今回、紹介するワンカットMVは、スプリット・エンズ(Split Enz)の“Message To My Girl”。Split Enzは、70年代〜80年代にかけて活動していたニュージーランドのバンドです。
ジャンル的には、どこにカテゴライズすればいいのか…とにかく、捻くれまくったヘンテコなポップ・ロックを鳴らすバンドで、その屈折したリズムとメロディーがもたらす快楽性は、英国のXTCなどにも通ずる音楽的魅力を有しています。
ちょっとクセの強いバンドではあるのですが、ハマる方はどこまでもハマるバンドでしょう。
Split Enz – Message To My Girl (1984)
“Message To My Girl”は、このバンドにしては比較的ストレートなラブソングで、彼等のキャリアの中でも後期にリリースされたアルバム『Conflicting Emotions』収録曲です。
アルバムは現在ではやや入手困難になっているようですが、このバンドのベスト盤や編集盤には必ず収録されている名曲ですので、興味のある方はチェックをしていただければと思います。本当に変な曲が一杯あって、おもしろいバンドですよ。
この”Message To My Girl”のMVは、非常にトンチの効いた作りが心憎い作品です。
ヴォーカリストがスタジオの中を歌いながら歩き続ける様をワンカットで撮影する……というシンプルな構成ながらも、セットを巧みに使用することで、全く空間の狭さを感じさせず、観る者のイマジネーションを刺激する映像となっています。
セットによって背景が次々に切り替わっていくことで、全く目が飽きることもありません。ワンカット特有のストイックさとは皆無のどこまでもポップで開放感のあるMVだといえるでしょう。
映像をワンカットで撮る場合、カメラに収めることができる空間と距離間にはどうしても限界があります(ドローンなどの機材を使用すれば、話は別ですが)。しかもそれが、4分前後のポップ・ミュージックに合わせた尺となると、更にその制約は大きくなります。
ただ、その限界と制約こそがおもしろいアイディアを生み出すのです。
このスプリット・エンズのビデオは、観ているこちらの空間認識に錯覚みたいなものまで生まれてきます。映像のラストで、スタジオ内の全景が画面に映し出された時、視聴者は今まで観ていた映像が、実は非常にミニマムな空間の中で展開されていたことに少なからず驚かされるはずです。
ワンカット故の制約を逆手に取った、まさに技ありなMVです。