腕の立つドラマーでありながら、同時に表現力豊かなシンガーでもあるという特異なスタイルで活動を続けてきた美麗のソロ・ミュージシャン、シシド・カフカ。今思うと前作にあたるミニアルバム『K⁵(Kの累乗)』は、彼女の新たな顔を引き出した意欲作だった。何しろここでは、決まったメンバーと楽曲を作り込んで制作していたこれまでに対して、様々なアーティスト、ミュージシャン達とのコラボレーションを開始。そうして自分の想定の範囲を超えて曲を発展させることで、リミッターを外して冒険に乗り出す瞬間の楽しさが作品全体を覆っていたことは、多くの人の記憶にも新しいことだろう。

だとするなら、最新作『トリドリ』はその延長線上でさらに新たなチャレンジを記録した意欲作だ。今回は亀田誠治や蔦谷好位置、織田哲郎を筆頭にそうそうたるプロデューサーとディレクション段階から作業を共にすることで、より楽曲の幅が広がり、プレイが多彩になり、とても抜けのいい開かれた雰囲気が全編を覆っている。果たしてこの方向性は、どんな風に推し進めていったものなのか。そして、この経験を通して彼女が気づいたものとは? 「新たなシシド・カフカ」が沢山詰まった最新作について、たっぷりと語ってもらった。

Interview:シシド・カフカ

シシド・カフカ、最新作『トリドリ』で見せる「新たなシシド・カフカ」とは!? interview160411_kavka_5

――最新作『トリドリ』は、様々なゲストの方と一緒に作品を形にしていくという意味で、『K⁵(Kの累乗)』の延長線上にある作品とも言えると思います。そもそも、『K⁵(Kの累乗)』を作る際、どんなことを考えていたんでしょう?

色んな方とセッションをするのはずっと夢だったんです。でもチャンスもないし、なかなか一歩を踏み出すことが出来なかったんですけど、このタイミングで「やろうよ」ということを言っていただいて。「ご一緒してくだる方がいたら、やってみようかな」と思えたことがはじまりでした。それでオファーをさせて頂いたら、みなさん意外に応えていただけて。

――斉藤和義さん、甲本ヒロトさん、KenKenさん(RIZE)など、豪華な方が集まりました。

そうなんですよ。それでビックリして。緊張とともに色々と学ばせていただいたんです。

――やっていく中でどんなことに気づきましたか?

これまではいつも同じメンバーと演奏することが多かったので、守られた空間で「作り込む音楽」を作っていたと思うんです。でも、『K⁵(Kの累乗)』は人の心が入り込む「隙間」があるというか。私の中の「もうちょっと作り込みたい」という気持ちを「まぁまぁ」と止められて、色んなものの見方を教えていただいた感じですね。活動をしていく中で色々な変化球も受けてみるうちに、自分の内から凝り固まったものを出すよりは、「変化球を受けて100%で向かっていく」方が合っているのかなと感じることも多くなっていたんですよ。それで『K⁵(Kの累乗)』の時は、(斉藤)和義さんとの曲以外はディレクションも全部お任せしました。レコーディング・スタッフさんも全部お任せして、そこに単身私が乗り込んで行ったんです。

――そして、今回の『トリドリ』では様々なプロデューサーの方とコラボレーションが実現しました。今回も引き続きコラボレーションをしていこうと思ったのには、何か考えていたことがあったのですか?

今回は「一緒に何かを作る」という挑戦だったんです。歌詞も書きますし、楽曲のディレクションにも参加しながら、一緒に作品を作ることを経験させていただいた感じですね。

――初めて参加したプロデューサーの方々については、元々どんなイメージを持っていましたか。

たとえば、蔦谷好位置さんはSuperflyさんの印象が強かったですね。亀田(誠治)さんは、東京事変のイメージもあるものの、ポップなことも沢山やられていて振り幅が広い。奥野(真哉)さんは毛皮のマリーズの曲も担当されていますが、プレイヤーとしてご一緒することが多かったのでどんな曲を書くのかは未知数でした。織田さんはもう、レジェンドですよね。私は(織田さんが手掛けた)相川七瀬さんの曲をカラオケで歌っていたこともあるんです。moumoon のMASAKIさんは、“Sunshine Girl”をCMか何かで知ったのが最初でした。

――そうした豪華な方々と、どんな風に作業を進めていったんですか。また、その時に感じたそれぞれの魅力とはどんなものだったのでしょう?

松本(晃彦)さんは、アルゼンチンにいたこともある私のラテンのイメージを汲んで今回の“Obertura”のサウンドを用意してくださったはずですが、音の粒で人の気持ちを攻めたてていくのが上手い方だなぁと感じましたね。世界観の作り方に、こっちもワクワクしたりして。

――この曲はカフカさんの声が乱れ飛ぶような雰囲気になっていて面白いですね。

マイクの前で「奇声を発して」と言われたんです(笑)。一方蔦谷さんの場合は、最初に3パターンぐらい出していただく中でがっつりロックなものもあったという感じでした。

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