TBWA ワールドワイドのカルチャー・インテリジェンスチームであるBackslashが毎年発表するグローバルトレンド予測レポート「EDGES」。2024年レポートとなる「EDGES 2024」の日本語版が無料公開された。
時代の変化を捉えた予測トレンドが公開
Backslashでは、カルチャーの変化を察知することはクライアントのブランドの成長に寄与するだけでなく、従来の広告業界の働き方や考え方から脱皮し新しい可能性を開くための鍵となるという考えのもと、世界中で起きているカルチャーシフトを年1回レポートとしてまとめ、無料で公開している。
本レポートで紹介される「EDGE(エッジ)」は、単なる流行に留まらず、世の中に台頭しつつある現象でで、将来のカルチャー形成に大きなインパクトを与えると同時に、企業やブランドが各市場のシェアを伸ばす原動力となる予測トレンドとして扱われている。これら「EDGE」を活用すれば、グローバルに具現化するカルチャーシフトの複雑な関係性を把握し、ビジネス展開に必要な情報や知見を得ることができる。また、トレンド予測に合わせた企業およびブランド戦略を立案する際に役立てることも可能だ。
「EDGES 2024」では、41の「エッジ」が選定され、カテゴリや国を跨いで新しい道を切り開くために必要とされる要素を包括的に予測。本レポートでは、新たにDemise Duality(終わりの多様性)、Inclement Armor(天候に抗う)、Intimate AI(親友のようなAI)、Rerouted(モビリティの再考)、Untourism(旅をしない旅)の5つの「エッジ」が追加されている。
毎年Backslashが作成する『エッジ』では、世界各国の『Trigger』と呼ばれる時代の変化を象徴する出来事を紹介しています。『エッジ』と他のトレンド予測との違いは、情報をトレンド予測としてそのままインプットするだけでなく、この時代の変化をどう捉えるかという問いが得られる点です。
たとえば今年新たに生まれた『エッジ』のひとつに「Demise Duality(終わりの多様性)」があります。これは昨年も『EDGES 2023』にあった「Death Undone(死の介助)」という、これまでタブー視されていた死について人々が語りはじめた潮流が、死という人の終わりだけでなく、人類や世界の終わりにまで広がってきたことを現していると捉えられます。“スタートアップ”や“連続起業家”など、新たなコトをはじめることが賞賛された時代を経て、本格的な人口低減社会に突入した日本にとっては非常に切実な潮流ではないでしょうか。これから多くの“終わり”を迎えなくてはいけない日本で、企業や地域あるいは個人はこの潮流にどう向き合っていくのか。今回、まさに「Demise Duality(終わりの多様性)」について浮かんだこうした問いを、有識者のおふたりに共有してみました。ぜひ、レポートを見て浮かんだ問いを身近な人と共有して、『エッジ』の醍醐味を味わってみてください。
田貝雅和(TBWA\HAKUHODO、Backslash Japanリーダー)
またDemise Duality(終わりの多様性)のレポートについて、2名の有識者よりコメントが寄せられている。
地方創生や地域活性化においても、『EDGES2024』に記載されている終わりの多様性らしきことが起こっていると考えています。過疎化した地域に移住者が増加し、その地域の経済が活性化したら嬉しいと話す一方、日本国内の人口には限りがあり、その限りがある人口を国内で取り合っているのが現状です。しかし、人口が減ってしまうこと、もしくは、現状維持することを悲観的に捉えず、今その地に住んでいる人がどのようにしたらイキイキと生きられるか、さらに、イキイキと死ねるか、ということを考えていません。 だからこそ、限界集落や消滅可能性自治体を今の社会はネガティブに捉え、活性化することが正義と考えられていると思っています。しかし、消滅がネガティブではなく、どのように付き合っていくのかを考える方が現実的であると考えています。これは楽観的でもなく、悲観的にもなりすぎない現実的な未来を考えるプロトピア運動に近いと思います。
株式会社むじょう 代表取締役 前田陽汰
「終わりの多様性」の『エッジ』を拝読した際に、記載されている潮流はひとりの個人としての生への不安の現れと、人類全体の生存をめぐる言説があり、全体を俯瞰すると互いに結びついていると感じ、大変興味深いレポートだと思いました。この終わりに対する向き合い方が顕在化してきたのは、昨年の夏の気温が40℃を越えたことにより身体感覚で感じ取る気候危機や、戦争をはじめ地政学的や政治状況的な不安など世界中で起こっている時代の空気感と、実存的不安からだと感じています。 環境に関しても、完全修復が必ずできると言い切れない絶望を受け止めつつも、希望を失わず、地球環境もとりまく他者と共にある中での『わたし』を軸にして生きることが良いと考えています。そうすることで、少しでもマシな美しい終わり方があると思います。
一般社団法人Deep Care Lab代表理事 / 公共とデザイン共同代表 川地真史