TSUBAME

THE PRESENT

「『いま、このとき』と訳せばいいだろうか。」
「TSUBAMEの楽曲解説」
text by 高木 "JET" 晋一郎
Photo by Yohei Haga

     

「いま、このとき」と訳せばいいだろうか。

ヒップホップ・ユニット:TOKYO HEALTH CLUB(THC)のDJ/トラックメイカー/ブレーンとして、JABBA DA FOOTBALL CLUBやYOSA、中小企業、TOSHIKI HAYASHI(%C)などを擁するレーベル〈OMAKE CLUB〉のレーベル・オーナーとしてなど、音楽シーンの中で存在感を高めているTSUBAME。その彼が、冒頭の和訳名を冠した、初めてのソロ・アルバム『THE PRESENT』をリリースする。

バンド:フレンズのメンバーとしても活躍するシンガーのおかもとえみと、フィメール・ラップ・デュオ:chelmicoのメンバーであるRachelを迎え、昨年リリースされた“GOOD NIGHT”で本格的なソロ活動をスタートさせたTSUBAME。その作品において、ヒップホップ・ユニットでありながらキャッチーな彩りのあるTHCでのアプローチとは一味違った、丁寧に心の機微や情緒を描くようなセンチメンタルなトラックを形にし、トラックメイカー/プロデューサーとしての新たな側面を表現した。そもそもの音楽的な出自として、DEXPISTOLSの主宰レーベル〈ROC TRAX〉に所属するテクノ/エレクトロ・デュオ:MYSSのメンバーとして活動をしていた彼。それ故に、ソロ作品の制作に向かったのは、ビートメイカーという、「ビートによって風景や感情を描き出す」という、自身の根本のアーティスト性を、改めて形にしたいという欲望の発露とも言えるだろう。

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そして完成した本作のトーンは、アルバムのオープニングを飾るインスト“THE PRESENT”で表現されるように、写真で言えば「銀残し」のような、渋く光る、そしてどこかノスタルジーを感じるような音像が、印象的に全体に広がる。その、いわゆるダウンビート志向の強い音像は、ソロ作ゆえに可能な「自己の中に潜り込み、奥底から掴みだした音」、つまり彼自身のパーソナリティとも繋がるような「彼の根本の音」なのだろう。それ故に、このアルバムの音は、ひんやりとしたソリッドさではなく、作り手であるTSUBAMEの柔和な表情が浮かぶような暖かく、どこか人懐っこさを感じさせる。そのサウンドを倍加させた、今作に参加した客演アーティストにも触れよう。

まずは承前の“GOOD NIGHT”に参加したおかもとえみとRachel。ガジェット感と「音の間」がキュートな“SPACE”には、Yogee New Wavesなどの作品に参加するマルチプレイヤー:河原太朗のソロ・プロジェクトであるTENDREが参加。アーバン・メロウ・ファンクな“YOU”にはTempalayのメンバーとしも活動するSSW/トラックメイカーのAAAMYYY、「Music Soul Journey」などの作品を通して、オーガニックかつ柔らかなラップとトラックを提示するittoがタッグで華を添える。

NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの中枢メンバーとしてなど、日本のヒップホップにおけるレジェンドにして、THCとは“ズラカル”を制作するなど、常にプログレッシブなスタンスで音楽を生み出すMACKA-CHINは、“窓をあけたら~69 Merry Go Round~”にて今作の中で最も異色なメッセージを提示。甘やかで夢幻的な“DREAMER”には、マルチプレイヤー/プロデューサーであるmabanuaをヴォーカルに迎え、そのシルキーな歌声で彩られたビートの隙間を、ベテランMC:HUNGER(GAGLE)はタイトかつ素晴らしいタイム感のラップで縫い上げ、プロフェッショナルの妙味をコラボレーションで魅せる。

ソロ「LOVIN’ YOU」を皮切りに、唾奇 × Sweet William “Good Enough feat. kiki vivi lily” などでも名前を高めるSSW:kiki vivi lily。G.RINAやZEN-LA-ROCK、MOND GROSSOの作品に参加し、ソロ「The Twelve Love」も好評なKick a Show。このフロア・ヒット請負人とも言える二人を迎えた“RAINS”における、TSUBAMEの手がけるトラックのメランコリーな色合いと、二人のヴォーカリストとの睦み合いは、繊細かつスリリング。

〈OMAKE CLUB〉から「Caroline EP」をリリースしている福岡のラップ・ユニット:週末CITY PLAY BOYZは、「エレクトロニカTRAP」とも言えるような、エレクトロとヒップホップの両輪を持つTSUBAMEらしいビートの上で軽やかにラップし、アルバムの終盤をカラフルに彩っていく。前述の“THE PRESENT”に加えて、TSUBAMEはインストでもビートを提示。アルバム中盤をドラマティックな感触で刺激する“ONE LOVE”、そして自身も影響を受けたと話す2000年代HIP HOPマナーを感じる“LAST TIME”で、このアルバムは幕を閉じる。

前述の通り、このソロはTSUBAMEの内面をビートで描きながら、客演という客観性によって、自己撞着にならず、社会性を持った「ポップ」として完結している。その意味では、自己の中に入り込みつつ、そこに溺れずに、様々なアーティストの手を借りながら、そこから帰還した作品だと言えるだろう。TSUBAMEの「いま、このとき」。その深層をこのアルバムを通して感じ取って欲しい。

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Photo by Yohei Haga

TSUBAMEの楽曲解説

01. THE PRESENT

ソロ・アルバムのイントロでもあるので、「ソロではこういう音が好き/作りたい」っていう表明でもありますね。ピアノとシンセを基本にして組み立てたのも、そういう音色が好きだし、それをまず押し出したいなと。決して明るい曲じゃないし、むしろ暗いと思うんですけど、これが自分なんですよね(笑)。アルバム全体としても、これぐらいの温度でアルバムが進むし、THCで言ったら“TAXI”みたいな、ノリの良くてキャッチーな楽曲が入ったアルバムとは少し違うよ、っていう。その意味でも、この温度感がTSUBAMEですっていう、名刺代わりの一曲になったと思いますね。

02. GOOD NIGHT feat. おかもとえみ & Rachel(chelmico)

“CITY GIRL”や“NO NINJA TOKYO feat. 鋼田テフロン”が自分の好きな温度感なので、このビートも自然とそこに寄っていって。構成的にも、おかもとえみちゃんのヴォーカルと、Rachelのラップが乗っても、良い意味でそこまで明るくしない方向性を考えましたね。テーマとしては、世界観を狭めたくなかったので、「都会」というワン・ワードだけどえみちゃんにオーダーして、そこから内容を広げて貰って。えみちゃんの歌詞とヴォーカルが導く世界観はスゴくガーリーなんだけど、Rachelのラップが韻もフロウもタイトだったので、その対比も面白かったですね。

TSUBAME「GOOD NIGHT feat. おかもとえみ & RACHEL」

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おかもとえみ

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Rachel

03. SPACE feat. TENDRE

自分が普段好んで聴くヴォーカルものって、言葉が音色として、メロディとして成立している、「言葉が音として聴こえる」タイプなんですね。TENDREくんは、日本の男性ヴォーカリストの中で、それを成立させてる歌い手だと思うんです。だからこの曲では、TENDREくんのそういった才能を活かして貰って、キーやリズムの部分もTENDREくんのアイディアも込みで一緒に作った、競作的な一曲になりました。ビート的には、タイトル通り「間」のある、余白を楽しむようなビートなんですけど、シンプルな音だけでビートを構成したらどうなるんだろうな、っていうアイディアを元に作りましたね。

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TENDRE

04. YOU feat. AAAMYYY & Itto

AAAMYYY“BLUEV feat. Ryohu”を聴いた時に、こういう歌い方が出来る日本のアーティストがいるんだ!めっちゃ格好いいな!って衝撃を受けたんですよね。それで単純にファンとしてオファーさせて頂いて。ittoくんとは時々飲みに行ったりする仲でもあり、彼もラップをメロディ的に表現出来るタイプなので、このタッグで曲を作ったら面白いんじゃないかと。サウンド的には、打ち込みだけどオーガニックな「生感」のあるサウンド感と、そこにDAFT PUNKっぽいダンス感を加えたいっていうのがイメージでしたね。ギターも生ですね。僕自身、バリ弾きは出来ないんですけど、コード+αぐらいは弾けるので、YOSAとかと一緒にやっているギタリストのSpiritztoneくんと一緒にギター・セッションして、その要素を落とし込みましたね。

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AAAMYYY

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itto

05. ONE LOVE

「偶然できちゃった」って作るよりは、今回のアルバムは「こんなテーマで作りたい」という意向の方が強かったですね。それはインストでも。この曲もテーマがあって、恥ずかしくて言えないんですが、ある特定の人に向けた曲です。裏テーマとしてはJ.Dillaの「So Far To Go feat. Common & D’Angelo」という曲がすごく好きで、もしいま、自分がそんなイメージの曲を作るんだったら、ということも頭の片隅に置いて作った曲です。

06. 窓をあけたら ~69 Merry Go Round~ feat. MACKA-CHIN

ここは先輩の胸を借りようと。それでMACKA-CHINさんをイメージしたトラックを何曲か作って送ったら、ラップが入って戻ってきた……んですが、ガンガンに下ネタだったという(笑)。もう、その時点で「天才過ぎて最高です!」ってテンションが上がって、このラップとリリックを活かすために、元になったトラックを半壊させるぐらい、ガッチリ再構築しましたね。かなり気合が入りました。MACKA-CHINさんの新プロジェクト「ZEN RYDAZ」もサイケ・トランスみたいな突き抜けぶりだったし、先輩!さすがっす!と(笑)。ずっと憧れのアーティストであり、目指すべき大人ですね。

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MACKA-CHIN

07. DREAMER feat. mabanua & HUNGER(GAGLE)

mabanuaさんとHUNGERさんは、自分の音楽史の中でもトップ・クラスに尊敬している方たちなので、その二人がオファーを受けてくれたっていうのは、自分の人生へのご褒美なんだな……って(笑)。だから一緒に制作するのは、THCじゃなくてソロでやりたかったんです。オファーが整ったのは去年だったんですが、このレコーディングがあるから、来年も生きていけるっていう、生きる糧にしてました(笑)。僕が作ったビートをmabanuaさんに投げて、それに最初はハミングでメロディを入れてくれたんですけど「……これが鼻歌ですか!」っていうクオリティで本当に驚きました。HUNGERさんからは「どういうフロウが良い」って言って下さって。でも「HUNGERさんのあのフロウも好きだし、この曲のラップも好きだし……」って本当に悩んじゃって、選べるというのは、贅沢だけど大変な苦しみでもあるんだな、って(笑)。

TSUBAME “DREAMER” feat. mabanua & HUNGER

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mabanua

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HUNGER(GAGLE)

08. RAINS feat. kiki vivi lily & Kick a Show

kikiさんとは“IT’S ALL RIGHT”、Kick a Showくんとは“HなGAL feat. Kick a Show”と、THC作品にこれまでも参加して貰っていたので、THCとこのソロで繋がる部分としては、この曲が一番強い気がしますね。二人とも、最先端のR&Bやポップスを歌ってるので、逆に90年代ぐらいの、王道のR&Bテイストを歌ってくれたら、どういう風に聴こえるんだろうっていう好奇心からこの曲は組み立てていって。おそらく、この二人がタッグを組んだ初めての曲になったと思うし、その二人が組み合った時に、センスが爆発した曲になったと思いますね。

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kiki vivi lily

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Kick a Show

09. WEEKEND PLANS feat. 週末CITY PLAY BOYZ

週末CITY PLAY BOYZは僕が主宰しているレーベル〈OMAKE CLUB〉からリリースしているんですが、その彼らが、僕のトラックで歌ってくれたらどういう形になるんだろうっていうのがキッカケですね。新世代でもあるし、彼らへの期待も込めつつ、今の若い子たちの格好良さにあやかったりもしながら(笑)、一緒に作ってみたいなって。結果、おこがましいですけど、彼らの良さを引き出せた手応えもあったので、ヴォーカル曲としては最後に持ってきました。もともとはJABBA DA FOOTBALL CLUBのノルオブの紹介で知り合って、音源を聴いたらスゴく格好良かったんで、ウチのレーベルを紹介して。自分たちでアパレルをやったり、福岡のカルチャーを底上げしようとしてるのも格好良いですよね。今年爆発する気がします。

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週末CITY PLAY BOYZ

10. LAST TIME

この曲が出来る前に海外に行ってたんですが、その場所がジャングルの中のホテルで。そこでの夜の情景や、人工的な音が全くない自然だけの音に囲まれる感じが、めちゃくちゃ気持ち良かったんですよね。田舎育ちだからかもですが「なんかこの感じって、やっぱり良い」と思って、「自分だけが気持ちよくなれる音を作りたいな」という気持ちが強くなっていって。そこで感じた気持ちを込めたトラックを、最後の曲にしました。

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Photo by Yohei Haga

「『いま、このとき』と訳せばいいだろうか。」
「TSUBAMEの楽曲解説」
text by 高木 “JET” 晋一郎

「THE PRESENT」

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TRACK LIST

01. THE PRESENT
02. GOOD NIGHT feat. おかもとえみ & Rachel(chelmico)
03. SPACE feat. TENDRE
04. YOU feat. AAAMYYY & Itto
05. ONE LOVE
06. 窓をあけたら -69 Merry Go Round- feat. MACKA-CHIN
07. DREAMER feat. mabanua & HUNGER(GAGLE)
08. RAINS feat. kiki vivi lily & Kick a Show
09. WEEKEND PLANS feat. 週末CITY PLAY BOYZ
10. LAST TIME

TSUBAME (ツバメ)

TOKYO HEALTH CLUBのビートメイカー兼DJ。DEXPISTOLS率いるROC TRAXのDJユニットMYSS(ミス)の活動を経て、2010年、インターネット踏み台レーベル「OMAKE CLUB(オマケクラブ)」を設立しYOSA、ZOMBIE-CHANG、JABBA DA FOOTBALL CLUBらのアーティストを世に配してきたインディーズレーベルのオーナー。平日は、主に社会の歯車として活動中。

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高木 “JET” 晋一郎

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