『Long Way Up』という番組をご存知だろうか。2004年に第一弾、2007年に第二弾が放映され、DVDでも販売された人気シリーズの最新作だ。
どんな内容なのかは、和名の「ユアン・マクレガー 大陸縦断 バイクの旅」から色濃く伝わってくる。『スター・ウォーズ』プリクエル・トリロジーのオビ=ワン・ケノービ役を務めてきたユアン・マクレガーと、親友であり俳優であり、世界一過酷なレースとして名高いダカール・ラリー完走経験を持つ冒険家でもあるチャーリー・ブアマンのふたりが出演。バイクに跨って旅を繰り広げるリアリティロードムービーだ。
映像のなかで彼らは、それぞれ一人の、バイク好きの少年の顔をレンズに向けている。心の底からバイクと、バイクでの旅が大好きなのだろうということがうかがえる。そしてアドベンチャー・ランを始めるまでの不安、道中の困難に遭遇してしまったときの焦燥、そして壁を乗り越えたときの晴れ渡った顔を見ているうちに、一緒に冒険をしているかのような気持ちが沸き立ってくる。
現在、『Long Way Up』がApple TV+で配信されている。もちろん主演はユアン・マクレガー、チャーリー・ブアマンのふたり。そして彼らの相棒であるハーレーダビッドソン初の電動スポーツバイク・『LiveWire®(ライブワイヤー)』だ。
南アメリカ大陸南端部の街ティエラ・デル・フエゴから、アメリカ・ロサンゼルスまで。極寒のパタゴニア、極限のアタカマ砂漠、ボリビアの広大な塩原、カルテル間の抗争が続くメキシコなど南米大陸を縦断し、カリフォルニアを目指す100日間2万キロを、電動スポーツバイクというまったく新しいモビリティで走り抜く。そのコース上には、送電網が行き渡っていない地域もある。充電環境が必要な電動バイクで、彼らとライブワイヤーはどんな冒険をしていくのだろうか。
栄光ある姿からさらに進化を遂げるハーレーダビッドソン
考えてみれば、ハーレーダビッドソンには自由の象徴という印象が強い。夢を、冒険を、チャレンジを支えてくれる相棒というイメージだ。エンブレムでかたどられた鷲の羽は、そのままライダーの世界と可能性を広げてくれるための羽なのだろう。
それだけにハーレーダビッドソンのバイクは、今まで多くの映画に登場してきた。
ロックミュージックをバックに、ふたりの若者が時計と共に社会の縛りを捨て、2台のパンヘッドで旅に出る『イージー・ライダー』(1969年)。長く続くベトナム戦争時代の閉塞感から、「We wanna be free! We wanna have good time!」と叫んだ『ワイルド・エンジェル』(1966年)。アメリカを代表するブランドを名としたふたりのアクションムービー『ハーレーダビッドソン&マルボロマン』(1991年)。アーノルド・シュワルツェネッガーが『ターミネーター2』(1991年)で乗ったのもファットボーイだったし、『ブラック・レイン』に登場したマイケル・ダグラスの劇中愛車もスポーツスターのカスタムバイクだった。
大きく、グラマラスなビックボディ。ダイナミックな造形で特徴的なVツインエンジン。太くてマッシブなホイール&タイヤ。腹の底にまで響き渡るような重低音のエキゾーストノート。そして、アクセルを大きく開いたときの強烈なダッシュ力。スクリーンに映し出される強烈なインパクトを持つハーレーダビッドソンの姿に、多くの人が憧れの気持ちを抱いていった。
自由の象徴であるハーレーダビッドソンのバイクたちは、造形もサウンドも映像内で強烈な光を放って映える、一流のスターであったことがわかる。アメリカンバイク・クルーザーバイクの代名詞=ハーレーダビッドソンが、自由や、開放や、困難からの逸脱というシーンを描く上で欠かせない存在であることを、歴代の映画人たちはわかっていたのだろう。
アメコミヒーローの人気の要となったマーベル・シネマティック・ユニバースの作品にも、多くのハーレーダビッドソンが登場する。その中でもキャッチーなのが、2015年に公開された『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(以下エイジ・オブ・ウルトロン)だ。同作品では2台のハーレーダビッドソンが疾走するが、1台はキャプテン・アメリカが乗る『Street®750(ストリート750)』。もう1台はブラック・ウィドウが乗るLiveWireのプロトタイプ。このブラック・ウィドウがまたがるバイクが『Long Way Up』にも登場するのだ。
『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』MovieNEX予告編
ストリート750も新世代のハーレーダビッドソンだ。2015年にデビューした同車は水冷Vツインエンジンを搭載し、混み合う一般道からハイウェイまで快適に移動できることを目指したアーバンクルーザー。現在のモビリティ環境下での乗りやすさを重視したモデルだ。
ライブワイヤーは違う。ライブワイヤーが見ているのは2020年以降の世界。緊張感をもって、より高まっていく環境問題に対して、ハーレーダビッドソンが計画してきた答えの1つといえる。ガソリンエンジンではなく、電動モーター&バッテリーで駆動するモーターサイクルである。
エクステリアからして、従来のハーレーダビッドソンとは別モノ。2つのホイール・タイヤ、ライト、タンク、シートといった、モーターサイクルに必要不可欠なパーツで構成されているものの、ダイナミックなイメージを印象づけていたパワートレインは見えなくなり、低重心な雰囲気を醸し出していたエキゾーストパイプ・マフラーもない。よくよく見れば、ハンドルのクラッチレバーもシフトチェンジペダルもない。『エイジ・オブ・ウルトロン』の劇中の走行音も、ジェット機を思わせる超高回転モーターサウンドだ。
ハンドルに備わるディスプレイにも従来のモデルとは異なる雰囲気がある。さらにイグニッション、ウインカーやライト、クラクションのコントロールはハンドルそばのスイッチボックスに集約されており、走行中は従来のバイクと同じような操作ができる。
従来のUIでいいと思えるところはそのまま採用し、それを洗練させていく姿勢に、ハーレーダビッドソンのフィロソフィーを感じる。創業117年を超える長い歴史を持ち、トラディショナルなモーターサイクルメーカーだと思われることもあるが、彼らはいつも伝統を大事にしながらも革新を続けてきた。
『Long Way Up』にみるライブワイヤーの魅力
そんなライブワイヤーにまたがったユアン・マクレガーは、最新シリーズの『Long Way Up』で語る。
「本当に気に入った。恋に落ちた」と。
エンジン音、排気音がないことで、走りながらでも友人との会話がしやすい。森の中では鳥のさえずりも聞こえてくる。エンジンの振動もないから、ハンドル・シートを通じて路面の感触が濃厚に伝わってくる。
愛車の1954年式ワーゲンビートルもEVコンバートカスタムしたユアン・マクレガーは、EVが世界のリファレンスとなる時代も見据えている。排気ガス削減以上のことをしたかった、とも考えている。だからこそ『Long Way Up』の旅の共に、電動スポーツバイクのライブワイヤーを選んだのだ。
雪でぬかるんだパンアメリカン・ハイウェイの南端からスタートしたユアン・マクレガーとチャーリー・ブアマンと、ライブワイヤー。初めての充電ポイントはベーカリーだった。
応対したスタッフも環境保全のために変化を期待している様子。「新しい世界に対応するため、充電器の設置をベーカリーの経営者である父に勧めたんだ。地球を救えると思ったんだ。変えようと思ったんだ」
思うようにいかないことも多い。あまりに寒すぎて充電ができず、休業中のホテルの中にライブワイヤーを入れて車両を温め、やっと充電がはじまったことに安堵する。そして彼らは旅を進める。送電網のない地帯も走る。
南米大陸縦断自体が冒険だ。同時に、電動バイクで電気環境の悪い地帯を走破することは、ライブワイヤー自体の開発チームも、このプロジェクトのためにライブワイヤーをアドベンチャー仕様にカスタムしたハーレーのスタッフにとっても大いなるチャレンジだ。
100日間、13カ国、2万キロの旅は全11エピソードで見ることができる。冒険心に火がつく彼らの旅を、Apple TV+で見てみよう。そしてライブワイヤーという、自然と、環境と、地球とをシームレスに一体化できる悦びを感じられるライブワイヤーの活躍を目撃してみよう。
Long Way Up — Official Trailer | Apple TV+
Text by 武者良太