――アルバムのリリース前に特設サイト「Power To The People.fm(シングル“パワー・トゥ・ザ・ピープル”のリミックスやカヴァーを自由に作成出来る特設サイト)」を立ち上げたことや、コラボレイターとしてクィア・ラップのミッキー・ブランコのような有名アーティストだけではなく、通りすがりのシンガーを起用していることも、その辺りの考えと繋がっているのでしょうか。
サイモン その通り。あのサイトはそのための実験なんだ。“パワー・トゥ・ザ・ピープル”の音源やドラムやベースの素材をフリー公開して、パーツを入れ替えて自由に音楽を作ったり、カヴァーして送ってもらえるようにしてね。その中で美しいものが出てきた時は、みんなでシェアして楽しめるようにした。そうすることで、「曲が持っているメッセージがより広がっていくんじゃないか?」って思ったんだ。ゲスト・ヴォーカリストについては、歌の技術よりも、その人が持っているリアルな魅力を重視した。もちろん、最初の2枚にも街で出会った人たち――その中でも個性的な人たちが参加してくれたから、自然な流れではあったんだけど。今回も、そういう人たちが何人か参加してくれたんだ。
『フント』ジャケ写
――あなたたちは踊ることによって人種や価値観の違いを越える瞬間をたくさん経験してきたと思います。これまでで印象的なエピソードや出来事があれば教えてください。
サイモン もちろん沢山あるよ。自分たちもそんな経験を沢山させてもらったけど、レゲエ・ダブ・システムを持ってるジャー・シャカのパーティーは素晴らしい。彼はラスタ系のアーティストで、ロンドンを拠点に活動しているんだけど、インド人のファンも多いし、スペインやフランスから旅行に来た学生たちも出入りするような感じでね。一切のこだわりがなく、何でもありで、色んな人たちが自由に集まってる。僕自身はパーティー・ピープルではないから、そういう場所に積極的に出入りするようなタイプではないけど、あの空間はすごく楽しめるんだ。ある意味エスケープだよね。そういう意味では、ロックのライヴも同じだと思うかもしれない。けれど、ロック系のコンサートというのは、誰か1人スターがいて、その人物を崇拝するような雰囲気だよね。それに対して、僕がいいと思うのは、同じ空間にいる人全員が同じ立場に立って楽しめるもの。それってとても民主主義的な空間だと思うんだ。異なるバックグラウンド、人種、色んな人が手を取り合って、音楽をシェアできる。そういう作品を作ることが、今回の僕らのテーマだったんだよ。