2012年に、シンガーのゆう姫とトラックメイカーのジェマパー(JEMAPUR)によって結成されたYoung Juvenile Youth(以下、YJY)。ゆう姫のクールな歌声とジェマパーの“変態的”とも言える音の融合、そしてアートワークを含めた世界観が結成時から加速度的に国内外から注目を集め、2017年にリリースされた1stフルアルバム『mirror』はその存在感を決定付けた。
そして今年に入り、YJYは1月から3月までにデジタルでシングルを3作リリース。さらに今回、YJYがagnès b.(以下、アニエスベー)とのコラボレーション企画として、今年リリースした3曲のリミックスを加えた計6曲の限定アナログ盤をリリースした。音楽に造詣の深いアニエスベーが本国・フランスで展開するバイナル企画は、YJYをパートナーにここ日本においてどんな意味を持つのか? 今回のバイナル企画という実験的プロジェクトについて、YJYのゆう姫さん、アニエスベーでブランドディレクターを務めるオステアー・クリストファー(以下、クリストファー)さんに話を聞いた。
Interview:ゆう姫(Young Juvenile Youth)× オステアー・クリストファー(agnès b.)
「何か面白いことができそう」という共感から繋がったコラボ
━━まず始めに、クリストファーさんはアニエスベーの中でどういった立ち位置なのですか?
クリストファー 僕は5年ほど前にアニエスベーに入ったのですが、デザイナーのアニエスに社内カルチャーをスパイスアップしてほしいという要望で誘われました。今はアニエスベーが第三者の目に触れるところはほぼ担当していて、社長室のプロジェクトリーダーという名前が付いていますが、前はマーケティングにもいたし、ブランディング・PRのようなところにもいて、毎年のように担当部署を動いているんですよ。新たに作ったこの青山店のギャラリーのキュレーションとマネージメントもしています。クリエイティブディレクションというほど何か物を作っているわけではないのですが、会社の“色味”や“匂い”を調整するような役目です。
━━今回のバイナル企画で、YJYに依頼したきっかけを教えてください。
クリストファー まずアーティストとの付き合い方に関して、例えば何か企画があったとして、終わったら「ありがとうございました。ではギャラをお支払いします。」というのが大抵のブランドの付き合い方だと思うんですよ。でもそれってわかりやすく企業対アーティストの関わり合い方で言ったら、アーティストが弱い立場にいるシチュエーションになってしまう。僕はそういった関わり方をしたくないと考えていますし、今後も長い目で見て一緒に何かをやっていきたいと思える人としかやらない。今回のコラボに関しても、まずそれが根本にありました。
━━その意味でYJYはそう思えるアーティストだったということですが、ゆう姫さんとクリストファーさんは以前から知り合いだったのですか?
ゆう姫 別のブランドのイベントで紹介されて、そのときに「何か面白いことできたらいいね」っていう話をしました。アニエスベーに関しては、4年前の<ファッションズ・ナイト・アウト>というイベントで、店舗でライブをしたことがあって。そのあとすぐに<パリ・コレクション>に行ったのですが、そこでアニエスベーのショーを見て、アニエスさんにもお会いできたんです。ショーのあとにいきなりアニエス・ファミリーに混じって写真を撮って、一緒にフランスのメディアにインタビューを受けたりもして。すごい展開だったんですが、そこからいろいろと親交が生まれて、その後もイベントでライブしたり、アニエスベーラジオでパーソナリティをさせていただいたりもしました。そうしているうちにクリス(クリストファー)とプライベートでも仲良くなっていって、今回の話に繋がっていった感じです。
クリストファー あ、今回に関してはあれがきっかけかも。ジェフ・ミルズがバンドと一緒にセッションするライブが去年の終わりごろにスーパー・デラックスであって。お互いのビジョンをフィードバッグする場も兼ねてライブを見に行って、そのあとご飯も食べたよね。そのときのライブの感想も含めて彼女のアーティスト性がわかって、そこから本格的に動き出していきました。
ゆう姫 そもそも私はデジタルで出したあとに、フィジカルで出したいなと思っていたんです。そういう話を周りにもしていて、クリスがそれに乗ってくれた。
━━そもそも、アニエスベーがフランスで展開をしているバイナル企画とは、どういった内容のものなのですか?
クリストファー アニエスが音楽大好きっていうところから始まっているのですが、いわゆる音楽部門担当者がいて、そういうマーケティングツールがあるわけではなくて。フランスでも最近は、リリースはほぼデジタルでしているけれども、レコードを作ればわかりやすくそれを使ってプロモーションやパーティーができる。ただ、アーティストにお金がなくて作れないことがほとんどです。そこでアニエスベーがサポートして、例えばレコード500枚、1,000枚刷って、その代わり「100枚ぐらいはうちにプロモーションとしてください」という形で展開していく。できないことを可能にしていく、アーティストの望みを叶えていくという想いで始まった試みなのですが、それが20年経つと世界中のアーティストからリスペクトされる企画になっているんです。最初のころは、エール(フランスのエレクトロ・デュオバンド)の7インチとかも出していたんですよ。今回もお互いの必要なところを持ち寄った企画というか、ゆう姫の必要なところを僕が持ち寄って、僕はゆう姫のインプットが欲しかった。それが両方マッチしたのだと思います。
━━その“マッチ”に関して、音楽に対する考え方でYJYに共感する部分も大きかったですか?
クリストファー それで言うと、YJYは日本における「メジャーとインディーの“間”って何だろう」っていうことをすごく考えていると思うんですよね。それが僕としてもすごく共感できて。いわゆるインディーと呼ばれる中に面白い人はたくさんいますけど、逆にインディーというものに目を眩ませられている人も多いような気がして。インディーだからカッコいいわけでもないし、インディー目線でメジャーを批判することも違う。ゆう姫はインディーでずっとやっていくつもりもないし、もっと広い人に向けて届けたいっていうことを最初からずっと言っていた。最初のスタンスがそうだったので、このレコードが20年後にどういう立ち位置になるかを想像しやすかったし、個人的にこれはもっといろんな夢が広がるぞと思いました。
ゆう姫 アニエスベーはブランドとしてファッションだけじゃなくカルチャーにも力を入れているイメージが強くて、そういった概念というかコンセプトに共感がありました。クリスは私の考え方とかを面白がってくれて。このプロジェクトを一緒に出来ることになって内心はめちゃめちゃ嬉しかったです。
リミックス、アートワーク含めてYJYへの“愛”がこもった作品
━━まず作品のアートワークに関しては、YJYの世界観を表現するにあたって写真家やデザイナーなど、これまでも一緒に作品作りをした人たちに依頼していますね。
ゆう姫 このアートワークの写真は磯部昭子さんが撮影してくれたものなんですが、その時は作品撮りというか、ジャケットになる事等は全く考えていなくて、彼女がアイコンとして私に興味を持ってくれたところから作った作品だったんです。出来上がった写真の世界観がすごく素敵で、是非新曲のアートワークとして使用させて欲しいと頼んで、私なりの目線で写真をクロップして使わせて頂きました。磯部さんも私の写真の切り取り方が斬新で面白い!と言ってくれて。このアートワークのデザインをしてくれたシェーン・レスター(Shane Lester)は2017年にリリースしたYJYのフルアルバム『mirror』のデザインもしてくれて、彼のデザインは本当にどれもカッコいい。世界で活躍しているグラフィックデザイナーなので、すごく多忙だし、当時日本にも居なかったので最初は諦めていたんです。でもデザインの入稿ギリギリで彼が日本に帰ってくるタイミングがあって、駄目元で頼んでみたら、YJYの曲も好きだし、YJYのためならなんでもやるよ!と快諾してくれました。
━━楽曲のリミックスはオリジナルを手掛けるジェマパーさんが再構築した“Darkroom”に加えて、“Sugar Spike” はUKを拠点に活躍するベン・カーンさん、“Hung Up”は名古屋のトラックメーカー・RAMZA(ラムザ)さんのお二人に依頼しています。こちらもすんなり進みましたか?
ゆう姫 ある日突然、ベンからインスタのDMで「日本に行くから遊ぼうよ!」とメッセージが来たんですよ。音楽は前からチェックしていたので、「ベン・カーンってあのベン・カーン?」って驚きました。会ってすぐに意気投合したんですけど、彼の音楽のファンだったのでなんか不思議な感覚でした。そこから、一緒になにか作って遊ぼうよという事になり、ジェマパーと3人でセッションもしました。そんな中、“Sugar Spike”のリミックスをベンに頼みたい!と思って、彼に聞いてみたんです。そしたら「リミックスはやったことない」と言われて。でも「そこをなんとか!」とお願いして、試作を作ってくれたんですが、その時点ですごくかっこよくて。それは実際出来上がったものとは全く違ったんてすが、彼のエッセンスがすごく入っていて、「天才だな」と思いました。
━━そんな奇跡的な展開が、あのリミックス曲の裏で起こっていたんですね。
ゆう姫 その後、ベンから「リミックスをするのは初めてだったけど、ゆう姫の声を弄るのがすごく楽しかった!」と言ってくれました。ベン自身のボーカルも入っていて、面白いなと思いました。
━━ラムザさんも、もともと親交があったんですよね?
ゆう姫 そうですね。元々はジェマパーの友人で、何回か遊んだり。ラムザの仲間である、Campanella(カンパネルラ)と『mirror』の中で”When”という曲でフューチャリングもしています。前からラムザの作品が好きで、何か出来たらいいなと思っていたので、こういう形でコラボレーション出来て嬉しいです。
━━あらゆる面において、間違いないメンツで作り上げた作品ですね。
クリストファー 僕の側で言うと、フランスに知らせることは大きなところで。今回に関してはトライアル的な形で、いつもはしないアニエスベーでの販売もすることになりました。
ゆう姫 そういう意味で言うと、音楽、アートワーク、そしてバイナルを展開してくれるアニエス、そしてクリス。全員が全員、ちゃんとYJYの音楽に賛同してくれた人しか携わっていないんですよ。なので、すごく“愛”のこもった作品になっていると思います。
音楽を聴くという行為と、自分を知ることで生まれるメッセージ
━━今回の企画は、アナログ盤でリリースすることに大きな意味があると感じているのですが、改めてお二人にとってのアナログ盤の魅力はどこにあると感じますか?
ゆう姫 そうですね……私は単純に12インチのサイズが好きです。デビュー作(2013年の『Anti Everything』『More For Me, More For You』の2作品)もレコードで出したんですが、「自分の書いた絵をこのサイズで表現できるのいいな」って感じで。音がどうこうというよりは、触れられるものが作りたいという理由の方が大きいです。
クリストファー 今ってデジタルでリリースをした場合、リリースパーティーではTシャツとかトートバッグとかを作ると思うんですけど、リリースする音源が形となって届くっていうのは意味がある。けれど、レコードは「貴重で大切に扱わなければいけない」みたいに、そこまでの重みを与える必要は無いとも思っています。レコードはずっと残るものだし、レコードを捨てた人を僕は聞いたことがない。レコードって売る人はいても、捨てる人はいないと思う。それってすごいことで、「お金にならなくても次の人に渡したい」っていう感覚があるんですよね。もはや今って、家にレコードプレーヤーが無くても買っている人はいますし。
━━フィジカルという“モノ”として欲しいっていう人も多いですよね。同時に、アナログ盤で聴くっていう行為は、音楽を楽しむ原点を感じさせてくれる面もあります。
ゆう姫 YJYは曲が出来てからのミキシングやマスタリングのプロセスがすごく長いんですよ、特にジェマパーが“音変態” (笑) なので、何十パターンも作ったりしていて。その想いが込められているからなのか分からないですけど、YJYの音楽を客観的に考えた時、もしかしたら、「気合のいる音楽」なのかなと思います。聞き流すというよりは、音楽を聴くという行為に向き合う、みたいな。だからアナログ盤にすることで、盤をセットして、「さぁ音楽を聴こう」っていう時間を作ることが、理想だったりします。ちゃんと集中して聞いて初めて聞こえてくる音があったりするので。
━━レコードで聴くときは、人それぞれ“儀式”のようなものがきっとありますよね。
ゆう姫 そうですね。「趣味:音楽鑑賞」っていう言葉が前は結構使われていたと思うんですよ。でもそれってカッコつけでもなんでも無くて、音楽ってちゃんと鑑賞するものだから。もちろん違う捉え方をする音楽もたくさんあるけれど、ジャズとかクラシックとか、「何この音……」みたいに音楽を文字通り鑑賞する人たちがたくさん居たんだと思う。今はその文化が少なくなってきているのかなと思う。音楽鑑賞って、結構気合いいりますからね(笑)。
━━今回の作品が鑑賞という言葉を再確認させるきっかけになるかもしれません。今後も、YJYとアニエスべーのタッグはいろいろな展開が生まれそうですか?
クリストファー そうですね、何でもできると思いますよ。そのときに大事なのは、人のことを気にしないで、何をやりたいか。「こうしたらウケそうだよね」ではなくて、もしかしたら笑われることも覚悟で、笑いながらやるみたいな。そういうことはぜひやりたい。
━━アニエスベーというブランドとしては、今後もアートや音楽との架け橋のような役割を担って、メッセージを発信していきたいと考えていますか?
クリストファー メッセージを発信するというよりは、こういうものを作るプロセスにメッセージが生まれてくるのだと思います。アニエスべーとして伝えたいメッセージは、オフィシャルにはあります。でも僕は海外ブランドとして日本にいる意義を作りたいと思っていて。海外のブランドとして日本を見たときに、正直、日本のローカルブランドの方がすごいなと思うことはたくさんあります。じゃあ何で日本に海外ブランドが必要なのか、という部分を僕はいつも考えていて、ギャラリーに関しても、海外からインポートのアーティストを展示していたら、大使館みたいなものなので。今回のような企画でいろいろな人と繋がっていくことで、その先に広がりが出てくるし、アニエスベーとして日本にいることの意義も出てくると思います。
━━そのメッセージという点に関して、ゆう姫さんはどのように考えていますか?
ゆう姫 私がそもそも音楽を始めたのは自分のためというか、自分を知るためっていうところが大きくて、人に音楽を伝えたいというよりは、どうしたら自己表現出来るかだったんです。YJYを始めてから6年経って、「伝えたい」という思いが増してきているけど、根本には自分のための音楽というのがある。自分を知るのは、難しいし、怖かったりするけど、それによって自分なりの意見が言えるようになるし、自分を確立していける。そういう人が少ない気がして、面白みがないなと思う時があるんですよ。自分で選択して、自分で意見することの大切さということが、私から出るメッセージになっているのかなって今は思います。なので、あまり人の意見は聞かず、というよりは気にせず。嫌いなことをやるほど無駄なことはないので、できる限り自分は好きなことを一生懸命やる。それが少しずつ形になっている気がします。
interview&text by ラスカル(NaNo.works)
Photo by Nozomu Toyoshima
ゆう姫 衣装協力
masao shimizu
ブランド名:masao△shimizu/ マサオ△シミズ
お問い合わせ先はこちら
RELEASE INFORMATION
DIALOGUE
2019.07.25(木)
Young Juvenile Youth
MAG-004
Matte and Gloss / agnès b.
[Track List]
A1. Darkroom
A2. Sugar Spike
A3. Hung Up
B1. Sugar Spike(Ben Khan remix)
B2. Darkroom(RAMZA remix)
B3. Darkroom(JEMAPUR Reconstructed Remix)
限定300枚 アナログ12インチバイナル
¥2,500(+tax)
SHOP INFORMATION
agnès b. 青山店
東京都港区南青山5-7-25 ラ・フルール南青山
TEL 03-3797-6830
営業時間 11:00〜20:00
Young Juvenile Youth
ボーカリストゆう姫と、電子音楽家JEMAPURによるエレクトロニック・ミュージック・ユニット。 2012年の活動開始とともに、エッジの効いた電子音楽的アプローチの上で、自由に、個性的な言葉を紡ぐボーカル・スタイルで、アンダーグラウンドなシーンで話題を呼ぶ。それは2013年からの作品発表とともに全国へと広がりを見せ、2015年にリリースされたEP 『Animaiton』は、iTunesのエレクトロニック部門で7週連続1位を獲得し、iTunesが世界中のニューカマーの中から選ぶ「New Artist スポットライト」に選出される。そして2017年11月に、満を持してリリースされたファースト・アルバム 『MIRROR』は、欧州からアジア地域を筆頭に 「新たなTokyo Soundの急先鋒」として高い評価を受けている。今年1月から、写真家 ISOBE AKIKOとのコラボレーション作品をアートワークに配し、ニューシングルを3ヶ月連続リリース。