それぞれの会場にはFunktion-Oneのスピーカーが積み上げられ、音がいい! ライブの転換も非常にスムーズで、待ち時間は最小限。(特に海外の)野外のフェスティバルでは機材トラブルも多いが、私が見た中で最終日のレコードの針が強風のため跳ぶアクシデントは何度かあったが、その際も即席の風除けボードを作ってターンテーブルをガードしていた。かつてDJプレイ中に雨が降ってきた時は、他の出演DJたちがビニールシートを持ち上げてブースに雨が入らないように守ったというエピソードも常連の間では語り草になっている。今回は一度も雨に降られることもなく、夜間に冷え込むこともなく、天気の面でも非常にラッキーな年だったようだ。また、会場に関して感心したのが、企業スポンサーのブランディングやバナーがほとんどなかったこと。商業的なフェスティバルではあるのが当たり前になってしまっている昨今だが、視界を邪魔するものがないというのは実に気分が良い。そういうところからも、主催者の真摯な運営方針が伺えた。
最後に、特に感動的だったのがそこに集っていた人々。地元のフランス人とUKからのお客さんの比率がやや高めなのは当然だとして、ヨーロッパ各国にオーストラリアやニュージーランド、アメリカ、アジアからも少々と、まさにワールドワイドな客層。その皆がこの多種多様な音楽パフォーマンスを分け隔てなく楽しんでいた。キューバの若き歌姫ダイメ・アロセナのパフォーマンスと、ダブステップの立役者ローファーのプレイの両方に同じように良さを見いだせる音楽ファンはそこまで多くないと思うのだが、<Worldwide Festival>ではそれが当たり前。優れた音楽に対しオープンマインドであり、好奇心旺盛なのだ。このお客さんたちを見て、つくづくジャイルス・ピーターソンの影響力と功績を実感せずにはいられなかった。司会者/主催者として、ほぼ全ての出演者を観衆に紹介しその魅力を説明するジャイルスの愛情と熱意と体力にも脱帽した。出演者たちも実に楽しそうにプレイしていたし、客席にも笑顔が溢れている。こういう光景を見ると、音楽には世界を平和に、幸せにする力があるんだと本気で信じられる。そんな瞬間が何度もあった。
個人的なハイライトは、まず初日のロイ・エアーズのコンサート。彼の代表曲のひとつでもある「Everybody Loves The Sunshine」は今回の<Worldwide Festival>のテーマ曲だったと言っていいだろう。期間中何度も聞くことになった。2日目のジェイムス・ブレイクのライブも何か神聖なものを感じるほど美しく、“The Wilhelm Scream”辺りでステージ背後の青く光る水面を白いボートがゆっくりと横切っていったときは夢のようで涙腺が緩んだ… その後バトンを受け取ったDMZ10周年を祝うオールスターB2Bセットで、マーラが自身の代表曲のひとつでジェイムス・ブレイクがリミックスした“Changes”をかけた瞬間のぎっしりと人で埋め尽くされた会場の反応も爆発的だった。3日目のエヂ・モッタのステージにダイメ・アロセナとロイ・エアーズと彼の若きキーボーディストが飛び入り出演し、国境も世代も超えたセッションで再び“Everybody Loves The Sunshine”をやったときも会場にいた全員が、音楽の素晴らしさを噛み締めたはずだ。もともと筆者が大ファンで期待していたDJ ハーヴィーが金曜の夜最後の2時間をさすがのコントロール力で会場を踊らせていた光景も印象に残っている。そして土曜日の最後の朝方、セットタイムがだいぶ削られてしまったにも関わらず圧倒的な存在感と強烈なベースで聴衆を熱狂させたワンマンのプレイにも度肝を抜かれた。いずれもこうして振り返りながら書いているだけでも鳥肌が立つような思い出だ。
仲間とキャンプをしながら泥まみれになるようなフェスティバルも楽しい。だが<Worldwide Festival>は、あらゆる面でワンランク上、あるいはネクスト・レヴェルで、最上級の音楽とバカンスが味わえる。これ以上の贅沢は他にない、そう思わせてくれるフェスティバルだった。
★<Worldwide Festival>で今回初めて開催された特別プログラム<Japan Night>については、別途来週レポートします!
EVENT INFORMATION
Summer Reverb 〜WF Sète’15 -JAPAN NIGHT Feed Back 〜
2015.07.19(日)
OPEN/START 17:00/END 終電前
渋谷・HOT BUTTERED CLUB
Daisuke TanabeとYosi Horikawaによるアンビエント・セット。それぞれのライブ・セットに加え、南フランスでの制作過程と楽曲を発表。
Worldwide Festival Sète ’15
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photo by Pierre Nocca