「ヒップホップ世代に刺さるジャズ」として海外からの評価も高い、話題のインスト・ジャズ・バンド「RF(アール・エフ)」。3月にリリースされたDE DE MOUSEプロデュース作品もとても話題となったばかりだが、早くも彼ら自身としては5枚目となる最新作『Fill the bill』が4月3日(水)にリリースされた。DJ Farahによって選び抜かれた、クラブシーンで今なお評価される名曲を、確かな演奏力とスピード感のあるグルーヴで新たに蘇らせるRFというバンドの真価は、今作でも見事に発揮されている。
オープニングを飾るコモン “Resurrection”や、“You’ve got to have freedom”をネタとしたChannel Two“Jazz Move”のカヴァーも素晴らしく、さらには、イヴァン・リンスの名曲をサンプリングしたヌジャベス作品を代表する“Luv(sic.)Pt.3”、“Luv(sic.)Pt.2”のカヴァー・メドレー、ラストを飾る RF自身のアレンジによる“Qualquer dia”等は、まさに今作のハイライトであり、ヒップホップやブラジル、ジャズ、ソウル等を好む人であれば、その馴染みのあるフレーズにどこかで気付くだろう。
今回Qeticでは、最新作をリリースしたばかりのメンバー全員に集まってもらい、RFについてじっくり語り合ってもらった。会話は予想以上に弾み、インタビューの場で新たなコラボレーション案も生まれた様子? 個性溢れるメンバーの対談をチェックしつつ、この素晴らしいアルバムを是非とも堪能してみて欲しい。
Interview:RF
(Sound Engineer:澤田悠介/Ds:鈴木郁/Produce:Farah/Ba:板谷直樹/Gt:成川正憲)
――まずはRFというプロジェクトについて詳しく教えて頂きたいのですが、そのためにはまず「六弦倶楽部」について成川さんに教えて頂きたいと思います。名前の由来だとか、どのような音楽を目指していたのか、教えて頂けますでしょうか。
成川正憲(以下、成川) そもそも僕は、映画音楽が大好きだったんです。小さい頃、家に映画音楽のアルバムがあって、『慕情』(55年)や『シェルブールの雨傘』(64年)のような名曲が入っていて、大好きで聴いてたんですね。それが、音楽との根底の出会い。でも中学に入って、キング・クリムゾンやらディープ・パープルやらを周りの皆が聴いていて、自分もロックしなきゃいけなくなって(笑)。その影では実際、ユーミンとかも好きなんですよ。だけどそれをなかなか言えなかった。そして、本当に自分が好きな音楽はなんだろうって原点に立ち戻った時、一番好きなのはインストの世界なのかなと。ちょうどその頃、ジョージ・ベンソンがアメリカのポップ・チャートに入ったりして凄いなと思ったしね。僕は帰国子女で、日本語と英語に両方コンプレックスがあったんです。でもインストだったら関係無いじゃ無いですか。
板谷直樹(以下、板谷) その割にはよく喋りますよね(笑)。
成川 え、よく喋ってる(笑)!? そんな流れで、本当に好きな音楽をやらないと後悔すると考えた時に、ガットギターで心に響く音楽をやりたいと思って始めたのが「六弦倶楽部」。名前は深い意味は無くて、当時は、吉永小百合のCMとか、「○○倶楽部」ってのが流行ってたんですよね。2006年頃かな。板さん(板谷)と2人で始めたんです。
板谷 ナリさん(成川)のオリジナルをやるユニットとしてスタートしたんですが、当時は音楽性も今と全然違ってましたよね。景色が見える音楽、自然をテーマにしたような音楽ですね。
成川 自分がリーダーでやるものに関しては、インストにこだわってギターで表現していくのが基本的なコンセプトなんですよ。
――なるほど。そしてその後の2009年、Farahさんがプロデュースするという形で、「RF」というプロジェクトが始まりました。スタートした経緯やコンセプトを詳しく教えて下さい。
Farah 僕がもともと、六弦倶楽部のサポートをやっているドラマーの方と繋がりがあって、ライブを見に行く機会があったんです。その時の印象がとても強かったんですね。僕は元々レコード屋で働いていて、DJもやっていたんです。そのような視点から、六弦倶楽部のようなサウンドは、海外に発信して流通させたいなと思ったんです。インストだし、だからこそ海外の人も支持してくれると思って。マーケットを日本に限定しない方が良い形になるんじゃないかと。そこで、「ギターがメインのスリーピースで何が出来るんだろう?」と考えた時に思い浮かんだのが、ヒップホップを冠にするということ。それがキーワードとしてあれば、ジャズでもソウルでもラテンでも、何でもネタに使うことが出来るし、ヒップホップを生バンドでやるというのは日本では意外と少なくて、大きな可能性があるんじゃないかと感じたんですね。
――バンド名をつける時は、どのようにして「RF」と決めたのですか?
Farah 単純に、六弦倶楽部の「R」と、Farah の「F」で、覚えやすいかなと思って名付けたんです。ただ、RFという言葉はテレビで使われる高周信号の意味もあって、検索で引っ掛かりにくい…。今思うと、もう少し考えれば良かったかなとも思うんですが(笑)。
――成川さんは、もともとヒップホップとは繋がりはあったんですか?
成川 ヒップホップはマニアックには全然入っていって無いんです。ただ、気持ちよければどんな音楽でもいいというスタンスだったんで、固執する部分は無くて。だから、Farahからはいろいろ教えてもらいましたよね。面白いのが、僕が当時、久々にこれはいいなと思ったのが、ヌジャベスだったんです。そんな時に、Farahがまず持ってきたネタがヌジャベスだった。これは何か運命かなと思って。
Farah ユセフ・ラティーフの“Love Theme From Spartacus”という曲は、もともとジャイルス・ピーターソンとかジャズDJはよくかけていて、それをヌジャベスがサンプリングしたことで、日本のBボーイにも広まって行きました。レコード屋で働いてた時に、ヒップホップ・リスナーのお客さんから、「ユセフ・ラティーフありますか?」って聞かれることが多くなって、初めは何でかなって思っていたら、ヌジャベスがネタに使っているという。この辺りは、RFのネタを選ぶ際のバックグラウンドの一つでもあると思います。
成川 そういう意味では全然違う音楽をやっていたのに、共通する何かがあったんでしょうね。その時は、びっくりしましたよ。「え、何でこれ知ってるの? 俺、今めっちゃはまってるんだけど。」って(笑)。
板谷 僕は、フェンダーローズの猪野秀史(INO hidefumi)さんがカヴァーしたバージョンで知ってて、そこで繋がったんです。
Farah “Love Theme~”は、アコースティックの生演奏のバージョンはあまり無かったので、すごくやってみたかったんですよね。猪野さんのカヴァーは、マッドリブっぽいところもあって、打込み感のある生音じゃないですか。でも、それをもっとアコースティックに聴かせるのって、なかなか無いんじゃないかなと。
――これだけ演奏力のある人達が、バンドとしてネタをやるっていうのは、確かに珍しかったですよね。
Farah ザ・ルーツのようなバンドが日本にあったら、もっとシーンが盛り上がって行くと思うんです。
板谷 ヒップホップとかR&Bを生でやる人ってやはり少なくて、そもそもスタジオミュージシャンの中で、そういう知り合いや繋がりが無いんだよね。
成川 そう、DJという存在が現れて長い年月が経つけど、当初からインストとDJを絡めようって動きはずっとあったんですよ。クラブでDJとミュージシャンが一緒にやったり、DJにサックスが入っていったりということは。でも不思議なことに、水と油みたいにそこから先になかなか行かないんですよね。ところがFarahとは何かが合ったんです。最初は大変だったんですよ。言ってることが理解出来なくて(笑)。
Farah ループの感覚が、まず理解して貰えなかったですよね。
成川 ミュージシャンからするとループってのはダメって感覚なんですよ。でも、だんだんと面白いって気付き始めたんだよね。
Farah 短いフレーズをループしていくという感覚を、ミュージシャンと共有してみたかったんですよ。あと、ミュージシャンにしか出来ないのは、アドリブが効くということなんです。
――なるほど、DJからすれば、アドリブという感覚はなかなか無いですもんね。
成川 そう、DJではアドリブはなかなか難しいじゃないですか。だから、演奏する側がループに寄ってった方がやりやすいんです。音楽の楽しみ方が全く変わったというか、価値観が変わりましたよね。
Farah まさに試行錯誤でしたよね。お互いに理解を深めて行くのは大変でしたよ(笑)。
板谷 2曲を1曲にしてくれと言われた時に、僕らからすればメドレーで繋げると考えるけど、「メドレーはちょっと…」と言われると、始めはどうしていいかわからないんですよ。AセクションとAセクションを繋げて、こっちのBセクションをそこに繋げて…というのは、まさにDJの視点でなければ思い浮かんでこないと思う。
成川 そうだね、まずは自分の価値観を崩して、トライしていかなければいけない。でもそれをすることが出来たのが、結果的に本当に良かったと思います。
板谷 あと、僕らで決めたことがあって、それはパンチインをしない、修正もしないということですよね。
Farah そう、皆普通にやってることなんですけど、それをやっちゃうとグルーヴが減速するという感覚があって。言ってしまえば、昔のやり方ですよね。でも間違ってもテイクがよければこれで行こう。マンパワーでどれだけグルーヴを出せるか、そこでやった時の緊張感を音楽に込めたいなと思うんです。
成川 ある意味、次代に逆行しているかもしれないけれど、それが面白いところでもあるよね。