リー・ミックス音源で世界中の注目を集め、あのオルタナ・ヒップホップ・レーベル〈Anticon〉がBaths以来の大型契約を交わしたエジンバラのヒップホップ・クルー=ヤング・ファーザーズ。昨年(2014年)には、FKAツイッグスやデーモン・アルバーンなどの最有力候補を抑え、デビュー作にして英国で最も権威のあるマーキュリー最優秀アルバム賞の栄冠を手にし、衝撃と共にシーンに登場した。そんな彼らの最新作『ホワイト・メン・アー・ブラック・メン・トゥー』が4月4日(土)にリリースとなった。前作で全編通して漂っていたダークさは少しだけ鳴りを潜め、新作はどの楽曲もポップネスを感じられる作品に。彼らの持ち味である、激しい動悸をひきおこすようなスリルさももちろん健在だ。

Young Fathers – “Shame”

Qeticでは昨年彼らが日本デビューを果たしたタイミングに、ラッパー/トラックメイカー/DJ/作詞家/プロデューサーと多くの顔を持ち、独特の言葉選びと先鋭的な音作りで様々なシーンから支持を受けるイルリメ(鴨田潤)氏によるインタビューを遂行。ヤング・ファーザーズの持つ自由さと真実性のある表現に引き込まれたという彼が、同じアーティストの立場から様々な角度で質問を投げかけヤング・ファーザーズの実態に迫っていた。

同インタビューは固執したイメージを避けるために、どこか抽象的な回答も目立つものに。それに対し、イルリメ氏は彼らをどんなアーティストと解釈したのか。また、予想より早く届けられた新作を聴いて何を想うのか。新作に対する感想を寄稿していただいた。

【イルリメ寄稿】Young Fathers新作は “ネット以前/以後どちらの人間として生きるかのきっかけに” music150410_yf_1

『ホワイト・メン・アー・ブラック・メン・トゥー』ジャケット

(text by Qetic・Yuka Yamane)

イルリメ寄稿:ヤング・ファーザーズ
『ホワイト・メン・アー・ブラック・メン・トゥー』について

Hip Hopという音楽はFunk、Soul、Rock、Jazz、Popsなど様々に区分けされた音楽性&人種性を“円盤”という物質にしてみれば「なんだ。Turntableにのせて針を落とす。どれも同じ手順で音が鳴るし、形を見てみろ、どれも同じただの黒い円盤じゃないか。違いなんてないだろ」と身を削りくるくる回りながらBPMという言語によって会話する盤同志が互いに手を繋ぎParadeして訴えた解放運動だが、そのHip Hopすらもただの音で、更に言えばWAVもJPGもtxtもPC上では同じ大きさのicon、形式違うだけでFileという情報。

圧縮してMail添付すれば同じ意思疎通Toolじゃないか、という現実をみせたInternet以後の価値観をもつYoung Fathersからすれば、Internet以前に作られた全ての区分けも彼らの感性では特有の整理がなされており、脳内の情景や体から弾き出される感情を表現する際、どの扉を開ければその隣にどの扉があるのか、など自分自身の抽出を忠実に芸術表現していけば、誰でもない独特なものになるのは当然で、それが旧来の区分けや認識に計られると捉えどころのない音楽と感じられるのも当然といえばどうしようもなく当然である。

そしてそのinternet以後の区分けを持つ人間が、internet以前の世界から残された課題への意思として『White Men Are Black Men Too』と表題にしたのは当然の発想であり、発さなければならない言葉である。

「白人のなかにも黒人は存在」し、「黒人のなかにも白人は存在」する。「男性のなかにも女性性は存在」して「女性のなかにも男性性は存在」する。

それまで旧来の場所でMinorityだった人々や発想はinternetのなかで結びつき、新たな区分けを作っていくだろう。

そしてこのAlbumのTitle『White Men Are Black Men Too』という文字をみて、日本語を読むAsia人はどうしていくだろうかも、Internet以前の人間として生きるか、Internet以後の人間として生きるかを考えるきっかけとなっている。

Young Fathers – Rain Or Shine at BBC 6 Music Festival 2015

Profile:Young Fathers
フリー・ミックス音源で世界中の注目を集め、<SXSW2013>の圧倒的なライヴパフォーマンスで話題をかっさらったスコットランドのエジンバラ出身のヒップ ホップ・クルー。デビュー作『デッド』(14年)は、FKAツイッグスやデーモン・アルバーンなどの最有力候補を抑え、英国で最も権威のあるマーキュリー最優秀アルバム賞の栄冠を手にし、衝撃と共にシーンに登場。常識にとらわれない独創的な佇まいと魅力は、説明が難しく、しばしばジャーナリスト泣かせとも言われてきたが、先日リリースされたばかりの最新作『ホワイト・メン・アー・ブラック・メン・トゥー』でも、英ガーディアン紙が5点満点の評価で【Album Of The Week】に選出し、英インディペンデント紙でも5点満点を獲得するなど、主要媒体から早くも賞賛を集めている。

寄稿者Profile:鴨田潤(イルリメ)
ラッパー/トラックメイカー/DJ/作詞家/プロデューサー。 2000年に自主リリースした1stアルバム『イるreメ短編座』が音楽ファンの間で広まり話題となる。現在までに7枚のオリジナルアルバムを発表。その他にspeedometer.とのユニット「SPDILL」、ECDとのユニット「ECDイルリメ」でのアルバム制作や、二階堂和美『二階堂和美のアルバム』では全作詞とプロデュースを担当し、CM音楽や作詞提供、REMIXの制作なども精力的に行っている。近年は本名・鴨田潤名義で弾き語り、長編小説『てんてんこまちが瞬かん速』の発表や、TRAKS BOYSと組んだポップスバンド(((さらうんど)))としても活動している。最新作は2015年3月リリース、(((さらうんど)))の3rdアルバム『See you, Blue』。

Release Information

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