新潟・燕三条地区のものづくり技術と、応募者の「あれつくりたい」「これほしい」というアイデアをつなぎ、リアルな商品開発へと発展させる画期的なコンテストとして注目されている『EkiLabものづくりAWARD』。初年度の2020年に続き2021年の第2回が開催され、各賞の選考が終了。審査現場の様子と、商品開発が賞典となるグランプリとJR賞の受賞者の声をどこよりも早くお伝えする。

より具体的でクオリティの高いアイデアが集まった第2回

第2回の『EkiLabものづくりAWARD2021』。2021年7月からおよそ2カ月の応募期間中に寄せられた作品総数は143に上った。「燕三条の技術を生かして実際の商品開発まで行う」というこのコンテストの主旨が正しく理解されたからか、「今回はより具体的でクオリティの高いアイデアが多かった」と、EkiLab帯織を主宰する齋藤和也さんは全体を振り返った。

改めて『EkiLabものづくりAWARD』について説明する。JR東日本グループによる地域活性化に向けた新規事業案募集で、「無人駅の活用部門」に選ばれたのが「EkiLab帯織」。これは新潟県三条市に位置するJR信越本線帯織駅の脇に、誰もが利用できるものづくりの工房と情報発信基地をつくるというプロジェクトだった。

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▲EkiLab帯織(photo by 大石 隼土)

そのプロジェクトの策定とEkiLab帯織の運営のために、株式会社ドッツアンドラインズを新たに興したのが齋藤さんだ。燕三条地区に生まれ育ち、現在も地元で金属加工業に従事する齋藤さんには、もう一つの野望があった。それが『EkiLabものづくりAWARD』。古くからものづくりの町として発展してきた燕三条の名前と実力を再認識してもらいたい願いを、このアイデアコンテストに込めた。

齋藤さんの思いに賛同し、審査員として参加したのが以下のメンバーだ。いずれもクリエイターとして、またビジネスの最前線に立つプロフェッショナルとして名うての人物である。

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(左手前から順に)
DIY FACTORY/株式会社大都 山田岳人氏
アッシュコンセプト 名児耶秀美氏
Hanakumo Inc. JUN WATANABE氏
株式会社ドッツアンドラインズ 齋藤和也氏
JR東日本スタートアップ株式会社代表取締役社長 柴田 裕氏
pdc_designworks やまざき たかゆき氏
znug design 根津孝太氏

上記の7人に加えて、さらに東日本旅客鉄道株式会社新潟支社長の小川治彦氏がオンラインで参加し、10月某日にJR東日本スタートアップの本社会議室で審査会を開催。予定時刻いっぱいまで白熱の議論が交わされた。

具体性と将来性が審査基準。問題作の登場に審査会は大揺れ!?

『EkiLabものづくりAWARD2021』のテーマは「箱」。審査の基準はアイデアの具体性と将来性。コンテストが商品化を謳っているだけに、応募者がどれだけ実用化を考えているかが大きなポイントになったという。ただし、応募シートを上手く描く力量、ひいてはデザイン力を問わないと齋藤さんは説明した。

「デザインができないことを理由に参加を諦めてほしくはないんです。何よりもアイデア重視。デザインはその道に長けた審査員の皆さんに任せてください」

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▲株式会社ドッツアンドラインズ 齋藤和也氏

審査員には事前に応募作品シートが配布され、顔を合わせた当日にそれぞれ各賞の候補を挙げてもらう形式で審査会は行われた。

会の流れで特徴的だったのは、意見が大きく割れる作品と見事にそろう作品がはっきりわかれるところだった。意見が割れたのは、当初から各審査員が妙に引っ掛かっていた作品だ。誰にとっても問題作になりそうな予感があった1作をあえて最初に審査した結果、1時間近く議論した上で予定になかった賞を設けるという結末を迎えた。議論の的になったのは実現の可能性。どうすればユニークなアイデアを商品化できるか、各自が知恵を振り絞りながら様々な意見を繰り出す姿から、審査員たちの真剣さを目の当たりにすることができた。

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もう一つお伝えしておきたいのは、審査の公平性だ。審査段階に入った瞬間から、すべての応募作品シートには名前・性別・年齢・職業・居住地といった情報が削除された。それら応募者の背景を想起させる項目を一切廃したのは、作品自体を純粋にジャッジするためだ。ところが、公平性を貫いたために意外な事実が判明するのだが、それは後に。

さておき、濃密な審査時間を経て各賞が決定し、11月1日にYouTubeで『EkiLabものづくりAWARD2021』の受賞者が発表された。それを受け、アイデアの商品化を約束されたグランプリ受賞者と、サポート付き商品開発の賞典がつくJR賞受賞者のインタビューを実施。喜びと驚きの声を紹介する。

EkiLab ものづくりAWARD2021審査結果発表会!!

グランプリ&JR賞受賞者の喜びの声“最速”インタビュー!

グランプリ
卓上メタル杵&臼
川越健矢さん(新潟県三条市)
作品紹介(作品応募シートから抜粋)
卓上やアウトドアで使える金属製の杵と臼。木製と違い重量があり、卓上サイズでも十分な重さを確保できるため、小さいながらもしっかりと餅つきができる。

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▲『卓上メタル杵&臼』のアイデアシート(※アイデアは実用新案出願中)

――受賞の報せを聞いた感想を教えてください。

川越:とにかく驚きました。自分の作品が選ばれるとは夢にも思わなかったので。

――『EkiLabものづくりAWARD』はご存知でしたか?

川越:自分も燕三条の生まれで金属加工業をやっていまして、実は地元の『カワコッチ』というグループに所属しながら昨年も応募しました。今年も仲間と共に参加しましたが、その中で自分がグランプリというのが今も信じられません。

――今回のテーマは「箱」でした。アイデアはどのよう発想されましたか?

川越:「箱」に関しては広がりがあり過ぎたので、本当に悩みました。最終的には、これがあったらいいという自分の思いに従って、臼は餅をつくる箱だろうと半ば無理やりにテーマに寄せました。地元ではボランティアグループにも入っていて、1年に1回餅つきをやるんですね。これがすごく楽しいんです。ところが最近は衛生面を理由に遠ざけられていて。また、木製の杵や臼は長く使っているとボロボロになってしまいます。そうしたいくつかの問題を解決したかったんですね。それで誰もが使えるコンパクトで金属製の杵&臼にたどり着きました。手軽に餅つきを楽しんでほしくて。

齋藤さん総評

川越さんには前回の表彰式に『カワコッチ』のメンバーの代理で参加してもらった縁があるので、驚きと喜びがない交ぜになっています。グランプリ受賞は満場一致でした。米どころ新潟と金属加工が得意な燕三条との親和性が高かったですね。すぐに試作に取り掛かれそうな実現性も評価されました。燕三条の伝統工芸である鎚起銅器(ついきどうき)も試してみたいです。金属なので使い方によって少しずつ独自の形に変わっていくというストーリー性も楽しめるのではないでしょうか。

JR賞
はこノート
中野瑚都さん(東京都葛飾区)
作品紹介(作品応募シートから抜粋)
ホイル紙の模様で素敵に、丈夫に! 冊子から切り離した紙を展開して箱をつくり、アクセサリー入れやお菓子を入れる器にします。

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▲『はこノート』のアイデアシート(※アイデアは実用新案出願中)

――中野さんとは昨年お会いしていますよね。当時はEkiLabでアルバイトされていた学生さんでしたよね?

中野:そのときの私です。なので受賞したと聞いて、めちゃくちゃびっくりしました。

――なぜまた今年応募したのですか?

中野:自分のアイデアが実際の商品となり店頭に並ぶのが子供の頃からの夢でした。それを叶えるために大学ではプロダクトデザインを専攻し、今年の春からは都内の玩具雑貨メーカーの企画デザイン部署に勤め始めました。『EkiLabものづくりAWARD』は私の夢の実現に添うコンテストなので、実は昨年も応募したんです。今年は東京にいて応募要項を知り、もう一度挑戦してみたいと思いました。

――はこノートのアイデアはどこから?

中野:幼い頃から紙で遊んできたんですね。祖母や母も折り紙が大好きでした。大学時代にも紙を使った作品をつくっていたので、単純に紙が頭に浮かんだところから始まりました。折り紙がそうですが、平面が立体になるところがおもしろくて、そこから箱になり、箱になかった持ち運べる利点を持つノートと結び付けたら、こんな形になりました。

――商品化に向けてはどんな期待を抱きますか?

中野:JRから出していただけるということなので、駅を訪れた人が買いたくなるような、たとえば地域を走っている電車を描くとか、グラフィックの部分で広がりが持てたら楽しいと思います。

齋藤さん総評

受賞者が決まり名前を見て、もしやと疑い、しかし住所が東京だから違うだろうと、でも春から向こうで勤めると聞いていたので、まさかと思い、頭が混乱しました。でも、EkiLab出身者の受賞は素直にうれしいです。アイデアのシンプルさ。製品化のしやすさ。おそらく売りやすさも考えられたと思うところが、プロの審査員に刺さりました。応募シートに試作品の写真があったのもうれしかったです。すぐにでもプロトタイプをつくります。

燕三条で行われる『EkiLabものづくりAWARD2021』の授賞式は2022年3月26日。その模様をお伝えする前に、今回はグランプリ&JR賞の商品化に向けた作業が急展開を迎えそうだ。「あれつくりたい」「これほしい」が実現していく様子も折を見て報告していく。

Text by 田村 十七男
Photos by Toshimura

INFORMATION

EkiLab帯織

〒959-1117 新潟県三条市帯織 2342番地2
利用時間10:00〜22:00(年中無休)
※スタッフ駐在時間 平日10:00〜17:00
TEL 050-1744-3814
詳細はこちらEkiLabチャンネル(エキラボ帯織)