先日フルスペックでの開催を終えた<FUJI ROCK FESTIVAL ’23>。今回はDAY 1、7月28日(金)深夜のRED MARQUEEに登場したヴィーガンVegyn)のライブレポートをお届けする。

FUJI ROCK FESTIVAL ’23
VEGYN@RED MARQUEE 07.28(FRI)

【フジロック23 ライブレポ】Vegyn、深夜の苗場でライブセットを日本初披露──チルとエキサイティングの狭間に report230804-vegyn3

今年のフジロックを振り返るにあたって、深夜のレッド・マーキーに触れないわけにはいかない。長谷川白紙、きゃりーぱみゅぱみゅ、ジンジャー・ルートといった人気者から、オーヴァーモノ、ロミー、ティーシャなど旬のクラブ系アクトまで目白押し。この時間帯のブッキング担当を務めたスマッシュ高崎氏も「自信がある」と語っていたように、朝まで踊り明かしたくなる大充実のラインナップが揃った。

かくして初日の夜、Ryoji Ikedaらしいノイズの洪水が鳴り止むと、転換中のスクリーンに楕円で囲まれた「Vegyn」のロゴが映され、DVDメニューを思わせる穏やかなループが流れだす。フジロックの興奮をクールダウンさせる束の間のひととき。

フランク・オーシャンとのコラボで知られ、トラヴィス・スコットによる話題の最新作『UTOPIA』にも参加しているヴィーガン。昨年のジャパン・ツアーおよび朝霧JamはDJセットでの出演で、自身の楽曲に加えてケミカル・ブラザーズ“Star Guitar”、ダフト・パンク“Digital Love”といった大ネタや、プレイボーイ・カルティやケンドリック・ラマーなどのヒップホップ・アンセムも投下するなど、幅広い音楽的バックグラウンドに裏打ちされたプレイを披露していた。

2度目の来日となる今回のフジロックは、満を持してライヴ・セットでの登場。結論と本音を先に言わせてもらうと、これこそが本当に観たかったヴィーガンのステージだ。未だ謎多き天才プロデューサー/レーベル〈PLZ Make It Ruins〉主宰の頭のなかを覗くような60分間は、チルとエキサイティングの狭間にある不思議な高揚感に満ちていた。

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定刻どおり24時ぴったりに姿を現したヴィーガンの「ライヴ」は、水滴のように跳ねるビートとクリック音、AI音声みたいなJeshiのラップが印象的な“I See You Sometimes”(2021年のEP『Like a Good Old Friend』収録)で幕をあける。ライヴ・セットといってもラップトップとミキサーを操作するだけなのだが、それだけで唯一無二の世界観が伝わってくるのは、彼独自の柔らかく透き通ったアンビエンスと、記憶を錯乱するようにランダムな光景を映し出すVJに因るところが大きい。そこに不定形のビートが重なると、レッド・マーキーへと吸い寄せられるように観客が集まりだす。

ヴィーガンの魅力は、その名状しがたいサウンドとフィーリングにある。“Cowboy ALLSTAR”は2000年代エレクトロニカのリヴァイヴァルを感じさせる曲調だが、そこから未発表のドラムンベース・ソングを挟み、同曲のカップリング“Blue Verb”ではトラップを通過したビート感を発揮する。特定のジャンルに縛られないというより、まだ名前がついていない未知の音楽をスケッチするかのようだが、終始一貫しているのはメロディの温かみ。その抽象的でノスタルジックな響きは、先ごろ新作をリリースしたエイフェックス・ツインにも比肩する美しさだと思う。そんなヴィーガンの極め付けというべき名曲が、2019年の傑作『Only Diamonds Cut Diamonds』に収録された“It’s Nice To Be Alive”。あの望洋としたイントロが流れたあと、原曲より焦らしたアレンジを経て、ついにビートが鳴りだすと大きな歓声が上がる(どの曲も音源とは一味違うライヴ・アレンジが施されており、非常に聞き応えがあった)。

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VJに目をやると、TikTokやインスタをスクロールするように、いくつもの景色が急スピードで流れていく。そこではマイケル・ジャクソン本人の姿も、彼みたいにダンスするどこかの国のキッズも、日本で撮ったと思しき景色も映し出される。メランコリックで意識が遠のきそうな旋律は、ボーズ・オブ・カナダの名曲“Olson”のカヴァーだ。ここまでくるとヴィーガンの独壇場。その後も心地よく踊らせ、最後は“Debold”で締めると、観客に一礼してステージを去る。そして、彼の背後にあった「Vegyn」のロゴは少しずつ消散していった。

今回のセットリストには、3つの未発表曲も含まれていたようだ。2022年に75曲収録のミックステープ『Don’t Follow Me Because I’m Lost Too!!』を発表しているように、多作家でもあるヴィーガン。はたして次はどんな景色を見せてくれるのだろうか。

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Text by 小熊俊哉
Photo by Kazma Kobayashi

INFORMATON

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Like a Good Old Friend

2021.04.16(金)
Vegyn
〈Warp Records〉
 
TRACKLIST
01.I See You Sometimes(feat. Jeshi)
02.Like A Good Old Friend
03.So Much Time – So Little Time
04.B4 The Computer Crash
05.Mushroom Abolitionist
06.Sometimes I Feel Like I’m Ruining Songs

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FUJI ROCK FESTIVAL ’23

2023.07.28(金), 29(土), 30(日)
新潟県 湯沢町 苗場スキー場

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