代錯誤のピエロ野郎だと思ったら大間違い。きわめてクレバーで、誰よりもモダンなアーティスト、それがウィリー・ムーンである。ニュージーランド生まれ、現在はイギリスに在住する23歳。ビシっと決めたリーゼントに、スラリとした長身で着こなすスーツ・スタイルはエディ・コクランやバディ・ホリーといったロカビリーのレジェントたちを彷彿とさせるが、その音楽性は一筋縄ではいかないほど特殊だ。

イギリスの『Q』マガジン誌が「ティンバランドがボ・ディドリーをプロデュースするとこんな音になるに違いない」と評しているように、ゴージャスなのにどこかオールド・スクールで、何かに似ているようで何にも似ていない唯一無二のサウンド。ただひとつ言えることは、めちゃくちゃキャッチーなのである。その証拠に、これまでも数々のヒット曲を世に紹介してきたアップル社が、iPodのCMソングにウィリー・ムーンの“Yeah Yeah”を起用。あっという間に彼の名前は世界中へと知れ渡ることになった。あのジャック・ホワイトも惚れ込み、自身のレーベル〈サードマン・レコーズ〉からシングル“レイルロード・トラック”をリリース、さらにUKツアーのオープニング・アクトとしてウィリーを招くなど、彼の才能が断じてハイプなんかじゃことを証明している。

満を持してリリースとなるファーストアルバム『ヒアズ・ウィリー・ムーン』は、全12曲、トータル・タイム29分以下という潔いまでのコンパクトさ。ロックンロール、ジャズ、ブルーズ、ソウル、R&B、はたまたヒップホップやダブステップまでも飲み込んだ至極ハイブリッドなサウンド・プロダクションが、あなたの人生をよりアップリフティングなものにしてくれるだろう。カヴァー曲にスクリーミング・ジェイ・ホーキンスの“アイ・プット・ア・スペル・オン・ユー”をチョイスするセンスも渋い。個人的にはジャネル・モネイのように、ロック・バンドやヒップホップ・クルーとコラボレーションしてみても面白いと思うのだが、それは後のお楽しみに取っておこう。そして、国内盤のリリースを目前に今年の<サマーソニック>への出演が決定! 以下のインタビューでは、彼が初めて訪れた外国=日本についても言及してくれている。衝撃のデビューからわずか2年足らずで、新時代のポップ・アイコンに踊り出つつあるウィリー・ムーン。いつ聴くか? 今でしょ!

Interview:William Sinclair(Willy Moon)

オリジナルに忠実なだけじゃなくて自分なりに解釈し、
好きにやること自体が新しいアートになるんだ

―― Willy Moon(ウィリー・ムーン)、完璧な名前だと思います。おそらく本名ではないと思うのですが、なぜこの名前に決めたのでしょうか?

僕は子どもの頃からSF小説が好きで、むさぼるように読んでたんだ。未来とか、宇宙とかが大好きでさ、宇宙飛行士になりたかった。本気で宇宙飛行士になろうと思ってたんだよ。だって、SFの中ではなんでも可能だよね? 空想だから。そこが魅力なんだけど、唯一、月だけは人間が足を踏み入れたことのある場所だった。空想だけじゃない、実際に触れることのできる…「掴めるもの」って気がしたんだ。で、普段僕は「ウィリー」って呼ばれてたから、ウィリーと月=ムーンをつなげて「ウィリー・ムーン」って言ってみたら、すごくいい響きだったし、自分の中で意味が通じたっていうのかな。だからウィリー・ムーンにしたんだ。

――ニュージーランドからロンドンに移住した後、60年代の音楽やジャズにのめり込んだそうですが、リアルタイムで夢中になったアーティスト/バンドはいましたか?

もちろん! ずっといろんな音楽を聴いてきたからね。夢中になったバンドもたくさんいるし。たとえば、ホワイト・ストライプス。あとはヤー・ヤー・ヤーズに、ザ・ストロークス。あのへんのバンドだね。他にも好きなバンドを挙げていったらキリがないけど…。

――また、子どもの頃に日本でも生活していたことがあると聞きました。どこに住んでいたのか覚えていますか? 日本のロカビリーにも衝撃を受けたそうですね。

いや、住んでたわけじゃなくて、9歳の時に1週間だけ東京にいたんだ。家族でニュージーランドからロンドンに行く時にストップオーバーができる航空券だったから、それで東京にも滞在した。でも、僕にとっては初めての外国、初めて見る別世界で、もう強烈な印象が残ったんだよ。今でもはっきり覚えてることが3つあるんだ。1つは巨大なショッピングモールに行ったこと。場所は覚えてないんだけど、圧倒されたね。2つ目は、なんか緑色の飴みたいなものを食べたこと。これがもう、生まれてから食べたことがないような味で、強烈だった。今でも何だったのかわかんないんだけどね(笑)。それで3つ目がロカビリー。渋谷か原宿でロカビリーの人たちがグループになって踊ってたんだけど、ものすごくてね。ファッションはもちろん、髪型なんか見たことがないくらいの高いリーゼントにしてて、とにかく全部が「デフォルメ」って言えるくらい誇張されてた。それに強いインパクトを受けたんだ。振り返ってみると、オリジナルに忠実なだけじゃなくて自分なりに解釈し、好きにやること自体が新しいアートになるんだってことが、あの時にわかったんだと思うよ。

――フランスの古い映画、それも悪役のファッションにインスピレーションを受けるとおっしゃっていますが、もっともお気に入りのデザイナー/ブランドを教えてください。また、コム・デ・ギャルソンなど日本のブランドは着ますか?

そうだな…。たくさんあるけど、ブランドっていうよりは、そのシーズンごとに好きなコレクションがあるんだ。でも、強いてひとつだけ挙げるとするならば、イヴ・サンローランだね。日本のデザイナーだったら、ヨウジヤマモトは素晴らしい洋服を作っていると思う。

――『VOGUE』のインタビューにて、「Tシャツやジーンズを持っていない」と語っていたのは驚きでした。あなたにとって「オフ」という概念は無いのでしょうか?

今ちょうどホテルの部屋にいるんだけど、そういう時にはラウンジ・スーツっていうか、比較的ゆったりとしたスーツを着てるんだ。外出先から戻った時は、もうちょっと快適なスーツに着替える。僕にとっては、それが一番快適なんだよ。Tシャツやジーンズを着ないのは、着ててあんまり快適じゃないっていうか…。どうにも居心地が悪いんだよね。他の人からすると家でもスーツを着てるほうが居心地が悪くて、変な感じなのかもしれないけど、僕にとってはジーンズなんかを着てる時のほうが変な感じなんだよ。だから僕はイメージやキャラクターを作って、人前に出る時だけ“ウィリー・ムーン”になってるわけじゃなくて、いつだって自分が着てしっくりくる服を着てるだけなんだ。

――アーティスト写真やルックスからはオールディーズを彷彿とさせますが、ウィリー・ムーンの音楽はあくまでコンテンポラリーなものです。作曲はおもにギターなどの生楽器とラップトップどちらで行うのでしょうか?

それは曲によるね。ラップトップから作りはじめる曲もあれば、ギターでコードを弾いて、そこから始める曲もあるし。ギターだけじゃなくて、キーボードやストリングス、ヴォーカルみたいなライヴやインプロで作っていく曲もある。ただ、そういうオーガニックな曲も後からソフトでいじって、ちょっと変わった雰囲気にしたりするんだ。だから本当に、その2つが混ざり合ってる感じなんだよね。

――さて、いよいよファーストアルバム『ヒアズ・ウィリー・ムーン』がリリースされます。タイトルの決断には非常に悩まれたそうですが、どんな気持ちが込められているのでしょうか?

僕はずっと、デビュー・アルバムはセルフ・タイトルであるべきだって思ってた。だって、世の中に自分の音楽がこれだ! って宣言するのが1stアルバムだよね? 最初のアルバムに小難しいタイトルを付けるのなんて、なんだかあざといっていうか…。いや、好きなデビュー・アルバムでセルフ・タイトルじゃない作品もあるにはあるんだけどさ(笑)。だから自分のデビュー・アルバムも僕の名前でいこうと思ったんだけど、それだけじゃちょっと退屈だなと感じたんだ。それで思い出したのが、僕がずっと好きなレコードのひとつでもあるリトル・リチャードの『ヒアズ・リトル・リチャード』(57年)。「これだ!」って思ったよ。で、それを自分の名前に置き換えて使ってみたというわけ。

――なるほど。では、あなたが今まで聴いてきた中で、「世界最高のデビュー・アルバム」は?

最高のデビュー・アルバムか……。だったら、MC5だな。彼らって、デビュー・アルバムがライヴ・アルバムなんだよね。それってすごくない? 伝説的だと思う。今すぐに思いつくのはそれだな。

――『ヒアズ・ウィリー・ムーン』にはパルプのスティーヴ・マッキ-も参加しています。彼からどんなことを学びましたか? また、あなたにとってパルプとはどんなバンドですか。

別にスティーヴと一緒にやるのを計画してたわけじゃないんだ。ただ、ストリングスをレコーディングしたりする時に、誰か外部のアーティスト…熟練した人に手伝ってほしいと思っていて…。それで人づてにスティーヴと知り合って、すごくやりやすいと思ったから頼んだ。彼は知的だし、インストゥルメンタルにも詳しいし、僕がやりたい音楽も理解してくれてた。だから安心して任せられたし、一緒にやっていろいろ勉強になったね。だからといって、パルプが自分にとって大きな意味を持つわけじゃないんだよ。もちろん有名な曲はいくつか知ってるし、何枚かアルバムも聴いたことはあるよ。『ディス・イズ・ハードコア』(98年)とかさ。でも、有名だからスティーヴに参加してもらったっていうわけじゃないんだ。

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