渡辺シュンスケは鍵盤奏者として多彩な顔を持つ。あるときは、佐野元春から土岐麻子、後藤まり子まで、数多くのミュージシャンたちのサポート・キーボーディストとして活躍。その一方で、彼が自身のソロプロジェクトとして取り組んでいるのがSchroeder-Headzだ。
Schroeder-Headzは渡辺のソロプロジェクトながら、彼を中心としたピアノ、ベース、ドラムによるピアノトリオだ。2月19日(水)にはメジャー移籍第一弾となるフルアルバム『Synesthesia』をリリースしたばかり。しばしば「ピアノトリオの未来形」というキーワードを用いてSchroeder-Headzは語られるが、今作でも生音とプログラミングを融合させた独自のサウンドが追求されている。ピアノトリオというトラッドなスタイルに敬意を払いつつ、そこに最新のテクノロジーを盛り込むことによって、時代とともに進化する現在進行形の音楽を生み出し続ける。先人たちが築いてきた伝統を守りながらも、そこに留まろうとはしない。Schroeder-Headzとは、未知の音楽を探す旅のようなプロジェクトなのだ。
これまでSchroeder-Headzのライブはトリオ編成を貫いてきたが、先日、渡辺のソロ編成でのライブが本邦初公開となった。記念すべきお披露目の場となったのは、2月22日(土)、23日(日)に行われたイタリアのカーブランド、ABARTH(アバルト)のプレミアムイベント。フリー観覧のイベントとして開放され、初日にはAzumi(ex.Wyolica)、最終日にSchroeder-Headzが出演した。2日間のレポートを、渡辺のインタビューとともにお届けしよう。
Interview:Schroeder-Headz
――渡辺さんは2月23日にアバルトのプレミアムライブに出演しましたが、アバルトにはどんな音楽が合うと感じましたか。
以前、海外の企画モノでクラシックの音源を現代のハウスのDJたちがリミックスしているアルバムがあって、それがすごく合いそうですね。品があって、かっこいい。Us3(アススリー)というジャズ・ラップ・グループが〈ブルーノート〉の古い音源をサンプリングしている感じにすごく近くて。
――ツアーに繰り出す場合は機材車の移動もあると思いますけど、車内ではどんなBGMを聴かれていることが多いですか。
僕は運転をしないので任せてしまうんですけど、自分が聴きたくなるのは、やっぱりインストが多いですね。ドライブの良さは景色を楽しんだりすることなので、そういう親和性の高い音楽を聴きたくなりますね。
――では、Schroeder-Headzについて聞かせてください。Schroeder-Headzは渡辺さんのソロプロジェクトであるものの、普段はトラッドなトリオ編成ですよね。トリオは歴史が長く文脈の深いスタイルですが、この編成にこだわる理由を教えてください。
音楽の構造としては、アンサンブルが一番シンプルかつミニマムなのがトリオ編成だと思っていて。すごくバランスが面白くてスペースもある。一人ひとりのやっていることがよく見えるアンサンブルだなと。最小限のアンサンブルの中でピアノという楽器の色んな聴かせ方を出来ないかなという発想ですね。
――歌がないインストゥルメンタルを貫く理由としては、どんなことが大きいですか?
もともとピアノから始まったことが大きいですね。歌ものももちろん好きですけど、インストの良さというのは言葉がないので、聴く人によって色んな印象を与えてくれるんです。イメージが自由。そこに魅力があると思っていて。もちろんピアノの音が大好きというのもありますけど、人それぞれに色んな感じ方をしてもらうということが楽しい。あとは、歌があるとその存在感にすごく縛られてしまうので、自分の音楽愛を出せるのがインストだという気持ちがあって。今の時代は分かりやすいものが多いですよね。音楽も説明的なものが多い中で、色々な形があっていいのにと思っていて。実際に自分が好きなものを一言で「暗い」とか言われるのがすごく悔しい(苦笑)。色んな音楽の美があって、インストでそれを感じてくれたらすごくいいなと思う気持ちがありますね。
――ニューアルバムの『Synesthesia』然り、Schroeder-Headzは生演奏と打ち込みのバランスがキーワードとしてありますよね。Schroeder-Headzとして表現したい音は、どんな言葉に置き換えることができますか。
楽器、エフェクター、パソコンなんてすごく分かりやすいけど、音楽に日進月歩のテクノロジーがすごく影響を及ぼしていますよね。もちろんトラッドなものもすごく好きですよ。未だに残っているオーセンティックなものは完成されていて素晴らしいけど、日進月歩の途中にあるものを取り込んで、新しい音楽が作りたいんです。
――テクノロジーは表現の可能性を広げますよね。
伸びしろが無限にある感じがしていて。せっかく色んな機材が出てきたのだから、それを使って今までになかったようなことを表現出来ないかなと。
――新しいものを積極的に取り入れていくという感じですか。
そうですね。逆にそういうものを毛嫌う人もいるけれども、僕はもっと健康的で在りたいなと思うんですよね。せっかくあるんだから試してみて、面白いものも出来るかもしれないし、なかなか上手くいかないかもしれない。だからこそ挑戦する意味があって、その中で面白いものを作れる可能性に、今の時代に生きて自分が作る意味を感じることが出来るんですね。
――方法論にこだわらないってすごく共感できます。
僕はもともとクラシックをやっていた訳でもないですし、バンドから始めたので、色んなものが一列に並んでいるとは思いますね。自分より若いミュージシャンだと、もっと色んなものが平行線なので驚いたりします。パソコンで制作する人が増えてきた中で、今まではメロディとかコードとかが作曲の要素だったと思いますけど、もっと音色とか楽器のバランスとか、言ってしまえばミックスまでが作曲になっているので、すごく面白いですよね。一度生で録ったものをもう一度再構築する。僕はいわゆるポストプロダクションまでが作曲という気持ちを持ってやっていて。
――『Synesthesia』でいうと、アートワークにはじめてイラストを使っていますよね。Schroeder-Headzの音楽は自由度の高い風景描写ができる作品だから、ランドスケープの写真が使われるんじゃないかなと思っていたところがあって。どうしてイラストになったのか、その理由が興味深いんです。
今回のレーベルをメジャーに移籍したことが、もっと色んな人に聴いてもらえるチャンスかなと思っていて。自分の得意とするところは、ランドスケープと親和性の高い音楽を作ることであったり、メロディをすごく大事にすることであったりしますけど、実はその一方でポップな感じがすごく好きなんです。イラストを描いてくださった中村佑介さんとは半年前にお会いしたことがあって、手に取りやすそうで深みがあるジャケット、それを上手く形にするにはどうしたらいいだろうと考えたら、中村さんしかいないなと思ったんですね。
――メジャーへの移籍もイラストの採用も、より多くの人に聴かれるためにはどうしたらいいかという考え方があって、それは先ほどの話に出てきた音楽の方法論にこだわらないことともリンクしますね。
そうですね。だから中村さんには、人によってはモノクロから色んな色に見えるという感覚があるということを踏まえて、ピアニストのアルバムだと分かるイラストにしてほしいとお願いしました。風景写真よりもイラストの方が色々イメージしやすいかなというのはありますね。中村さんのイラストはアジカン(ASIAN KANG-FU GENERATION)のジャケットのイメージが強いと思うので、アジカン好きな人にも気に入ってもらえると嬉しいです。
――「共感覚」を意味する「Synesthesia」をアルバムタイトルに選んだ理由には何が大きいですか?
「Synesthesia」はネットでたまたま知った言葉なんです(笑)。自分がピアノを始めたきっかけになったのは、学校で「これ知ってる?」とか言って、ファミコンのテーマやナウシカのテーマを弾いたりしたことで、自分の曲もそういう存在になってほしくて、その意味でポップなものへの共感を意識しました。もう一つは、Schroeder-Headzがなぜ歌ものではないところにこだわるのかと繫がってくると思うけど、僕はやっぱりイマジネーションできる音楽を作りたいんです。みんなそれぞれ違った解釈や風景でよくて、こう聴くものだという押し付けがない。音楽の楽しみ方ってそうあるべきだと思うんですね。ピアノトリオはすごくミニマムなアンサンブルではあるけれども、ミニマムだからイマジネーションを使って広げられるというか。全部説明してしまうと、イマジネーションの余白がなくなって、それぞれの解釈を見つけられなくなる。
――説明しないことで、そこにリスナーが入ってくるスペースが生まれますよね。
水墨画と同じなんですよ。描かないことによって、そこに空間が見える。そういうことをピアノトリオで表現出来たらいいなと思いますね。