——ワールドワイドにデビューする前と後で彼らの意識も変わってきたと思うのですが、彼らにとっての音楽は今でも生業という感じなんでしょうか? 芸術というよりも。

もう彼らの生活の一部であるということについては変化がなくて。こうやってたまたま世界からアテンショナブル、注目されるようになったけれども、やってる音楽はホントにローカルな音楽で、しかもそれは何世代も前から人づたえに伝わってきたものなので、決してアートとして学校で習えるものではないんだ。そういう意味で自分たちの楽器を持って村から外の世界に出て行くチャンスに彼らは恵まれたわけ。そうやって収入を得るようになったことから、もちろん個人的な満足感も得てるだろうし、喜びも得てるだろうし。でも基本的に「好きだから」というパッションの部分でやってるというのが変わらないから、逆にここまで続いてるのかなとは僕は思ってるんだけど。

——先ほどもお話にあったように多国籍的な背景がある土地柄ということが関係してると思うんですけど、そもそもヘンリーさんがファンファーレ・チォカリーアの存在を知ったきっかけはなんだったんですか?

基本的に僕はルーマニアには全然ルーツは持っていないんだけど、出身が元社会主義側のドイツということで、当時のコミュニストのシステム下においてはもちろん対外的に行ける国も限られていたし、ましてルーマニアが相手ということになるとアクセスは非常に限られていたんだ。そういう状況の中でも夏休みを使ってあちこち旅をするようになって、ルーマニアにも入る機会があって、興味を持って、年に3回、4回訪ねることになった。最初はツーリストとしての来訪だったんだけど、彼らの音楽にものすごく惹かれるものを感じて、やはりそれはルーマニアのマルチナショナルな文化的背景から感じた魅力なのかもしれない。あとは、そこに住む神秘的なジプシーというコミュニティの存在に惹かれたというのもあって、繰り返し訪ねるうちにルーマニアのフォークミュージックというものにも触れて、それが自分にとって非常に重要な存在になっていったんだ。ただ、その音楽に触れたのは旅の結果の偶発的なものだし、その村、ましてそこに住んでる人に出会ったのもすべて偶然の成り行き。ホントにいろんなことが偶然起こっていったんだよね。でも人生ってそういうもんだと思う。

——もうファンファーレ・チォカリーアとの付き合いも長くなったと思うんですけど、拝見しているとそもそもすごく男っぽい人たちじゃないですか? ドキュメント映画『炎のジプシー・ブラス』での普段の映像を見ていると。人間的な魅力と言えばどういうところでしょう?

12人もいるから、ホントに個性はバラバラで、そういう人たちがお互いの共通する部分、人生哲学なり、行動様式なりを見出してグループとして存在してるんだと思うんだけれども、僕から見ると彼らの考え方はすごく新鮮なんだ。ある意味、世間ずれしていないというか、物事の捉え方がシンプルで、イージーで。ちょっとしたことでものすごくハッピーになれたりする才能を持ってると思うし、そういう素朴な面があるかと思うと、おっしゃる通り、男の世界というか、荒っぽいパーティビースト的な性格も併せ持ってるんだ(笑)。大家族に囲まれて、もちろん女性の友達もいて、友情関係を結んで、で、ましてやジプシーだから、今日はフランス、明日はイギリスみたいな転々とする生活を逆に楽しむ人もいるし、そういうワイルドで色彩豊かな彼らの生活ぶりというか、あり方というのが、このグループにおいてもまさにメルティングポット的なものを醸し出してるんじゃないかな。で、それが音楽にもつながってるんじゃないかなと思うよ。

映画『炎のジプシー・ブラス〜地図にない村から』予告編

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