第17回 暑中見舞いの行方

学の夏休みにやっていた郵便配達のアルバイトはとにかく大変だった。たいして気持ちのこもってない暑中お見舞いが飛び交う一週間はさらに過酷で、陸上部で鍛えた体でさえ悲鳴を上げるほどだった。同じ配達地域の学生アルバイトが、道ばたで自転車ごと倒れていたのを助けた事もある。気温は40℃近くまで上がり、熱くなったアスファルトなんてもう何℃なのか考えたくもないし、首に巻いたタオルは常に汗でびしょ濡れだった。

「配り終えればその日のバイト終了」のシステムに乗せられた俺はひたすら自転車をこいだ。昔から地図を眺めるのが好きだったからか、あまり道に迷う事も無く、バイト仲間の内では一番先に家に帰っていた。そんな毎日の中で、古い家屋が窮屈に建ち並ぶ地域にハガキを届けに来たときの事。目的の家に到着したものの、その家にはお目当ての郵便ポストがどこにも無い。代わりにこんな張り紙がしてある。

「郵便屋さん ありがとうございます ご苦労様です」

そう言われると、俺なんてただのバイトなのに少し気分がいいものだ。きっといい人なんだろうなあと思い何気なくハガキを裏返すと、ただの暑中見舞い。差出人は書いていない。でも気付いた事がある。そこに書いてある字と張り紙の字があまりに似ていたのだ。

俺はこの人の色濃い寂しさを知ってしまったのかもしれない。自分で書いた暑中見舞いを自分に送り、郵便ポストが見当たらない配達人がチャイムを鳴らす瞬間を待っているのかもしれない。そう思ってしまうとなかなかチャイムが押せなくなってしまった。

噴き出る汗をタオルで拭いつつ、もう一度ハガキと張り紙を交互に見返す。

俺は一度ハガキを鞄に戻し、チャイムを鳴らした。留守であって欲しいような、会ってみたいような、そんな複雑な気持ちで。