れこれ! こんなベースメント・ジャックスが聴きたかった!!

90年代末のロンドンから登場し、『レメディ』や『ルーティー』といった初期の傑作群などで一躍人気者の仲間入りを果たすも、09年の連作『スカーズ』、『ゼファー』では一転してメランコリックなダンス・チューンやアンビエントを追究。その後は映画スコアを手掛けたり、オーケストラと共演盤を発表したりと、近年はややダンス・モードから距離を置いていたベースメント・ジャックス。しかしスペイン語で「共に/一緒に」という意味のタイトルを冠した通算7作目の最新作『フント』は、久々に彼ららしいパーティー・ヴァイブがぎっしり詰まった作品なのだ。

2人はディスクロージャーを筆頭にした若手世代によるハウス再評価にも刺激を受け、R&B/ソウル色も加えた底抜けにプレイフルなサウンドを展開。全編を覆う高揚感はまるで、初期の作品にも通じるかのようだ。彼らがふたたびダンス・モードに突入したのは、一体なぜ? 今回はサイモン・ラトクリフとフィリックス・バトンにそれぞれインタビュー。お互いの視点から『フント』が出来るまでを語ってもらった。

Basement Jaxx -“Never Say Never ft. ETML”

Interview:Basement Jaxx[Simon Ratcliffe、Felix Buxton]

――当初2枚組で発売する予定だった09年の連作『スカーズ』と『ゼファー』は、メランコリックな作風で、キャリアの中では少し異色の作品でした。今振り返ってみると、あの2枚はあなたたちにとってどんな作品になったと思っていますか?

サイモン・ラトクリフ(以下、サイモン) どっちも大好きだし、特に『ゼファー』はお気に入りの作品なんだ。たぶんあの時、僕らの中で作りたい音楽に変化が訪れていたんだと思う。伝統的な構成を踏まえたものとは違うサウンドに興味を感じていたんだ。ただ、あの2作の実験性は“ロメオ”や“レッド・アラート”のような従来の僕らのイメージとは違うものだったから、レーベルとしては難しい部分があったんだと思う。当初の2枚組にするというアイディアは却下されて、連作として別々に出した結果としても、なかなか積極的にマーケティングをしてもらうことは出来なかったんだ。で、その後も僕らは映画のスコアを手掛けたりすることに興味を持っていったけど、それもあって、しばらくはベースメント・ジャックスとしての音楽を作ることに食指が動かない時期が続いたんだよ。

――ところが『フント(=共に)』というタイトルにも表われている通り、今回は“1人”ではなく“みんな”で踊ることが重要なテーマになっています。これには何か転機のようなものがあったんですか?

サイモン まずは純粋に、もう一度「ポジティヴな作品を作りたい」って思ったんだ。それから、ディスクロージャーたちの活躍でハウスがふたたび時代の音になったのも大きかったと思う。ここ最近登場した若手プロデューサーたちが僕らの名前を挙げてくれることも刺激になったし、やるなら今しかないというくらい、時代がいい方向に進むのを感じたんだ。最近の僕らは映画音楽などを手掛けて、それで満足だったから、一時はベースメント・ジャックスとしてまた作品を作ることにさえ確信を持っていなかったのにね。でもどうせ作るなら、ポジティヴで温かみのあるものを作ろうと思った。世界には色んな人がいるけど、『フント』はそういう人たちの力を合わせることで何かが生まれるような……多くの人々の力で世界を変えていけるような作品にしたかったんだ。『世の中に愛を広げていく』とか……全体的に自分たちが求めていた空気感を表現するためにね。だからこそ、『もう一度人の力を信じてみよう』って思ったんだよ。誰かに指図されるのではなく、何かの型にはめられるのでもなく『もっと自分たちの力を信じてみよう』ってね。

▶次ページ:サイモン「ジャー・シャカのパーティーは素晴らしい」