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DAVID BOWIE is

     

デビッド・ボウイ(David Bowie)の大回顧展<DAVID BOWIE is>が、スマホから体験できるアプリ『DAVID BOWIE is』として登場。2019年1月8日(ボウイの72回目の誕生日)に、AR(拡張現実)アプリ(iOS、アンドロイド対応)として発売された。では、どんなアプリなのか?

David Bowie – Ziggy Stardust (Live, 1973)
David Bowie『Ziggy Stardust』1973年のライブ映像

『DAVID BOWIE is』とは?

<DAVID BOWIE is>は、半世紀にわたるボウイのキャリアを網羅した大規模な展覧会。2013年にロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館で開催され、東京を含む世界12都市を5年かけて巡回した。

ファッション、音楽、グラフィック、演劇、アート、映画など、各界のアーティストやデザイナーとボウイによる幅広いコラボレーション作品を展示し、博物館史上最大となる200万人以上の観客動員数を記録。日本では、2017年1月8日から4月9日まで東京品川天王寺の寺田倉庫G1ビルにて開催され、のべ12万人を動員していた。

DAVID BOWIE IS……VIRTUAL

今回リリースされたアプリは、『DAVID BOWIE is』をARデジタル化したもの。コンテンツは25個のセクションにわかれ、アイテム数はなんと、400以上!

そのなかには『ラザルス』の台本や『★(ブラックスター)』MV制作のための本人によるスケッチブック、オリジナル歌詞、ビデオコンセプトを描いた下絵など、日本では初公開となるアイテムも多い。特に『★(ブラックスター)』のセクションはニューヨークのブルックリン美術館のみで展示されたもので、かなり貴重。MVの絵コンテなどは、ボウイが死の2ヶ月前に描いたものだ。

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東京展では展示のなかった『★(ブラックスター)』関連の展示より(★マークが表紙の手帳など)

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「Ashes to Ashed」MVの展示より 衣装とともに

また、イギリスを代表する俳優であるゲイリー・オールドマンがナレーションを担当していることもポイントのひとつ。ゲイリー・オールドマンはボウイの『The Next Day』(2013年)のMVに出演し、公私ともに仲が良かったという。原稿にして20ページにわたる盟友の解説は、かなり聞き応えがある。

ボウイのヒット曲とゲイリー・オールドマンのナレーションを聴きながら展覧会を体験するのは、単純に、楽しい。

David Bowie – The Next Day (Explicit)
David Bowie『The Next Day』MV。ボウイとゲイリー・オールドマンが共演している

まるで現実のような立体感と没入感

アプリ使用に必要なのはスマホだけ。アプリを起動すると、スマホ越しに見ている現実世界が展覧会へと早変わりする。入り口では山本寛斎がデザインした『アラジン・セイン』のツアー衣装と、その衣装を着たボウイの写真がお出迎え。

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回顧展『DAVID BOWIE is』では、セクションごとに光の当て方まで工夫されていて、それがボウイの人生と重なるように演出されていた。そのような工夫はアプリ版にも引き継がれ、ボウイのストーリーを体感できるように設計されている。

さらに、現実で展示作品を見る時の目線や身体の動きに沿う形でアイテムが展示され、解説文もストレスなく読めるようになっている。そのため、スマホを見ているとは思えないほどの立体感がある。ヘッドフォンを使用すると、その立体感に加えて没入感が増大される(もちろんヘッドフォンがなくても楽しめますが、あったほうが楽しいです)。

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展覧会の再現以上の、新しい体験

このように、アプリを通して展覧会を追体験することができるわけだが、このアプリが革新的なのは、再現以上の体験を提供している点だ。

実際の展覧会では、ガラスのなかやその向こうに展示されている作品も多かった。しかし本アプリでは全方向から鑑賞することができるうえ、それらの展示作品に近寄って、あるいは拡大して鑑賞することもできる。

たとえば、衣装をクリックしてスワイプすると、前から後ろから、あるいは上から下から鑑賞することができる。細かいシワまで確認できてしまい、ものによっては汚れまでわかってしまうほどだ。

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ガラスケースに保存されていたボウイの直筆による歌詞やメモなども、かなり拡大して読むことができる。こうした詳細を存分に楽しむことは、アプリならではの新しい体験だと言える。

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「近くに寄って見る」ことを可能にしたのは、展覧会アプリとしては史上初めてのことだそうだ。展覧会をアーカイブして再現することだけでも価値が高いが、再現以上の別種の新しい体験がこのアプリにはある。

いつでもどこでも『DAVID BOWIE is』

デビッド・ボウイの大回顧展『DAVID BOWIE is』は、大人気の展覧会であったため、来場者が非常に多く、周りの人を気にして鑑賞しなければならなかった。しかしスマホのなかで立ち上がるこの展覧会は、いつでも、どこでも、列に並ばずに、周囲を気にせずに、じっくりと時間をかけて楽しむことができる。

さらには途中退出や途中入場もできるから、「あの部分だけちょっと見たいな」という鑑賞の仕方もできる。何度も楽しむことができる一生モノのアプリと言えるだろう。

本アプリを通してボウイ自身の影響源の幅広さと創造プロセスを知ることで、彼がこの世界に及ぼした影響を探ることができるだろう。一時代を築いたポップアイコンであるボウイの作品群は、以来、世界中の様々なカルチャーに影響を与え続けてきた。日本でもつい先日、Suchmosが『WATER』をリリースしたが、おそらく下敷きになっているのはボウイの『Space Oddity』だ。日本の最新の音楽にまでボウイの影響は見てとれる。

David Bowie – Space Oddity (Official Video)

二度と訪れることのできない展覧会にいつでも気軽にアクセスできるようになること、現実以上に近寄って様々な角度から鑑賞できること、理論的にはほぼ無限に資料をアーカイブできること。

本アプリは、今後の展覧会のあり方や、広く芸術にかんする資料保存の考え方にも大きな影響を及ぼすかもしれない。

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