ソロ・アーティストとしての歩み、
レッチリと並行とした様々な音楽活動で開花するフルシアンテの音楽的才能

Red Hot Chili Peppers – “Tell Me Baby”(『ステイディアム・アーケイディアム』より)

ソングライターとしての才能を開花させたフルシアンテは、『バイ・ザ・ウェイ』制作にあたって、美しいコードを弾く事を目指すと同時に、かつてのギター・テクニックを取り戻し、彼のギター・プレイは「白いジミヘン」と称される程、高い評価を得る。更にはアルバム制作に並行して、ヴィンセント・ギャロによる映画『ブラウン・バニー』の楽曲のコンポーズを手がけ、フガジのジョー・ラリーらとアタクシアというユニットを組み、ザ・マーズ・ヴォルタのアルバムに客演参加するなど、多くの活動を並行し、その旺盛な創造力を発揮した。04年から05年にかけては、7枚のソロ・アルバムをリリース、各作品には異なるコンセプトが設けられ、彼の音楽への探求意欲はまさに、とどまることを知らなかった。その後もレッチリ『ステイディアム・アーケイディアム』制作の主導権を握り、活躍するも、09年12月、自身のオフィシャルサイトで「自身の音楽を探求したい」という理由でレッチリからの脱退を表明。メンバーはフルシアンテの意思を尊重し、彼は晴れて独自の道を歩み始める。

レッチリ脱退後、
エレクトロニック・ミュージックへの傾倒にはじまる音楽的飛躍

John Frusciante – “Wayne”(2013年4月配信)

フルシアンテはバンドを出てソロになってからは様々なミュージシャンたちと関わりながら精力的にアルバム・リリースを重ね、徐々にロックの発想やアプローチから離れ、エレクトロニック・ミュージックの制作スタイルをヒントに音楽制作を行っていく。そのひとつの到達点が、彼のこれまでのアナログ・レコーディング経験を総ざらいし、スタジオそのものをひとつの楽器として捉えて制作された09年作『ザ・エンピリアン』だ。その後も『レター・レファー』と『PBXファニキュラー・インタグリオ・ゾーン』で、これまで実験的要素として取り入れていたエレクトロを全面的に導入、ドラムン・ベースやヒップホップに至るまで、その野心的ともいえる音楽的関心はバラエティ溢れる音楽性の獲得に結実した。そして続く『アウトサイズ』では、遂に彼の音楽性の中心のひとつを占めていたヴォーカリゼーションすら鳴りを潜め、ひたすら求道的に自身の音楽探求欲を満たしていった結果、彼の音楽は自由度を増していく。

そしてフルシアンテの音楽的チャレンジはヒップホップ・ユニット、
ブラックナイツとのコラボレーションへ

Black Knights – “Never Let Go”(『メディーヴァル・チャンバー』より)

エレクトロニック・ミュージックのアプローチを学び、それまで自分が全体像の一要素でしかないという感覚から離れ、自分ひとりで全体像を作り出せることに喜びを覚えたフルシアンテ。プレイヤーからコンポーザーへ、コンポーザーからプロデューサーへと、ひたすらチャレンジングな方向へ進化を重ねていき、かねてより交流を持っていたというブラックナイツの2人、クライシスとモンクのオファーを受けて共にアルバム制作を行うこととなる。そして、次第に「このプロジェクトにしか興味が無くなった」と本人が話すほど、このプロジェクトは刺激的な制作活動になっていく。ラッパーの2人をプロデュースする立場となった彼が掲げた課題は「スロウかつグルーヴのあるヒップホップ・アルバムである」こと。空間的に間を持たせた音響的試みと、フルシアンテらしいストイシズムが随所に注ぎ込まれた結果、従来のラップ・アルバムとはまるで別次元に突き抜けた、フルシアンテらしい、重くデリケートで、アルバム・ジャケが表すような中世のムードが漂うディープな音世界が作り上げられた。

今更、「自身の音楽を探求し」続けるフルシアンテが何をしようが驚かない・・・というふうに思っていたが、正直まさかこれほど異端なヒップホップ・アルバムを作り上げるとは思っていなかった。本作『メディーヴァル・チャンバー』国内盤にはなんと4万字にも渡るインタビューが掲載されているので、今作に至る制作の過程について興味を持った方は是非とも読んで欲しい。彼の深い思考を読み解く事で、作品の理解も深まることだろう。そう、何せフルシアンテの長い音楽探求への旅はまだ始まったばかり。ひとまずブラックナイツ『メディーヴァル・チャンバー』を聴いて、フルシアンテの音宇宙に思考を巡らそう。

(text by Yu Nakazato)

Release Information

2014.01.08 on sale!
Artist:Black Knights(ブラックナイツ)
Title:Medieval Chamber(メディーヴァル・チャンバー)
Awdr/Ir2
DDCB-12531
¥2,200(tax incl.)