「Thanks always:Skype」。歌詞カードのクレジットにもそうあるように、主演/歌唱のコムアイと、作曲/編曲で大阪在住のケンモチヒデフミ、上記以外すべてを担当するDir. Fが、Skypeでやりとりしながらクラブ・ミュージックでもヒップホップでもJ-POPでもない、刺激的なポップ・ミュージックを生み出していく水曜日のカンパネラ。この15年にはコムアイが「ヤフオク!」のCMに出演し、知名度も急上昇中のタイミングで届いた彼らの通算5枚目『ジパング』は、まさにキャリア史上最高傑作!! それどころか、2015年の音楽シーンの中でも屈指の傑作アルバムになった。
今回のテーマは「太古の国ジパング」。全編にはシルクロードを舞台にした様々なモチーフが登場し、同時にトラックではヒップホップ、ジューク/フットワーク、ジャージークラブ、トラップ、フューチャーベースといったビート・ミュージックからAOR風のサックスまでを軽やかに横断。そこに以前よりエクストリームなものに変化したコムアイのラップが乗ると、2015年の日本から、どこかにあるはずの不思議な世界へと圧倒的な想像力がぐんぐん広がっていく――。いやー、これは本当にすごい。すごすぎる。
そして、そんな傑作の魅力を何倍にも増幅させているのが、白玖ヨしひろと平岡佐知⌘BによるユニットのOTAMIRAMS(オタミラムズ)と、イラストレーターの上岡拓也が担当した、音源に負けないほどアイディア満載のアートワーク。そこでQeticでは、コムアイと3人による特別対談を敢行。アートワークを起点に、『ジパング』の世界観や制作背景を語ってもらいました! 実際にCDを手にしながら読み進めてもらえれば、彼らがこの作品に込めた魅力が、きっとよりリアルに伝わってくるはずです。
Interview:コムアイ(水曜日のカンパネラ)×上岡拓也(『ジパング』イラストレーター)×白玖ヨしひろ、平岡佐知⌘B(OTAMIRAMS:『ジパング』アートディレクション&デザイン)
(L→R)平岡佐知⌘B、コムアイ、上岡拓也、白玖ヨしひろ
――最新作『ジパング』は素晴らしい作品になりましたね。今回はみなさんに集まっていただいて、アートワークから『ジパング』の魅力を紐解いていけたらと思っているんです。
コムアイ 実は、アートワークも楽曲制作と同じぐらい打ち合わせを重ねていて、レコーディングしているスタジオまで来てもらったりとか、メイクルームまで来てもらったりもしたぐらいなんです(笑)。一週間に3本MVを制作してものすごく忙しかった時期と、アートワークの制作がちょうど重なっていて。
『ジパング』ジャケット
――そうだったんですか(笑)。まずはベースになる部分をコムアイさんに聞きたいんですが、『ジパング』という今回のテーマはいつ頃出てきたものだったんでしょう?
コムアイ アルバム・タイトルは本当に最後の最後、アートワークも全部出来てから決めたんですけど、コンセプト自体は今年の5月ぐらいにポッと浮かんだんです。
――コムアイさんが思いついたんですか?
コムアイ そうなんです。妄想(笑)。そのころに鉄工所でレイヴがあったんですよ。私は当時テクノにハマっていて、それでちょこちょこ行ってたんですけど、「ああ、こういうところでライヴしてみたい」って思ったし、その時に聞いた音楽や稼働中の工事の音にぎゅーっと引っ張られて、「アルバムもそっちに寄せちゃえ」って思ったりして。それで今回、ジュークの要素(6曲目“ウランちゃん”)とかが入ってきたりしたんです。「これはいい」と思うものを、「(水曜日の)カンパネラでは諦めよう」っていうんじゃなくて、素直に全部出しちゃおうと思って。今回はそういう、めちゃくちゃ素直なアルバムです(笑)。
――それがどうやって、「砂漠」や「シルクロード」のような今回のアルバムのテーマに繋がっていったんでしょうね。
コムアイ 『ジパング』って日本のことですけど、今世界が感じている日本と、実際の日本ってまったく違いますよね? 枯山水もないし、かといって、ギャルもいないし。昔も同じで、海外からは黄金の国っていうイメージがあったみたいなんです。「金の茶室がある」って話から、「あの国は全部金色で出来ているらしい」っていうファンタジックな噂が広まったみたいで(笑)。それで中世のヨーロッパの中で、『ジパング』っていう超ファー・イーストな黄金の島があるらしい、ということになった。エルドラドみたいな感じですよね。詰まりまくってる日本で、バカバカしくなるくらいの大陸の規模感や、夢の国日本というオモチャを用意したいと思ったんです。
――それをデザインに落とし込むために、オタミラムズさんや上岡さんに伝える段階があったと思うんですけど、どんな風にやりとりを始めていったんですか?
コムアイ まずはみんなキョトンとしてました(笑)。「工場の火花が散っている感じに憧れる」とか「鉄工所の鉱石みたいなものが、すごく遠くの砂漠みたいなところで発見された」みたいなイメージを伝えたんです。鉱石とかを磨く職人がいて、それがかわいいお店に置かれて、誰かが買って、それをプレゼントして。その後、その人が亡くなって鉱石が孫に受け継がれて……その人が殺されて……みたいに、同じ鉱物が色んな人の手に渡ってシルクロードを東に進んでいくみたいな、そんなイメージだったら面白いなと思ったんですよ。
――ああ、なるほど。そういうことだったんですね。
コムアイ で、その時点でもう、8曲目の“小野妹子”が既に出来ていたんです。小野妹子はシルクロードの最後に大陸と日本を繋ぐ遣唐使と遣隋使の役割を果たしたわけで。だからその雰囲気に合うように、“ラー”とかはエジプトの曲にしていったんです。
水曜日のカンパネラ – “小野妹子”
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