人も語っていたけれど、厳密に言えば日本のハコでプレイするのは2年前の<Hostess Club Weekender(以下、HCW)>ぶり。今回はギタリストとリズム隊の他にサポート・キーボーディストを迎えた5人編成で、下半身直撃のグルーヴィーな人力ファンク/ソウルを構築していく様は、ダフト・パンクの最新モードともシンクロする部分だろう。新作はもちろん、“Still Sound”や“Go With You”といった、トロちゃんの出世作『アンダーニース・ザ・パイン』からのトラックにもフロアライクなアレンジが効いており、一際大きな歓声が上がっていた。

ちと残念だったのは、アウトロがあまりにも淡白というか、最後までアゲ切らずに終わってしまう曲が多かったこと…。<HCW>における、DJプレイのようにノンストップなアゲアゲ・パフォーマンスに魅了された者としては物足りないシーンもあったが、ハンドマイクでオーディエンスをアジった“So Many Details”に、本編ラストのキラー・チューン“Say That”の破格の盛り上がりですべて帳消し。サンプリングされた女性ヴォーカルのリフレインに合わせて、オーディエンスも跳ねる跳ねる! アンコールは2ndからの代表ナンバー“New Beat”の1曲のみではあったが、ライヴへの手応えをバッチリ感じ取ったであろうチャズの笑顔にもグッときた。

もはや、トロ・イ・モワが「チルウェイヴ」なんてタグに収まる存在でないことは周知の事実だが、ベッドルームで生まれたチャズのパーソナルな音楽が、バンドを介して「みんな」の音楽に変わる瞬間――これぞ、ライヴという共有空間の醍醐味だろう。さて、次回はどんな素晴らしい光景を見せてくれるかな?

text by Kohei Ueno
photo by MASANORI NARUSE

Release Information

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