いま、もっとも面白い音楽といえば、間違いなくR&Bだ。何を今さらと思われる読者もいるだろうが、誰もがラップトップとインターネットを操れるようになった現代のR&Bシーンは、既存のシステムにとらわれることがなく、大御所プロデューサーの力を借りる必要もない。カナダが誇る屈指のエンターティナーことドレイクも、そのドレイクに見初められたザ・ウィークエンドも、グラミー受賞アーティストとなったフランク・オーシャンも、成功のきっかけはフリー・ダウンロードのミックステープを自ら公開したことだった――。
自由を獲得した新世代のR&B
彼らのような新世代が鳴らすR&Bはシンセサイザーを基調としたチル&アンビエントなものが多く、ヴォーカルには深いエコーやリヴァーブが施され、描かれる詩世界もダークで内省的。ビーチ・ハウス、MGMT、コクトー・ツインズ、フランス・ギャル、イーグルス(!)……etcといった予想もつかないネタをサンプリングするセンスにも驚かされるが、ほとんどが独学とは信じがたいトラックメイキングのスキルと、胸を打つエモーショナルなソングライティングが老若男女問わず支持された理由であるのは間違いない。ヒップホップはもちろんインディ・ロックやチルウェイヴとの親和性も高く、本サイトでもお馴染みのハウ・トゥ・ドレス・ウェルを筆頭に、<Hostess Club Weekender>にも出演したポップ・エトセトラやインク、そして「BBC Sound of 2013」の第1位に輝いたLAの三姉妹バンド=ハイムにもR&Bからの影響は色濃く感じる。
これら一連のムーヴメントはオルタナティヴR&B(インディR&B)、ヒップスターR&B、もしくはPBR&Bなどと名付けられており、PBR&Bとはアメリカのビール・ブランド「パブスト・ブルーリボン・ビール(PBR)」とR&Bをくっつけた造語。一度は低迷したPBRが都市部のヒップスターを中心に再評価が高まり、エポックメイキングな復活を遂げたことになぞらえて、学者/ライターのエリック・ハーヴェイ氏がツイッター上で命名した。歌も、トラックも、情報発信も、セルフメイド。だからこそ自由で、だからこそ刺激的なのである。
メインストリームにも波及するオルタナティヴR&B
H∆SHTAG$ Episode1 Don’tCall It #AltRnB
Red Bull Music Academyによる音楽短編ドキュメンタリーシリーズ『H∆SHTAG$ (ハッシュタグ)』のエピソード1は、「オルタナティヴR&B」がテーマだった。そこでトロントのヒップホップ/R&Bプロデューサーであるゾディアックことジェレミー・ローズは、「R&Bは過去20年でもっとも奇妙なポップ・ミュージックの1つだったね。常に最先端でありながら、メインストリームでもあったのさ」と語っていた。また、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルことトム・クレルも「インディR&Bは、無意識のうちにメインストリームに影響を与えている」と明言。もしかすると、ジャスティン・ティンバーレイクやディアンジェロの鮮烈なカムバックも、ダフト・パンクが徹底的に人力・生演奏にこだわったのも、EDMやオルタナティヴR&Bへの対抗心が少なからずあったのではないだろうか?
また、時代の空気感をパーフェクトに射抜くオルタナティヴR&Bは、すでに世界中の主要フェスティバルを席巻している。ジャスティン・ティンバーレイクとジェイ・Zをヘッドラインに冠したイギリスの<Wireless Festival>にはミゲル、ジェシー・ウェア、フランク・オーシャンをはじめ旬なアクトが顔を揃えるし、筆者が5月に訪れたスペイン・バルセロナの<Primavera Sound>でも、ジェシー・ウェア、ディスクロージャー、ビヨンセの妹=ソランジュ、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルといった連中が熱狂的なオーディエンスを沸かせていた。ここ日本においても先述のハイムや、男性シンガーを擁しながらシャーデーを引き合いに出される新鋭Rhye(ライ)などが<フジロック’13>に出演決定したことで機運の高まる中、衝撃的なニュースが飛び込んできた。ディスクロージャーとアルーナジョージのWヘッドラインによる来日公演がアナウンスされたのだ。
★ディスクロージャー、アルーナジョージとは?
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