Gilles Peterson’s“WORLDWIDE SHOWCASE 2013”~magic no’9~
2013.11.01(fri)@恵比寿LIQUIDROOM
魔法がかっていたといえば平凡な物言いになるが、明らかにスペシャルな一夜だった。祝祭と歓喜の瞬間があった、そして陶酔と恍惚の瞬間があった。年に一度の祭典、ジャイルス・ピーターソンがキュレートする<WORLDWIDE SHOWCASE>が今年も11月1日(金)、恵比寿リキッドルームで開催された。主催のJ-WAVE(81.3FM)が25周年を迎えた事もあり、祝典の厳かさも一際だ。シックな服装に身を包んだ、落ち着きのあるアダルティーな客層が目立つが、同時に、彼らが気持ちの高揚を抑えられない様子も見てとれた。もちろん、その点に関しては筆者も同じ、ひとまずこの日限定のスペシャル・ドリンクであるカンパリ・モヒートの清涼感で渇きを癒し、場内に身を落ち着ける。フロアではDJのAkira Ishiiがひとしきり場を温めたのち、主宰者のジャイルス・ピーターソンがメイン・ステージ脇のDJブースに姿を現した。その、これから始まるショーの幕開けにエキサイトしてまくしたてる様は、彼が誰よりもこの日の出演者たちのファンであることを物語り、オーディエンスを煽り立てるジャイルスに、場内の期待の眼差しは一気にステージへと向けられた。
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Akira Ishii
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まずはJazztronikのストリングス・管楽器隊含む豪華7人編成でのパフォーマンスだ。ゲスト・ヴォーカルとして迎えられたロブ・ギャラガーの呪術的なスキャットと語り、そしてヴォーカルの有坂の抜けの良い声がバンドと相乗効果を以て、ムーディで荘厳な演奏に寄り添いながらも、早くも会場の温度を高める。後半は性急でダンサブルなナンバーも披露し、各パートの見せ場を作りながら、アップリフティングなシンセで観客をピークへと持っていった。メイン・ステージの転換には、先ほどゲスト参加したロブ・ギャラガーが旅芸人のような出で立ちでアシッド・ジャズ的な折衷的なブルーズを朗々と歌い、幕間を務める。
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Jazztronik
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ロブ・ギャラガー
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転換中のバーカウンターは恐ろしい混みようで、皆がライヴの感想と次のバンドの期待を口々に話している。そう、次は松浦俊夫プロデュースによる、HEXの初披露目ライヴだ。ベース、ドラム、キーボード、ピアノのシンプルな構成ながら、アプローチもミニマルで、デジタルエフェクトやサンプリングを駆使した音のテクスチャーでジャズを演奏してみせる、実験的な側面のやや強いものである。始終クールな佇まいの4人が引き伸ばす音のリフレインにいつしか微熱が帯び、ゲストでEGO-WRAPPIN’の中納良恵を迎えたときのパッショネイトな瞬間には、バンドが生み出すグルーヴが更に心地よく感じた。
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HEX
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中納良恵(EGO-WRAPPIN’)
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次いでメイン・ステージに現れたのが、西海岸からやってきたスリーピース、ステップキッズ。SO IN THE HOUSEによるディスコティックなVJが彩る中、三者お揃いのドレスシャツをまとい、フロントマンの2人はステップで動きを合わせたりと可愛らしい。卓越した演奏力が注目の彼らも、楽々弾きこなしてしまうものだから、ついついパーティ然としたユニークな動きとステージングの方に目がいってしまう。ダフト・パンクの“Get Lucky”のカヴァーや、先日逝去したルー・リードの“Walk on the Wild Side”の名ベースラインを合間に挟むなどのサービス精神に、そのたたきあげのショープレイヤーの実力が前評判以上であることを感じさせた。一時も観客を飽きさせることなく、素晴らしい段取りでショウを終えたのだ。
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ステップキッズ
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ステップキッズ
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3バンドによるパフォーマンスが終わるも、最後にひとつ、今宵のクライマックスを飾るにふさわしい演目が残されている。この日集った全てのアーティストたちがステージに立ち、ホレス・シルヴァーの“The Tokyo Blues”をセッションするというものだ。「Japanese people like music」という詞が乗せられた一夜限りの豪華なコラボレーションは不思議な一体感を生み、ラストはしめやかに、しとやかに幕は閉じられ、この日の出演者たち全員に喝采が送られた。
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出演者全員でのSuper Session
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ジャイルス・ピーターソン
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・・・魔法はとけた? いや、夜はこれから。カーテンクローズをサインに始まるジャイルスのDJは、より一層激しさを感じさせるもので、ワールドミュージックを軸としたビート・ミュージックに私たちは身体を揺らし、踊った。東京の夜は深く、音楽が鳴っている瞬間には、魔法さえも自由だ。ジャイルスの言うように、マジックとは、オーディエンスとアーティストが形作るもの。私はそれをヴァイヴスと理解している。
text by Yu Nakazato
photo by アカセユキ